第42話
「本当のあなたは…どっち?…正直に答えて。」
「…それはどういう事?」
「いつも弱そうで戦いに巻き込まれでもすればすぐさま殺されかねないようなひ弱な少年?それとも…怒りに任せ相手を無慈悲に嬲る悪魔?」
そうか…そうだな…あの時の俺を見ていたのかシエルは…
躊躇い無く…人を殺す俺を…
ならば、疑問に思うのも不思議じゃないか…
「…シエルはどう思う?」
「質問を質問で返さないで……」
そうだよな…まずは答えないとダメだよな…
だけど、シエルの期待には応えれそうにない。
「どっちが本物か…こう答えるしかないな…どっちも本物だよ。間違いなくどちらも俺自身だ。」
「けれど…あなたは泣いていた…なんで?」
見られていたのか…
あんまり見られたい物じゃないんだけどな…
「あのさ…今からすっごい情けなくて…信じられない話をするかもしれない…だけど最後まで、信じて聞いてくれないか?」
「…話して。」
(言うの?)
俺はステラに対して何か不満や恐怖、不安を感じた事は一度もない…
だけど、悪魔との契約…それに対し俺は心のどこかで不安を抱えていた。
なんだか…自分を失っていくような…そして感情を対価として支払った自分が…
まるで“もう一人の自分”が居るような…そんな感覚がどうしても怖かった…
(ゴメンね…前からなんとなくその気持ちは分かっていたんだ…だけど、どうする事も出来なくて…ごめんね…)
ステラの声は泣き出しそうな子どもの声…
そんな様に聞こえた。
(だけど…後悔はしていないし、ステラと出会えた事は本当に良かったと思える。)
これは決して嘘じゃない本音だ。
それにステラにこんなに心配させていたなんて…情けなくて仕方がない…
ステラは俺を凄い理解してくれているのに俺はステラの事を全く理解できていない…
(だけど少しだけ…今だけ、見逃してくれないか?自分の弱さを他人のせいにするように見えるかもしれないが…シエルを見ていると…全て話したい…そんな気持ちになってしまったんだ…)
姉ちゃんやティアとは違う…そんな物をシエルに感じた。
姉ちゃんとティアは俺とはどこか決定的に違うのだ。
だけど似たものである…そんな感じがして、誤魔化したり嘘をつきたくないのだ。
(分かった。どちらにせよ悪魔と契約した事は隠さなくても隠してもいいの…ただ、もしかしたらあなたはそれを周りに信じてもらえず…傷つくかもしれない。それでもいいのなら…私はあなたを応援する。私はいつでもあなたの味方だから…)
(分かってる。ありがとうステラ。)
俺は姉ちゃんやティアを信じている…
だけど…これは信じてもらえたとして大きな負担を掛けるかもしれない…
もう既にいろいろと世話になっているのにこれ以上負担を掛けるのは嫌なのだ…
だが、シエルは言うならばあまり関わりの深くない間柄…故に深入りもしないだろう…
少しだけ話を聞いてもらうだけで肩の荷が下りるかもしれない…
簡単にいうとシエルはまさに“理想の相談相手”だったのだ。
「実はさ、俺は悪魔と契約をしているんだ。」
普通なら、悪魔はその名の通り悪の魔なのだ。
良い印象を持たれるはずもなく、どちらかと言えば嫌悪の対象だ。
それに、伝説の存在といっても過言ではない。
「悪魔信者…!?」
「いいや、別に信仰を捧げている訳ではないよ。」
どうやら宗教関係には敏感に反応しているのか真っ先に悪魔信仰の線を疑って警戒するシエル。
しかし、俺は宗教関係には一切属していない。
「確かに…悪魔信仰の信者どもは…“契約”なんて言葉は使わない……あいつらは“仕える”というから…。」
対等な“契約”でなく自分たちより上位の存在…だから“仕える”か…
どうやら悪魔信仰について詳しいようだな…
この様子だと他の宗教についても詳しいのかもしれない。
「じゃあ…契約ってどういう事?」
「簡単な契約だよ。俺の“感情”を対価にステラの“力”を貰うと言うっていう内容のね。」
その言葉に色々と感じたのか驚いた後にどこか納得がいったような顔を見せるシエル。
だけど、その顔は再び険しい物に変わる。
「納得の上?」
「あぁ、後悔はしていない。」
さっき、ステラに言った通り…一片の悔いもない。
むしろ感謝している。
「だから…あの別人格のような現象が…いや、“ような”じゃなくて別人格……怖くないの?」
「…怖いよ?だけど、それに頼らないと俺は人を殺せなかった。アレが無ければこれから先も殺せなかった。」
出来る事なら乱用はしたくない。
だけどこれは剣を抜く為に必要なもの…剣を抜く事ができない兵士など存在意義は無い。
何故なら、その兵士は本当に守りたいものが危機に陥っても剣を抜いて守る事ができない。
