第31話
「えっ……ユ…ウ………?」
「そうだよ、姉ちゃん………」
そんな訳ない!
私があの世界に唯一忘れてしまった…一番大切な存在…
違う世界という絶対に取り返しのつかない場所に忘れてしまったはずの存在。
何度、悠を失った事を悔いただろうか…
幾度として訪れる悠のいない昼夜を迎えた。
そのたびに込み上げる空しさと悲しみは何度も心に雨を降らせた。
私が幾千幾万回と天に祈った事か…
まさに藁にも縋る思いだった…けれどそんなのは届くはずが無い。
けれど、世界を超える方法なんて何度探そうとほんのわずかな手掛かりすら手に入っていない。
それが幾度も続けば祈りたくもなる。
「嘘でしょ…夢でも見てるの…?」
「多分、現実だよ?」
もし…現実だと言うならば…
元のあの世界の事も知っているはず。
「あなたの故郷の名前は?」
「地球だよ。」
確かに、この世界に地球なんて知っている者はいない…
だとすれば…もし悠ならば…
「私があなたに言った最初の言葉は?」
「“これからは私があなたの家族よ”だったよね。」
一字一句間違っていない…
あの時、私のこの言葉を聞いていたのは悠だけ…
今でもあの時の事は正確に覚えている。
悠も覚えてくれていたのだろうか?
「あなたの名前は?」
「神崎 悠もしくは柊 悠だよ。」
嗚呼、改名前の名前を先に出す悠…
あの悠のよくわからない意地を張る所と完全に一緒だ。
「最後に一緒にお風呂に入らなくなったのは?」
「…14歳の時……」
確かに…正しい……
それどころか…恥じらう姿までも一緒だなんて…
もしこれがただの変装だとすれば私は諸手を挙げて称賛しよう。
私が一時、自分の記憶を頼りに作った悠の幻でも完全に再現する事ができなかった…
だがこの悠は…表情の隅から隅に至るまで完全に一緒…
私が作りだした幻にはどうにも憶測や希望が混ざってしまったと言うのに…
けれど、いくら良く出来た幻とはいえど所詮は幻…
身体には実体が無い…その悠に触れれば幻かどうかなどは容易に分かる。
もし、幻でなく…悠以外の別の何かだとしても…私が身体に触れて悠と間違えるはずが無い。
これだけは絶対…それを誤魔化す事は不可能!
例え、それが如何なる魔法や神の起こす奇跡だろうと私を誤魔化す事は出来ない。
これは私が一番信頼している感覚だ。
すぐさま悠の身体を調べる…
もし、偽物ならば私にとって何よりも大切な人である悠になり済まし…私を欺こうとした罪…
その罪の深さ…そして重さを身体に刻み込み二度と帰らぬように…
しかし…私は…
あの悠との違いを…遂に…見つける事は出来なかった…
それの意味するところは明白だった。
「悠…現実なんだ…」
「うん、現実だよ…」
これは夢や幻…偽物でも無い…
嘘偽りの無い現実…
本物の悠が…私に逢いに来てくれたのだ!
かつて、これほどに歓喜に胸躍った事があるだろうか?
否!失ってしまったかもしれない…もう二度と取り戻す事の出来ないかもしれない場所に忘れてしまった悠との再会を喜ばずして何を喜ぼうか!
力一杯、目の前に立つ悠を抱きしめる。
この喜びは存在する語彙では表現ができない…
力の限り悠を抱きしめるしか私にはこの喜びを表現できなかった。
「ユウ…私にも説明してほしいのですが…」
「ゴメン…嬉しすぎて…」
ん……?この女は誰だ?
そう言えば…ここに来たのは貴族という話だったはず…
確か…名前は……
そうだ、ティア・シンフィールドとか言う小娘だったか…
なんでこの小娘が私の悠と一緒にここに居るの?
悠がこの女に頼んでここまで来たのだろうけれど…
落ち目とは言えど貴族…
そう簡単に会うことも出来なければものを頼むなんて出来るはずが無い…
「実はこの人は俺の姉ちゃんなんだ。義理だから血の繋がりこそ無いけどね…」
そして何より…どこか親しげなのだ!
