第14話
私は剣を振るい跳びかかるゴブリンとハウンドを悉く斬り殺していく。
絶え間なく襲い来る魔物…
全て強いものではないが数が圧倒的だった。
しかし、それも永遠ではない。
「徐々に勢いが落ちてきています。」
誰に言うでもなく呟いたその声は確かな事実だった。
先ほどまでは刹那求望を使わないと援護に向かえない場面も多々あったが今では若干の余裕を持って援護に迎える状況になっている。
「ユウはどこに向かったのでしょうか?」
余裕ができたことで先ほど村に向かったユウについて考えていた。
ユウのことからして逃げたとは考えずらい…
何かの理由があってのことだろう
ユウはこの魔物の襲撃が人為的なものじゃないかと言っていた。
しかも相手はかなりの強敵かもしれない…
もしそうなら私とダグラスが出ないといけない。
ユウを行かせるというのはない
立場とかではなく彼は恐らく…いや確実に殺しの経験がない
恐らく自分の手で殺すとなれば魔物が相手でも躊躇うだろう。
だから彼は送れない…
「御嬢!これが誰かの仕業ってのは本当か!?」
どうやらユウとの話を聞いていたようだ。
あいも変わらず大きな剣を軽々と振り回すダグラス…
まだ本気を出していないところを見る限りダグラスもまだ余裕があるのだろう
「まだ、確信はできませんがその確率が非常に高いです。」
「もしかしてベルナンド侯爵の差し金か?」
「まだわかりません…」
こう答えているがほぼ確実にベルナンド侯爵の仕業であろうと目星をつけていた。
私たちを排除したがっているのはシンフィールド家にあの罪をなすりつけたベルナンド侯爵で間違いない
奴らが言ったことで周りもその言葉に便乗するか脅迫されシンフィールドの地位は落ちた。
「あんまり怖い顔すんなよ。ユウが来たことでせっかくいい表情が見れるようになってきたというのにそんな顔してたらユウに怖がられるぞ?」
そんなに怖い顔をしていたのでしょうか?
ユウに怖がられるのは少し嫌です…
「怖がられるのでしょうか?」
「あぁ、復讐のことを考えてる御嬢の顔みたらきっと怖がるぞ?」
もう少し気をつけないとダメですね…
そんなことを考えているとこちらに伝令の兵士が来た。
「村の中で不審な集団を発見しました。」
「分かりました。ダグラスは不審な集団を頼みます!」
「分かった!だが俺が全員相手にして勝てるか分からんぞ!」
「大丈夫です。私もあとから追います。」
ダグラスは周囲の魔物を一気に倒すとその兵士と村に走って行った。
さっきはああ言ったもののここが一般の兵士たちでも持たせれるほどに戦線が安定しないとあっちには向かえない…どうしたものか
戦線に戻るとそこでは派手に暴れていたダグラスが居なかった。
さっき報告があった不審者の元に向かったのだろう…
だが、ダグラスだけで大丈夫だろうか?
そこで目に入ったのはダグラスにかわり戦神と化すティアだった。
「ティア!大丈夫?」
「ユウ…私は怖いのでしょうか?」
えっ?ティアは何を言っているのだろうか?
こんな事を言えると言う事は何も危険な事はなかったようだが変な事は起こっていたようだ。
「どうしたの?ティアは怖くなんてないけど…」
「ならいいのです。」
どうしてだろうティアが安心している…
訳が分からない…
ってか!それどころじゃない!
