第35話
「みんな!武器をとりなさい!」
「「「「「了解!」」」」」
この世界では何時、何処でいつ殺されるか分からない。
だから武器を常時持ち歩いているのは劇団でも当然の事。
呼び声に応じて全員が武器を構える…
「明らかに異常事態よ。周囲を警戒しつつアンデットを殲滅。」
周囲に指示を出しつつ私はこのアンデットに対して考察を始める。
といっても既にほとんど答えは出ていた。
最近、コイツらを呼び出す魔法と遭遇しているのだから…
そう、ユウを狙ったあのローブ…
しかも、ここに来た時にユウが帰ったと言っていた。
このアンデット達も私たちではなく町の外に向かっている。
「目的はユウ……?」
「………倒したよ。」
シエルが自分の武器である身の丈を超える大鎌を持ち小さく呟く…
なんたってシエルは劇団の中では私と並ぶ強さを持つ。
そうなればアンデットを倒すくらい訳ない。
「ユウさんですか?」
「そうみたい。恐らく今は街の外に逃げているのでしょうね。」
このアンデットが向かっていたのは街の外…
足の遅いアンデット…もしくはコントロールしきれないアンデットがここに残っていたのだろう。
すると門の方向にある酒造で火の手が上がる…
「追いかけますか?」
「えぇ、早く助けないと…」
多分、これはユウの作戦だったのだろう。
相手をおびき寄せる作戦…
そうじゃなければ利口なユウがこんな危ないシュチュエ―ションをユウが作るはずがない。
作戦通りならば確かにユウが勝つだろう。
だが教会側がユウの為に一人しか使わないなんておかしい
あれほどの能力、異質さ…喉から手が出るほど欲しいだろう…
ユウには戦闘経験が無い…ユウを悪く言うつもりはないが、場数を踏んでいない素人はどこかで決定的なヘマをする。
現実は、何もかも思っている通りに進む訳ではないのだから…
「早いに越した事はない…急がないと…」
「ったく!しつこいな!」
(体力が無いからねアンデットは…最初っから最後まで全力だよ?)
嫌な事を聞いた…確かにスタミナって概念がアンデットにはなさそうだ…
後ろのもの凄いスピードで迫る様々なアンデット達を見れば一目で理解できる。
防御力は無いに等しい…しかし、命が無いゆえに死なない。
だが腐った身体など…いくらでも動けないように出来る。
「失楽園」
呼び出すのは鬼火…大した攻撃力もなければ防御力もない。
街にはあまり被害は出したくなかったが…このままでは追いつかれかねない。
「燃えろ!」
(あっ、これは拙いかも…)
ん?どうしたんだろうか?
そう言えば…何か臭うな…アルコール臭の様な…
ってまさか…
(さっき酒造らしき建物を過ぎたんだけど…気のせいだよね?……)
(きっと気のせいだ…)
あれれ?おかしいな…
鬼火の着弾で起こった爆発はアンデットを燃やし吹き飛ばす。
なんだろう。
燃えるアンデットがなにやら酒造っぽい建物に飛んでいくような…
「って…やっちまった!」
(これってやっぱり…)
次の瞬間…酒造が轟音をたてて爆発を起こす。
その爆発の炎はアンデットだけでなく他の建物にも猛威を振るう。
確かにこれであの男を足止めしてくれるとは思うが…
(これは流石にやりすぎちゃったね…)
「どうしよこれ…」
(もうバレないようにするしかないよ…)
うん、悪いのはこの男たちだ。
すまん、どこの誰か分からない人…俺の代わりに罪を被ってくれ
「取り敢えず、今のうちにこの街から脱出しないと…」
(だね…そうじゃないと疑われるもんね…)
目撃者はあの男だけだからな…
他の目撃者ができるまえに逃げないとね…
しかし、そこでステラとは違う声が頭に響く
(すいません。おかしな者が先ほどからつけてきているようですので報告に…)
「目撃者が…!?」
(どうするの!?目撃者が増えちゃったよ!これじゃあ犯人ってバレるよ!?)
