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第17話

「う、うぅぅ…」


 目が覚めるとそこは自分の部屋だった。

 と言っても自分の家ではないが…


「どうしてたんだっけ、俺…」


 自分の記憶を遡っていく…

 そうだ…試験の為にティアと戦って…

 突然の襲撃があって…

 ガルムの襲撃があって…


「そうだ!俺はあいつにやられてティアに助けられたんだ。」


 ティアは?

 皆は?

 誰も怪我してないよな…

 もしかして誰か死んでいたり…


「こうしちゃいられない…早く皆の安否を!」


 そう思い、急いで立ち上がろうとすると身体中に激痛が走る。


「いってえぇぇぇぇ!!!」


 何故こんなにも身体が痛むのか不思議に思い掛かっていた毛布をどけて身体を見まわすと…

 俺の体にはびっしりと包帯が巻かれていた。

 すると突然、廊下を走る音が近づいてくる…

 そしてその音は部屋の前で止まりドンドンというノックに変わる。


「大丈夫ですか!?大きな声が聞こえました!入りますよ?」


 その声の主は物凄い取り乱しているのか“入りますよ?”と聞きながらその時には既に扉が半分開いていた。


「慌てすぎだよティア。」

「当然です!ずっと倒れていた人間が突然、大声で叫ぶのですから…」


 まぁそうだな…

 確かにそうなるな…


「その様子だと起き上がろうとしてあまりの痛みに大声で叫んだ感じですね…そんなに慌ててどうしたのですか?」


 そうだ、ティアなら被害状況とかもしっかり確認しているはず。


「あぁそうだよ!俺が倒れてから誰も怪我してない?」

「してませんよ。きっちりと私がしょ…倒しておきましたよ?」


 しょ…?何と間違えたんだろうか?


「今のしょ…ってなに?」

「気にしないでください。」


 まぁどうでもいい事か…

 上げ足を取りたい訳でもないんだし。


「ん~まぁいっか…皆が無事なのは分かったし…」

「取り敢えず今は休んでいてください。身体が動くようになったら私の為に…ひいては民の為に働いてもらうのですから。」

「それって…試験は合格って事…?」

「当然です。」

「だけど…」


 勝負の結果は引き分け…

 正直、負けたと言ってもいいくらいだと思う。

 それなのに…


「勝敗はどうでもいいのです。それに至るまでの過程を重視しているのですから」


 なら俺はずっとティアのもとで働ける訳か…


「…やったぁぁ!!」


 いうなれば自分の努力が認められた…そんな気すらする。

 そうやって合格をやっと理解できた俺は全力で喜びを…


「って!いったあぁぁぁぁぁ!!」


 表現しようとして身体を大きく伸ばそうとしてまた激痛に苛まれる…

 本日、二回目の絶叫が屋敷に広がって行った。


「あぁ、動かないでください!ただでさえずっと寝ていて身体が慣れていないというのに…」


 しかしこれは酷いだろう。

 俺はどれくらい寝ていたのだ…?


「参考までにどのくらい俺は寝ていたんだ?」


 その時、ティアの口から出たのは信じられない事だった。


「7日間です。」

「えっ?7日?」

「はい、なかなか目を覚まさないものですから、もう…一生目を覚まさないんじゃないかと…」


 そう言って俯くティア…

 こうやってティアを心配させるのは何度目だろう。


「ゴメン…」

「いいんです…こうやって今、あなたと話して居られているのですから。」


 こうやって許してくれているが…

 俺は知っている。そうやって心配する側の人間の気持ちが…

 そして、その気持ちは身を滅ぼすことになるかも知れない事も…

 その不安はいつか心を狂わせる…


「あっ、そうです。あなたが快復し次第、街に出ます。」

「そうなのか?楽しみだなぁ…」


 この世界の文化に触れるいい機会だ。

 自分の目で見て…自分の手で触れる…


「行った事が無いのですか?」

「まぁ、田舎に住んでいたもんだからね…」


 ここでまさか異世界から来たなんて言えるはずがない…

 取り敢えず、田舎生まれってことにしておこう。


「それで紋章が無かったのですね…」


 何か勝手に解釈してくれたようだし

 これでいいか……


「まぁかなり山奥だったし儀式をできる場所に行くのもかなり苦労しそうだったしね。」

「じゃあ初めての街と言う訳ですか…それでは何日かは観光に行くとしましょう。」


 えっ?いいのか?

 一応、ティアは仕事があるから観光は無理だなと思っていたんだけど…


「いいのか?仕事で忙しいんじゃ?」

「いいんですよ。そこまで急の仕事があるわけではありませんから。」


 ってことはティアと一緒に街を回れるのか

 楽しみだな…

 だけどティアは街をどれくらい把握しているのだろうか?

 大体、ティアの身分は一応、貴族…

 そうそう観光なんてできないんじゃ


「ティアはよく街に行くのか?」

「最近は行ってませんでしたが父と母に連れられて行ったことなら何度かあります。」


 きっと様々な所に行ったんだろうな…

 恐らく二人が死んでからはそんなこと出来なかっただろう。


「そうか、じゃあティアは久しぶりってわけか」

「まぁ、これからは街での時間が多くなると思いますから嫌でも慣れますよ」


 えっそれって村を当分は開ける予定ってこと?


「そうなの?」

「えぇ、ここからはあの街にある別荘を活動の中心にする予定ですから。」


 俺はずっと貴族ってのは自分の領地で居るものだと思っていたんだけど違うようだ。

 まぁ領地を狭くされたのだし活動領域を広めても問題はないのか…


「まぁ進展があれば都にも行くかも知れませんが」


 都か…

 どんなところなのだろうか?