「そんな話をしている場合じゃないよティア!」
「私にとっては結構大事なのですが…」
ティアがなにか言っているようだが俺には聞こえない
そして聞こえない話には返事できないのだ。
「ダグラスと一緒に村の中にいる奴らの所にティアは行った方がいい!」
「しかしここの戦線が安定していません。私が抜ければ打開されかねない。」
あぁ確かにそうだ。
だけど…
「俺がいる!俺が戦線を支える!だから行ってくれ!もしかすると村の人たちが襲われるかも知れない」
「ユウ………分かりました。ユウを信じます。」
「おう!信じろ!」
ティアは信じると言って村に向かって行った。
さぁここからが正念場だ。
「失楽園!」
俺は呼び出した馬に戻ってもらい自分の周囲にキングエイプを呼び出す。
これで俺の周囲に魔物が近づく事は出来ないだろう。
「失楽園!」
そしてゴーレムも量を増やしていく
ここからは俺の魔力が先に尽きるか魔物が先に尽きるか
劇的な事は起こらない…どちらが先に尽きるかの消耗戦…
「番狂わせが起こらなかったらの話だったんだが」
そう俺やティアが同様にして抱える嫌な予感…
起こらないようにと祈るが…
「グルルルゥゥゥゥ………」
嫌な予感とはえてして当たるもの…
その唸り声には聞き覚えがあった。
この世界に俺が現れたその日、俺を追いかけてきたあの狼…
やはりそう離れた場所じゃなかったわけだ…
この騒がしさとむせかえるほど濃厚な血の香りが奴を呼び寄せたのだろう…
あのときはよく見えなかったが今ならよくわかる…
その巨躯は木を薙ぎ倒して森から現れた…
その体は漆黒に身を隠す為の真っ黒な体毛に覆われ口からは獰猛な牙が覗く…
足にはそれこそ大木を軽く薙ぎ倒せる程の力があり鋭い爪は頑丈な鎧さえもいとも容易く斬り裂くだろう程の鋭さがあった。
不幸中の幸いと言うべきかあまりにも強い存在によりその狼以外の魔物は闘争の酔いから醒め壊走を始める…
そして兵士たちもその魔物に気付く…
「おい…あれって」
「ガルムじゃねぇか…」
どうやらあの魔物は人気者らしい
あまりの強敵に兵士たちも戦意が萎縮しているさまがまじまじと伝わってくる…
しかし戦うしか道はない!
まずは、標的を俺に絞らせないと!
俺は展開していたゴーレムとキングエイプに戻ってもらう
「失楽園!」
呼び出したのはグリフォンだった。
(頼む…今はお前が頼りだ!)
(そこまで言われれば負ける訳にはいきませぬな)
今は彼が頼り綱だ。
ここでコイツを消耗させればさせるほど俺の切り札が成功する確率が上がる…
グリフォンはそのスピードと力を生かし上空から体当たりを何度も食らわせるがやはりどれも致命傷足りえる傷ではない…
ガルムも飛んできた瞬間に前足で叩き落とそうとするがグリフォンのスピードに圧倒されどれも空しく空を舞う…
その隙に兵士たちはなんとか戦意をもちなおす。
「何をぼさっとしている貴様ら!ユウ殿のグリフォンが戦っている間に伝令はこの事をティア様たちに伝えろ!負傷した者は今のうちに下がれ!動ける者は武器を槍に変え鍛冶屋の弩穹を借りて来い!」
持ち直したはいいが今の指示で分かったのがゴレアスさんは武器ならなんでも造るようだ…
弩穹なんて持っているとは…
指示を受けた者たちは迅速に動き始めた。
その中でも指示をだした部隊長らしき男がこちらに来る。
「まずは礼を言いたい。貴殿のおかげで全員が動けるようになった。」
「礼を言うのはまだ早いよ。生きて帰ってからそれは聞くよ。」
「そうだな。してどのくらい持つ?」
どうやらグリフォンだけでは勝つことはできないと分かっているみたいだ。
なかなかに鋭い洞察力をお持ちのようだ…
「30分は持つ…」
「作戦はあるのですかな?」
「あるにはある…」
だが成功する保証はない
正直、作戦なんて言えるような高尚なもんじゃない…
「ではそれで行きましょう!」
「いいの?こんな男にまかせて?」
戦闘経験なんてほとんどないし
自信もない…
そんな男に任せていいのだろうか
「恥ずかしながら我々にはもう打つ手がありません。精々、弩穹で傷を負わせるのがやっと…あなたがいなければ既に全員あの世行きですよ…しかし、我々は生きている…ならば最後の一瞬まで領民を守るためになら藁にでもすがります!」
かっこいいな隊長さん
彼の様ないい人たちが集まりティアという希望を支えているんだな…
