第38話
燃え盛る森の中、一つの人影が疾走していた。
「ユウ!シエル!どこなの!?」
未知は半ば半狂乱になりながら燃える森を走っていた。
自分にとってとても大切な2人が燃え盛る森にいると言うのだ。
落ち着いてなどいられない。
すぐさまあの私を遮っていた男の首を刎ねてここまで来ていた。
「巻き込みたくないって…こういう意味もあったのね…迂闊だったわ。」
森を燃やすなんてバカげたことをするなら一人で行かせなかったのに…
しかし、後悔先に役立たず…今はユウとシエルを探す事だけを考えよう…
「っ!?こんな時に何?」
後ろから迫る気配に気づく未知…
しかし、この気配…前にも感じたような気が…
その時、物凄い勢いで走るティアを見た…
どうやらティアもこちらに気付いた様でこちらに来る。
「あなたティア?どうしてここに?」
ティアは何故ここに居るのだろうか?
私たちはユウが襲われたなんてティアには言ってないはずだけど…
「ユウの帰りが遅く、探しに行こうかと言う時に教会の者が家に足止めに来ましたので戦っていると、火の手が上がっており現場にあった足跡を辿ってきました。状況から見てユウが関わっていると推測します。」
まぁ、ユウがかなり色々起こしてたからね…
それなら追ってこれるわね…
おそれにこの燃え盛る森にユウの為に躊躇いなく跳び込めるとは見どころがあるわね。
ユウはあげないけど、友達…いや、知り合い程度なら許してあげてもいいわ。
「じゃあ、共同戦線と行きましょうか、ユウを3人の敵が追っているはずよ。」
「やはりですか…一応聞きますがユウに殺しの経験は?」
「私が知る限り家畜すら殺したことはないわ。」
「やはりですか…」
だからユウにとってこれは絶対的に不利…
シエルと既に合流していれば大丈夫だろうけど…
シエルは人見知りで疑り深いから…
「一人先に行っているから簡単にユウが捕まるとは思えないけど急ぎましょう。」
「そうですね。」
ともかく2人は絶対に見逃さないように森を隈なく探しながら森を走るのだった。
「チッ…」
その時、ユウは男に剣を振るうがとても密度の魔力が壁のようになり刃が届かない…
しかも際限なく地面からアンデットが這い出てくる。
その全てを悉く斬り倒していくがその勢いは止まる所を見せず再起不能な屍の山が築かれていくばかり…
周囲の炎は激しさを増し木々が倒れ逃げ道も無くなってくる。
「ここで俺が死ぬとしてもお前だけは生かさない…俺の平穏を奪おうとしたお前だけは!」
周囲のアンデットどもを一気に吹き飛ばしハルバードによる一撃を放つ。
だが、魔力による障壁は一切の侵入を許さない…
ならばとばかりに神葬霊剣は双剣へと変化する。
手数で押し切ろうと息をも吐かせぬ連撃が障壁を叩くがビクともしない…
「クソ!」
周囲に湧き始めるアンデットに危機を感じ一度後ろに跳び距離を取る…
もしここが開けた場所じゃなければヤバかったな…
再度、俺は障壁を破るためにアンデットの集団に跳びこむ。
長柄の武器で薙ぎ払い、ありとあらゆる剣を用いて屍にまみれた道を切り開く…
しかし、ここで身体に脱力感を感じ一旦飛び退く…
どうやら限界が近いようだ…だがコイツは消耗した様子を見せない…
そこで視界の端で何かが居るのを認識できた。
「お前!何してる!!」
「っ!?」
それはシエルだった。
この状況でもなんとか見分ける事ができる。
多分、ずっと居たのだろうな…
しかし、彼女は人を安易に信じられないのだろう。
それゆえに、様子を見ていたのだろう。
「ずっと居たのか!!」
「………」
答える声はない…
だが、今来た人間があんな隠れ方をするはずがない。
すると心の奥そこからこみ上げる怒りを感じた。
「ふざけるな!なんでそんな所に居るんだ!!逃げろと言っただろ!!!」
「っ!?」
何を驚いた顔をしているんだ!
周囲は炎で囲まれほとんど逃げ道は無くなっている…
だが魔法を使え姉ちゃんに追い付ける身体能力があれば逃げれるだろう。
「まだ間に合う!早く逃げろ!!!」
「………」
俺が腹の底から声をあげるが一向に逃げようとしない。
それどころか何か考えている様子。
絶対にあの屍使いにシエルの存在がバレてはいけない。
どうやら既に自我や知性が崩壊しているようで会話は理解できないようだが視認されれば流石にバレるだろう…
「クソっ!早くしろ!!」
「………」
一秒でも多くの時間、アイツの気をひかねぇと…
脱力感、疲労感、痛み、全てを無視しその為だけに突撃を仕掛ける…
言う事を聞かないシエルに対する怒りが沸々と湧き上がる中、アンデットをひたすら倒し続けた。
「お前!何してる!!」
「っ!?」
気付かれた!?
