表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/92

第43話

「悠は帰りたい?」


 俺は朝食を取った後に久しぶりに姉ちゃんと姉弟水入らずで話す時間を設けていた。

 そして、周囲に誰もいない事を確認したうえで姉ちゃんはそう切り出した。


「正直なところ、私はこの世界で居たいと思ってるわ。それこそ私は生まれるべき世界はここだったんじゃないかと思うほどに……」


 確かに姉ちゃんは元の世界を酷く嫌っていた。

 周囲が自分の思うようにしか動かない様に飽きてしまったと言っていた。

 当時の俺から見れば周囲に凄く慕われているだけにしか見えなかった。

 そう思っていたが、この世界に来た今思えばそれは異常だったと分かる。

 同時にこの世界は姉ちゃんの言っていた……望んでいた普通なのだと理解できた。

 ならば帰りたくないのは道理と言える。


「けれど、悠が帰りたいと思うならば私も一緒に帰る方法を探し一緒に帰る。もし残ってくれるなら私は悠をどんな悪意からも守る。」


 だが、姉ちゃんは俺と共に居てくれると……俺についてきてくれると言う。

 嗚呼、これほどまでに優しい家族愛を感じる言葉を聞いたのはのは久しぶりだ。

 その声音から感じられる真剣さは本物だろう。

 きっと姉ちゃんは俺をありとあらゆる悪意から守ってくれるのだろう。


「俺は、この世界に居てもいいと思う。」


 姉ちゃんが元の世界を嫌っているように俺もそれほど元の世界に未練は無い。

 俺は姉ちゃんだけが唯一の未練だったのだ。


 これは未知にも当てはまることであり2人は共依存関係にあるのだと言う事を2人はまだ知らない。

 異世界と言う壁により隔てられたことによりそれも改善傾向に向かいつつあったが……

 この再会によりどうなるかは誰も知らない。


「俺にとってもこの世界は快適だから。まぁ少し物騒なのは珠に瑕だけど……それについては姉ちゃんの力を借りなくてもなんとか出来るよ。」


 だが、姉ちゃんに守られるだけの人生はダメだ。

 これからは逆、俺が姉ちゃんを…


「いいや、ダメよ!」


 しかし、まるで考えを見透かしているかのように、有無を言わさぬ声が姉ちゃんから出る。


「悠は今、魔法(アーツ)と言う未知の大きな力を手に入れて自信があるのかもしれないけれど……」

「いや、別にそう言う訳じゃ…」

「……何か言った?」

「イイエ、ナニモ…」


 反論はある。

 しかし、今そんな事、言おうものなら折檻を受けるのは間違いない…

 朝から姉ちゃんの折檻を受けるなんてまっぴら御免だ。

 普通の折檻ならまだ、耐性があるのだ。

 特に力に訴える類の折檻ならそれほど苦しくは無い。

 だが、激しい叱責から始まり、時には精神的に辱められたりすることもあったりする。

 しかし、一番つらいのは最後の泣き落としだ。

 古来より男は女の涙に弱いと言う。

 俺も例に洩れず、女の……特に姉ちゃんの涙には勝てない。


「過信はいつの世も身を滅ぼすのよ……そしてこんな時代、敗者には一切の権利は無い。待っているのは絶望だけよ……」


 確か、この世界には奴隷なんてものも存在していた。

 たたでさえ、賊や魔物が存在するのだ。

 敗者の末路は想像に難くない。


「私はもしも悠がそんな目にあったらと思うと胸が苦しいの! 心配で心配で仕方ないの! これは姉としての義務であり権利なの! だから……」

「それでも……もう守られるだけは嫌だ! 俺だって姉ちゃんの事を心配する権利はあるんだ!」


 俺だって姉ちゃんが俺の為に怪我なんてしようものならどうなるか分からない。

 それこそ、悔やんでも悔やみきれない。

 その時、何もせずにいたならば、俺は自分を許せない。


「……ッ!?」

「姉ちゃんだって無敵じゃない。どれほど優れた魔法(アーツ)があってもれっきとした女の子なんだから! それとも……俺みたいな、こんな弱い弟にはたった一人の家族を守る権利もないの?」


