第41話
とある酒場の地下室…
そこでは10人近くのローブを纏った者達が厳粛な雰囲気が漂わせていた。
「幻創の霧に神に愛されし戦乙女…奴らは仕掛けてくるでしょうか…既に一週間近く経過していますが奴らが動く気配は全くありません。」
「周辺調査でも奴らが屋敷を外出するのはとても少ないと報告されています。私たち教会の勢力が実行したと気付いていないのでは?」
そう彼らは教会組織の中でも数ある部隊の一つでもあるいわゆる暗部の者達…
この手の部隊は大体の街に一つの支部を持っている。
この街にも表立った戦いを担当する武装部隊が一つある。
しかし、私たちは所詮片田舎の支部…
大した戦力がある訳ではない。
それ故に今回の作戦失敗はかなりの痛手だった。
「そんな都合のいい話があるはずがない。相手はかなり名を馳せた傭兵と超越者達の宴の序列5位だぞ。」
「しかし、それほどの者たち…正面から、いや、どんな方法でやりあっても勝てる見込みはない…」
「となれば戦いは避けて“交渉”か…」
故にこれほどの厳粛な雰囲気が漂っていた。
彼らには選択肢が三つ…“交渉”“逃走”“交戦”
“交戦”を選ぼうものならほぼ確実に負ける…
選ぼうにも相手の戦闘データが足りない。
しかし、敵う相手ではない事は全員が理解していた。
そして“逃走”だが…
そんなのは作戦として許されない。
そうなれば選ぶべき選択肢は“交渉”
「しかし、交渉と言ってもどうするんだ?こちらにとって有利な条件で交渉ができるとは思えないぞ。」
「あの目標の少年を人質にとれば有利な条件で…」
「それが失敗したからこうなっているんだろう。有利な条件での交渉を狙うのならば何かそれに見合うものを用意しなければならないぞ。」
「無理だな…我らには奴らの求める物が分からない。そして恐らく用意も出来ない…」
金銭…名声…恐らく我らが用意できる物のはほとんど自らで用意出来るであろう。
となれば、相手が欲しくて尚、我らが用意出来て相手に用意出来ない物…
それを調査しなければならない…
「しかし、我らは奴らの恨みを買っている…報告では神に愛されし戦乙女はかなり目標の少年を気にいっているようだぞ。それをあのような荒々しい方法を取ったのだ…。その恨みも考えれば相当な対価が必要になるぞ。」
「他にも幻創の霧は目標の少年の姉のようだ…あの幻創の霧の弟好きは酒場では有名な話だ。」
完全に我らは選択を誤ったようだ。
しかし、今更過去を帰る事など出来ない…
ならば今出来る最善を尽くそう…
「各自、当面の目標は交渉材料となりそうな物の調査だ。」
「「「了解。」」」
そうして各自が今からでも調査を始めようとしたその時…
誰かが地下への階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
その足音は決して隠そうとされておらず…
一瞬、上の酒場の内通者である酒場の店主かと思ったが…
彼には我らが何者かさえ教えていない…そして地下には絶対に入るなと伝えている…
しかも今日は出かけていたはず…
ならば誰か…この場の全員の思考は一致しすぐそこの地上からの階段がある場所の扉に注意を向け、神経を集中させる。
そして、出てきたのは…
「皆さんこんばんは。前の事でお礼に参りました。」
絶対強者の如き余裕を持ち、妖艶な笑みを浮かべる未知と一目見るだけでその怒りを感じれる程の絶対零度の如き目をしたティアだった。
「何故ここが!?」
私たちが入り込むや開口一番そう叫ぶ。
ならば、どうやって見つけたか…
それを直接見せてやろう。
ティアが道案内をしてくれた女を階段から連れてくる。
「お前は教会の警備をしていたはずじゃ!?」
「………あの、私はもういいですよね…」
後ろめたい気持ちからかこの場から一刻も早く立ち去りたがる女…
だが、この女は何を言って居るのだろうか?
