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第2話

「んっ……ここは!?」


 どうやら俺は寝ていたようだ

 周りを見るが全くもって見覚えの無い部屋だ

 大体、俺は確か崖から落ちたはずだ。

 それが今ではフカフカのベッドで寝ている…


 しかも部屋は豪華とは言い難いがそれなりにお金が掛かっているだろうことが分かる

 そんな状況に戸惑っているとドアを開き一人の女性が入ってきた。


「ここは私の屋敷です。ようやく目が覚めたようですね」


 そんな疑問に答えた彼女のことを見たとき思わず見とれてしまった


 銀色の長い髪は揺らめき


 目は紫の輝きを放っている


 そして、どことなくクールな印象を受ける


 彼女が街を歩いたならば周りの全ての人の目線を釘付けにするだろう…

 それほどまでに綺麗だった。


(まぁ姉ちゃんで慣れているから恋愛感情は生まれないが)


「何があったんですか?川辺で倒れているなんて」


 そう無表情のまま言う彼女は本当に疑問に思っているのか?と思うほどに表情を変えなかった。


(崖から落ちた後、俺は川に落ちたおかげで助かったのか運がよかった……川が浅かったり流れに飲まれたり、他にもあのモンスターが執拗に追いかけていればここには居なかっただろうな…)


 今何故ここにいるのか?という疑問は解消されたがここは?すなわち彼女の屋敷とはどこにあるのか?と言う疑問が残る……


 そう言えばモンスター!モンスターがもしここまで来たら……


「実は気が付いたら森の中にいて…

 そう言えば!歩いていたらモンスターに襲われて!逃げていたら崖から落ちたんです!」


 笑われるか?頭がおかしいと病院に送られるか?

 どっちも嫌だな…


「モンスターですか…」

「嘘じゃないんです!信じてください!」


 必死に信じて貰おうとするが証拠がない…

 どうすれば…


「落ち着いてください。別に疑っている訳ではないです。モンスターというより魔物という方が一般的ですが。まぁこの辺りは他に比べるとそこまで出ないとは言えおかしなことではありません。どちらかというと崖から落ちて生きている貴方の運の方が信じがたいですが。」


(えっ…なんだって……)


 この人からモンスター……いや魔物がでるという異常事態に動揺や驚きといった感情を感じないしおかしなことではないとさえ口にしているのだ…

 ここは何処なんだ

 魔物がでてもおかしくない場所…

 そんなことは聞いたことも無ければ見たこともない

 もしかして…ここは…


「ここはあの世ですか?」

「寝ぼけてるのですか?」


 そんな可哀想な人を見る様な目で見ないで…

 だがしかしおかげで頭が冷静になっていく


「ここはシンフィールド領アルカディアです。決してあの世などではありません。」

「シンフィールド?アルカディア?」


 アルカディアなら聞いたことがあるがシンフィールドは聞いたことがない

 アルカディアということはギリシャか?

 だけど今の感じだとアルカディアが町とか村とかそう言う感じの言い方だよな

 アルカディアは確か地域の名前だったはず


「まぁ潰れかけの田舎領地のことなので知らなくてもおかしくはないでしょう。」


 無表情な顔が一瞬曇るが俺は気づかなかった


 どちらにせよここは日本では無さそうだ

 日本には領地とか言われることもなければ

 シンフィールドやアルカディアなんて地名も無いはずだ


「それより貴方の服装はなんだったのですか?あの様な服装は見たことがありません」


 もう駄目だ……俺の数少ない常識は崩れさっていく…

 確かに俺のよく知っている服装とこの人の服装はと大きく違うのだ

 そして俺の服装を見たことがないと言っている…


 知らない土地


 通じない常識


 そして…魔物


「この服は俺の住んでいたところの服装だよ」

「知らないですね。何処なんですか?」

「日本の東京といっても分からないかな?」

「ニホン?トウキョウ?確かに聞き覚えが無いです」


 まったくこんな形で願いが叶っちゃうとはな

 こんな世界は嫌だ…そんな願いが異世界に行くという形で叶うとはな


 日本を知らず

 魔物がでるのが普通

 訳のわからない土地


 ここまでの条件が揃えばもう異世界と言うしか無いだろう

 だが未練はない…まぁ強いて言うなら行方不明の姉ちゃんの無事を祈るくらいだが…

 もう何ヵ月も行方不明が続いている以上生存は…絶望的だろう


「何故、泣いているのですか?」

「俺は泣いているのか?」


 頬に伝う感覚は涙なのだろうか?

 姉ちゃんの生存を絶望的だと思うと何時もこうだ…

 気づけば泣いている


「なんでもないよ……気にしないでくれ」


 もう止めよう……どちらにせよ生きているのも絶望的だしもう会えないのは決まったことだ

 ならせめてここで生きていこう…

 元の世界では見つけることの出来なかった今はまだない何かの為に…



 何の為に生きるのか……

 それが見つかるまでは私との約束を守る為に生きなさい…



 姉ちゃんのこの言葉は俺の心の奥にまだ残っている

 今は姉ちゃんとの約束を守る為にだけど……


(いつか見つける!絶対に!)


 そう決意を改めまだしていない自己紹介をする


「それよりもまだいってなかったな俺は神崎 悠。ここからずっと離れた場所から来た」

「私はこのシンフィールド領を治めているティア・シンフィールドと言います。」


 どうやら目の前の人物はどうやら領主様のようだ。

 最近は驚くことが多くて疲れてきた…ここでどういった対処をすればいいのか頭で考えながらも心の中で最近の出来事に文句を言いたくなる。

 しかし、その心情を察したのか


「別にかしこまらなくてもいいですよ。今ここにはいるのは貴方と私だけですから体裁も気にしなくてもいいですし、それに所詮は落ちた貴族です。」


 何かの事情があるのかどうやら貴族の中での位が低いようだ。


 まぁともかくありがたい申し出だ。

 もしかすると無礼を問われて死んでいたかもしれないんだ貴族なんかが支配していた時代じゃ不敬罪なんてものがあったらしいしなここにも恐らくあるのだろう。


 これからは気をつけよう

 気をつけると言ってもこの人以外の高貴な身分の人とは会うこともないだろうが


「ありがとうございます」


 しかし落ちたというのは恐らく地位の事だろう何故そんなことになったのだろうか?