 いくら有名な劇団の団長でも……凄腕の戦士でも……姉でも……

 いや、姉だからこそだからこそ姉ちゃんは守るべき対象に違いない。


「……ダメじゃない。けど! やっぱりダメ! ダメじゃないけどダメよ!」

「そんな横暴な……」


 その言い分は幼稚だった…

 まるで駄々をこねる子どもである。

 しかし、それはとても愛おしい物であることは言うまでもない事実だ。


 だが、このままでは話し合いは並行線を辿る事間違いなしだ。

 しかし、これは折れる訳にはいかない。

 姉ちゃんの弟としての……男としての意地がある。

 これは腰を据えて話しあわねばと覚悟を決めたその時…

 扉をノックする音が聞こえる。


「入っても構わないですよ。」


 今は例え、誰であろうと入室を拒む理由は無い。

 取り敢えず、扉の向こうにいる誰かに入室を勧める。


「……ミチ、遅い。」


 入ってきたのはシエル。

 開口一番、シエルは姉ちゃんに遅れを訴える。

 一体、シエルはどうしたのだろうか?


「あれ? シエル? どうしたの?」

「今日は劇がある日……」


 まさか…

 この姉は、この話し合いの為に劇をサボタージュしたのか?

 姉ちゃんの方を見ると、あらぬ方向を向いて口笛を吹いていた……


「何やってんの!早く行かないと!」

「えっ……いや、だけど……私には悠との歓談と言う大事な用事が……」

「……仕事優先。」

「これはシエルが正しいよ。」


 当然である。

 弟と喋るなど何時でも出来るのだ。

 しかし、仕事は信用に関わる……

 弟と歓談して仕事をサボったなんて……言える訳がない……


「シエル、無理矢理でも連れて行ってもらえる?」

「……元より拒んでも無理矢理連れて行くつもりだった。」

「悠はどっちの味方なのよ!」


 全く……

 聞き分けのない子供じゃあるまいし……

 ここははっきり言うべきか?


「少なくとも仕事をサボる姉の味方をする気にはならない。」

「じゃあ、今日は臨時休業。」


 この姉は……

 今日の劇を楽しみにしてた人にどうやって申し開きするんだよ


「……巫山戯てないで早く。」


 引っ張るシエル、足掻く未知。

 仕方ない……押しても駄目なら引っ張ってみるか……


「俺もちゃんと見に行くから……」

「えっ……悠が……見に来る…………」


 しばらく、姉ちゃんは考え込む。

 やはり効果はあったようだ。


「その代わりに劇が終わったら部屋に来ること。」


 その代わりとは一体、何の代わりなのだろうか?

 まぁ、ここで余計な事を言って機嫌を損ねると碌なことがない。


「分かったから、早く行ってきなよ。」


 その言葉を聞くやいなや物凄いスピードで二人は去っていった。

 どちらかと言うと姉ちゃんにシエルが引っ張られる感じだったが……

 うちの姉がゴメンなさい……


 そう言えば、これから先に会うことも多いだろう団員たちにティアが会いたいと言っていた。

 丁度いいしティアも連れていこう。


 確か、今日のティアの予定には外出や訪問者は無かった。

 と言う事は今頃、雑務と向き合っているはず……


 そう思っているといつの間にかティアの仕事部屋の前に俺はいた。

 やはり、俺は頭より先に体が動くタイプの人間のようだ。

 取り敢えず、扉をノックすると…


「どうぞ、開いてます。」


 入っても構わないと言う事なんだろう。

 そう理解した俺は扉を開けた。


 すると、そこには確かに書類に目を通すティアがいた。

 その姿は、窓から差し込む朝日を浴び深窓の令嬢の如き……

 いや、元よりティアは深窓の令嬢なのだが……

 なお、神秘性を際立たせていた。

 そして、何より驚いたのはなんと、ティアは眼鏡をかけていたのだ。

 始めてみるティアの眼鏡をかけた姿……

 眼鏡の奥には強い知性の光を感じさせた。


 まるで絵画のよう……

 きっとそう思うのは俺だけでは無いだろう。


「どうしたのですか?ユウ」


 きっと俺は相当な間抜け顔を晒していたのだろう。

 だが、いつまでも呆けている訳にはいかない。

 今もティアは仕事中なのだ。


「あぁ、確かティアは団員たちと会っておきたいって言ってたのを思い出して、ちょうど今から見に行くしティアも一緒にどうかと……」

「行きましょう。丁度、終わらせなければならない仕事は終わらせた後です。」

「あぁ……うん、それなら行こうか。」


 よほど、行きたかったのだろうか……?