確か私は悠には…
“女って言うのはおっかない生き物だから会う時にはまず私に相談しなさい”
そう何度も言い聞かせたはず…
「血なんて関係ないわ。私がユウの一番の家族なんだから!」
まだ、悠を狙う輩と決まった訳ではない…
だが!取りあえずは牽制しておくべきだろう。
この小娘も女…何か間違いがあってはいけないのだから。
「義理ですか…それより最後のお風呂についてはどういう事ですか?」
本当ならずっと入っていても良かったのだが…
ちなみにだが、悠に不要な事を吹き込んだクラスメイトとやらには少し痛い目にあってもらった。
この女も同じ事を言うのか…
「何が気になるの?姉弟が一緒にお風呂に入る事の何がおかしいの?」
好きな人とお風呂に入る事の何処がおかしいのだろうか?
それに家族とお風呂に入るのは当然…
ちなみに父とは入るつもりは無い。
「年齢ですよ。14歳まで異性とお風呂に入るなんて姉でもおかしいです。」
この女もそう言うのか…
やはりこの女は敵だ…
「あなたが原因ですか…」
「原因とは心外だわ。私はユウが好きなだけで何も悪くないわ。好きな者同士が…ましてや姉が弟が入ることのどこにおかしな点があるの?」
当然の摂理なのだ。
なんなら今からでもユウと同じ湯船に浸かる事も吝かではない。
いや訂正する。むしろ推奨しよう。
そう言えば悠はこの世界に来て何処で生活しているのだろうか?
悠には色々と家事の仕方などは教えていたが…
家なんてそうそう手に入らない…
そんな考えが頭をよぎった時…
不意に悠と親しげに振る舞うティア・シンフィールドの姿を思い出す…
次に浮かんだのはティア・シンフィールドと楽しげに生活する悠の姿。
「そう言えば、ユウ…あなた何処で寝泊まりしてるの?」
私の目は悠のうろたえる姿を確かにとらえた。
これは間違い無い…悠は何か後ろめたい事がある…
その時、傍に居たティア・シンフィールドが口を開く。
「私の屋敷で何不自由なく過ごしていますよ。」
…もし、悠が今この場にいなければこの女を消していたかもしれない。
それに悠にもしっかりと言ったはず…
私は悠にも女に近寄らないように言い聞かせたはずなのに…
「ユウ?女は危ない、おっかないとあれほど言ったわよね?それに外泊なんてもってのほかだって…」
「いや、だけど他に寝床が無かったし、保護してくれるって…」
甘いわ…
確かに悠はシンフィールド家に向かうべきだと言うのは確かだが…
何処にティア・シンフィールドの事が安全だと言う保証がある…
簡単に気を許したのが悠の間違い。
「何か問題があるのでしょうか?」
「大ありよ!ユウの身に何かあったらどうしてくれるの?」
悠の貞操も確かだが、相手は貴族…何を考えているのか全く分からない…
選民意識に染め上げられた違う土地、違う世代に生まれた者の事を理解しようと思えばよく観察しなければならない。
……しかし何故、この女さっきから黙っている?悠も視線を合わそうとしない…
もしかして…!
「まさか既に何か危険な事に…」
「私が責任を持って守ります。」
つまり…既に守らなければならないような事になっていると…
ますますこの女には悠からいち早く離れて貰わねばならないようね。
「貴族の言葉なんて信用できないわ。特に今のあなたは厄介な立場のはず。」
恐らく他の貴族に疎ましく思われているのだろう…
となれば他の貴族からの差し金があるだろう。
そんな危険な事に悠を巻き込まれては困る。
「ユウ…これからは私の所に来なさい。」
「いえ、ユウは私が保護します。」
「そんなことすればいつユウが襲われるか心配で寝られなくなるわ。家族である私が引き取るのが妥当じゃない?」
「一緒にお風呂に入るような姉なんて危ない者の所にユウを送る訳にはいきません。私が保護します。」
きっと悠は私と来てくれる!