 そんな疑問が頭を過る

 あまり人の事情に首を突っ込みすぎるのはよくないというのはわかっているが気になる…


「あの…落ちたっていう事は何かあったんですか?」


 気になった俺は聞いた。聞いてしまった。

 彼女の口から出た言葉は残酷な物だった


「ソルディ帝国との戦争にでてシンフィールド家当主である父と母が死んだんですよ」


 そう、その時点で既に悲劇足りうる出来事だった

 しかしそれだけだろうか……

 彼女の口はまだ言葉を紡いでいく


「父と母が出た戦いは負けました。そしてその戦闘で指揮を取っていた人物を中心として生き残った家の一部は自分達に敗戦の責を負わされることを恐れその責を幾つかの家に擦り着けたのです。」


 現実は非情だった…

 経済的な理由など自然に起きてしまい誰も悪くない事情ならまだよかった


 罪を犯して落ちたのならば両親が悪いで済んだ話だ


 しかし…戦争で…しかも濡れ衣を着せられて…

 彼女の心の中にはその時どんな感情が渦巻いていたのだろうか?

 憎悪…憤怒…嘆き…哀しみ…

 今、彼女の顔は無表情だった…しかし

 これは偽りの表情だとそう分かってしまう


 もしくはそう思い込みたいのかも知れない…

 しかし今の俺にはどうすることも出来ない

 気付けば自分の拳に力が入っていた。


「止めましょう。客人に聞かせるような話じゃありませんでした」


 そう言って話を打ちきる

 そして話を変えるかのように彼女は口をひらく


「そう言えば貴方はこれからはどうするのですか?遠い所から来たようですが荷物の類いは全くないようですし泊まるあてでもあるのですか?この場所も分かっていないようでしたが」


 そう言えば何も無いな……

 金も無ければ職もない

 寝床だってない…


 あれ?これは詰んでるんじゃ

 金はどうしようもない

 職だってこんな怪しいやつを雇う物好きもいないだろう

 寝床は野宿だが…魔物いるんだよな……


 怒りを忘れ重大な事実に気付いた俺が焦っていると


「そのようすだと何も考えていないみたいですね」

「返す言葉もありません…」

「では、私のもとに来てみませんか?」


 えっ!なんで?

 だってだって相手からしたら今の俺って

 身元不明無職の

 文無しで役に立たなそう男


 だよな?ていうかハッキリ言って怪しい邪魔者だよな?


 あれ?言ってて涙がでてきた…

 そう言えばなんでこの人はそんな男と二人で話しているのだ?一応は領主という高貴な立場なのに…襲われたらどうする気なのやら…まぁ襲わないが


「私の屋敷は小さいとは言え貴族なので普通の家や宿と比べると大きいです。なので来てくれるのであればこの屋敷で寝床を用意しますし給金もしっかり出します。悪い話ではないでしょう?」


 そう確かに悪い話ではない…しかしうますぎるのだ話が……

 突然、命の恩人であるこの人を疑うのは気が引ける

 だけどそう言うものなのだ。人っていうのは色々な人柄がある……

 談笑しながら人を刺せる者しかり…

 平気で昨日の友を裏切る者しかり…

 そう教えられた。教えてくれた

 それに俺にはもう1つこの件を受けることができない理由がある……それは…


「だけど俺姉ちゃんに女の家に外泊してはいけないと言われてるんだけど…」


「…………保護です。これは自分に仕える者の身の安全を保護しようとしているだけです。」


「いいのかなそれで…結局変わって無いような…」


「貴方のお姉さんが貴方の事を大切に思っているなら魔物が出るような外で野宿しろなんて言わないと思いますが?」


「まぁそうだけど…」


 なんだかうまくのせられているような…

 だけどやっぱり不思議だ

 厚待遇にも程がある


「不思議そうな顔をしていますね。まぁ貴方に来て欲しい理由としては一人でも多くの人材が欲しいというのがあるんですが」


 まぁ田舎ってのは人が足りんのだろう。


「正直なところは勘です。あなたは何かをやってくれる何かを成してくれるそんな気がするのです…」


 この人は勘を信じるような人にみえなかったんだがな…


「今、失礼なことを考えませんでしたか?」

「いえいえ滅相もありません!そんなことは欠片も考えていません!」


 危ない危ない……案外侮れんぞこの人の勘……

 しかし俺は凡人…いやそれ以下だろう…

 俺は姉ちゃんと出逢わなければ今頃どうなっていたか分からない…


「まぁいいでしょう。もう一度聞きます…私のもとに来てみませんか?」


 そう言いながら彼女は手を差し出す…

 色々腑に落ちないところや不安もあるが…


「喜んで!」


 俺に迷いは無かった

 俺はその手を握った…


「何故ですか?」

「まぁそうしなきゃ生きていけないってのもあるんだけど」


「一番は勘かな」


 この人と居ればいつか見つけることが出来るのではないだろうか

 そんな気がするのだ


「そうですか…では今日から宜しくお願いします」


 俺は微かにだが彼女が微笑んだように見えた…


 出逢うはずのない二人

 今、交わるはずのない2つの線は交わり…

 新たな物語を紡いでゆく

 紡がれる物語は…喜劇か悲劇か

 はたまた………

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