第15話
殆どの人が避難した村の中では剣戟が響き渡っていた。
「防戦一方じゃねぇか?それじゃ神に愛されし戦乙女の名が泣くぜ?」
「弱い犬ほどよく吠えると言いますが事実のようですね。」
防戦一方なのはユウの元に着いても長時間戦えなければ居ないのと一緒だ。
しかしこれだけ飛ばして来ているのですぐにスタミナが切れるものと思っていたのになかなか体力があるようですね…
「御嬢!こっちは終わったぞ!」
どうやらダグラスは終わらせたようだ
まぁあの程度ならむしろ相手は善処したのだろう…
「ユウの援護に向かってください。後から追います。」
「おう、分かった!」
そう言うとダグラスは走っていった。
「良かったのか?二人で戦えば勝てるかもしんねぇのに?」
どうやらこの男どもは2人で足してもユウに及ばぬというのに…
どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか?
「ダグラスなんて居なくとも貴方たち程度簡単に殺せるのですから…」
「強がるなよ、この様子を見てその言葉を信じる奴はいない」
そのゴキブリのように湧きあがる自信…
この際、叩き潰しておきますか…
「だとすれば信じない者は目が節穴なのでしょう。」
「チッ…その生意気な減らず口を二度と聞けないようにしてやる。」
また懲りずに始まる先ほどと代わり映えのない連撃…
もうすでに見切られているというのが分からないのだろうか?
しばらくはダグラスがあっちに向かったので大丈夫だろう…
もう少し体力を温存していくべきだろう。
そう考えた時のことだった。
脇目に伝令が必死に走ってきているのが見える。
「ひ…………た…で…!……ムの……う…き……!」
息も絶え絶えな様子は分かるのだが何せ遠い…
ずっと何かを叫んでいるのは分かる
しかしこっちも戦闘中だ。
他に意識を割き過ぎるのは危険だ。
「ひじょ…じた…で…!…ルムの……うげき…す!」
徐々に鮮明に聞こえるようになるがまだ分からない…
攻撃を受け流しながら耳はその声に集中する。
「非常事態…す!…ルムの襲撃で…!」
ようやく聞こえ始めた…
しかし非常事態?ダグラスが向かったのだ…大抵の事は…
「非常事態です!ガルムの襲撃です!」
……………えっ、ガルム…襲撃?
ガルムの襲撃…ガルムの襲撃…ガルムの襲撃…
頭が真っ白にリセットされ違う、何か異質な色に変えられていく…
「戦闘中に考え事とは余裕だな!」
その瞬間、ティアの手から剣が吹き飛ばされる…
しかし、ティアの思考は既に違うことに染め上げられていく…
「しかし、ガルムとはなぁここも終わりだなぁ?」
ガルム…
あまりの強さに街が総当たりで対応しなければ絶対に勝てないと言われている怪物…
街が総当たりで対応しても勝率は5分5分…
そう…決して村単位では太刀打ちできない。
遭ったら最後、隠れるか逃げるかするしか村には選択肢がない。
「まぁ俺らはアンタを殺してここの奴らが皆殺しされている隙に逃げればいいがな?」
そう得意げに話す男の前でティアは茫然と立ち尽くし一切の反応を見せない…
その様子はまるで魂を抜かれたかの様だった。
「大方、絶望のあまりお得意の減らず口も働かないってとこか…存外神に愛されし戦乙女も大したことなかったな。」
どんどんと生気と光を無くす虚ろな瞳…
ガルムの襲撃…皆殺し…ダグラスもゲイルもサラも村人も……………
ユウも……
ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ
それだけはダメだ!それは許されない!例え、王が許そうが神が許そうが私が許さない!
もう何も失いたくない!もう何も失わない!
そんな終わりは望まない!
狂い荒れる激情がティアの思考を…心を…狂気へと駆り立てる…
躊躇うことはない!
前に居るものは守るべき者か?
否!断じて否!
目の前にあるのは唾棄すべき物である!
コイツらが!コイツらがいなければ今頃は!
