第13話
「「引き分け!?」」
あのあと医務室に運ばれ落ちていた契約書に書かれていた勝敗は引き分けといういい加減な終わり方だった。
あれだけ激しく戦い抜いて落ち着いて話をするために一時間ほど掛けなければならない程の激戦だった。
「そんなことあるの?」
俺は契約書自体を今回初めて知った…
どうやら勝敗まで記してくれるようなのだが…
「聞いたことが無いですが…今、目の前で起きている事を信じない訳にはいかないでしょう?」
まぁそれもそうだよな…
信じる信じないの前に事実、起きている事なのだから…
「これって勝利報酬の命令権はどうなるの?」
この場合、どちらもなしなのか?それともどちらもありなのか?
「どちらにも与える…と書いてあります。」
つまりどちらにも命令権が付与されるということか…
まぁ特に命令権を何かに使おうとは考えていなかったのでどちらでも良かったのだが
しかし何を命令すればいいのか…
「取り敢えずは安静にしてましょう。私が看病します。」
っておいおい領主自ら看病とか…
そんなんでいいのかティア
まぁ嬉しいことに変わりはないので追い返しはしないが…
「いいのか?俺が医務室使って?」
ここでは多くの患者がいたはず…
それなのにティア以外誰一人としてここにはいない
それの元凶である俺が使って兵士たちの回復が遅れれば
「大丈夫ですよ。ここにいた兵士たちは全員回復して既に訓練に励んでいます。」
なんというタフさ……
流石、ティアの兵士たちだな
「タフだなぁ…手加減したつもりは無いんだけど」
「まぁ鍛えてますから」
当然、鍛えていない俺は無理して体がボロボロ倒れてこそいないがすぐに医務室に運ばれた。
そしてお見舞いのつもりなのかサラさんがすぐそばにはフルーツの盛り合わせが置いていった。
まぁ色々と慌ただしい時だったのでサラさんもすぐにどこかに行き、俺もお礼を言えなかった。
あとでお礼をいわないと…
「これ剥きましょうか?」
俺がそのフルーツの盛り合わせを見ていたのを見てティアが林檎を剥こうかと気を利かしてくれた。
「ありがとう。頼むよ」
ここは御言葉に甘えるとしよう
ティアはナイフを取りだし林檎を綺麗に剥き始める…
「貴方は命令権を何に使うのですか?」
黙々と作業を続けるティアが唐突に訊いてきた。
特に何かに使う気はなかったのだが。
「なんでもいいのですよ?」
はぁ…なんでもと言われても…
特にティアに望んでいることはないし現状に満足している俺には何も思い付かなかった。
「特にないかな…現状に満足してるし」
「本当にいいのですか?なんでもいいのですよ?」
「んー…じゃあ……俺を嫌いにならないで欲しい…くらい?」
我ながら少し女々しすぎるのじゃないかと思ってしまう…
しかも前もって聞いていた通りに手元にあった契約書に向かって言ったので俺はもう命令権を使いきった事になる
「はぁ…無欲と言うか可愛いと言うか私は元よりユウの事を嫌いになるはずがないのに」
「まぁいいでしょ?もう使ったし、やり直しは効かないんでしょ?そう言うティアはどうなのさ」
無理やり話をそらしたが俺の記憶が正しければ
答えは一つしかないだろうが…
「今回使った。あなたの魔法についての説明を求めます。」
命令権を使ったティア…
別に聞かれて不快なことは一つもないのだが…
「いいよ、どこから聞く?」
「まずはあの仲間であるはずの味方に剣を抜いた兵士についてです。」
「取り敢えず、前提条件としてまず謝っておかないといけないことがある」
「なんですか?謝らないとダメな事って?」
「俺は嘘をついていた。ティアにした魔法の説明は嘘だ…本当は“俺の想像上の意思を持ったもの”をこちらに呼び出す事ができる魔法だ。」
俺が謝らないといけない
子供でも分かるルールだ。
俺はティアを信じなかったのだ
「それは物凄い魔法ですね…召喚系と想像系の魔法を混ぜたような魔法ですか…それならあのゴーレムも納得いきます。」
