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第37話

「……良いの?」

「全く、言う事を聞かないんだから…でも、だからユウなんだね…」

 

 夜空を眺めながらそう呟く…

 その言葉に納得こそしない物の自分の役割をこなすべく大鎌を持つ手に力を込めるシエル…

 私もすぐに神経を研ぎ澄ませていく…

 

「オマエ ヤッカイ ドケ」

「どんな魔法(アーツ)を使ったんだ?気付かなかったぜ。」

「………」

 

 答える義理はないとばかりに無視を決め込むシエル…

 ちなみにシエルの魔法(アーツ)は瞬間移動…正直、無茶苦茶だと思う…

 本人はあまり魔法(アーツ)について話さないが恐らくいくつかの制約があるはずだ。

 

「逃げましたか…しかし、追い付けない訳でもなさそうです。2人はその人たちを足止めしておきなさい。恐らく相手は虫の息です。追いますよ。」

 

 ユウを追いかけにいく2名と1匹…

 本当なら全員ここで葬りたいが…そう簡単にはいきそうにない…

 ユウの言葉どうりにこの2人をユウが見えなくなるまで足止めするしかない。

 

「おい、あんた。あの幻創の霧(ヴィヴィアン)だろ?」

「それが何?」

 

 打って変わり言葉に怒りが混じる未知…それに少し驚いた顔で反応するシエル。

 シエルが知っているミチはいつも冷静に動くのだから…

 しかし、それも仕方のない事だろう…

 私とユウを別とうとする者…それが目の前に現れたのだから…

 理由がどうであれ私からユウを奪うものはこの世に存在してはならないのだから…

 

「あの男を人質にとればお前は…」

「黙りなさい…消すわよ?」

 

 その瞬間、男との距離を詰め最速の一閃を放つ…

 しかし、男は紙一重で回避する。

 そこには一切の魔法(アーツ)ははさまれていない…この世界で自分が手に入れた本当の実力…

 魔法(アーツ)を使うまでもない…この力のみでこの男は………消す。

 

「チッ…おっかねぇな…。これは本気で相手しねぇとヤバそうだ…」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりシエルとミチ団長は速いなぁ…」

「あの2人はずば抜けて強いッスからねぇ…少し自分が恥ずかしいッス。」

 

 そんな事を言いながら俺、カインは壊された門をくぐり抜け、先行した2人を追いかけていた。

 団員の全員はある程度戦える自負がある…

 だが、あの2人を見ると自分の弱さを感じる。

 

「そういうな、あれが異常なんだ。あれに敵う傭兵なんてそうそういない。少なくとも俺の知り合いにあれと渡り合える奴はいない。」

「私にもいないわよ。」

 

 どうやらカームさんとシルさんはもう諦めているようだ。

 まぁ、確かにあの規格外と自分を比べるのは間違っている。

 勝ち目が全く見えないからな…

 

「私はシエルさんがあの大鎌を軽々持って走ったり振るうのが未だに信じられません。」

「「シエルは強いよね~」」

 

 そんな事を言う双子もこの歳で俺達と同格…

 正直、俺たちの劇団の女性陣は異常過ぎると思う…

 もしこれがありふれて起こるのなら世界は終わる。

 

「カイン、諦めが肝心だ。」

「ボールスさんからそんなこと聞きたくないよ~」

 

 そんな調子で走っていると後ろから異常な雰囲気というか気配を感じる…

 その気配は人と言うより絶対強者の魔物が発する気配の様な物だった。

 よく偵察を務める俺がそれに一番早く気付いたようだ。

 徐々にみんなもその異常に気付いたようだ。

 

「何これ…街からなんでこんな気配が…」

「敵性ありか?できれば無い事を祈るが…」

 

 その時、街から疾走する何かを捉える…

 まさにその速さ…稲妻の如し―――

 すぐに俺たちの前を過ぎていく…

 

