第40話
街が既に寝静まった頃、見るからに尋常じゃない気配の2人組が教会に向けて踏み出す。
もし街の警備隊がこの2人を目撃したのならばその気配にすぐさま剣を抜くだろう。
しかし、教会というのは警備隊の夜の巡回ルートには入っていない。
なぜなら、その必要が無いからだ。
教会には戦力がある。
その戦力との戦いになるのも避けたい為、教会は巡回ルートには入っていない。
「待て、そこの貴様ら。教会に何の用だ。」
突如、闇に紛れて周囲を囲むように現れた集団…
これがその教会の戦力なのだろう。
その集団のリーダーなのだろう、男がこちらに用件を問う。
「あなた達に会いに来たのよ。」
「幻創の霧に神に愛されし戦乙女が我らに何の用だ。」
ふ~ん…あくまでもとぼけるつもりなのね…
あの時の奴ら全員の死体を全て検めたが全て教会関係者たちだった。
もし彼らがユウを苦しませた事を悔い、それを謝罪したのなら…
「この前の事、謝罪は?」
「何の事か分からないな。大体、謝罪しなければ何があると言うのだ?」
「もし、謝罪すれば…死のその瞬間を感じる間もなく…楽に逝けたのにね…」
その静かな呟きと共にとティアによる裁きが始まった。
最初に動いたのはティア…しかし、その姿を捕捉出来たのは私だけだろう。
私が薙刀を振るうより先にティアは魔法を使いリーダーの隣に居た男を剣を抜くまでもなく
体術のみで教会の壁にまで吹き飛ばし、またすぐにそのすぐ傍にまで駆けその者の剣を抜きその剣を腹部に刺す。
その剣は腹部のみならず、壁にまで突き刺さる。
「ガハッ!」
その一連の動きが終わり吐血する事でようやく全員の意識が追い付く。
次々に流れ出す血…刺された男は必死に剣を抜こうとするが…
「無駄です。絶対に抜けませんよ。大人しくそしてゆっくり死んでください。」
無慈悲な死を宣告される。
恐らくあの者ではあの剣を抜くのは無理だろう。
これが実力の差…正面からぶつかれば多少手こずったかもしれないが彼らは数の差に油断した。
そしてこの集団…圧倒的にあの時の奴らに劣る。
魔法が使えない者まで恐らく混じっている。
今刺された者なんて恐怖のあまり、魔法を使えるはずだろうに使う様子が一切ない。
もしかして、この練度が低さ…あの時の奴らが一番強かったのかもしれない。
「クソ!殺れ!」
すぐに身体能力を強化されたのであろう者がティアに向かい駆ける。
その速さは流石、魔法といったところだ。
しかし、その刃はティアには届かない。
その男の剣筋はティアには甘すぎた。
その剣筋を簡単に弾き目にもとまらぬ速さで斬られる。
しかし、その一撃は重傷でありながらもすぐに死なない。
鮮血を散らせその場に倒れる…
決して、殺し損ねたのではない。
じっくり殺す為にあえて、重傷にとどめたのだ。
「グアァァァァ!」
地面を赤く染め叫びを上げる男…
身体強化というのは魔力が多い物ならば擬似的に再現できる程度の魔法
それなのに魔法胡坐をかき訓練を怠っていたのだろう。
純粋な剣の腕はそこらの傭兵にさえ劣るかも知れない。
その凄惨な様を見た者がティアを近接で倒すのは無理だと思ったのか私に向かって2人が走ってくる。
そして何人かが遠距離からティアに攻撃し始める。
しかし、ティアは飛んでくる魔法を剣で払うか避けるかして易々と突破して近接戦に持ちこむ。
私の方に来た者たちは…
「死ね!…ッ!?どこに消えた?」
「クソッ!何処だ!」
私の幻影を追いかけている。
そして彼らは私の姿を捕捉出来ていない。
故にその幻術は悪化していく…そして、さらに幻術の深みに嵌っていく…
どれだけありえない物でも本物に見えてくる…