「えっ怒らないの?」
嘘をついていたのだ。
怒られて当然なのに…
「あなたが嫌いにならないでと命令したのでしょう?それにそうやすやすと本当の事を言っては騙されたりしないか心配になります。」
ティアの言っていることは確かな事実でそして心配しているというのが伝わってくるほど温かい言葉だった。
今のティアの言葉だがこれはさっきの命令は一切干渉していない
干渉がある時は目に見えて分かるのだ。
しかし、ユウはまだそれを知らない
「ではあの仲間に剣を抜いた兵士も魔物ですか?」
「あぁ前もって何人かを対象になりきるドッペルゲンガーという魔物と入れ替わらせていたんだよ」
今回のように対集団戦にはかなり重宝することになるだろう
まぁ今回は仕込みがうまくいったからこそ成功したんだけどね
「見破る方法はないのですか?」
「あくまでもなりきれるのは姿だけ…声は出させないし記憶もないから話しかければすぐに分かるよ」
そう一歩行動を間違えれば正体を怪しまれる
声を真似て記憶も真似できればもっと強いんだが…
「元の兵士たちは?」
「少し気を失わせただけだからもう少しで帰ってくるはずだよ?」
まぁみんなタフだし特に拘束もしていないのでじきに戻ってくるだろう
「なら安心です。そういえばどうやって最後ダグラスに気付かれず屋敷に入ったのですか?」
「ゲイルさんたちに変装しました。」
実際あれは緊張した。声は俺が担当しないとダメだし
ドッペルゲンガーたちは喋らないから怪しまれるかと思ったがみんな仲間思いなようですぐに医務室に運んでくれた。
「じゃあ本物のゲイルたちは…」
「ドッペルゲンガーが入れ替わった人たちと同じ場所に送ったから一緒に帰ってくるはず」
「じゃあ最後のあの魔剣については」
どうやらここからが本題の様だ
「話さないとダメ?」
「これだけはダメです。」
どうやら見逃してはくれなさそうだ…
心配かけるからこれはあまり言いたくないのだけど
そこから俺は憑依によって自分が受けるダメージから自分が得る能力についてまで説明した。
「これから祢々切丸の使用を禁じます。」
それじゃあせっかくの憑依が使えない…
それを訴えようとしたのだが
「それだと憑依が使えな…」
「禁じます。」
そこには有無を言わせぬ迫力があった。
仕方ないか…従うとしよう
「分かった…」
「ならいいのです。」
もうそこにはあの迫力は無かったが
祢々切丸は使う機会はなくなるだろうな…
だけどあれは使う機会がないほうがいいのかもしれない…
「あぁそうだ試験についてなんですが…」
あっそうだ……
だけど相討ちになってしまったし
そんなネガティブな事を考えていると……
突然、太鼓の音が鳴り響く
しかも音はだんだんと連鎖的に増えていく
「これは!?」
「これは…敵襲の合図…」
敵襲!?しかし何の襲撃?
まさか…魔物?
そんな考えを張り巡らせていると廊下を走る音が近付いて来てその音は荒々しいノックに変わる
「入ってください」
入ってきた兵士は息も絶え絶えな様子で報告を始める
「はぁ…はぁ…報告…しま…す。魔物の…襲撃です……」
「戦えない者の避難を始めてください」
すぐに兵士は息を整えテキパキと応えはじめる。
しかし魔物の襲撃…タイミングが
「現在、教会に誘導中です。」
「戦闘はどうなっているのですか?」
「今は、ダグラス様が30人を率いて戦闘中です。」
「すぐに向かいます。」
普通なら領主自らは出陣しないが唯でさえ戦力が足りるか分からないのだ。
一番強いティアが出るのは道理と言えた…
「俺もついていく」
だから戦える俺が出るのも道理と言える
「ダメです。まだ魔力、ましてや体も回復していないじゃないですか」
「今はまだ正式にはティアの部下じゃない。だから命令に従わなくてもいいはず」
俺はまだティア以外には認められていないのだから
正式に部下とは言いがたい
「ですが…」
まだ拒もうとするか!
