第12話
今のところ、作戦はどうやら順調に進んでいるようだが
ここから先が問題なんだ…
今はゴーレムたちが優勢だが。ずっとダグラスを抑えることだって簡単に出来る事じゃない。
恐らくそう掛からない内にダグラスに全員倒されるだろう。
しかしその間、彼らの関心はゴーレムたちに向いている。
ならば今のうちに旗の位置を探らせてもらうとしよう
「共有化!」
共有するのは前もって仕込んでおいた小動物たちの視覚
彼らの身軽さとその小さな体を生かして潜入してもらう
あてはない、しらみつぶしに探すほかないだろう。
扉がある場所も器用に開けていく動物たち…
当然、しらみつぶしで捜索をしているので警備の兵士とも遭遇するがいたずら好きな動物としか思っていない。
まぁ普通の動物を召喚出来るとは思っていないだろう。
ましてやこの動物が俺の偵察部隊だなんて夢にも思っていないだろう。
さすがに巡回している兵には不審に思われたが大した邪魔はされなかった。
だがなかなか見つからない…
探していないのはティアの部屋と鍵のかかった部屋…
声も聞く事ができれば盗聴でもう少し情報を集められるのだが共有化ではそこまでできない
ならば実際に見るしかないのだがティアの部屋に入るのは流石に気づかれてしまうかもしれない
鍵のついた部屋など小動物たちが入れるわけがない
恐らくここにあるだろう…
鍵のついた部屋…しかし鍵を探すなんてやっている暇はない
中で何があるかは分からない…
もしかしたら大量の兵士たちが待ち構えているかも知れない
凶悪な罠が仕掛けてあるかもしれない
だけど最後の最後で運任せというのもいいかもしれない
もしはずれなら…
すでに周りには夜の帳が下りていた。
もう勝負も中盤戦が終わろうという頃合い…
謎の裏切り者たち…弱点を補われていたゴーレム…
この二つはダグラスが2体目のゴーレムをちょうど倒したところですべて光とともに消えたらしい
何故消えたのかはいまだ謎だが消えるまでに既に外の警備していたメンバーはダグラスを除き10人ほどまでに戦える者が減っていた…
恐らくこの様子だとゲイルもユウの掌の上なのだろう…
私達は相手を侮っていた。
最初から受身の作戦で行けば有利の勝負でわざわざ捜索隊を出したのだから
それなのに早く決着をつけようとしすぎた。
「報告です!捜索に向かった部隊は全滅!ゲイル様も戦闘不能です!」
やっぱり手の内だったようだ。
ゲイルは参謀ではあるが特筆して強いわけではない
どちらかと言うと専門は内政よりなのだ。
少なくとも一般の兵より少し強いだけ…
どうやらこれはユウにはすでにばれていたようだ。
「現在は、屋敷内に運ばれ療養中です。」
既に半数近くがまともに戦えない状況…
命を奪おうという行動はユウに見られない為それほど重症な者はいないが回復した者は大事をとって今回の戦いからは負傷者は外れてもらっている
「屋敷内に居た者たちを集めなさい。」
私はそろそろ起こるであろう最後の戦いの為に準備をしよう…
今、俺は屋敷の通路を狼とゴーレムともに歩いていた。
普通ならこんな悠々と敵地である屋敷の廊下で歩いているのはあり得ない…
しかし警備が少ないのだ。屋敷内で5人程度…
屋敷外ではダグラスと4人程度…
勝利条件…
1、ダグラスを倒す
2、ティアを倒す
3、旗を手にする
1と2は達成が困難だ。
しかし最初はダグラスを倒す予定だったのだ。
なんとか孤立させた上でグリフォンなり数で押すなりして倒そうと思ったのだが…
既に孤立しているに等しいのだ。
だがこんなにも簡単にいくだろうか?
普通なら旗のある部屋に集まるはずだろう…
何故、自ら孤立した?
そういえばティアは?
部屋の様子を飛鳥に聞くとしよう…
(おーい、あすかー聞こえるかー?)
(声とは違うのですから聞こえていますよ…)
あきれたような声が頭に直接響く
実際には飛鳥の意思が頭に流れてきているだけでどちらも口すら開いていない
しかし本当に会話している時の感覚と大差ないのだ。
(そういえばそうだった…)
(ずっと私が敵の位置を上空から伝える為に話していたのに忘れるはずがないでしょう)
そうこの戦いで俺が今まで倒されていないのは飛鳥を通じて上空から敵を観察できるからだ。
だからここまで戦況をいいように操れた。
戦いは情報が命と言うが本当にそうだと実感できる。
まるで解き方を書いているテストのようなもの
俺の戦闘経験なんて彼らに比べれば無いに等しいのにも関わらずここまで来れた…
(いやいやあまりにも違和感がないもんだから馴染んじゃって)
(それで、今回はティアさんの部屋の様子見ですか?)
(あぁこっちが未防備になるから視覚の共有はしない。どうなっているかを教えてくれればそれでいい)
(分かりました。)
ティアは今回の勝負で一番警戒しなければならない
ダグラスの周囲にティアがいたならば俺が倒されるのは確実だろう
いや、ティアだけにでも見つかった時点で時間の問題…
(ティアさんの部屋には誰も居ませんでした。)
(まぁそうだよな…ダグラスの周囲にも居なかったんだろう?)