ユウと今日あったことを話し合い…
ユウの事をもっとよく知って…
ユウに寄り添い…
ユウと笑う…
そんな変わり映えしない…
だけど温かい日常を送っていたはずなのに!
「ここで死ね…」
その言葉と共に振り下ろされる刃…
次の瞬間にはティアは絶命するはずだった。
しかし…
「貴様がな!」
その刃は阻まれる…
ほかならぬティア自身の手によって…
口調は変わり溢れる魔力で髪が舞いあがる
あの無表情は既に跡形も残らない…
それでいて憤怒の形相さえも醜くは歪まないしかし美しく歪む…
戦乙女の如き美貌と鬼神の如き圧力
「「なっ!?」」
その手からは血が滴るが致命傷には至っていない…
男はあまりの驚きに一旦下がろうとするが片手剣はびくとも動かない…
もう一人の男がマチェットで斬り込んでこようとするが…
「刹那求望」
「「がはっ!?」」
一瞬の内に服を掴まれ投げ飛ばされる男…
信じられないという顔をする男は飛ばされてきた男にぶつかる…
しかしすぐに後ろに逃げて立て直す…
「渇望刹那」
その瞬間、男たちの視界からティアが消えた。
しかし、次の瞬間に投げられて倒れていた男は後ろから飛び掛かる大量の液体に気づく…
目の前に飛び散っていた液体は地面を赤く染め上げていた。
「ま、まさか…」
恐る恐る振り返った男の前には仲間の死体が転がっていた。
右手、左足、左手、右足、首…
明らかな惨殺
全てがあの刹那に斬り裂かれたのだろう。
断末魔の叫びさえあげることを許されなかった。
「あと一人……」
仲間の死体の先にそれは立っていた。
腹の底から響くようなその声は怒りで染まりどんな命乞いも許されない事を悟った。
そして自分がどれだけ愚かな事をしたかも…
「時間は掛けたくない…刹那求望」
それは避けて通ることのできない処刑台…
仲間と同じ姿になった男は最後の瞬間、理不尽な仕事に気付かずに安請負した自分を恨んだ。
「まってて…今行く…」
走り出したティアを阻むものはない…
村の外へとつながる道には狂える戦乙女の烈風が吹き荒れた…
正直なところ他の兵士に頼む事はそれほど多くはなかった。だが重要度はかなりのものだった。
簡単に言うならば最後のダメ押しと動きを止めると言うもの…
そこで部隊長がよってきてグリフォンとガルムの戦いを見て呟く
「そろそろ30分ですがもう少し戦えそうですねグリフォンは」
途中からは口から焔を吐き出すという技を見せ始めたガルムだがグリフォンもそれを咆哮で打ち消すというまさに互角の戦いを見せた…
「いや…そろそろです…」
「しかしまだ余裕…っ!?大丈夫ですか!?」
苦しそうな声を出すユウに気が付き気になった部隊長がユウの方を見ると…
そこには膝をつき、項垂れるユウがいた。
「この魔法…魔力もかなり消費するのですが、もう一つ体に負荷が掛かってしまうのです。」
「今まで何故それを言わなかったのですか!」
「そんなことはどうでもいいです!もう少しすればアイツの動きを止める用意を…」
奴の動きを止めることができれば!
俺があとは…
「それがまだ出来ていないのです!」
「なんだって!?」
それでは俺の作戦が!
動きを止めずに一か八かで挑戦するか?
いやそんなの成功する方がおかしい…
「どうしますか!」
ここからどうすればいい!
その時、頭の中に声が響く…
どうしようもないね―――
頭に響いたのはあの時も聞こえた声だった。
脳に染み込むようなその声は女性のものだった。
―――そんな訳ない!きっとなにか!
無いね、今のままじゃね―――
―――どういう事だ?
今、あなたにはチャンスがある―――
―――それはどこにある?
