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第4話

 外に出ると冷たい風が吹いていた。今の服装で外に出たことを少し後悔しながらも周囲を見渡す。

 夜空がとても綺麗だった。


 都会などの空ではもう見ることはできないだろう星の海が広がっていた。そしてその中でも三日月はその存在感を強く出していて一種の神々しささえ感じさせる。


 確か月は見るものを狂わせるという話があった気がするが魅せられてしまった俺は狂うのだろうか?そんなどうでもいいことを考えながら周囲に誰も居ないことを確認した俺は本題に取り掛かる。


 俺は紋章がある手を突きだし強く思い描く。

 そして鍵となる言葉を呟く…


失楽園(パラダイスロスト)


 すると突然紋章が淡く光りだし紋章のある手の甲が熱くなる

 次の瞬間目の前に魔法陣が出現しその中から狐が現れた。

 これが俺の魔法(アーツ)である。これは生命を産み出す能力というより架空を現実にする能力だ。


 俺の想像した架空の存在を現実に創り出す

 初めての魔法(アーツ)なので実際に存在する自分の好きな狐を出してみた。このくらいの存在なら沢山創り出すこともできるだろう。


 そして魔法(アーツ)を使うときにやった手を突き出すモーションだが慣れれば必要がなくなってくるらしい

 手に魔力を集めることに慣れていない内はこうやって補助するようだ


 ちなみにだがこの魔法(アーツ)は大量に食糧にするための牛を出すということはできない。

 産み出した存在は死亡したもしくは限りなくそれに近くなった場合俺の想像世界に戻る。

 まぁ牛乳を搾るくらいならできるかもしれないが


 俺が死なない限り本当の意味でその存在が消えることはない。

 ティアが言っていた魔力についてはどのくらいあるのかまでは分からないがどこで消費するのかは分かった。


 主に産み出す瞬間に魔力を使うようだ。この存在をこちらにとどめて置くのにはそれほど魔力は使わないが一応それほどと言うだけで消費はされている。


 しかしそれよりも魔力が自然回復する方が量が多いため結果的には減っていない。

 この能力には実はデメリットがありこの程度では感じていないが重力のようなものが出している量や質に比例して掛かっていくのだ。どうやら狐くらいなら余裕のようだ。


 創り出した狐はこちらをじっと見つめ目の前で座っている。

 この狐にはさまざまな事を命じることもできるし狐が見たものを見ることも簡単な返事だってこの狐はできる。

 では今度は元の世界には存在しないゴブリンを出したらどうなるのか?

 この世界で最初にあったあの生物だ。あれは軽くトラウマレベルで覚えている。

 強く鮮明にゴブリンについて思い描く…


失楽園(パラダイスロスト)


 するとまた紋章が光りだし手の甲が熱くなり目の前に今度はゴブリンが現れる。

 しかしこのゴブリンはしっかり知性と理性を宿らせていた。自分で思考できるほどの知性はないがこちらの命令を聞く程度のことはできるようになっているようだ。試しに俺はゴブリンに命令をしてみることにした。


「ゴブリン、雑草を刈ってくれ」


 俺の命令を聞いたゴブリンは小さく頷くと黙々と雑草を刈り始めた。

 しかし、他に何か命令は思い付かなかったのか俺の頭脳よ…雑草刈りって…ボランティアじゃねえんだから…

 まぁ、取り敢えずのところゴブリンも別にそれほど消費しないし負荷も少ないようだ。


「ありがとう。狐は…そうだな…何かに変身してみてくれ」


 流石に無理だろうか?

 正直なところさっきから起こる現象にまだ平静を保てていないようだ。

 しかし実際、狐は化けるという逸話があるくらいだしもしかしてと思ったが…


 しかし、次の瞬間、狐がなんと…


         油揚げに変身していた…


 なんだろうかこれは俺がおかしいのか?正直冗談で出来ない命令にどうやって対応するのかの実験の為に命令したのだが…


 というか何故油揚げ!?しかも尻尾そのままだし!?

