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第30話

 月明かりに照らされている中…

 闇夜の静寂で剣戟の響きだけが鳴り響いていた。

 しかし、剣を振るう影は一つだけだった。

 

「しぶといわね…」

「それは貴女もでしょう。」

 

 姉ちゃんは効果がないのを悟りフェイントの幻影を使うのを止めて姿を隠すだけにしたようだ。

 

 俺から見ればティアが一人で剣を降っている様にしか見えない。

 しかし、飛び散る火花が姉ちゃんの存在を証明する。

 火花については幻術で隠すつもりは無いようだ。

 まぁ必要の無い事だし当然か…

 

「姉ですから。」

「貴女みたいな姉は他には居ないでしょう。」

 

 だろうな…絶対こんな姉は柊 未知一人だけだ。

 まぁ、そこが姉ちゃんの悪い所であり良い所なんだろう…

 

「最高級の賛辞をありがとう。」

「いいえ、せめてもの(はなむけ)だと思ってください。」

「ユウを返してもらってからその言葉は受け取るとしましょう。」

 

 激化していく戦闘…

 ティアの周囲で幾度となく火花が散る。

 と言うか姉ちゃんはなんであそこまで身体能力が高いんだ?

 ダグラスより身体能力が高いぞ…

 恐らく互いに魔法(アーツ)無しでもティアとやりあえるレベルだ。

 

「それは困ります。今すぐ餞を受け取ってどこかで平穏に暮らしてください。」

「せっかちは嫌われるわよ?」

 

 何だろうか戦いも激化していくのだが口論も激化していく…

 むしろ口論の方がヒートアップしているんじゃ…

 

「大丈夫です。ユウは寛容ですから。」

「そうやってユウに負担を掛けるのね。」

 

 何故に俺の話になってるんだ!?

 なんか口論が別の方向性を帯びてきているような…

 

「男の方には甘え上手の方が好かれると聞きます。」

「厚かましいわね。そんな女の元にユウが居ると悪影響を受けちゃうわ。大人しくユウを返したら?」

「貴女は逞しいようですし、異常な弟好き(ブラコン)は早く弟離れして自立への一歩を歩めばいいのではないですか?」

 

 声は荒げてないと言うのに恐ろしいくらいの怒りを感じる…

 もしかして、俺はこの戦闘より口論を止めた方がいいんじゃないか?

 

(止めれるの?この2人の戦いも口論も?)

 

 こんなこと言うのは匙を投げたようで嫌だが…

 無理!絶対無理!止めれる人とか居るの?

 居るのだったら今すぐその力をここに来て発揮してほしいものだ…

 

「氷の女王さんこそユウから離れたら?」

「何故それを!?」

 

 えっ!?本当に呼ばれてるの!?

 凄いな…ステラ…当たってたぞ!

 

(やったね!というか貴方の姉さん良く調べたね?)

 

 いや、確かにそれくらい調べててもおかしくは無い…

 しかし、これは多分違う…

 

「てきとうに言っただけよ。まさか本当に呼ばれていたとはね?お似合いよ?」

弟好き(ブラコン)に言われたくはないです。」

 

 あぁ…悪口の言い合いになってしまった…

 子供じゃないんだから…

 くだらない口論とそれに見合わないレベルの高い戦闘がまだまだ続くかとうんざりしていると…

 

「ん?」

「?今度は何の幻影ですか?丁寧に気配まで出して。」

 

 周囲に何処からともなくゾンビの様な物が出てきだした。

 確かにこれは妙にリアルな…姉ちゃんもよくこんな幻影を…

 

「一時休戦よ。これは私じゃない…」

 

 と言う事は…本物!?何故、死体が歩いて…

 いや、魔法(アーツ)か…趣味の悪い…

 

 姉ちゃんも幻覚を解いて姿を現す。

 それで兵士たちの幻覚も解けたのか慌てだす。

 かなりの量が居るからな…

 

「各自、アンデットを掃討しなさい!」

 