あなたのすぐそばに―――
そんなはずはないいつの間にか閉じていた目を開けるとそこはまるで別世界だった。
地面はない…あるのは教科書で見た宇宙の光景だった…
純粋な闇とそこに広がる光り輝く星々…
「ここは…」
その声は誰にも届く事はないはずだった。
「ここは私の世界。」
俺の独り言に答えたのはあの声だった。
しかし、それは頭の中で響いたのではなく背後から響いた…
思わず振り返ると…
「一応、はじめましてかな? ユウ君?」
そこには自分と同い年くらいの無邪気な少女がいた。
その姿はまるで夜空のような衣を纏い、瞳はまるで夜空に輝く星のような黄金の輝きを放っている…
そして長い髪は艶のある紫色をしていた。
既に俺の頭は今起きている様々な現象に処理が追い付いていない…
「あはは、混乱しちゃうのも無理ないか」
どうやらこっちの事は筒抜けのようだ。
まぁ悪意はなさそうだし混乱しているのが分かってくれているなら説明もしてくれるだろう
こちらは静かにして居よう…
「うーん、じゃあ取り敢えず自己紹介からね!私はステラ!星の悪魔なんだ!」
どうやらこの子は俺の頭を処理落ちさせたいらしい…
天真爛漫なのはいいが悪魔ってなんだよ!俺は悪魔信者じゃないから分からんぞ
「まぁ簡単にいうなら私達は人間と契約を結ぶの…人間の何かを代償に力を与えるってね?」
もしかして命と引き換えにってことか?
たしか似たような話が…
「そうそう!ファウスト伝説のメフィストフェレスが有名だね!だけど少しこれは違うの…私が求めるのはあなたの感情。」
…魂じゃないとしても感情か…
少し躊躇ってしまう。
「ずっと奪い続ける訳じゃないんだよ?あなたがより強い力を求める時、いくつかの感情を私が食べるの!当然、力を使い終わればあなたに感情は返すよ!」
「契約については大体理解できた。」
まだ状況に戸惑ってはいるが契約については理解ができてきた…
「一応、仮契約としてあなたの願いを3つ叶えて力も一度貸しているわ。」
「そうなのか?」
それが本当だとすれば俺はステラに大きな恩があることになる…
例え、それが悪魔でも恩は返すのが当然だ。
「この場で私とあなたは嘘をつく事は出来ないの、本当だよ?」
「分かった。何をしてくれたの?」
信じていない訳ではない
ただ、純粋に何をしてくれたのを知りたくなった。
「それは言えないの…だけど信じて!嘘はついていないの!」
「ふぅ~分かった。信じる…」
「ほえ?いいの?」
気の抜けた声を出すステラ
信じてと言ったのはステラだろうに
それに…
「まずは自分から信じないといい信頼関係は結べないでしょ?」
「やっぱりユウを選んで正解だよ!当然、契約してくれるよね!」
そう言われると少し照れる…
それに契約についてはもっと前から決めていた。
「あぁ、頼む。どうやって契約するんだ?」
また、血を飲むとか紋章がなんとかってパターンかな?
少し気が滅入るがやってやれない事はない…
「ん?あぁ説明してなかったね口づけだよ?」
そうか、口づけか…
別に血を出さなくても紋章がどうのこうのって訳じゃ…
「あぁ口づけね……はぁあ!?口づけ!?」
「知らないの?キスだよ!接吻だよ!人工呼吸だよ!」
「知ってるよ!ってか最後のは違うだろ!」
最後のは救命活動だろうが!
大体、こういうのは…
「もう!そんな事はどうでもいいんだよ!」
どうでもよくない!
断じてどうでもいいことではない!
「だがな…、そう言うのは好きな者同士でやるもんな…」
「あぁ!じれったい!私の事嫌いなの?どうなの?」
そんな逢ったばかりでそんな……
確かにかわいいけれどもキスをする事によって伴う責任だったり……
「いや、嫌いじゃない、けど…」
「なら良し!ん~~…」
そういって目を閉じ唇を近づけてくるステラ…
思わずドキッとしてしまい、動きが遅れる…
「おい!ま……ッ!?」
そして喋ろうとする口をステラは唇で優しく重ねて阻む…
「これで契約完了!これからよろしくね?」
その無邪気な笑顔で契約完了を告げるとその前の視界が白く染まりあがる。