悠が来ればもっと楽しくなる!劇団の彼らとなら悠も仲良くなれるはず…
前と同じ…いや、以前よりもっと良くなる!
しかし、悠の口から出たのは…
「ね、姉ちゃん…その、ティアには数多くの恩があるし…一応、仕えてる身だから…」
事実上の拒否だった。
通常ならありえるはずの無い、耳に届くはずの無い拒否に私の心を激しく揺らされる。
動悸が激しくなり眩暈までし始める始末…
「そんな…」
本当なら湧きあがる疑問を口にしたかった…
だが、念願の再会からの喜びがあったからこそ、その拒否が深く心に突き刺さった。
それ故に絶望にも似た呟きのみしか発する事が出来なかった。
耳には誰の声も届かなくなり気付けば悠はもう部屋から姿を消していた。
きっとあの女だ……
悠は“恩”“仕えている”などの言葉を口にしていた。
もしや…悠は無理やり、もしくはやむ終えぬ理由があって仕方なくあの女の元にいるんじゃ…
いや、絶対にそうだ…
そうでもなければ悠がついてくるのを拒むはずが無い!
「私は分かってるよユウ…すぐ会いに行くから…」
その時、部屋の扉をゆっくりと開く音が聞こえる…
まさに、これより始まる戦いに備え様々な感覚が研ぎ澄まされているかの様により扉の開かれる音どころ微かな足音までも鮮明に聞こえる。
「あの……さっき…あの御二人が足早に出て行きましたが……あの、大丈夫ですか…?」
扉を開いた本人であるカインがこちらを心配そうに見ている。
しかし、今はカインとゆっくり話している時間は無い。
今は少しの時間も惜しい。
「早く…ユウを取り戻さないと…」
確か、シンフィールド家が保有している屋敷が在ったはず…
となれば、十中八九…その屋敷に帰るだろう。
悠を取り戻すならば…そこに向かうべき…
ゆっくりと歩きつつ客間を出る…
不思議そうな顔をしてこちらを見るカイン。
「あの…本当に大丈夫ですか?何ならちょっと休憩でもして…」
「行かないと…」
そのまま私はカインの言葉に耳を貸さず劇場を出て敵であるあの女の屋敷へと向かった。
今、私が居るのはシンフィールド家の屋敷の敷地内…
ここから食事を行う悠の一向が見える…
姿だけでなく、話し合う声も聞こえてくる。
どうやら魔法についての話のようだ…私の魔法の条件もある。
少し聞かせてもらうとしましょうか…
「そう言えば言っていませんでしたか…私の魔法は時間への干渉です。」
………厄介ね…元より簡単に行くとは思っていなかったけれど…
しかし、あの女に勝つ必要は無い…
私の目的は一つ…
あの女より悠を奪還する事。
「今出来るのは“自分の時間を進める(フェレス)”と“対象の時間を限りなく遅くする(ディレイ)”ですね。」
となると…
やはりタイミングが重要…
私の魔法は幻を作りだしたり都合の良い幻覚を見せる事。
あの女に幻覚を見せれればここを抜け出すのは容易だ。
だが、対象の魔力保有量が多いと干渉しづらいのだ…
あの女には干渉しづらいところを見ると多くの魔力があるのだろう…
となるともっと長い時間視界内に居てもらわねばならない。
「しかし、魔力の消費が激しく効果時間が短いのが難点ですね。」
よく言う…
そんな弱点は強力な魔法ならばよくある事…それどころかもっと何か不都合があって然るべきだろう。
それよりも意外なのは…あの女以外にももう一人、干渉がしづらい人物が居るのだ。
いや、あの女以上に干渉しづらい人物…
…悠だ。
あの女より干渉しづらいのだ…
しかし、どうしてだろうか…
何かの法具で耐性でもついているのだろうか…
悠に魔力は無いはず…
まぁ、今はいい…
後々、悠と2人でじっくりと話をすればいいだけの話。
早く悠を連れ帰り沢山の話を…
夜、寝静まったころに奪還するもいいが…
