第27話
今日はユウと街に行き舞台を見に行く約束の日だ。
なんだか昨日は眠れず、少し早く起きてしまった。
これでは、舞台の途中で寝てしまうかもしれない…
だが、もうどうしようもない。
今から、絶対に眠らないように身体を動かして眠気を払うとしましょう。
準備を素早く済ませ、いつもと同じ素振り少し早い時間に始める…
段々と手に馴染んできたら今度は型通りの動きをいくつも組み合わせていく。
こうした動きを何度繰り返そうと型通りに動く事は少ないし1%も役に立てば良い方だ。
もし、これだけでみんながみんな強くなれれば誰も魔物に悩む必要はない。
しかし、どんな経験を積んで強くなったとしても…
日々の鍛錬を怠れば弱くなる。
そして、1%の確率を大事に出来ない者はいずれ後悔する。
都合の良い言い方に聞こえるかもしれないが≪99%の確率で成功≫でも≪1%の確率で失敗する≫。
≪99%の確率で失敗≫でも≪1%の可能性≫がある…
その1%に…私は後悔したくはない。
特に何かを守りたい…そう言う人にはきっと分かってもらえるだろう。
どれだけ、力があろうと私は…いや、力があるからこそ…その1%が怖い。
そう言えば父と母が言っていた。
“貴族だからと言って戦う力は要らない、一番、必要な力は話し合いの力だ。それさえあれば部下と領民はある程度守れる。けれど、それは当然で最低限だ。きっとそれさえ押さえていればお前は良い領主だよ。”
そう前置きこう続ける…
“だけど、それは最低限である程度の話…何が何でも守りたいものができた時、きっと戦う力が欲しくなる。≪1%でも守れなかったという悲劇を避ける為の力≫が…”
その言葉の意味を理解できないまま、私はなんとなく鍛錬を積み重ねていたが…
父と母を失ってからは明確に理解できた…自分の無力を…
だから、私は鍛錬を怠る事はなくここにある…本当に守りたいものが現れ、それを失う悲劇が怖いから…
「そろそろ、ユウたちが起きて訓練を始める時間ですね。」
そうなれば私は邪魔になるかもしれませんしいつものように屋敷の中に戻るとしましょう。
充分に身体を動かせた事ですし残っている書類に目を通すとしましょう。
ちょうど訓練が見える位置に部屋があるのでここから時折眺めている。
すると、起きたばかりであろうユウの姿が見えてくる。
しかし、どうやらユウよりダグラスは先に来ていたようだ。
私と違いユウは身体づくりから始めている。
まだ、ユウは身体が私たちに比べ弱い…
あまつさえ身体を酷使するような事をするのにそのままでは心配で見ていられない。
よく見ると何か知らない生き物たちが腕立て伏せをしているユウの隣でじゃれて居る…
そこでユウの魔法の説明を思い出す。
「わざと魔法を使って自分に負荷を掛けているのでしょうか?」
確か、ユウの魔法は副作用の様なものとして自分にだけ影響する重さを感じるようだ。
そのせいで複数の魔物を呼び出すと動きに精彩がなくなっていく…
呼び出しすぎると動けなくなるほどに掛かる事もあるようだ。
唯一の救いは周りにそれが影響しない事だ。
つまり、何かの動物の上に乗ってもその動物にはユウが重いと感じる事はないようだ。
おかげで移動や撤退はそれなりに出来るようですが…戦えば確実に負けるでしょう…
まぁ、私がその間守れば構わないのですが…
私が居ない時など、守れない時にはユウもある程度強くなければ…
それに…
「ティア様…ユウさんをどの部隊に配属させるんですか?」
そんな言葉を思い出す。
召使いにしようにも実際にそれほど高い家事能力がある訳でもない。
召使いになれば他の貴族が来た時にも家事をしなければならない。
となれば兵からの要望が多い戦闘部隊になる。
危険が多いかもしれないですが傍に居てもらうにはそれが最善…
しかし、簡単にも決められない。
ユウの実力的な物もあるが、ユウの特異性を考慮すると…
前から諸事情で計画されていたあの部隊をユウを軸にして作るべきか…
「確か何人か候補が居たはずですね。」
まぁ、私の様な所に来るものなど訳あり…
しかし、かなりの実力者揃いのようだ。
そのまま私は手元にある候補者たちの書類を見ていく…
そうやって書類に目を通していると扉をノックする音が響く。
「ティア様、朝ご飯の準備ができました。」
いつも通りに扉の向こうからサラが呼びに来た声が聞こえてくる。
特に部隊を作るのはあとでも出来る。
みんなを待たせる訳にはいかない。
「今行きます。先に行っていてください。」
「分かりました。」
そのまま机の上の物を全て片づけていつも通りの食事を取る。
まぁ、いつもの通り…
かと言えばそうでもなかった。
正直、心臓のあまりの振動の激しさに食事に全く集中出来なかったが。
私は、食事の後に散々時間を掛けてユウと舞台を見に行く服を悩んだ挙句…
最終的には、サラにも手伝ってもらった。
果たしてユウはどう思うのだろうか?