「はぁ…あんなバケモンみたいな奴が現れるとはな…あれなら団長とやりあえるじゃねぇか?」

「こんな話なんてするもんじゃないな…」

 

 そんな的外れな後悔の混じった声が夜の平野に空しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「出来るだけ奥に…」

 

 今、俺は森のかなり深くに来ていた。

 だが、俺の作戦上もっと人のいる場所から離れないと…

 逃げてくれとは言ったが出来るだけ離れたい。

 まぁ、もっとも作戦なんてものじゃないがこれは俺の人生にとって必要な通過儀礼である。

 

(本当にするの?)

「絶対にするよ…少し力を借りるだろうけど…そうじゃないと俺は迷ってしまうかもしれない。ゴメン」

(しょうがないなぁ~……大丈夫、私はいつもあなたの傍に居てあげる。あなたが壊れそうでも死のその瞬間まで…)

 

 あはは…心強いよ。冗談抜きで今、一番ステラが頼りになる…

 大体、俺とステラは一蓮托生だ。

 既に俺の命は俺だけのものじゃないのだったな…

 なら尚更こんな所で死ねない…

 

(そうだね。どうやら役者も揃いそうだし…)

「あぁ、始めようか最高の物語を…」

 

 狼を止めしばらくするとアンデットが出てきた。

 やはり、かなり近くまで接近されていたみたいだ。

 

「逃げるのは終わりですか?」

「あぁ、終わりだよ…」

 

 まずは、戦いの舞台を整えないとね。

 それ相応のものじゃないとだけど俺にはそこまで出来ない…

 だから少し雑になるかもしれないけど…

 

失楽園(パラダイスロスト)

 

 呼び出したのは煉獄魔人(イフリート)…もちろんこんな所で使えば…

 周りに燃え移るだろう…だがまだ足りない…

 

「燃やせ!煉獄魔人(イフリート)!」

 

 煉獄魔人(イフリート)は俺の意図を察したのか炎を凝縮させていく…

 その炎を天高く打ち上げる。

 すると大爆発を起こし辺り一帯に無差別に炎が降り注ぐ…

 

「正気ですか!?」

 

 屍使いにさっきまでの余裕はもうない…

 森は既に燃え盛っている。

 簡単に逃げ出す事はできないだろう…

 俺はコイツを殺す…確実に!

 殺しに対する迷いなんて頭で決着はつかなかった…だから先に実際に実行することにした。

 頭で割り切る事ができないなら、無理やり取り返しのつかないところまで踏み込ませればいい。

 

(頼む…ステラ…)

(怒りと喜び以外だったよね…分かったわ。)

 

 スッーと様々な悩み苦悩、不安…あらゆるものが身体から抜けていくのを感じる。

 そして残ったのは、ありとあらゆるものに対する怒りと今から力を思う存分振るえる喜び…

 

「正解だよ…正気じゃないぜ!」

「っ!?」

 

 湧きあがる力…今までで一番絶好調だ!

 アンデットどもは燃え始めているしナイフの男は息が切れている。

 熊に関してもそう苦労はしないだろう。

 そう理解した俺は煉獄魔人を戻す。

 

「お前らは全員、俺が殺す!失楽園(パラダイスロスト)―――憑依(エンブレイス) 神葬霊剣(バチカル)

 

 相手はダグラスじゃない…忌むべき敵だ。

 手加減はいらない…

 流れ込む魔力と憑依(エンブレイス)で強化された身体はナイフの男との間合いを刹那の内に埋めた。

 今までの経験がそうさせたのか男は瞬時に姿勢を低くする…

 それにより俺の片手剣による斬撃は空を斬る。

 しかし神葬霊剣(バチカル)は姿を小回りが利く小太刀に変える。

 

「なっ!?」

 

 そこから繰り出された小太刀の一撃をナイフで受けるが…

 予想外の俺の強化された俺の膂力にのけぞる。

 そこから蹴りにつなげ軽く吹き飛ばす。

 