元の世界ならば法律や道徳という物が人を守る盾となり脅威に対しての抑止力となる故に剣は必要なかった。
だがこの世界は法律や道徳という物がまだそれほどに力を持っていない。
俺は元の世界の法律から今の世界の法律に変わったが元の世界の道徳だけは身体に染みつき離れない。それはとても尊い物。
だが道徳が俺の剣を鈍らせる…それがいざという時に邪魔になる。
だから、俺は自分の道徳を打ち消しより残虐性を持たせることで後戻りできなくする。
「もう、俺はこの契約に依存しているんだよ。情けない話だろ?」
「そんな重要な話…ミチからは聞いてない。」
「当然だよ、言ってないんだから。」
「なんで?」
「君に自分に似た何かを感じたから…姉ちゃんには感じないものを感じたから。」
言うだけで少し気が楽になった。
ベットに縛りつけられさえしていなければもっといいんだが…
そろそろベッドに縛りつけてるのだけは責めて解いて欲しい。
「なぁ、手足の拘束はそのままでもいいから、ベッドに縛りつけているのだけは解いてくれないか?」
「……いいけど…自分でも解けたんじゃないの?」
まぁ、それもそうだ解こうと思えばいつでも解けた。
けれど、安心して話しあうならば縛られていた方がいいだろうと思った。
しかし、この縛られた状態というのもキツイ。
「それは解いていいと受け取っていいのかな?」
「あなたは大丈夫そう…だからいい。」
こんな信じられない話を聞いてまだ俺を信じてくれるのか…
という事はシエルの期待は裏切らずに済んだのか?
まぁ、それはいい…
取り敢えず、俺はロープを切るの為に鎌イタチを呼びだす。
「そこのロープとここのロープだけ切ってくれ。」
すると鎌イタチは鎌で切って欲しいロープを切ってくれた。
コイツ自身には特に高い戦闘能力はない。
シエルにも警戒されないだろうし丁度いい。
「その生き物は…何?」
「鎌イタチってやつで風の刃を飛ばしたりするんだけど、それほど殺傷能力が高いわけじゃないから物に対して使うんだ。まぁ、物に対して使う分には切れ味がいいから人にも何十発も当てれば殺せるかもね。」
当然、室内で風の刃なんぞ飛ばそうもんなら部屋の物が真っ二つ…
俺の所有物ならまだしもここはティアの屋敷だ。
緊急時以外にここで必要のない騒ぎは絶対に起こさない。
「鎌イタチ…私の記憶にそんな生き物はいない。」
「想像上の生き物だからね。知らなくて当然だよ。」
取り敢えず、身体を起こしベットに座った状態になる。
しかし、俺はまだ手足を縛られている。
だが、これに関してはなんともない。
「今度はあなたの番…私は説明が下手だから何をどう言えばいいのか分からない…」
もしかするとシエルの言葉数が少ないのは嫌われたからではないのだろうか?
正直、シエルの言葉が少ないことは嫌われているから…そう思っていたが…
実は、あまり人とのコミュニケーションをとってこなかったからか?
「俺を縛っているのは男だから…なんだよね?」
「そう…」
男とこういった感じにしっかりと話すのは嫌なんだろう。
そして縛るのはシエルにとって“男”というのは“信用ならない生物”だから…
じゃあ、何故そこまで男を毛嫌いするのだろう?
「なんで男がそこまで嫌いなの?」
「男の大半は碌なものじゃないから…」
だが、シエルも劇団に居る以上は最低限、カインたちと話さないといけないはず…
まさか、話す度に頭殴って縛るわけでもないだろうし…
「カインたちは大丈夫なの?」
「カインたちは“仲間”だから大丈夫…」
きっと、シエルの中では相当に男というものが嫌いなんだろう…
だがそれ以上にシエルにとっては“仲間”というものは特別なのだろう。
嫌悪の対象さえ塗りつぶす程に…
だからこそ、シエルは姉ちゃんの義弟というだけで“仲間”になる俺に対して他の誰よりも真剣なんだろう。
やはり誤魔化したり嘘をつかなくて良かった。
カイルたちや姉ちゃんが築きあげたシエルの“仲間”というものに対しての信頼に傷をつけたとなれば俺は自分自身が許せなくなる。
「じゃあ…俺は、君の“仲間”になれるのかな?」
「………わからない。」
そう呟くシエル…
無理もないだろう…俺のあんな姿を見ているんだから…
もし、俺が普通に相手を倒していたのならば印象は良かったかもしれない…もし、俺が普通だったなら簡単に結果はでたかもしれない…
だが、俺はシエルからすれば…未知のモンスターを生み出す得体のしれない化け物といっても過言ではないかもしれない…
「だから…これからあなたを見ていく。」
「…いいのか?」
これから俺を見ていくと言う事は、“仲間”ではないにしろまだ、その余地があると言う事。
まぁ、言うならば俺は“仲間(仮)”見たいな感じかな?