 ティアの指示でなんとか兵士たちが体勢を立て直しゾンビたちと戦い始める。

 これだけの戦闘…町の警備隊がその内来るだろう。

 

「鼻につく腐臭ね…アンデットは幻術が効かないしなかなか倒れないから嫌いだわ。」

「俺は得意だよ?こういうのは」

 

 相手に知性は無いし動きも遅い…

 これは俺の独壇場だ。

 

失楽園(パラダイスロスト)!」

 

 来い!煉獄魔人(イフリート)

 現れたのは人の形をした煉獄の炎…

 

「こういうのは燃やすのが一番だな!」

 

 しかし、火事は避けたい…

 取り敢えず、煉獄魔人(イフリート)…そこには気を払ってくれよ?

 その意思が伝わったのかいきなり炎を放つ事は無く。

 

 アンデットたちに接近しアンデットを殴ったり握りつぶしていく。

 普通なら格闘戦にゾンビは強いはずだが相手が悪かった。

 殴り飛ばされた者は空中で灰も残さないくらいに燃やしつくされる。

 なぜなら煉獄魔人(イフリート)の能力は触れたものを煉獄の焔で焼き尽くすという単純明快な物

 だが単純な物はそれ故に強力だ。

 

「凄い……」

「そう?」

 

 やっぱり姉ちゃんに褒められるのは嬉しいな…

 まぁ、少々場違いだが…

 もはや夜とは思えない程にここは照らされていた。

 これで街の警備隊もすぐに駆けつけてくれるだろう…

 まぁ、その頃にはコイツらはほぼ全滅しているかもしれないが…

 

「圧倒的ですね。」

「まぁ、相性がいいし、炎上しても大丈夫な場所なら気兼ねなく全力で行けるんだけど」

「延焼には気をつけてくださいね。」

 

 そうなんだ…煉獄魔人(イフリート)は強いのだが使いどころが厳しい

 森なんかで使おうものなら自殺行為だ。

 ちょっとした災害だよ。

 そんなことで悩んでいた時、突然聞いた事のない声が聞こえる…

 

「あなたが例の紫の少年ですか…」

 

 声のする方を見ると離れた所の屋根に誰かが居る事が目視出来た。

 残念ながら顔や詳しい体格は分からない…マントとローブで完全に隠している。

 声からして男…これ以外は隠されている。

 つまり顔を割られたくない…つまり後ろめたい事があると言う事。

 

 それにさっきの言葉…

 紫…俺の紋章についての事だろう

 そして、俺が知っている限りでは一つしか俺の紋章について知っている団体はいない。

 

「宗教勧誘なら断るが?」

「はて?何の事でしょうか?」

 

 とぼけても無駄だ。

 俺が幾度となく聞いたあの声に質がそっくりだ。

 相手を騙し欺こうと言う声に…

 つまり十中八九、コイツらは聖教会の手先だ…

 

「さっきの奴らはあんたの仕業だよな?」

「さぁ、どうでしょうか?」

 

 コイツの仕業でほぼ確定だ。

 めんどくさそうな魔法(アーツ)だ…

 それに聖教会に魔法(アーツ)を知られたことも痛い。

 

(飛鳥…)

(追跡ですね?)

 

 言わなくても伝わっていたようだ。

 追いかけても追いつける確率は低い…

 ならせめて大まかにでも何処に行くか程度は…

 

(頼んだぞ、飛鳥…)

 

 少し時間を稼ごう…

 もしかしたら警備隊があれを捕まえる事ができるかも知れない。

 

「答えが返ってこないと話が成り立たないぞ?目的はなんだ?」

「貴方の存在の確認とエスコートです。」

 

 何がエスコートか…

 捕獲作戦だって言えよ。

 狂信者にはどうも宗教活動を美化しすぎるきらいがある。

 

「残念だがエスコートはお断りさせてもらう。」

「手荒な事はしませんよ?むしろしっかりと歓迎させていただきます。」

「あなたも私からユウを奪うつもり?」

 

 話に姉ちゃんが入ってくる。

 すると、男は…

 

「おっと、あなたと面と向かって話をするのは嫌ですね…ここは帰らせていただきますか。」

 

 男は屋根から屋根に移って行き大きな道のある場所に降りて行く…

 あの言葉からしてアイツは姉ちゃんを知ってるのか?