綺麗だと思ってくれるだろうか?
「似合ってるよ。凄く綺麗だ。」
あぁ…言葉一つでこんなに気分が高揚するなんて…
これだけでも今日ユウと出かけた甲斐があった。
けれど、一つ気になるのがユウが舞台を見に行きたいと言った理由だ。
ユウは何か、ヒイラギ・ミチと言う名前に反応していた。
確かに、おかしいのだ。
こんな名前はそうそう聞かない…
と言っても皆無ではない。
遥か東より来た使者団が確かそのような名前だった。
しかし、それも私が子どもの頃の話。
そうそう居る名前じゃない。
そのはずなのだ。
しかし、私はもうおかしな名前の者を一人知っている。
カンザキ・ユウ…
東より来た使者団の話では我らの国ではこれが普通だと言っていた。
その時の彼らの発音と酷似しているのだ。
ユウの自己紹介の時の声とユウが呟いた“柊”という声が…
当然、街中ではユウの呟いた発音で喋られていなかった。
しかも、私はその使者団からヒイラギという単語を聞いたような気がするのだ。
だが、そんな事がありえるはずは…
彼らは遥か彼方から海を渡り来たのだ。
海に囲まれているとも聞いた…
当然、定期的な船など存在しない。
定期船は魔物のせいで強力で海の魔物と戦える魔法を持っている人物が必要だ。
それにその国とそれほど友好的な関係を結んでいるわけでもない。
その使者団が来た時にも念入りに検査があった。
船に潜んでいたりその時の使者が残っている可能性はありえない。
ユウとそのヒイラギ・ミチなる人物は何か関係がある可能性が高い…
そして、ユウとヒイラギ・ミチなる人物は…遥か東の国の出身である可能性が高い…
また機会があれば東の国について色々と調べましょうか…
「じゃあ、まずあの屋台なんてどうだ?」
どうやら、様々な屋台に興味があるようだ。
ユウの目がキラキラと輝いているのを見ればすぐに分かる。
しかし、それほどお腹が空いていたのだろうか?
だが、ユウはそれをそんなに表に出すタイプじゃないはず…
それに目の輝きも未知の物を見てはしゃぐ子どものような感じ…
「見た事が無いのですか?」
「あぁ…見た事のない物ばかりでテンションが上がるよ!どれもおいしそうだ!」
どう言う事だろうか?
別にこの屋台で売られている物は庶民向けでよく売られている物ですが…
見た事がない……
そう言えばユウは屋敷での食事にはそんな反応をしていない。
一般的には屋敷での食事の方が珍しいはずですが…
もしかして…
「ユウは貴族だったのですか?」
「そんな訳ないじゃないか。」
まぁ、そうでしょうが…
となれば、どうして…
取り敢えず、私も食べるとしますか…
「おじさん、私にもください。」
「はい、嬢ちゃん。彼氏に影響されたか?良い食いっぷりだもんな。」
か、か、か彼氏!?ユ、ユウが!?
周りからはそのような間柄に見えるのでしょうか?