「そう言えばガルムの死体ってどうするの?」


 あれほどの物なのだからかなりの価値があるはず…

 それをずっと屋敷に放置は無いだろう。


「競売に掛けて貰います。」


 競売があるのか…

 魔物の素材を取引している競売かぁ


「ちなみにガルムなら相場はどのくらいするの?」

「私自身、競売にガルムが掛けられるなんて聞いたことがありませんからあまりよく知らないのですが。そこらの貴族の年収を軽く越えるでしょうね。」


 開いた口が塞がらないとはまさにこの事。

 そんなにも凄い奴だったの!?

 ティアはなんでも無いように平然と答えるのだが何故そんなにも平然としていられるのだろうか?


「まぁ滅多に現れませんし普通なら競売に掛けても街の修復に全て消えるのが当たり前ですから」


 この世界に来てそうそうそんな奴に遭遇した俺って…

 それこそティアが居たから助かったけど居なかったらと考えるとゾッとする。


「まぁもう終わった事だし…気にしたらダメだよな…」

「まぁ思わぬ収入が入ったと思えばいいでしょう。」


 えっ、何言ってるのティア

 それじゃあまるで俺がその収入を手に入れるみたいじゃ…


「ねぇティア…そのお金って当然、ティアに入るんだよね?」

「何を言っているんですか?当然、ユウの物ですよ?」


 やっぱりダメだ…

 ティアはいくらなんでも優しすぎる。

 それはダメだろう


「ティア?それはダメでしょ?倒したのはティアなんだから?」


 そう諭すように言うのだが…

 ティアはまるで聞く耳を持たずと言った感じで


「これでユウの懐が潤いますね。ユウが自分の買い物とかを出来ないんじゃないかと気になっていたのでちょうど良かったです。」


 そんなこと心配されていたのか…

 なんだか複雑な心境だがそれとこれとはまた別問題だ。

 あれはティアが倒したのだ。

 俺にそれを受け取る資格はない。


「ちょうど良かったじゃないよ!俺は倒して無いのになんで俺が受け取るみたいになってるの!」

「当然です。ユウがあそこまで戦って傷を負わせたのにその報酬を貰えないなんて事の方がおかしいです。」

「それはティアも一緒でしょ?ティアがいなければアイツは倒されなかった。それなのに報酬を貰えないなんておかしい!」


 ティアからすればあそこまで傷ついて戦ったのにその頑張りが認められない方がおかしいと主張し

 ユウからすればティアがいなければ死んでいたのに命の恩人が報われないなんておかしいと主張する…

 しかし議論は平行線を辿るばかり

 両方がやっと譲歩を始めるが…


「私よりユウの方がお金を必要としているはずです。1対9」

「お金を必要としているかなら今はティアの方が力を蓄えないといけない時期だろ!8対2!」

「ユウの方が私より被害が大きいです。3対7」

「村の出費の方が大きいはずだ。俺のは自然に治る。6対4!」


 正直な話…譲歩と呼べるかさえ分からないような物だった…

 魔物を狩る事を生業とする傭兵集団でも分け前などで揉める事はあるのだが…


「ユウの頑張りが認められるべき。41対59」

「ティアの実力による成果が認められるべき!42対58」


 如何にして相手の取り分を多くするかという事で揉めるなんて前代未聞である。

 しかも、本当に相手の事を想って揉めているのだ。

 これから先も傭兵集団の中でこんな事が起こる事は無いだろう…


「不満ですがこれでは埒があきません…ここは痛み分けと言うことで…」

「うぅ…仕方無いか…」


 結局は、半々になったのだがまだ不満といった顔を両者がしているのだ。

 しかしどれだけ譲歩をしても半々以外ではこの話は終わらなかっただろう…


「はぁ、半分でもかなりの金額になるんだろうな…」


 どれだけ俺が金を受け取っても使い道がそんなにも無いので仕方無い気がするのだが


「お金と言うのはあって困るようなものでもないでしょう。臨時収入が入ったと思って受け取ればいいのですよ。」

「まぁ、ティアとの観光でお金に困らなさそうなのは助かるけどね」

「そう言えばユウは自分の武器を買っていませんでしたね。防具は買っていませんが武器は絶対に必要ですからね」


 武器、か……

 俺がまともに使える武器なんて祢々切丸くらいしかないからな…

 武術の心得なんてないからな…


「ん~、使えるものが無いんだよな…」

「ユウは長柄の物の方がいいかもしれませんね。騎乗戦を前提とするとやはりリーチはあった方が…」


 姉ちゃんは薙刀ができたが俺には無理だ。

 まぁいざとなれば俺は意思を持った武器を召喚すればいいが

 なかなかに意思を持った武器たちはじゃじゃ馬なのだ…

 大人しい部類の祢々切丸にだって振り回される始末だ。

 中には勝手に変形する奴までいるからな…


「まぁ時間があれば見て回る事にしましょうか。」


 それが一番いいだろう武器選びに焦っても仕方がないだろう

 俺の場合、一番の武器は魔法(アーツ)だしな。


「少し用事があるのではずしますが用があれば呼んでください。すぐ隣の部屋に居ますから…」

「分かった。ありがとう」

「最後に…これからもよろしくお願いします。」


 そう言って微笑むティアに一瞬すぐそこまで来ていた言葉を失うがすぐに…


「あぁよろしく!」


 そうシンプルで何一つ飾らない言葉で返した…

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