「ダメよ。ちゃんとあの世に行く前にお仲間にお別れの挨拶をしなさい。」
「えっ?助けてくれるって…」
「あなたはユウを苦しめた奴らの仲間よ?生かしておくと思う?苦しめずに殺してあげるだけよ。」
その瞬間、私たちに生かすつもりが無いと分かり逃げようとするが…
瞬く間にティアの剣で首を刎ねられる。
この部屋は剣を振るうに充分なスペースがある為、ティアにとってはそれほど難しい事じゃあ無かった。
「はぁ…せっかく挨拶の時間をあげたのに…。まぁいいわ、それじゃあ、今度はあなた達よ。」
「ま、待ってくれ!この前の事に関しては謝罪する!だから少し話を聞いてくれ!」
ふ~ん、謝罪ねぇ…
ティアは早く殺せとばかりに奴らを睨んでいるが…
「良いわ。話なさい。」
「ミチ?どう言う事ですか?奴らはユウを苦しませているのですよ?」
その言葉には険が含まれ今にも私に剣を抜きそうな程だ。
意外にもティアは怒ると我を忘れ感情に任せるタイプみたいね。
冷静なのは見せかけ…そうやってユウを誑かすつもりね。
まぁ、私は敵の前で違う敵を生むほど馬鹿じゃない
「別に急いでいる訳じゃないし、もしかすればコイツらをうまく利用できるかもしれない。」
「こんな奴らの手なんて必要ないです。」
「それにあんまり聞きわけがないとユウにペラっと愚痴っちゃうかもしれないわ。ティアが怖いわ~って今日の事も添えて…」
「!?…分かりました…しかし、あまり時間は掛けないでください。」
効果抜群ね。
ティアはよほどユウに怖がられるのが嫌なのか落ち着きを見せる。
まぁ、私もユウに怖がられでもしたら宿に閉じこもってしまうかもしれないけど…
「まず、この前の件は私たちが悪かった。」
「私たちじゃなくてユウに言うべき言葉よそれは。まぁ、会わすつもりはこれっぽちもないけど。それで話って何なの?」
「俺たちはまだ死にたくない。だから取引をしないか?」
取引ねぇ…
だけど私は彼らに何も求めてはいない。
「何を対価に?言っておくけど私たちはあくまでもあなた達を殺しに来ただけ…何も求めてはいないの。」
「金ならどうだ。交渉用にと支給された金がある。」
「金など要りません。金でユウの心は癒されるのですか?」
そうきっぱりと答えるティア。
それにどうやらティアはガルムを討伐したことで懐は潤っているようだし…
ティアは一応貴族なのだ。
金に飢えてなどいない。
「ならば、少年が欲しいであろうものを…」
「それは私がやるのであなた達の手は要りません。」
プレゼントでユウを釣ろうってこと?
そんなのは許さないわ。
先に私が用意しておかねば…
「な、ならば…私たちが少年の手となり足となり働くと言うのは…」
「言ったでしょ?あなた達をユウに会わせるつもりは無いって。」
もし彼らを見てユウがあの時の事を思い出せば傷がまた深くなるだけ…
第一、私たちがこんな奴らと協力しているなどとユウに思われれば嫌われるかもしれない…
「そ、そうなれば女を…」
「ユウにどこの馬の骨とも知れぬ女をあてがうつもり?今すぐ殺されたいの?ただでさえティアが居ると言うのにこれ以上、悪い虫が湧かれては…」
「ミチ、どういうつもりですか?その汚い言葉づかい…ユウが聞けばさぞかし喜ぶ事でしょう。」
「…分かったわ。私が悪かったから黙っててよ。」
もしこんな事を聞かれればユウになんて思われるか…
もしかしたら怖がられたり、嫌われたり…
そんなことで頭を悩ませていると彼らが口を開く…
「ではどうすれば…」
「やっぱり時間の無駄だったみたいね…少しは役に立つかもと思ったのに…」
「ま、待ってくれなんでもするから命だけは!」
はぁ…全然、役に立たなかったわね…
何か役に立つものを交渉材料として持っているかと思ったが…
「まぁ、どちらにせよ…殺すつもりだったしね。」
そんな非情な呟きと共にユウを傷つけた者たちへの裁きが始まった。
この世界では元の世界であった被害者が善で加害者が悪という善悪二元論は成り立たない事が多い。
どちらも悪である…しかし善と信じて行動する…
その姿は滑稽でありながらもとても美しく尊いものだった。
夜も深くなり、外を出歩く者はおらず皆が寝静まっているであろう頃合い…
俺は一人、ベッドの上で物思いに耽っていた…
「殺したんだな俺は…」
いずれ、俺はまた人を殺す事になるだろう。
この世界では殺人など珍しい事ではない…
そして、この世界の法は身を守るには拙い…
ならば、自衛を行わなければならない。
(そうよ、そしてあなたはこの先もこうして悩んでいく…多分、慣れる事なんてないわ。)
(そうだろうね…本当に情けない限りだよ…けどもう、躊躇わない…)
何故なら俺は進んだのだから…俺は足を踏み入れたのだから…
もう、やってしまったのならば数など関係ない…救いは待っていないのだから…
だから、俺は進み続ける…誰かに与えられた理由でなく自分で生きる理由を手に入れる為に…
だが、その前にティアとミチへの恩は返さねばならない…
(恩ねぇ…さっきまでのユウが泣いてる写真とかをあげたらそれで恩返せそうだけどね…多分、物凄い欲しがると思うよ?)
