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第39話

「俺は……」

 

 最近お世話になっていた見覚えのある天井…窓から指すのは暁の光……

 一体何度目だろうかこんな目に会うのは…

 慣れつつあるこのシュチュエーションだがあまり心地の良いものではない。

 出来る事ならこれで最後にしてほしい物だ。

 

「っ!?大丈夫!?」

「…ん?姉ちゃん…?」

 

 俺の眠っていたベットの横で俺の手を握り身体に倒れ掛かるように寝ていた姉ちゃんが俺が起きたのに気付く。

 そして、跳びあがるかのように起き、歓喜と心配の混じった声を上げる。

 

「痛いところ無い?クラクラしない?熱は無い?この指何本?記憶はある?」

「大丈夫だよ…確か…外で歩き回って…」

 

 あの男から森まで逃げて…

 そして森の中で俺は…………

 

「あっ……あぁぁ!…お、俺が…俺がこ、殺した…?殺したのか?」

 

 あの戦いがフラッシュバックのように脳裏によみがえる。

 人を殺したと言う実感が身体に今となって訪れる…

 まるで自分の手が…いや、身体中が真っ赤な血で染まっているような錯覚さえ覚える…

 

「落ち着いてユウ!あなたは悪くない!」

 

 その時、扉を勢いよく開けてティアが入ってくる…

 そして俺の叫びを聞いたティアは俺の傍に駆けよってくる。

 

「どうしたんですかユウ!取り敢えずは落ち着いてください!」

「……ティア?…でも、お、俺は…人を…」

「あなたは何の為に殺したのですか?」

「………何の、為?」

 

 何の為に…?

 アイツらを殺さないと…いづれ俺の周囲に迷惑を掛ける事になる…

 もしかしたら奴らがティアや姉ちゃんを傷つけるかもしれない…

 だから殺した…

 

(殺さなければ自分が…ひいては自分の周囲に害が及ぶ…もうここは今までと同じ場所じゃないそれが分かったから殺した。そうじゃないの?)

 

 そのステラの言葉で熱を帯び混乱していた頭が冷めていく…

 あぁ…段々と記憶が戻ってきた…

 俺は決意したんじゃないか…人を殺すと言う禁忌(タブー)を犯す決意を…

 記憶が混乱していたとは言え情けない…こんなにも心配を掛けて…

 

「はぁ…………はぁ……大丈夫…もう大丈夫だから…」

 

 そう言いつつもやはり消していた感情の反動なのか

 罪の意識や恐怖が身体中に駆け廻っていた…

 それを必死に理性で抑えつけるが身体の震えは未だに収まらなかった…

 

「………私がもっと早くユウの所に行けていたらこんな事をユウにさせずに…」

「それは違うよ…俺じゃないと…俺がやらないとダメな事だったんだから…」

 

 姉ちゃんに人殺しを代わりにやってもらうなんてそんな甘えは許されない…

 俺がいずれ踏み出さなければならなかった一歩。

 それだけの話…姉ちゃんが悪い所など無い…

 悪いのは俺の心の弱さ…

 

「さっきは少し混乱していただけだから!気にしないで!ごめんね心配させて。」

 

 無理やり笑顔を作る…

 昔からこういうのには慣れてる…

 これ以上みんなを心配させる訳にはいかない。

 

「そうですか…では、ここにずっといるのも迷惑でしょうしミチさんも行きますよ。」

「んぅ…分かったわ…ユウ、何かあったらすぐに呼ぶのよ?」

「ではゆっくり休んでください。」

 

 そう言って2人は部屋から出て行った…

 それと同時に押しとどめていた感情が堰を切った様に流れ出しそれが涙となって頬を伝っていく…

 だが…最後の≪男としてのプライド≫が声を押し殺させた。

 

 

 

 

 

 

 

「許せない……」

 

 小さな…しかし、はっきりとそう私の口は言葉を発した…

 あまりの憎悪に出たその言葉はきっと私の知り合いが聞けば身の危険を感じて逃げ出す程の威圧感さえも漂わせた。

 

「許さない……」

 

 しかし、似たような憎悪を吐く者が隣に居た。

 尋常ならざる雰囲気を放っている者が隣に居るにも関わらず同じ雰囲気を放つティアの姿は見る者にこの先一波乱あるだろうことを予感させた。

 屋敷内でその2人はつい最近出会い、しかも敵対関係にあったのだ。

 しかし、ユウに関する事…その一点においては似ていると言えた。

 

「あんなにも苦しんでいる…お姉ちゃんが助けないと…」

 

 ユウが寝ている間…私はずっとそばに居た。

 それには、ユウの傍に一分一秒が惜しかったから…そんな理由もあったのだが…

 もう一つ理由があった。

 ユウは何度かうなされていたのだ。

 あまりにも苦しんでいる姿に何かしたかった…

 

 だが私には何もできない…出来た事と言えば手を握り片時も離れず傍に居る事だけ…

 しかも、夢の世界より帰ったユウにも私は何もしてやれなかった…

 そして、脳裏によみがえるのはあのユウの痛々しい笑顔…

 あの痛々しい笑顔を作らせたのは私だ…

 

「ティア…私、少し用事ができたわ…」

「そうですか…私も少し用事が出来ました。」

 

 そう言って私はティアの屋敷を出た。

 もしかするとティアも私と同じ事を考えているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「報いは受けてもらう…」

 

 ミチがどこかへ消えた時、ティアはミチと同じ憎しみを募らせていた。

 報復の対象は明確…あの教会の武装集団だ。

 教会の全てを否定する訳ではない。

 当然、純粋な善意の信者がいない訳ではない為、皆殺しや手当たり次第に殺すと言うのはしない…

 だが手を出した集団は許さない…彼らは間違いなく今回の件を知っている。

 知っていたのならば情けは必要ない。

 