 あれ?しかも何故かこの油揚げは嬉しいのか跳び跳ねている…


 よくわからん奴だな…

 そんな事を思いながら見ていたらこれはこれで面白いな…と思ったりしてしばらく眺めていると


 なんだか分からないシュールな絵になってしまった。

 跳び跳ねる油揚げ

 それを見つめる少年

 少年の横で落ち着いた様子で座る凶悪な顔をしたゴブリン


 こんなの誰が見ても驚くだろうそんな光景だった。


 取り敢えず今回はもう帰ってもらうことにしよう。多分疲れているのだろう。


 強制送還と合意送還の2つの方法があったはず……どうするべきか。まぁどっちでもいいんだが強制送還はなんとなく使いずらい…


 取り敢えず合意送還をしてみるか。やり方は帰ってくれと念じるもしくは言葉にするだけだ、物凄く簡単だ。

 簡単で助かるもしこれで凄く時間の掛かるようなことだったら手こずっている間に誰かが起きて勘違いするかもしれない。


「じゃあ、ゴブ…」


 と帰って貰おうと口にしようとしたその瞬間…


「ユウ!逃げてください!」


 と必死な声が聞こえてきた。

 その声には聞き覚えがあった。間違いなくティアだ


 おう、初めての名前を呼んでくれたんだな。なんてバカみたいな事を言っている暇では無いのはその声で分かる。


 にしてもまさか思ってた通りになってしまうとはつくづくついていないものだ。


 どうやらティアは勘違いをしているようだ。俺が襲われていると思ったのだろう。振り向くとこちらに走って来るのが分かった。


 ティアの手には剣が握られていた。

 これは穏やかではない。

 もしゴブリンが殺されてももう一度呼べば出てくるがあまり気分がいいものではない。

 俺は強制送還を実行する

 当然、狐(油揚げ)のことも忘れない


強制送還(パラダイスリゲイン)!」


 するとゴブリンと狐(油揚げ)は光に包まれ俺の想像に戻った。


「……!今のは!?」


 いつの間にかすぐ近くまで近づいていたティアは今の光景を見て驚いていた。




 俺はすぐに謝り自分の魔法(アーツ)について教えた。

 ちなみに俺は“魔物を召喚する能力”と教えている。

 少し胸が痛むが魔法(アーツ)についてはぼかして伝えている。俺の予想が当たっていればこの能力はそれ以上の力を出す事ができる。

 しかしまだ事実かどうかは試さなければわからない。不確かなことから伝えはしない


「そんな魔法(アーツ)だったのですか…」

「はい、明日にしようと思っていたんですが気になってしまって…」

「しかしその魔法(アーツ)…かなり高等な魔法(アーツ)ですね…」

「そうなんですか?」

「えぇ多分、大抵はある程度分類することが出来るのですが貴方のは召喚系統という分類じゃないかと殆どこの魔法(アーツ)を持っていた人たちはいませんでした。調べても100人も満たない数の少なさじゃないかと…」

「かなり珍しい魔法(アーツ)なんですね」

「大抵珍しい魔法(アーツ)というのは普通より強い力をもっていることからして王宮専属の魔法使いになることは無理でもかなりいい職に就くことができるでしょう」


 正直そこまでとは思わなかった。ほかの魔法(アーツ)についても、もっと調べる必要があるな…

 しかしこれは本当に召喚するだけの魔法(アーツ)なのだろうか


「そこまでいい魔法(アーツ)なのか…」


 そこでティアの顔が曇る…


「それでも貴方は私に…」


 きっとティアは申し訳なく思っているのだろう。顔を見れば分かる一見、無表情のような顔に見えるかもしれないが確かに罪悪感のようなものを感じる。


 もし私が俺を引き入れなければもっといい職に就くことができたかもしれないのにその道を自分が塞いでいるのではないか?


 そう思ってでもいるのだろう。だからティアはそれでも貴方は私に仕えるのですか?いまからでも間に合うとかなんとか言おうとしていたのだろうけど



「関係ないね」



「…っ!?」

「俺は給料や待遇がそれなりにいいからティアの元にいるっていうのも確かにあるが、それよりティアの為になりたいからって気持ちの方がやっぱり大きいんだ。だからここから離れるつもりはないよ、しがみついてでもここにいてやる。」


 このティアの為になりたいという気持ちはどこから来るのかはわからない。低劣な下心の可能性もあれば拾ってくれたことに対しての恩義からくるのかはたまた別の理由か

 しかしそれは今どうでもいい俺は自分のしたいことをするだけだ。理由なんかどうでもいい富や名誉は二の次だ。


 ティアはいつも殆ど変わらない無表情な顔を少しだけ崩して必死そうに紡ぐ


「し、しかし貴方は…」

「貴方…じゃなくさ、さっきの時みたいにユウって呼んでくれよ。」


 俺はそれ以上言って欲しく無かった

 だから続けさせない。

 俺はその先がティアの口から出るのを拒んだ。


「……っ!と、取り敢えず、幸運でした。この魔法を神父に見せずに済んで」


 ティアの顔が少し赤くなっていき、声もどこか冷静を欠いているようにも見える。

 体調でも悪いのだろうか?

 だが、それにしても…何故神父に魔法(アーツ)を見られなくてよかったのだろうか?

 その疑問を素直にぶつける。


「ん?どうして?」


 ティアは自分を落ち着かせるかのように一呼吸おくといつもどうりの声で続ける。

 流石は領主すぐに切り替えたようだ。


「只でさえあの紋章の事があるのです。あの神父は聖十字の所属ですからもし知られていればそのまま飼い殺しにされていたかもしれません。それこそ選ばれし者だ!という風に仕立て上げられ後戻りできないようにされた。なんて笑えないことに」


 どうやらこの世界の宗教は結構積極的みたいだ

 関わる時は細心の注意を払わなければならないな


「実例が?」

「いえ、確実な証拠のある実例はありません。しかし組織とはそういうものだと思っておいてください」


 少なくともこの世界の組織というものは力に貪欲なようだ。


「特に宗教関係と貴族関係は気をつけてください。どちらもある程度戦力を保持しています。前者は下手な貴族より戦力がありますから。もちろんその宗教や貴族にはあの神父や私も含まれます。」

「あぁわかった。」


 俺自身もある程度分かっている。ティアとのこの関係はティア側の圧倒的な力があるうえでやっと成り立っているのだということに


「とりあえずこの魔法(アーツ)は」

「外部には出来るだけ隠す…ということです。」


 この魔法(アーツ)を隠すと言うことに否はないが

 純粋な疑問として聞きたいことがある。


「ティアはこの魔法(アーツ)を利用するのか?」

「…………いいえ…私は貴方を利用するだけです。その魔法(アーツ)を使うか使わないかは他ならぬ貴方が決めることです。私が決めて良いことではありません。」


 やっぱりお人好しなんだなティアは…命令すればいいのに

 きっと今までもそしてこれからも俺の意思を無視した命令を出す事はそうないだろう。

 だから俺は自分から進んでティアの為に動く

 しかしこれだけは言っておかなければならない


「なら好きなだけ利用してくれ俺にとってそれが恩を返すということだから」

「…………とにかく今日はもう遅いです。明日は忙しくなるかもしれません。もう寝ましょう。」








「おやすみ…ユウ」


 最後のその言葉はとても小さかったが確かに聞こえた。


「あぁおやすみティア」

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