「これで終わりだ!」
「グハッ…!ま、待て…!」
味方と私の幻影を重ねてやれば勝手に殺しあってくれる…
今、仲間を斬った男は執拗にその仲間の身体に剣を突き立てている。
その刺された相手の幻術はその瞬間に解いてあげた…精々、絶望して逝きなさい。
その様子を見ていた後方の仲間達はまだ幻術には掛かっていない為にこの様子に戦慄を覚えていた。
「おい…なんだよあれ…」
「知るかよ!早く殺さねぇと次は俺らがアレになるぞ!」
後方の者達に幻術が掛かっていないのは彼らが優れているから…
などではなく…あえて掛けていないのだ…
仲間が既に死んでいるにも関わらず剣を突き立てていた男はその動作を突如止めて後方から私に魔法を放っていた者たちの方へ向かっていく。
「まだ居たのか…殺してやる!」
「おい!正気に戻れッ!グハッ…!」
「クソッ!悪魔め…既に奴は仲間ではない!敵だ!殺せ!」
後方に居た者達の注意が男に向いたその瞬間にその者達との距離を瞬時にして詰める…
そして接近に気付いた者達が対応しようとするが…
時既に遅し…気付いた者から腕や足を刈りとっていく…
「う、うああぁぁぁぁぁ!」
「ギャアアァァァァ!」
次々に上がる叫び声…
恐慌状態にある者など容易く幻術に深く掛かる…
今、彼らは現実には存在しない恐ろしい幻覚に囚われている。
もう、彼らにその悪夢の中から逃げ出す術はない…
「精々、迫りくる狂った仲間と幻覚に怯えながら最後のその瞬間を迎えなさい。」
何処までも冷たく残酷な声はもう彼らには届かない。
仲間を襲っている男がやがて最後の仲間の元に向かう…
しかし、その仲間は足を刈り取られもう逃げる事は出来ない。
「や、やめ…」
「死ねえぇぇぇぇ!」
その命を奪った瞬間に幻術を解いてあげる…
その事で彼は気付く…
自分が何をしていたのかを…
「…?あ、あ…ああぁぁぁぁぁ…!!!」
狂ったように叫びだす男…
いや、狂ったように…ではなく、狂ったのだ。
自分が多くの仲間をその手で殺したと言う現実に…
「あなたも後を追って詫びる事ね。まぁ許してもらえないでしょうけどね?きっと彼らは死んだ今この瞬間にも貴方への怨念を募らせているはずよ。良かったわね。」
最後には言葉を持って心をへし折りに行く。
恐らくこのままでも少し考えれば彼は未知が悪いと考えただろう。
だが、それも少し考えればの話…
そんな救いを未知は与えない…
「死になさい。」
「ガハッ……!」
最後の一瞬まで彼は自分を責め、絶望したままその生を終えた。
しかし、この瞬間…未知は自分の失敗に気付く…
自分に敵対した者を全て殺してしまったのである。
このままではコイツらの根城までの案内役がいない…
自分が犯した失敗に気付きどうしようと悩んでいると
ティアがもしかしたら一人は軽傷ぐらいで済ませておいてあるかと思ったが…
「うわぁぁぁぁ!」
恐らく最後の一人であろう男が何処からか奪ったであろうナイフと剣で磔にされていた。
確実に助からない…
それどころか根城の場所さえ吐けそうにない。
「ティア、私全部殺しちゃったんだけど…どうしようかしら?」
「大丈夫です。一人泳がせています。ソレに少しお願いすれば快く場所を教えてくれるでしょう。」
すると血を流した跡がここから遠ざかろうと続いているのが分かった。
今回はティアに感謝すべきかもしれない。
だがそれを追う前にしなければならない事がある。
ここにもし、私たちが手掛かりがあっては困る…それにこの先、警備隊に邪魔されても困る。
なのでここを燃やす。
手元にある火を起こす為の市販の法具を使い教会諸共火を放つ…