だが、私はまだ彼を助ける理由が見つけられない…
むしろ、あのユウという男がミチを騙していた…その考えが一番有力だった。
これは逃げるべきだろう…何せ相手は絶魔化を起こしている。
こんな男の為に命を掛けるのは割に合わない…
恐らく見たところかなりの消耗具合だ…放っておけば勝手に死ぬ。
きっとその死をミチは悲しむだろう…だが裏切られた、騙されていたと知った時の絶望よりはマシだろう…
「ずっと居たのか!!」
次に響くのは恐らく自分勝手な助けを求める声だろう。
その声は生き物として当然の生への執着…一見見苦しいがとても尊いものだ。
だがミチを騙していたであろうこの男のそれに応える必要はない。
しかし、次の瞬間響いたのは全く予想の出来ない一言だった。
「ふざけるな!なんでそんな所に居るんだ!!逃げろと言っただろ!!!」
荒々しいその怒号は予想を大きく裏切った…
このままいけばこの男は死ぬ…それはこの男も承知のはず…
なのに何故、助けを求めない…
この男の叫びには確かに私への怒りを感じた。
しかし、それには私が助けに入らなかった事を責めるものではなく。
逃げなかった事に対しての心の底からの怒り…
分からない…
何故?どうして?
「まだ間にあう!早く逃げろ!!!」
しかもそのまま消耗しているというのに気を引くために無謀な突撃を敢行する…
何故、助けに入らなかったのに…仲間だと思っていた相手に裏切られたのに…なんで?
「クソっ!早くしろ!!」
私はどうするべきなの?
だれも答えてはくれない…ここは自らで決断しなければならない…
逃げるか…共闘するか…
ヤバい…さすがに無謀だったか…
無駄に体力が削られていく…
ふと、シエルは逃げたのか?そんな疑問が浮かび上がる…
もし、逃げ切れていたのならば…少しは足掻いた甲斐があったと言うもの…
しかし…
シエルはアンデットの群れに飛び込みアンデットを大鎌で斬り倒していた。
その姿は、まさに地獄から逃げ出した亡者を捕まえに来た死神…
「逃げろと言ったぞ!」
「従う理由はない…」
「ここに残る理由も無いはずだ!」
なんで戦う…
今、ここに残っても何も無い、何も得られない…
「正義感…」
「嘘や屁理屈は聞きたくない!死にたいのか!!」
あの雰囲気、瞳…シエルは人を信じられるはずがない…
俺の予想が正しいならばシエルは信頼できない人物の隣では戦わない。
ましてや、正義感を理由に死地に立てるはずもない。
それが裏切られないための最善策なんだから…それなのに…
その時、俺はここでは聞こえるはずのない…
聞きたくないその声が耳に入る。
「「ユウ!」」
「姉ちゃんにティア!?なんで来たんだ!!」
「ユウ…?なんか口悪くなってない?」
「そんな事より早くあの敵を倒しますよ。色々と拙いです。」
その姿は紛れもなくティアと姉ちゃん…
言う事を聞かない姉ちゃんとシエル…思い通りに行かないティア…
そしてそれを害するアンデット共にあの屍使い…
湧き上がる怒りが限界を迎えつつある身体を突き動かす。
その怒りの全てをあの男を殺す…そのために…その為だけに動かす…
「刹那求望」
その声が聞こえた途端にティアがぶれるようにかき消える…
すると突然、周囲のアンデット達が切り刻まれる。
これで奴に接近できる…
すると俺の意を汲みとったかの様に姿を変える神葬霊剣
槍に変化した神葬霊剣を手に全力で地を蹴る…
出せる限りの最大の推進力…そして持てる限りの最大の力で渾身の突きを放つ。
「はあぁぁぁぁ!!」
しかし、魔力による障壁に阻まれる…
ならば壊せとばかりに力を込めるがその堅固な障壁は未だに壊れない。
「ガアァァァァァ!!」
すると突然、屍使いから発生した爆風の様な魔力が俺を吹き飛ばす。
しかし、間髪いれずシエルの大鎌がその障壁を斬り裂こうと大鎌を振るうが…
それも障壁を破るには至らない…しかし、少し障壁に綻びが見える…
「厄介…でも、壊せない訳ではない…」
その小さい声はまさに確信を突いていた。
だが障壁を壊すには生半可な攻撃では意味を成さない…
一度、シエルは周囲に迫るアンデットにより後ろに跳んだのだが…
その障壁は修復されていた。
つまり何度も間髪いれず攻撃をし続けるか…強大な攻撃で吹き飛ばすか…
そうしないとあれは破れない…
ならばとばかりに姉ちゃんとティアが攻撃を続けるが…
それも湧き続けるアンデットによって阻まれる。
「ホントに永遠と湧き続けるわね!幻術も効かないし…これだからアンデットは嫌いなの!!」
「そうですね…私も同じ意見です。」
こうなれば失楽園を使うか…
魔力はまだ余裕があるから魔力切れの心配はないだろう。
しかし…もう身体が限界だ…アイツの周りに居るだけで体力が奪われる…
もう俺に持続的な戦いは出来ないだろう。
「失楽園」
だから…
責めてあの障壁に対して一矢報いてやるとしようか…
シエルやティアに姉ちゃんが離れた隙を狙い指示を出す。
「燃やしつくせ!煉獄魔人!!」
横に現れた煉獄魔人は手に炎を集め、それを放つ…!