「それだけは避けねば…」
犯人とバレればティアに迷惑が…
早急に処理しなければ…しかし、戻ればあの男に…
どうするべきか…
(あの…多分、教会関係の者だと思うので気にしなくても大丈夫かと…)
「おぉ、そうか!これで捕まらずに済みそうだ!ありがとう飛鳥!」
(さすが、飛鳥だね!)
(あの…それほど褒められる事でしょうか…?)
流石は飛鳥だ…謙虚さまでも兼ね備えているとは…
まぁ、冗談はこのくらいにして…
数が増えたのか…ただの観察だけに向けられたのならいいが
まず、戦闘員で間違いないだろう。
(だろうね…どうする?)
「やるだけやるしかないだろう…」
アンデットならまだやりようはあるんだけど
他の追手についての情報がない…
取り敢えず街のすぐ傍の森に逃げ込もうか…
「取り敢えず何人いるの?」
(現在はあの男を含め5人です。)
普通なら許容範囲内だが…アンデットを使われれば敵は増える一方…
一か八か…あれで行くしか…
(その方法はあまりオススメしません。)
(私も…それはあまり良くないと思う。)
取り敢えずはこの街からでないとダメな事に変わりはない。
そうじゃなければさっきの爆発が可愛く思えるような事になる。
それは避けたいところだ。
「取り敢えず、飛鳥はそのまま敵を観察してくれ」
(分かりました。)
(それで…やるの…?)
「多分…ね。その時は、怒りと喜び以外で頼む。」
躊躇いは身を滅ぼす。
絶対にあの害はいづれ身の回りの安寧を脅かす病原菌の様な物。
元から絶たないとダメ…
そう思えば、安全装置を代償に力を得られるこの契約は俺にとって都合の良い物だった。
(分かってはいるだろうけど…)
(溺れちゃダメって事?普通、悪魔は唆すのが役割じゃないの?)
(そんなのは…見ていられないから…)
随分と優しい悪魔と契約したものだ…
俺の事を慮って心配してくれているのかステラの声はどこか悲しみを帯びたものになっていた。
まぁ、様々な物語でも分不相応な力に溺れた者たちは…
決まって身を滅ぼす。
行くも滅び、退くも停滞も滅び…
随分と愉快な状況になっていたようだ…
どうせなら進んでどうにかするしかない。
「ってか…この先の門ってどうやって突破しよう。」
(顔見られますね…)
(あの騒ぎの後だもんね…どうするの?)
本当ならばそのまま追いかけられていると言って通させてもらうつもりだったが…
門は閉じられているだろうしな…
だが、門を閉じながらも詰め所からなら通れるはず…
あくまで魔物たちが通れないようにするための門…
夜に出入りする為には門を開けねばならない…そんな面倒な仕組みじゃないはず
しかし、こんな時代…戦争や間者を警戒してかなり厳重に見張られているはず…
「仕方ないか…失楽園」
霧を纏ったリスが肩に現れる…
名前はミスト…周囲に霧を生み出し人を惑わす…
これで詰め所の兵を全員、霧で惑わして門を突破するしかない。
だがこれをすると…
(見えにくいか?)
(少し見えにくいそうです。)
代わりに飛鳥が答えるのだが…
やはりみんなにも悪影響があったか…
惑わされる事はなくとも視界が悪くなるからな
(これであなたのお姉さんと同じ事ができるね!)
(多分、幻術みたいにうまくはいかないと思うけど…)
これは少し気を張り巡らせれば解ける程度のもの
戦闘のような緊張状態だと効かない…
戦闘にはほとんど使えない。
ただ、掛かった相手はぼんやりとしたり相手を誰か見分ける事ができなくなったりする。
まぁ、俺の事は特に知られていないから大丈夫だろう。
知られているとバレるかもしれないくらい曖昧なものだから。
「かなり広範囲だから門もすでに覆われているはず」
(敵に影響が出てればいいですね。)
(飛鳥は空から見えてるの?)