 それにあわせ後ろから何かの気配がする…

 振り返りざまに小太刀を振るう…そして振るわれている途中でハルバードに姿を変える神葬霊剣(バチカル)

 どうやら気配は獣のアンデットだったようだ。

 しかし、既に死体は原形を留めていなかった。

 

「ならこれで!」

 

 そんな屍使いの声が聞こえてくる…

 するとミノタウロスアンデットの拳が迫ってくるのが分かった。

 しかし、そんな攻撃…今じゃ止まって見える。

 

「地獄に帰れ!」

 

 瞬時に拳の軌道から外れて人ならざる身体能力に物を言わせミノタウロスアンデットの頭に大剣を振り下ろす。

 当然、アンデットにその攻撃を防ぐほどの皮膚は無く…

 既に腐り燃えボロボロな肉を裂き…骨を砕かれたミノタウロスアンデットは真っ二つに分かたれ地に倒れる。

 

「おいおい!この程度かぁ?相手にならねぇよ!」

「舐め…るな…」

 

 その時、ナイフが飛んでくる…

 だが、既に形を片手剣に変えている神葬霊剣(バチカル)で容易く弾く…

 その時、熊が俺に一撃でも届かせようと剣が振るわれた瞬間に飛ぶかのように地を蹴り接近してくる。

 しかし、その攻撃すらも強化を受けた身体は簡単に躱す…

 

 そして形を変える神葬霊剣(バチカル)

 今度は近距離で簡単に扱う事が可能なナイフに変わった。

 そしてナイフの刃はいとも容易く熊を斬り裂く…

 

「グルゥゥ…!」

 

 まともな言葉さえでず本能的に動物のような呻き声を出す熊。

 だがやはりナイフには変わりなくこれだけでは決定打にはならない。

 すぐに俺の間合いから逃げる熊…

 

「興ざめだなぁ!お前らの終幕(エンディング)はこんなつまらない物なのか?」

 

 そこにもとのユウの姿は跡形もなかった…

 警備兵や憲兵が見れば間違いなく屍使いではなくユウを捕まえようとするだろう。

 襲われていた本人がこんなにも狂気に包まれた笑みを浮かべ嬉々として相手を殺そうとしているのだから

 

 

 

 そして見られるはずが無いこの様子を隠れて見ている者が一人だけ居た…

 シエルである。

 シエルは一瞬で敵を殺すと森の中に入ってユウを探していた。

 もしユウに何かあれば一応の恩人であるミチが悲しむと考えの行動だった。

 

「これはどういう事…?」

 

 シエルの頭は混乱を極めていた。

 突然、森に炎が降り注ぎ…

 助けようと思っていた相手がこれなのだから…

 

 私から見たユウと言う人物はそこまで強いと言う印象は無かった。

 それは実力的な意味も指すのだが精神的な意味でも弱そうだった。

 あれは虫も殺さないような人間で臆病…そして、どこか自分と似た雰囲気がある男…

 

 だが、あれは何だ?

 あの武器なんて何が何だか分からない…

 剣など持ち歩いていなかったはずだし剣士と言う訳でもなさそうだった。

 しかし、あの変幻自在の武器を持ち…まるで歴戦の勇士とでも言わんばかりの戦いぶり…

 

 そして、あの豹変ぶり…

 色々な汚い人間や突然、裏切ったり豹変する者…

 様々な者を知っている…だが…あれは、別次元だ。

 本性を隠していたのか?いや…違う人だと言う方がまだ信じられる…

 

「もう少し様子を見るべき…?だけど…あの様子は……」

 

 その時、シエルはこの状況にある不安を抱いていた。

 もし、あの教会の男たちが勝手に死ぬ事が一番丸く収まるだろう…

 しかし、このままだと…

 

 

 