炎は真っ直ぐに屍使いに跳んでいく。
そして障壁にぶつかりあらん限りの炎を撒き散らし爆発を起こす。
しかし、炎が消えても障壁は未だ健在…
だが、修復されつつあるが障壁に罅が入っているのが分かる。
「好機…」
そこで畳みかけようとシエルが先行する。
そして障壁を破ろうと大鎌を振るうがそれでも障壁は破れない…
しかし、ダメージはしっかりと通っているのか罅は大きくなっている…
「これで…」
「終わり!」
そこにティアと姉ちゃんが追撃を仕掛ける…
そこで…突如、ガラスの様な大きな音を立てて障壁が壊れる。
そして、屍使いに留めを刺そうとティアの剣と姉ちゃんの薙刀が振るわれる。
「ガアァァァァ!!」
だがあと一歩及ばず、叫び声とともに放たれた魔力の奔流に吹き飛ばされる。
その隙を突き、屍使いの障壁がまた修復され始める…
「クソがあぁぁぁぁ!!届えぇぇぇぇぇ!!」
神葬霊剣が槍に変形し始めたのを感じた俺は意図を察した俺はそれを行動に移す。
槍を構えそれを渾身の力を振り絞り屍使いに向けて放つ。
そしてその槍は障壁が完成する前に身体を穿ち…
屍使いのその命を散らした。
「終わったか…」
(じゃあ、供給を…)
そうか…切らねぇと…
ってダメだ。
そんなことをすれば俺が動けなくなる…
(だけど、そうじゃないと身体が…)
(大丈夫だ、気にするな。)
「早く、森を抜けないと…」
「そうだな…早く行かないと…」
周囲には未だ燃えさかる木々が退路を断っている。
相手の増援や退路を断つ為にやったが…
ここで裏目に出たか…
本来なら短期決戦ですぐに逃げる予定だったが…怒りと心地よい達成感に簡単に流されてしまった。
しかし、後悔先に立たず…
「こうなれば無理やり突破するしかないわね…」
「そうですね…」
あっ、何か空を飛べる奴を呼べば脱出出来るんじゃないか?
じゃあ、誰かを…
そこで誰かを呼ぼうとしたその時…
謎の呻き声が聞こえてきた。
その元を見ると…
「うぅ…ああぁ…」
そこにはアンデットになった屍使いがいた。
完全には殺せなかったのか?
なら…完全に消しさるまで…
「失楽園!!」
今ある全ての魔力をつぎ込み呼び出したのは…
青く輝く鱗をその身に纏いありとあらゆる物を斬り裂く爪と牙を持つドラゴン…
その姿は神々しくそこにあるだけで周りを全てを威圧していき身に纏う冷気は燃え盛る炎の熱気で火照る身体を瞬時に冷やす程に大気の温度を下げた…
「お前の消滅を持ってして俺の一歩とする!塵も残さず消え去れ!!凍てつく絶対零度の息吹!!」
ドラゴンは凍えかねない程の冷気をその大口から放つ…
放たれた冷気はありとあらゆる生命の熱を奪い、凍らせ、砕く…
その冷気は森を一直線に吹き飛ばし削り取られた地表の跡を容易には砕けないであろう氷で埋め尽くしていた。
これで…もう……蘇らない…だろう……
その思考を最後に俺の意識は途絶えた。