もう分からず屋にはこれしかない
「行くって行ったら行く!」
こっちも分からず屋でいくしかない
「はぁ…わかりました…ですが無理は禁物ですよ?」
「分かってる。祢々切丸は使わない」
そうして俺たちは魔物が来た北側の門に向かうのだった。
しかし俺はティアの言う通り体も少し回復しているだけで憑依何てすれば身体中から血が吹き出るだろう
それに魔力も半分以下だ。これでは役にたつか分からない…だけど雑用でも囮でもなんでもやる。
少しでも必要にされたいから…
普通なら夜も明けて爽やかな朝を迎えているであろうその頃…
そこは修羅場だった。
剣戟の音と魔物の叫びで満ち溢れ、飛び散る血が誰のものかさえ分からない
生者は必死に生きるため屍を越え剣を振るい槍を突き牙を剥き爪をたてる…
敗者にあるのは惨たらしい死にのみ
ざっと見ただけでハウンド、ゴブリンの魔物が確認できた。
その数はかなりのものでダグラスがどれだけ剣を振るっても一向に目に見えて減る様子を見せない
「っ!御嬢とユウか!?」
どうやらダグラスは俺たちにすぐ気付いたようだ。
しかし、魔物の相手で手一杯のようだ。
「あぁ!応援に来たぞ!」
声を張り上げないと一瞬のうちに剣戟や断末魔の叫び声に掻き消される
ちゃんと応援に来た事を伝えないと…
「おぉ、その声はユウだな!だがゆっくりもてなす時間はない!すぐに加勢してくれ!」
「分かった!失楽園」
俺はその後も失楽園を連続で唱えゴーレムを呼び出していく…
しかしそれほど多くは出せなかった…やはり魔力を回復しなければ
(兵達の援護に行ってくれ)
しかし、動けない俺を見て好機と思った魔物たちが飛びかかってくる…
だが…
「刹那求望」
その牙は、その爪は俺には届かない
その全てが届く前に断たれるが故に…
「ありがとう…ティア」
「どういたしまして…ユウ」
これで心おきなく指示が出せる
あれだけ強いティアがいる。刃を交えたからこそ信頼できる!
「野郎共!御嬢とあのユウが前でてんだ!おめぇらも気合みせろや!」
「「「おぉよ!」」」
士気は最高潮に達していた。
その中俺は一つ考えていた。
この兵たちが疲弊しきっているだろうタイミングで何故魔物が襲ってきたのか?
まず、前提として魔物が戦略を建てることはない。
そしてここ何年も魔物の襲撃はなかった。
それなのにこの見計らったかのようなタイミング
俺たちがあの戦いをすることは当然、村のあらゆる所に広めたが魔物にそれが分かるはずがない…
では、人の介入があったのか?
ここにこんな事をして得をする者といえば?
領土欲のある他国?
いや…それならもっとやりようはあるだろうしどちらかと言えばこんな事を他国の者がやったとばれれば、各国から顰蹙を買いかねないし逆に侵略の大義名分にもされかねない。
他の貴族?
これが一番濃い線かもしれない…ティアを消したいと考える貴族がいてもおかしくはない。
だが貴族はなかなか直接攻撃に来ることはない。
だから、誰かを通じてそれがこれを誘導しているのではないか?
なら誰が通じているんだ?
もしこの村の者ならリスキーに過ぎると思うのだ…
だから俺はこの村の外部の者による犯行じゃないかと思うのだが…
例えば、裏の仕事の者たち…もしくは賊…
しかし、ここは村だ。
違和感なく潜入するのは、至難の業だろう
思い出せ…!
俺は何度か村を通り森に訓練をしに行っているし上空からここら一帯を見ている。
どこかにおかしな奴は居なかったか?
鍛冶屋のドワーフ…服屋の女性…見張りの門番…猟師の集団…
猟師の集団…?
そう言えばあの時以来姿を見ていない…
この場でも彼らの姿は見えない…
だが魔物のいる森で狩りをするほどなのだ。この場に来て戦わないなんておかしい…
それにあの集団であれほど森の奥に行けば絶対に魔物の異常について俺より先に気付いているはず…
「ティア!この村にいる猟師は何人!」
「一人です!それがどうかしたのですか?」
突然の問いに戸惑いながらも答えるティア。
しかし、この情報が正しければあの猟師らしき集団はこの村の人間じゃない確率が高い!