 

「知りあい?」

「ごめんなさい。色々な人と会う事が多いから分からないわ…」

「いいよ。姉ちゃんは悪くないんだし…」

 

 聖教会はどうやら気が短いらしい

 こんなにも積極的とは思わなかった。

 だが聖教会がアンデットを使うなんて…やっぱり元の世界とは信者たちの考え方に決定的に違いがあるようだ。

 

「やはり聖教会でしたか?」

「ティアもそう思った?」

「えぇ、本気で殺しには来ていない所とタイミングが決定的ですね。」

 

 ふぅ…これからどうしたものか…

 アンデットたちの居た方向を振り返るとそこでは煉獄魔人(イフリート)がちょうど最後の一体を倒すところだった。

 そして遠くにこちらに向かってくる警備隊が見えてくる。

 やっぱり間にあわなかったな…

 

「ねぇ、ここは折衷案といかない?」

「どのような?」

「あなたの屋敷に私も泊まり行動を共にする。これでどう?」

 

 おぉ、それはいいな…

 だが姉ちゃんから折れるなんて珍しい…

 それならティアとも姉ちゃんとも離れ離れにならなくて済む。

 まぁ、ティアが嫌だ、無理だと言えば諦めるが…

 

「…仕方ないですね。いいでしょう。ユウも望んでいるでしょうし、今は戦力が多いに越した事は無いですから…」

「じゃあ、ユウと私は…」

「しっかりと別の部屋を用意します。積もる話もあるでしょうが夜も深いです。ゆっくりと身体を休めてください。」

「ちぇっ…」

 

 そうだなティアの言うとおり取り敢えず部屋に戻ろうか…

 そこで飛鳥がどこまで追跡出来たのかを聞こう。

 

(助かった。煉獄魔人(イフリート)戻ってくれ。)

 

 煉獄魔人(イフリート)には戻ってもらい遅れてきた警備隊から軽く事情聴取を受け各自、部屋に戻って行く…

 

 事情聴取も何があったか犯人を見たかなどの簡単な事を少し訊かれただけで終わった。

 正直、こんなんで大丈夫か?

 なんというか、捜査や防犯にはそれほど力を入れておらず鎮圧、強襲に特化しているように思える。

 しかし、事件現場に駆け付けるのが遅いためほとんど意味をなさない…

 これは飛鳥に追跡を頼んで正解だったかもしれない。

 

(どうだった?)

(酒場に入ったまま出てきてません。)

 

 どれどれ、視覚を共有化(シェアライズ)してその酒場を直接見る…

 一応、場所は覚えたがあれは店の中にどこかに繋がる道があると思った方がいいだろう。

 恐らくは店主もグルで…

 

(ありがとう。飛鳥)

(もう少しお役に立てれば…)

(ううん…充分役に立ってくれたよ?だから今は休んで英気を養って。)

(ありがとうございます。では…)

 

 今までは本当の殺し合いは魔物としかやった事がない。

 だけど…ティアを殺したい貴族の手先や教会が出すのは人だ。

 そして、俺の望まない事をやる。

 ならば俺にある道はそれを阻むか妥協するかだ…

 

 だが、妥協は許されない。

 しかし、もう一つの道を歩むなら人を殺さなければならない…そんな事がきっとある…

 この世界では意思を通す為に、何かを守るために、手を血で染めるほどの覚悟が必要なのだ。

 今日だって確実に俺たちに害意を見せた男を俺は殺せと指示を出せたのにしなかった。

 

 人はそれを優しいや甘いと言うのだろう…だが俺のはただの臆病…人を殺す事が怖くて仕方がない…

(自分が他人にした事は自分に返ってくる。)

 こんな事が頭に過ってしまうのだ。

 

 このままではダメな気がする…けれど人を殺す事に何も感じなくなった時…

 

 

 それは正気と言えるのだろうか?

 


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