確かに俺もそれは疑問だが…
多分、見えてると思うんだよな…
(見えますよ?こういう魔法じみた物では私の目を誤魔化す事はできません。)
それは凄いな…
だけどそう言う事はもしかして…
「ってことは姉ちゃんの幻術も効かないって事?」
(そうですね。効きませんよ。)
あぁ、姉ちゃんの攻略法が意外な方法で見つかった…
姉ちゃんは幻術無しでも強いから勝てるか分からないけどね。
まず、戦うことにはならないだろうから大丈夫だろうけど。
「そろそろ門に着く…取り敢えず戻ってくれ。」
取り敢えず狼に戻ってもらう。
普通サイズの狼ならまだしも規格外の大きさだからな…
多分、詰め所には入れないだろうしね。
この距離なら走っても追いつかれないだろう…
(ついてこれない…その可能性は?)
(多分ないよ。だろ?飛鳥)
(はい。相手の追跡はまだ的確に行われています。)
やっぱりここで俺を捕まえる気だろう。
ティアの庇護下ではなかなか手を出せないからな…
逃げられる可能性も踏まえて追跡の手段があるのだろう。
おっと、詰め所が見えてきた…
ここからは注意しないとな相手に何か刺激があるとすぐに正気に戻る。
詰め所の中に入ると挙動不審な兵士たちがいた。
すぐ傍にいた兵に聞くとしよう。
「外に繋がる扉はどこですか?」
「んぅ…詰め所の奥にある鍵の掛かった扉だ。」
まるで起きながら寝言を呟くかのような調子で俺の質問に答える兵士
ばっちり惑わしの霧に掛かっているようだな…
ミストを呼ぶのは初めてだったから不安だったがこれならこれからも期待だな
「鍵はどこ?」
「……これだ。」
おっと、運がいい。
コイツが持っていたとはな。
「少しお借りしますね?」
「分かった………」
普通なら絶対、渡すはずがないが霧のおかげで思考能力が著しく低下している。
それほど苦戦しなかったな。
しかし、集中しなければ何が起こるか分からない。
(ユウ様、急速にこちらに向かっている者が二名。)
(チッ、教会め…増援を出したか…)
(いえ、違うかと…)
どういう事だ?
俺はてっきりあの爆発と霧で増援をとっさに出したのかと思ったのだが…
現に今、俺自身が明確に敵対しているのは聖教会のみ…
(まず、2人組は他の教会の追手より早いこととローブで姿を隠していません。)
(確かに…教会の者ならローブで姿を隠すはず…)
(あと2人組の武器は薙刀と大鎌です。)
あっ、それは確かに教会の追手じゃない…
恐らく姉ちゃんと誰かだ。
村の鍛冶屋や街でも薙刀は見ていない…
そんな武器を使うのは姉ちゃんくらいだろう。
教会の奴らより速いことからも姉ちゃんの可能性が高い…
しかし、もう一人は?
一瞬、ティアかとも思ったが恐らく違う…
ティアは大鎌なんて使わないはず…
だが、今日俺はどこかで大鎌を見た事があるような…
(そうだ!カインたちと昼食をとった時、後ろに武器が置いてあった。その時に見たんだ!)
(と言う事はユウ様のお姉さんとその仲間という事ですか?)
にしても俺が追いかけられてるって分かって動いているのか?
だとすればどうやってこっちが追いかけられてるって分かったんだろう…
まぁ、いっか…
(だけど流石に追いつかないだろ?)
(分かりません。しかし、増援は無いと思って動いた方が良いかと…)
確かに飛鳥の言うとおりだ。
あったらいいな程度に考えるとしよう。
それより、どうやって敵を倒すか…それに集中するとしよう。
2016/7/17から2016/7/23まで12時に連続で投稿を行います。
すいませんが、更新ペースを分かりやすくする為、2016/7/23から更新を毎週土曜12時に変更させていただきます。
何卒、ご理解の程よろしくお願いします。