それではじっくりと話が出来ない。
そろそろ仕掛けるとしよう。
策が失敗したとしてもあの女の実力を測るいい機会にもなる…
幻でそこらじゅうを歩く兵士に姿を変える。
既に兵士たちは幻覚で掌握済みだ。
幻は自分の事しか対象に出来ないが相手に求める条件が無い。
変装や隠密には持ってこいの魔法である事は間違いない。
しかし、悠を連れようとすればあの女にバレるかもしれない。
となれば、まずはあの女を欺かねば…
「て、敵襲!敵の位置は不明!門番が門の付近で気絶していました!」
あたかもシンフィールド家の兵士が報告しに来たかのように談笑している悠の一向のいる部屋に入る。
本当なら声で私とバレただろうが…
私はいくつか法具を持っている。
その中の一つである一定の時間自分の声を変える物を使った為、誰一人として私を兵士と信じて疑わない。
まさか自慢の兵士たちが敵襲に気付く事無くしてやられているなどとは夢にも思わないだろう。
「ユウ、敵の捜索をお願いします。」
「分かった。失楽園」
悠がそう呟いた時…窓辺に魔法陣が現れそこから烏の様な生き物が現れた。
一体、どう言うことだろうか…悠はこの世界の人間じゃない…
あちらの元の世界の人間に魔法があるはずが…ましてや魔力なんて…
もしや…干渉しづらいのは耐性のおかげではなく…
多くの魔力を保持しているから?
となると悠は私と同種だったのだろうか?
いや…あとで聞きましょうか…
悠の魔法は使い魔を呼び出すような類の物と見て間違いないだろう。
あの烏の様な生き物に私の魔法を破り警告するのは不可能だろう。
そして、あの烏はこちらを見てすらいない。
あの烏は取り敢えず放置でいいだろう。
外を見ても敵は一切いない。
所詮、使い魔といっても動物…人とのコミュニケーションはとれないだろう。
問題があるとすればここに居るメンバーの誰かが外を見た場合だ。
外では普段通りの位置に兵士たちが居る。
つまり、敵襲など起きていないとバレる…となれば私の存在は怪しくなるのだが…
それまでにこの3人に幻覚を見せればいい…
そう…思っていたのだが…
私はこの3人を侮っていたようだ…
正確にはティア・シンフィールドと言う女を…
悠に関しては少し幻覚を見せればいい…
だからそれほど強い幻術を掛ける必要は無い。
ダグラスと呼ばれる男に関しては2人程手こずることは無かった。
だがあの女に関しては完全に掛かるとは言い難い…
今のかかり具合だと精々、ちょっとした視覚への干渉だけ…
一般的にはこれだけでも充分だが…
嫌な予感がするのだ。
もっと万全の態勢で戦いを迎えたいのだが…
急ぐあまり穴だらけの策になっていたようだ。
2人は私が敵と気付いたようだ。
しかも、あの女…幻の刃が迫ろうと一切反応しなかった。
幻術士との戦いでは役に立たないなどと言っていたが…
あそこまでスッパリ目を閉じたままで何故戦えるとは…
やはり、あの二つ名は伊達じゃない訳ね…
それでももっとしっかりと幻術を掛けれていればもっと策はあったのだが…
しかも、手加減しないと言いながらも殺しに来ていない…
悠に嫌われたくないと言ったところか…
まぁ、私も仲間同士で戦わせていないのは悠に嫌われたり怖がられるのが怖いからなのだが…
「しぶといわね…」
「それは貴女もでしょう。」
「姉ですから。」
悠が居ない世界などもう耐えられそうにない…
もう手の届かないところに忘れてしまったと心のどこかで諦めていたのかもしれない。
それにこちらの世界では確かに私のあの異常は何も起こさない。
けれどあの元の世界での悠との時間…
最初は悠があの変な力の影響を受けなかったから悠を溺愛していた。
要するに、悠に縋っていたのだ。
けれど今は違う。