「ふ、ふ……ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 その時、シエルの嫌な予感が的中する。

 突然、屍使いを中心に膨大な魔力が竜巻のように渦巻きだす。

 

「こうでなくちゃな!誰しも終幕(エンディング)は劇的じゃなけりゃならねぇからな!!!」

 

 

 

「やっぱり…」

 

 それを見ていたシエルはこの現象を知っていた。

 絶魔化(マギカタイラント)

 不服を抱き者による世界への反旗…とも呼ばれるそれは魔力保有量が多い者が死の瀬戸際で抱く不服が稀に引き金となって起こる現象…

 

 自我は崩壊し内に秘めた破壊衝動のみに従い暴虐の限りを尽くす。

 その者は魔力的進化を遂げ、周囲のありとあらゆる生命からその命を吸い取り続ける。

 そして命を燃やし魔力に変換し、その魔力で魔法(アーツ)が猛威を振るう…

 

 対処法は少数先鋭で短期決戦に持ち込むか命の無い場所に放置するか…などの現実味のない方法。

 しかも、一度標的にされたら逃げる事は出来ない…

 地の果てまで追いかけられる。

 

「あのユウ…標的にされてる…」

 

 もうユウを見捨てるか…援護に入るか…

 本当なら見捨てるが…

 これはユウという男を見極めるチャンスかもしれない…

 

 

 

「死いぃぃねえぇぇぇぇ!」

 

 突然、叫びをあげる屍使い…

 それに呼応するかの様に残りの2人が攻撃を仕掛けてくる。

 まず、ナイフが飛来してくるがそれを武器を握っていない片手で止める…

 そして、それを熊の目を狙い投擲する。

 

「ガアァァァァ!」

 

 いくら強靭な熊と言えど目に防御力はない。

 そして放たれたナイフは尋常じゃない膂力で放たれたのだ…

 深く目をナイフで穿たれた熊は断末魔の叫びをあげてもがく…

 そして神葬霊剣は槍へと姿を変える。

 

「お前はもういい。終われ」

 

 そう呟き刹那に間合いに入る。

 そして心臓のあるであろう場所に突きを放つ。

 当然、今の熊に防ぐすべはなく静かに槍は心臓を貫く…

 

 人生で初めて自分の意思で自分の手で人を殺した。

 まだ子どもだったと言うのにも関わらず目を穿たれ心臓を貫かれ死んだのだ。

 姿は熊だし自分とは違う種族だった。

 だが俺は子どもと知っていながら殺した。

 

 なのにもかかわらず俺の心に湧きあがるのは罪悪感でもなく、恐怖でもなく…

 ―――心地よい達成感だった。

 

「クソっ!死ねバケモノ!」

 

 このナイフの男にも既に最初の余裕は消えていた。

 仲間を失ったことに対する悲しみか俺に対する憎しみかその男の目には涙が流れている。

 そして男の横にあった樹が突然、宙に浮き上がる。

 その樹は俺めがけ飛んでくる。

 

「いいぜ!人ってのはそうやって散らねぇとなっ!」

 

 しかしハルバードに姿を変えた神葬霊剣(バチカル)が渾身の力で振るわれる…

 その一撃は樹を吹き飛ばす。

 男の最後の一撃は届かなかったのだ。

 

「じゃあ、俺に手を出した事を悔いながら死ね!」

 

 ハルバードは既に倒れている男が無抵抗にも関わらずハルバードは男の頭を吹き飛ばした。

 ユウは子どもと無抵抗な男を殺したにも関わらず狂気を孕んだ笑みを未だ残していた。

 そう一切の恐怖、罪悪感はない。

 あるのは、怨敵を殺せたと言う達成感のみ。

 

「最後はお前だ。精々華々しく散れ!」

 

 再び、俺は魔力渦巻く屍使いに意識を向ける。

 既に片手剣に変えた神葬霊剣(バチカル)を手に俺は男へと歩を進めた。

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