(そんなの欲しがる訳ないだろ。大体、カメラなんてこの世界にはないぞ。まぁ、カメラをティアにあげれば喜ぶかもしれないけど…。そんなの作れないぞ。)
(それもそっか…カメラ無かったね。結構いい案だと思ったのになぁ~)
そんなどうでもいい話をしているとコンコンと窓を叩く音が聞こえてくる…
こんな時間に何だろうか?
何かの動物か?それとも物が当たっているのか?
窓に傷がつくかもしれないし動物なら外は寒い…
中に入れてやってもいいだろう…
そう思い窓の傍に行きカーテンをめくると…
そこにはシエルがいた。
「何してるのシエル!?」
すぐに窓を開けるとあっという間に中に入ってくるシエル…
何の用か問いただそうとしたその時…
後頭部を突然殴られた感覚を最後に意識が途絶えた…
「で…なんで目が覚めると俺はこんな状態になってるの?」
俺は今…ベットの上で手足を縛られ、しかもそれをどうにかしてもベットから上体を起こすことすらできない様に二重でベッドに縛りつけられていた。
全く持って状況が把握できない…
なので、ベットの傍で俺を見下ろすようにして立っているこの状況を作りだした張本人であるシエルに直接質問する…
「…貴方に話が訊きたかった。」
「えっーと…話をする為に……縛る?」
「私はこうでもしないと男とまともに話せない…」
……この子が抱える闇は男によるものなのだろうか?
だとすれば何故、彼女は俺を拘束してまで話をしようとしたのだろうか?
一つ分かれば一つ謎が湧く…
「こうなれば大抵の人は力や言葉に訴えるのに…」
こういう場合には質問攻めにしても何も分からない…
ある程度は自分で話してくれるはず。
そう思っているから俺は多くを聞かない…
それに説明が無くとも今訊かなくてもいいだろう。
「分かってくれているなら、説明してくれるんでしょ?それに姉ちゃんの劇団の人はそれなりに信頼しているつもりだし、特にシエルはあの時、助けてくれた。」
「………じゃあ、質問…貴方の魔法について教えて」
魔法か…
ティアには出来る限り隠すように言われている…
だが、もう既に魔法を見られている。
それに、シエルは信頼できる…シエルが周囲に言いふらすような人には見えない。
「…俺の魔法は簡単に言うと、想像の世界から意思を持った存在を呼び出す。そんな感じだよ。」
「あのドラゴンはそう言う事…じゃあ、あの姿を変える剣は?」
「一緒だよ…あれは意思を持った剣…だから呼び出せた。」
これについては少し無茶苦茶かもしれない。
意思を持っているとは言え、俺もしっかりとしたコミュニケーションが取れる訳ではない。
他にも呼び出してもしっかりとしたコミュニケーションが取れない奴も少なくない…
だが、なんとなく伝わってくる…そんな曖昧な感じなのだ。
こんな、自分からしても曖昧な物を信じろと言われても信じられないだろう…
「売って無いの?」
「うん、絶対売って無いから。自分が言うのもなんだけどあんなの普通に売ってたら堪ったもんじゃない。」
「そう…」
何故だろう…シエルが少し残念そうな顔をしているような気がする…
さっきの話をもしかして信じたのか?
「信じるの?剣の話を…」
「嘘なの?」
「いやいや、嘘じゃないけど…信じられない話だっただろ?」
街の酒場でこんな話が上がったとしても誰も信じないだろう…
それに彼女はあの時の俺の様で…
人を簡単に信じられるとは思っていなかった。
だけど…
「もし、劇団のみんながそう言っても疑ったかもしれないけど……あなたを信じても良いかもしれない…そう思っている…だから訊きたい…」
「………何を…?」
その時、彼女の目は先ほどより一層、真剣な物に見えた。