どれだけ絶望的な状況に居ても悠さえいればそこは楽園…
けれど悠が居ない世界なんて…
ましてや、なんとか耐えていたと言うのにそこに希望があると言われれば我慢が聞くはずが無い。
「貴女みたいな姉は他には居ないでしょう。」
「最高級の賛辞をありがとう。」
悠の姉である事は私にとってこれ以上ない誇りだ。
どんな勲章も私が悠の姉であると言う誇りに比べれば塵芥同然に霞む。
「いいえ、せめてもの餞だと思ってください。」
「ユウを返してもらってからその言葉は受け取るとしましょう。」
言葉を交わしながらも攻勢を緩めるつもりは無い。
少しでも多く言葉を交わし相手の隙が出来るのを促す…
相手とて人間、完全な人間など存在しない。
いつか出来るかもしれない隙を窺う。
されど、自分の集中力をそれだけに割き自ら隙を晒さないようにしなければならない。
均衡した勝負になればなるほど集中力を摩耗する。
悠をいち早く連れて行きたいと逸る気持ちを抑え、いまやすっかり手に馴染んだ薙刀を振るう。
すると、おかしな気配に気づく…
「ん?」
「?今度は何の幻影ですか?丁寧に気配まで出して。」
それはどうやら悠とあの女も同じようだ。
突如、周囲に現れた歩く屍はどう見ても友好的な存在で無いのは確か…
ましてや悠たちも歩く屍に心当たりは無い様子。
あの女などは私の仕業と口にする始末…
となればコイツらは第三者…
嗚呼、腹立たしい…
身の程を弁えず現れた闖入者に用は無い。
少なくともあの女は悠に対し友好的な様子…
それに対し、この屍どもは違う。
「一時休戦よ。これは私じゃない…」
これ以上厄介が増えるのは面倒だ。
ここは強力してでもこの屍どもを駆逐するべきだろう。
魔法を全て解き、姿をだす。
「各自、アンデットを掃討しなさい!」
すかさず、あの女は幻覚から戻った兵士たちに指示を出し始める。
すぐに立て直し始めるあたりここの兵士はそれなりに鍛え上げられているのだろう。
しかし、相手はアンデット…物理的な攻撃は効果が薄い。
このアンデットは全て元人間なので遅いが力は強い…
被害は少なくて済むだろうが…掃討にかなりの時間を要する…
「鼻につく腐臭ね…アンデットは幻術が効かないしなかなか倒れないから嫌いだわ。」
「俺は得意だよ?こういうのは」
………?悠はどこか自信ありげな様子だ…まるで躊躇いが薄れているような…
慎重な悠にしては珍しい…何か策があるのだろうか?
しかし、悠に戦う力は…
「失楽園!」
その声が響くとともに魔法陣が現れ…
焔に包まれた…いや、焔で創られた魔人が魔法陣から現れる。
その魔人はアンデットに徒手空拳で戦い始める。
武器などその魔人には必要無かったのだ。
何故なら触れた全てを灰も残さず燃やしつくすのだから…
「凄い……」
「そう?」
思わず口をついたその言葉は紛う事無き本心だった。
少し知っているはずの悠と違う自慢げな様子に疑問を抱く間もなく…
ただただ目の前に広がる光景に圧倒されていた。
しばらく目を奪われていると悠と話す人影が見える…
あの恰好からして表通りを堂々と歩く事が出来ない人間である事は間違いない。
「残念だがエスコートはお断りさせてもらう。」
「手荒な事はしませんよ?むしろしっかりと歓迎させていただきます。」
………歓迎…?
「あなたも私からユウを奪うつもり?」
「おっと、あなたと面と向かって話をするのは嫌ですね…ここは帰らせていただきますか。」
私の魔法は既に知られている…?
確か、魔法を知っているのは…
まさか、教会関係者?
これは…少し考えないといけないかもしれない…
ティア・シンフィールドと争っている場合ではないかもしれない…
そんな考えを胸にティア・シンフィールドの元に向かった。