これで証拠があろうが関係ないしこの炎にその内警備隊が引きつけられるだろう。
それまでにさっさとここを離れよう。
「行くわよ。」
「そうですね。」
そんな事務的な会話をこなす2人の足元にはまともな死体は無かった。
全てが凄惨な死を迎え恐怖に表情が歪んだまま死を迎えている。
下手をすればこの辺りがあまりの怨念に呪われかねない程に…
だが、2人はそんな物は知らないとばかりに平然とした顔で血の跡を追いかけていく。
もしも、この血の主が警備隊や仲間に先に遭遇されると追跡が難しくなる。
「ちなみにこの血の主は何処から血を流しているの?」
「右足の太腿と両腕の二の腕からです。」
太腿を怪我しているならば走ってはいないはず。
恐らくそれほど離れてはいないだろう。
そして、そんな未知の予想は完全に的中する。
前方に壁にもたれながらゆっくりと前進するローブをした者が見える。
「ちょっとそこの御方?逃げるつもり?」
「ひぃッ…!?」
声からして女だと分かる。
女はこちらがすぐそこにまで居るのに気付き恐怖のあまり情けない声を上げる。
これならお願いもすぐに聞いてくれそうね。
「私たち…少し困ってるの。だから少しお願いを聞いてもらえる?」
まるで、迷子の子供が道を尋ねるような声…
しかし、未知の顔には困った様子など微塵も無く。
そこには本来あるべき困った顔はなく、絶対的優位に立っている者が浮かべる妖艶な笑みがあった。
「お、お願い…助けて…」
恐怖に歪んだ顔で命乞いを始める女…
しかし、未知が求めていたのはその言葉ではない。
「黙りなさい。あなたが今喋っていいのは“はい”か“イエス”だけよ。」
「はいぃ!」
「よろしい。」
もし彼女が敵の手に落ちるくらいなら死ぬと言うタイプなら少し手間取ったが…
どうやら味方より我が身の方が大切らしい。
おかげで滞りなく話が進みそうだ。
「私からのお願いは2つよ。まず、少し前にあなた達がやった1人の少年を襲う作戦についてよ。それについて知っている事を全て話しなさい。」
「そ、その…私は作戦に参加していなかったのであまりよく知らないのですが…」
怯えながらも作戦には参加していなかったと前置きして話を始める女。
これについては恐らく事実。
何故ならあの場に居た教会関係者は全て殺したのだから。
「“信用できる筋からの情報で希少所持者が出た為、その者を勧誘、もしくは捕獲せよ”との指示で対象はティア・シンフィールドの庇護下にあり、≪手の甲に紫の月と星の紋章がある少年≫…手に入れる為ならば多少の出費や騒ぎは構わない。と言っていました。」
随分と力を入れてくれてるわね。
ユウに関する情報は少なめだが、いち早くユウを何らかの方法で自陣に引きいれようとしているのが見える。
現に、恐らく一番適切な数の今用意できる限り最高の強さの人員がつぎ込まれていた。
それにユウを手に入れる為の貴族との交渉の材料になる程の金もある様子。
出来る限り、世の中にユウの存在が知れ渡る前に引き入れたいのだろう。
その方がいろいろ外聞上、都合がいいのだろうしね…
こちらもあまりユウの事は露見して欲しくない…
もしも、彼らが焦らず長期に渡る交渉を選んでいたのならばチャンスはあったのかもしれない。
しかし、彼らは強硬策に出て…そしてユウの心を傷つけた…
もう、教会との共存はありえない…完全な決裂だ…。
「じゃあ、二つ目…これが終われば助けてあげる。あなた達のお仲間さんたちが居る所まで案内して頂戴。」
もしかすれば助かるかも知れない…もし、助からないとしても戦いに紛れて逃げる事ができるかもしれない。
そう思った彼女は迷うことなく仲間を売った。