そして、あの時見かけた猟師らしき集団が魔物にここを襲わせている可能性が高い。
「ティア!これは人為的な襲撃かもしれない!」
「どういうことですか!?」
俺の言葉にさらに戸惑うティア
まぁ無理もないだろうあの集団を目撃したのは俺だけの可能性が高い。
「この襲撃はタイミングが良すぎる!それについ最近、森の奥で集団を見かけた!」
「それは本当ですか!」
「もしかしたら、その集団が別働隊として動くかもしれない!」
「ではゲイルたちに探させましょう!」
俺も彼女にも探してもらうとしよう
お礼も言わないとだしね。
「失楽園!」
呼び出したのはさっきの戦いで一番頑張ってくれた飛鳥だ。
(あの時はありがとな)
あの戦いでも数多くの情報と勇気をくれ
最後にティアの手を阻んでくれたのは飛鳥だった。
(引き分けという残念な結果でしたが…)
(確かに引き分けだけど飛鳥がいなければ負けていた。他の誰でもなく飛鳥がいたからこそあそこまで頑張れたんだ)
少し落ち込んでいるようだが飛鳥は何も悪くはなかったんだ。
あれは俺が戦いに慣れていないが故に犯した失敗だ。
(ありがとうございます…今回こそは絶対に勝利を!)
(あぁ、頼んだ!)
どうやら頼みは分かってくれているようだ。
俺から指示を聞く前に村の方に飛び立つ飛鳥…これが以心伝心というやつなんだろう
だがまだもう一つ懸念がある。
しかしこれはもう祈るしかない…
「しかし、どうやって敵は魔物にここを襲わせたのでしょうか?」
「それは魔法を使ったか何かしらの手段で魔物の恨みでも買ってここに来るように誘導したんじゃない?」
「だとすればかなりの腕ですね…」
そうなのだ魔物を操る魔法なんてそうそうもっている者はいないし
この魔物の群れから恨みを買って逃げるなんてそれだけで凄腕と分かる…
「もしかしたら私とダグラスが出ないとダメになるかも知れません…」
「そうはならないことを祈るばかりだよ…」
そうなるとかなり厳しい…
今、戦線が安定しているのはティアとダグラスの力が大きい…
俺は既に消耗しているし普通の兵士たちでここを守りきれるかどうか…
「嫌な予感がするのです。この群れも他種族で協力していますし油断はできません。」
確かに嫌な予感はするのだが今できる事はここにいる魔物を倒す事だけ…
戦場を注意深く観察しようとするとある光景が目に入る
「どけ!ワシも戦えるわい!」
「ダメです!あなたは鍛冶屋でしょう!」
村で会ったあの鍛冶屋のゴレアスさんが避難を促す兵士を無視して戦場に加わろうとしていたのだ。
なんとも頑固なドワーフだ…
そうだ!もしかしたらあれを持っているかも知れない…
俺は馬を呼び出しそれに乗ってゴレアスさんの元に向かった。
「ゴレアスさん!」
「あぁ?あの時の小僧じゃねぇか何の用だ!」
どうやら覚えてくれていたみたいだ。
「オメェ誰だ?」から始めることにはならなさそうだ
「ある物を持っているかと思ったので、来たのですけど」
「今はそれどころじゃねぇだろうが!」
「いえ!ティアとダグラスがいれば大丈夫です!俺もゴーレムを残して行きます!」
それだけあれば場はまだ持つはずだ。
ゴーレムも残して行くので異常があればすぐに対応できる。
「だがそこまで急いで何が欲しいんだ?」
「それは……………」
その声は周りの声に掻き消されてしまう
しかしゴレアスには聞こえていたようだ。
「あるにはあるが何故今欲しい?」
「起こるかもしれない最悪の事態の為に」
それだけは起こしてはいけない
だから備える…しかしそれさえも効くかは分からない
「……いいだろう。ついてこい」
どうやら分かってくれたようだ。
ゴレアスと鍛冶屋に向かった。
鍛冶屋に着くとすぐにゴレアスは中に入り頼んだものを手渡してきた。
「金はいらねぇ…だが生きて帰ってこい」
「死ぬために戦うじゃありません」
「生意気な事言うじゃねぇか。これを持っていけ」
そう言って渡されたのは小さなボールのような物だった。
「それは煙玉だ。催涙効果があるから目くらましには最適だ。」
「武器を売る者が渡すようなものじゃないと思うけど…」
「お前にはいい武器よりこっちの方が生きて帰ってくる為に必要だろう」
口は悪いが俺のことをきづかってくれる。
じいちゃんが居たらこんな感じなのだろうか?
「……ありがとう…いってきます。」
そう言って俺は戦場に馬を走らせた。