なら藁は藁なりに頑張りますか…
「…分かりました!作戦は………」
そうしてここにシンフィールド家によるガルム討伐戦が行われる…
その頃、街の中では一人走る人影があった。
自分の村で暴れる不届き者を倒そうと現場に向かうティアは戦場のユウの事が気がかりだった。
あの状況では私もいち早く行かなければならなかった。
魔物の量からしてもユウが居れば取り敢えずは持つであろう状況だった。
しかし、嫌な予感がするのだ…
その予感が収まる事はなく止めどなく不安な気持ちがあふれてくる。
だが、私は信じると言った。
世界の誰が彼を信じなかったとしても私だけは絶対に信じなければならない…
この不安はユウへの不信に他ならない…
だからこの気持ちは嘘だと言って私は不安を押し殺していった。
しばらくするとそれはすぐに目に飛び込んできた…
兵士たちとダグラスとゲイルが不審者の集団と戦闘を開始していた…
敵の数は5人…
「おいおい手ごたえがねぇなぁ」
「シンフィールド家は先鋭揃いと聞いたがデマみてぇだな」
「こんなんじゃ前当主も戦争でヘマやらかすのも道理だな」
こちらが8人なのに戦況は膠着している
敵のうち二人はそれなりに強いようだ
他の3人は並み…
手を抜いているようにさえ見える。
「ダグラス…何をやっているのですか?」
「おいおい御嬢なかなかに手厳しいな」
そう相手も手を抜いているがダグラスも手を抜いているのだ…
「今は一秒たりとも無駄に出来ないのですから…それに父と母を…そして父と母が残したシンフィールド家を貶めるもの全てに容赦は要りません」
「だが捕縛した方がいいだろう?」
どうやらダグラスなりに考えていたようですが
相手は所詮下っ端…
「下っ端の知っている事なんて知れています。」
「それもそうか…」
「おいおい随分なこと言ってくれんじゃねぇか嬢ちゃん?」
集団の中で二番目に強い男が話に割り込んできた…
挑発のつもりなのだろうか?
「全て事実を口にしただけです。」
「ふ~んコイツが現当主か…あの超越者達の宴の序列5位神に愛されし戦乙女で有名な…」
超越者たちの宴…
この国における最強の集いのことだ。
確か今は11位まであったはず…何故か去年は5人ほど増えるという大増員が起きている。
しかし、全員が相応しい力を持っていた。
まぁ私は今、出席停止処分でいずれ席を消されるでしょうが
「所詮、その名もあなた達の依頼主がいずれ剥奪させようとしようとしている物ですが」
「まぁいい俺らは依頼をこなすだけだ。あんたを殺すっていう依頼をな?」
「ゲイル、兵士を連れて魔物の対処に行ってください。」
この場は2人で十分そうだ。
だからゲイルにはユウの援護に行ってもらう
「分かりました。御無理はなさらないよう気をつけてください。行くぞお前ら!続け!」
「へぇ…随分舐められてるみたいだな…」
「これでも過剰な戦力だと思うのですが?」
「んだと?ゴラァ!」
後ろの並みの強さの方がこんな安い挑発に乗るとは…
ダグラスで十分ですね。
「並み3人は任せます。前の2人は私がやります。」
「つれないこというなよ御嬢?片方くらいくれてもいいじゃねぇか」
ダグラスの悪い癖が出てしまう…
これが無ければ戦闘面では完璧なんですが…
「その戦闘狂は治らないのですか?ダメです。」
「仕方ない…さっさと倒してユウのとこ行くか…」
「最初からそうしてればいいのです。」
「おい!無視してんじゃねぇ!」
あの2人は分を弁えているのか既に神経を研ぎ澄ましている。
どうやらマチェットと片手剣が武器のようだ。
先手は二番目に強い男が取った。
どうやら風を操るようだ。
自分の動きを風でアシストしている。
同時に私の動きも風で阻害しようとしてくるが所詮は少しの風…
振りかざされたマチェットは空を斬る…
しかし私が避けた先には鋭い岩の弾丸が飛んでくる。
避けれないと判断した私は弾丸を弾く
そして生まれた隙に片手剣で斬りこみに来る…
まさに2人のコンビネーションは後先考えない怒涛の連撃だった。
だが全てが避けるか弾くか出来るほどのものでしかない。
ダグラスの方も並みの三人の連携は案外強いらしく瞬殺には至っていない。
だが優勢な事に変わりはない…このまま、相手の消耗した隙を待てば温存したままユウの元へと行ける…
そんな考えをしていることを私はすぐに後悔することになった。