私は男性とそのような間柄になったことは当然ないですし、なろうとした事もない…。
恋…と呼ばれるものを全くと言ってもいいほど知らない…
精々、物語に出てくるようなもの程度しか知らない。
ユウと私がそう思われるのは…
あまり嫌じゃない…むしろ、少し嬉しい…
ダメだダメだ…
落ち着かないと…
せっかくの散策なのだ…こんなに取り乱す時間が惜しい…
「次はどこに行く?」
気付けばあの屋台を既に離れていてユウがどこに行くかと聞いてきていた。
どんなものがあるのかと周囲を見渡すと浮いた雰囲気の屋台があった。
どうやらここから見るにアクセサリーなどを売っているようだ。
もし普通の女の子ならあのような場所に行って彼氏へのプレゼントなどを買うのだろうか…
真っ先に気になったのが隣の武器屋という私はなんだか自分が恥ずかしく思えてきた…。
「あそこなんてどうでしょうか?」
そう言って私は武器屋…ではなくアクセサリーを売っている屋台を指差す。
陳列されている物は恐らく本物だ…正直、屋台で売られるような物じゃない。
しかし、しっかりと防犯は法具でしているようだ。
多分だが、これだとこの陳列している物は見せる為の物ですぐに販売すらできないだろう。
恐らく奥にしまってある物を出してからが交渉スタートなんだろう…
かなり珍しいスタイルだ…利益を求めず、何か違う事を目的にしているようですね…
それにしてもこの星座をモチーフにしたペンダントはなかなか綺麗だ。
決して大きな宝石や金色に輝く装飾がある訳でもない…
もし、他の貴族が見ればその程度の装飾しか買えないのかとバカにされるかもしれない。
けれど、そのペンダントは今まで見たどんなアクセサリーよりも魅力的だった。
もし、これをプレゼントされたら…
いや、されたらではなく…私がしなければ…
きっとユウなら喜んでくれるはずです。
どんな物にすればいいでしょうか…
……天秤…これがいいかもしれない。
だけど、ここで普通に渡すのは少し味気がないかもしれない…
だが、サプライズで渡せばもっと喜んでくれるだろう。
そうと決まればユウの目を盗んでこのペンダントを買わねば…
「行くとしましょう。」
「そうだね。そろそろ舞台も始まるだろうし。」
ある程度あの屋台から離れた頃合いを見計らい私は忘れ物をしたと切り出す…
すると…
「えっ?大丈夫?何を忘れたの?俺がとりに行くから…」
うっ…ユウを騙している事に悪い事をしている訳でもないのについ罪悪感を抱いてしまう。
これもユウを喜ばせる為の行為だと自分に言い聞かせ言葉を紡ぐ。
「どこに忘れたのかも分かっているので私が行ってきます。」
そのまま、先に行っていてと言い残し走って屋台にまで戻る。
何かユウが言っていたようだがこれ以上は心が痛む…
私は振りかえらずに屋台まで戻ってきた。
「…どうしたんだいお嬢ちゃん?」
おばあちゃんは不思議に思ったのか私が来るとそう声を掛けてきた。
ユウは先に行っているはずですが早いに越した事はありません。
手短に済ませましょう。
「この天秤座のペンダントをください。」
「…そうかい、そうかい。ぴったりだね御二人さんは…」
はぁ…どう言う事なんでしょうか?
そう言ったおばあちゃんは奥からペンダントを持ちだしてくる。
「ありがとうございます。」
私はペンダントを受け取るなり代金をおいてすぐに劇場に戻るべく走った。
すると、先ほどユウと別れた場所にまだユウが待っていた。
待っていてくれたのですか…
なんだが心が痛い…けれどどこか嬉しく感じるのはどうしてだろうか?
「すいません。待たせました。」
「待ってない待ってない。急がなくてもよかったのに。舞台もようやく人が集まり始めた頃合いだし」
これがユウの良い所の一つなんでしょうね…。
いつかその優しさが裏目に出て悪い人に騙されないか心配です。
取りあえず、今は舞台を楽しみましょうか。
劇場には何度か来た事がある。
とはいえ私もそれほど来た事は無く…子どもの時に親に連れられ来た事が数回あった。
けれど、それも少し前の話で違う劇団の話…
あの時はそれなりに楽しめた記憶がある。
今回はどうだろうか?
ユウが居る事もあり久しぶりにそんな浮ついた気持ちで舞台が始まるのを待っていた。