 聞き終わるまでもなく、ティアは返事を返す。

 まぁ、それなら好都合というもの。

 ティアは眼鏡を外し、手に持っていた書類を机に置く。


「先に外で待ってるから、ゆっくりでいいから準備してきなよ。」


 姉ちゃんに言われたのを覚えている。

 女の子がいきなり出かける事になった時は準備に時間が掛かると……

 だが、あまり長引かないといいな……あの時の姉ちゃんのように一時間以上は流石に困る。


「ありがとうございます。」










「これで二回目か……」

「そうですね。」


 申し訳ないが……

 本当の事を言うなら前の劇の記憶は、ほとんど吹っ飛んでいた。

 漠然と良かったとしか……


「あの時は驚きました……まさか、ユウのお姉さんがいたとは……」

「はは、ホントにね……俺も驚いたよ。」


 あの時の衝撃は凄まじい物だった。

 喜ばしいものであった事に変わりは無いのだが……

 あの日は色々あったし……


「まぁ、今回の劇はちゃんと堪能出来たよ。」

「はい、流石はユウのお姉さんと言ったところですね。今でもつい先刻の劇が幻術とは思えないです。」

「本当に俺みたいな弟には過ぎた姉だよ。」


 子どもの頃からありとあらゆる人から…いや、生き物から俺は嫌われていた。

 中には、俺の事を嫌わない人も居たがそれも少数。

 いくら異常だったとは言え、姉ちゃんに少なからず、嫉妬する事もあれば羨んだ事もある。

 それに、あの異常がなくとも姉ちゃんは人気者だったに違いない。

 人の域は外れないものの普通以上の生活を送っていた事は間違いない。


「ほんとに……」

「私は、あのお姉さんよりユウの方がいいです。何がかは分からないですがユウの方がいいです。」

「っ! ……はは、曖昧だな。だけど嬉しいよ。」

「それは良かったです。」


 あぁ、姉ちゃんと比べる必要は無いのだ。

 姉ちゃんは……ステラは……ティアは、ちゃんと俺を見てくれるのだから。

 比べる必要などないのだ……


「あっ! ユウさんじゃないですか! ミチ団長に会いに来たんだ……ってティア様!? とんだ無礼を……」

「気にしないでください。私はこれからお世話になるここの方々に挨拶に来ただけなのですから。」


 突如現れたカインはフレンドリーに話しかけてきたと思いきや…

 ティアに気付き驚くやいないやかしこまる。

 色々と顔が忙しそうである。


「あの、すいませんがティア様は客間で待っていただけないでしょうか?」

「じゃあ、俺も……」


 そのまま、ティアとともに客間に向かおうとしたその時


「あっ、ユウさんはミチ団長が来たらすぐに通しておけと言っていたので…」

「ありがとう。ティアの事を言っていなかったからその事を言うついでに行くとするよ。ティア、ゴメン」

「構わないですよ。」

「一人で大丈夫ですか? いくつか部屋があるんですが……」


 んー……それは少し拙いな……

 方向音痴というわけじゃないが客間にしか来た事が無いのだ。

 変な所に入るのも嫌だし……


「私が案内する……」

「おぉ、シエルか、丁度良かった。頼んだぞ」

「じゃあ、案内を頼む。」

「ん……」


 頷いたシエルはゆっくりと歩いて行く。

 後を追っていくととある部屋の前に着く。

 その前でシエルは止まる。


「ここに居るはず……私はまだ片付けがあるから……」

「分かった。ありがとう。」

「ん……」


 シエルはまた舞台の方に向かっていく。

 そして扉をノックをすると…


「ん? ユウね? 開いてるわよ。」


 あぁ、入れってことね……

 しかし、俺は気付くべきだった。

 相手はあの姉であると言う事、部屋の名前が更衣室と言う事を……

 今日、似たような言葉をティアから聞いた事もあり油断してしまったのかもしれない。

 扉を開くとそこには……



 透き通るような肌が惜しげもなく晒され、身体を隠しているのは黒いレースの下着だけの姉の姿があった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