 しかし、教会というのは大きい組織…末端とはいえそこに報復に出たなどバレては困る。

 だが報復をしないなどと言う選択肢は存在しない。

 つまるところ…私が報復に出たと言う証拠がなければ構わない。

 

「確かローブがあったはず…」

 

 

 どこかで理由も分からず母から貰った物があったはず。

 大きかった為、深く被れば闇に紛れて顔も見えないだろう。

 今覚えば母はこんな自分の立場を隠さなければならない時が来るかもしれないと考えていたのかもしれない。

 

 人殺しに行く時に母から貰った物を着て行くのは気が引けるが…

 ユウが苦しんでいるのだ。

 ユウの為ならば母も許してくれるだろう…

 腰に父の形見のプレッジティアーズを携え母のくれたローブを纏い屋敷を出たティア…

 

 向かうは教会…何処を彼らが住処としているかは知らない。

 しかし…教会にも一人くらいは何かあった時の為に配置されているだろう。

 そして、その人に少し話を聞けばどうにかなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 向かったのは劇団の全員が泊まっている宿。

 このままの姿では私だとバレる…そうなれば間接的にユウに被害が及ぶかもしれない。

 

「出来るだけ生きた目撃者を減らし、証拠は残してはいけない…」

 

 そして報復をするときは絶対にあの装いで行く。

 幻術で周りに認識されないようにして向かえば装いは関係がない。

 それにこの装いならば私を私と分かる者はいない。

 

 こちらの世界には存在しないはずの巫女装束を身に纏いすっかり手に馴染んだ薙刀を片手に魔法(アーツ)を使う…

 こんな姿だと言うのに時折すれ違う人たちは気に掛けない…

 そう視覚的に幻術を使っている未知を見つけるのは容易ではないのだ。

 ティアは視覚以外だと未知を感知出来たが…

 むしろ、未知に気付くティアが例外なのだ。

 かなりの訓練を受けた兵士でもすぐに捕捉するのはまず無理だ。

 

 しかしもし、この姿を団員が見ればどう言うだろうか?

 教会に弓引く事に対して諫めてくるかもしれない…

 見損なったと言って呆れるかもしれない。

 

 だが、誰に何と言われようがやめるつもりは無い。

 ユウに関する事はどんな事があろうと例外無く最優先事項だ。

 もしここでユウを苦しめた武装集団を殺さねば…私は何の為に存在しているのか理解できない。

 (わたし)(ユウ)を護り、慈しみ、支え、愛する者だ。

 あの痛々しい笑顔を浮かべさせた罪は償わなければならない。

 当然、それはあの怨敵にも当てはまる。

 

 それに何より、ユウにとって私は紛れもなく唯一無二の家族なのだ。

 (ユウ)が苦しむ姿を静観し続けるなんてそんなの…家族じゃない。

 私にとってそんなのはどんな地獄にも勝る苦痛だ。

 

「居ますね?」

「やっぱり来たのね。その心意気は称賛に値するわ。けど、私一人で充分よ。」

 

 気付けば教会の前に着いていた。

 するとまるで私をあたかも見えているかのようにこちらを向き確信じみた問いかけが来る。

 声の主は完全にティア・シンフィールドその人だ。

 どうやら、顔を完全に隠して来たようだ。

 周囲に人の気配も感じない。

 私もこの幻術も解いて構わないだろう。

 

 しかし、この女は不思議だ。

 他の者の手を使わない点と言い、この女は普通の貴族とは違った行動を取る。

 その他にもユウを守ってくれていた点…

 一応、私の中では団員達の次に評価の高い人物だ。

 

 だが、そんなのは関係無い。

 この相手は私が全て殺す…これは私の存在理由(レーゾンデートル)の証明だ。

 そこにティアは必要無い邪魔なだけだ。

 

「大切な仲間があれほど苦しんでいるのです。黙って見ていろとでも言うつもりですか?もしそう言うならばあなたこそ帰ればいいのではないですか?この程度の相手なんて私でも充分です。」

 

 その刺々しい言葉を淡々と吐くティア。

 生意気な減らず口を叩くティア…

 この沸々とこみ上げてくる怒りをティアにぶつけたいが…

 今は一秒でもこの時間が惜しい…

 

「言ってくれるじゃない。いいわ、ついてくるなら勝手にすればいい。その代わりあなたがどうなろうと私の預かり知る所じゃないからね?」

「もしここから先、私に何か起こるとすればそれはもう奇跡の領域です。まずありえませんのでご心配なく。」

 

 まぁ、そうでしょうね。

 言っておきながらだけどまずあり得ないでしょう。

 一応、この国の中でもティアという女は有数の実力者なのだから…

 

 その実力は決して過大評価などではないと既にこの身を持って体感している。

 力や技術は言うまでもないが互角、もしくはそれ以上…

 しかも、戦闘時における判断能力など…まさに天性の戦闘センスを感じた。

 

 あの戦いは互いに本気で戦っていた訳ではなかった。

 だが、本気を体感するまでもなく危機感を感じた。

 それほどの強さが私と同じくこの先の教会の手駒など取るに足らない敵だろう。

 

 そう…これから始まるのは戦いではない。

 獅子の怒りを買った愚かな畜生どもに対する裁きだ。

 畜生どもに残されたのは一瞬一秒程度の延命の為にあがくという償いのみ。

 精々、ユウを苦しめた事を悔いながらその一瞬一秒を苦しみもがけ…

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