それでも拒絶されるよりはいいだろう。
「…これからよろしくユウ。」
「あぁ、よろしくシエル。」
そこで俺は真の仲間への一歩を踏み出した。
しかし、その時…突然、扉をノックする音が響く…
「ユウさ~ん…入りますよ~?」
あぁ、サラさんか…
しかし、わざわざこんな時間にどうしたんだろうか?
俺が取り乱していたから頃合いを見て一応来たと言う感じか…
サラさんは俺が返事をする前に扉を開ける。
しかし、そこで思い出す。
俺は何をしているんだ?
決して、若年性健忘症な訳ではない。
この状況をサラさんから見た場合の話だ。
(私なら2つね。1つ目はユウが誰かに襲われている。2つ目は…)
「ユウさん起き…?ユ、ユウさん!?何をしているんですか!?」
顔を赤くして驚くサラさん…
俺は手足を縛られているにも関わらず怒ってもいなければ悲しんでもいない…
そして俺は抵抗していないし…むしろ喜んでいた…
(ユウが変な趣味に目覚めたと思われるか…。どうやら2つ目みたいだね。)
「ちょっ!?サラさん?きっとサラさんは凄い勘違いをしていると思うんだ!」
「だ、大丈夫ですよ!?わ、私はそう言うのに理解がある方ですから!人には人それぞれの趣味があっていいと思いますし!公には変に思われる事があるかもしれないというのも当然、理解していて…」
サラさんはもう顔がゆでダコみたく顔を赤くして頭から湯気を出している。
取り敢えず、落ち着いてもらわねば!
「ちょっと待って!落ち着いてサラさん!」
「わ、私はお、落ち着いてますよ!?大丈夫です!ティア様には言いませんから!」
もう駄目だ…サラさん斜め上に向かってエンジン全開フルスロットルである…
どうしたものか…このまま勘違いされると…何というか…居心地が悪い…
「シエル、何とか言ってくれないか…」
「ユウの本音が聞けてよかった…」
「やっぱりユウさんはそんな内に秘めた欲望を…」
何故、シエルは今このタイミングでそれを言ったのだろうか…
タイミングの悪いシエルを恨むばかりだ…
だが、シエルに援護射撃を求めると言うのは酷かもしれない…
「どうしたんだサラ?」
あぁ…もう一人来た…
しかも、とびっきり面倒な奴が…
その名もダグラス…話を聞くと言う選択肢を選ぼうとしない男だ。
「そ、それが…」
「おいユウ!敵か!?」
まぁ、縛られてはいるけどなんとなく空気で察してくれよ…
しかも、コイツ口調こそ疑問形ではあるが答えを聞く気は毛頭ない。
その証拠にこの男、既に腰の剣を抜いている。
そう言えば男…?男って確か…
「それ以上近づかないで…」
あぁ…ダメだ…シエルはコミュニケーションが苦手なんだ…
しかも、相手は男…
冷たく鋭い言葉がシエルから出る…
「おうおう、ご挨拶じゃねぇか。ここを何処だと思ってる?監禁部屋じゃねえんだぞ?」
シエルが大鎌を構えたことでダグラスも剣を抜いて戦おうとする…
どちらも既に話合いではなく、威嚇である…
放っておけば確実に戦闘が始まり、この部屋はボロボロになるだろう事が容易に予想出来た。
「待てって!なんですぐ武器を抜く!ダグラスは勘違いだし、シエルはもう少し我慢して!」
「無理…」
「黙ってろユウ!あとで聞いてやる!」
よし…この場で言葉は役に立たない…
この二人はもう少し人とコミュニケーションを取る事を意識した方がいい。
サラさんも今はあの時のように活躍してはくれない…
ここはティア程じゃないにしても力で何とか…
そう思い、自分が間に入ろうと考えたその時…
廊下から話声が聞こえてくる…
「ティアはさっさと寝たらどう?」
「そちらこそ、疲れたでしょう。眠りについてはどうですか?私はユウの様子を見てから寝ますので。」
「ユウの寝顔は私の物よ!あなたは来なくていいわ。」
あぁ…聞きたくない…
何故か身内の恥ずかしい所を聞かれているような感じだ…
まぁ、ここの3人は聞いていないが…
姉ちゃんは何故か俺の寝顔を見に来ようとする事があったのだ…
もう止めてといっても止めないからこっちが折れたけど、おかげで夜更かしはしなくなったなぁ…
俺が夜更かしすると姉ちゃんも寝ないから…
「…ってユウどうしたの!?」
「これは…どう言う事でしょうか?」
2人が部屋の前にくるなり、この状況に気付く…
俺はこの状況の中、どうか無事に明日を迎えれるように願いながらも…
賑やかになっていく周囲の環境を喜ばしく感じていた。