(はい、それらしき人は見かけませんでした。)
ティアの居場所の候補は二つ…
一つ目は鍵の掛っていた扉の向こう側…
二つ目はダグラスの周辺に息を潜めている…
(全く…ティアは何を考えているのか…)
分からない…どれを選んでもティアという不安要素が残る
情報が足りなくなった瞬間、今まで歩いていた足場が突然消えてしまったかのような不安感さえ覚える…
(もし鍵のかかった部屋の中に旗があればティア様が居たとしても勝ち目があります…)
(手に入れれば勝ちだから俺が旗を握ったその瞬間、勝ちだもんな)
(しかし…)
(俺にとっては超高難度だな)
グリフォンなどの強力な者を呼び出せば俺は動けなくなる…
守りに徹すれば夜が明ける…
旗に向かって走ってもティアにすればそんなことどうにでも出来るだろう…
(……はい)
(ダグラスの方に向かってもティアがいれば負け…扉の向こうに旗が無くティアがいれば負け…)
(残念ながら…私にはこれ以上、打つ手が思いつきません)
(俺もだ…)
やれる事はやった。
だから…
(だからここからは運任せだ!)
(うふふっ…そうですね。どっちにいきます?)
なんだか飛鳥も楽しそうだ。
こうでなくちゃな!せっかくの夜更かしだ。
肝試しで恐怖に震えるのもいいがまずは楽しまないと!
(ネコ耳のおっさんの所か開かずの間か~…聞くまでもないと思うんだけど?)
(肝試しなら前者の方が怖いと思うのですが?)
必死に笑いを堪えた声で言われても説得力が無いんだけど
(冗談はよしてくれそんなの見たら恐怖のあまり泣いてしまう。少し怖いくらいがちょうどいいんだよ)
(私としては恐怖のあまり泣いてしまうユウの姿をしっかりと目に収めたいのですが、地下に行くのでは怖がるユウを見ることも優しく慰めることも出来ないではありませんか…)
飛鳥はここから先に来ても仕方ないので外でダグラスを見張っていてもらう
(保護者同伴の歳じゃないだからちゃんと帰ってくるよ)
その時は、勝利の報告とともにね
すでに俺はあの鍵のついた扉が目の前にあった。
ここから先は窓すらなかったのでなにがあり、誰が何人いるのかさえ分からない…
まさに未知の領域…
なんておおげさな事を考えていた。
だが扉の向こうで既に待っているかも知れない
覚悟を決めねば
「ふぅ~……よし!いってきます!」
(いってらっしゃいませ。ユウ様)
その瞬間、ゴーレムの一撃が見事扉に炸裂
木製のただの扉が鍵を掛けたところでゴーレムの一撃を耐えれる道理もなく跡形もなく吹き飛ぶ
追い打ちとばかりに狼を先行させるが人の声は一切聞こえない…
実際に周囲を見渡すが人の子一人いない
誰もいないはいいのだが旗らしきものも見当たらない…
しかし、そこにはこの先に何かがあると言わんばかりに地下へと続く階段があった。
「この先に来いってことか…」
そう一人呟く…
俺はゴーレムと狼に一度戻ってもらい
一人階段を歩きだした…
階段は螺旋状になっていて壁を見ればどれだけ昔に造られたのかが伝わってくる。
所々に蜘蛛の巣などがあったり虫がいたりと衛生状況からしてもここの通路はほとんど使われていないのだろうことが分かる。
しかし壁に松明があることからこの通路を使った事は明らか…
この先では誰かが俺を待っている。
ゆっくりと降りて行くと螺旋階段の終わりが見える…
そこには、円状に広がる空間があった。
壁には松明がかけられ床には青白く光る魔法陣が描かれその中央には俺より少し大きいくらいの旗が刺さっていた。
まるでこの部屋はあの旗の為に造られたような気がする…いやあの旗の為に造ったのだろうそれ以外には何もなかった。
そして俺は話しかける…
「元気にしてた?」
それと俺の間に立ち塞がるかのように立つティアに…
「いいえ、残念ながらあなたのおかげで疲れています。」
確かに彼女は無表情だが少し元気がないように見える。
まぁ、元凶は俺なのだが…
「俺はダグラスのおっさんの所にいると思ったんだけどなぁ…あっちは本当にブラフだったのか…」
あまりにも美味しすぎる条件のダグラス
普通はこんなあからさまな案をティアが出すとは思えない…
だからこっちが安全だと思うだろうだけどそれだと少し単純に思えた。
だからティアはその裏をかいてダグラスの方にいるんじゃないかと思ったんだけど
深読みしすぎか…もう少し人を信じるってことを覚えないとだな…
「こうでもしないとあなたはまた策を立てるでしょう?私はあなたと正面からぶつかりたいのです。」
「最後に油断したのは俺ってことか…最後の最後で外れを引くとはね…」
「外れなんて心外です。ただあなたと会いたかっただけなのに」
こころにもない事を…
顔がぜんぜん笑ってないから冗談が分かりにくい…
まぁほんの少し顔が綻んでいるからわかるけどね
「はぁ…出来る事ならその言葉は別のシュチュエーションで聞きたかったよ」
「じゃあそろそろ12時の鐘が鳴ります。準備してください」
「ふぅん…いいのか?」
ここでティアとその周りにいる10人近くの兵士
有無を言わさず襲えばよかったのに
「あなたの全力とぶつかりたい」
全く…ティアが眩しいよ…
期待には応えないと
「その言葉、後悔させてやるよ!失楽園!」
そして、輝き始める紋章…
現れたのは、巨大な体を持つ尻尾のない猿というかゴリラだ。
こいつはゴーレムよりすこし辛いがまだ走れるくらいの負荷しか掛かっていない
「キングエイプ…ですか。」
「あぁ書斎で調べさしてもらったよ。」
コイツなら10人の兵士くらい余裕で倒せるだろう…
素早い動きと強靭な膂力が特徴の魔物だ。
「その程度ですか?」
これは挑発ではない
その程度の魔物ではティアが俺を倒すのを阻止しえる壁足りえない
まぎれもない事実なのだ。
だが…
「舐めて貰っちゃ困る…」
「失楽園―――憑依!」
その言葉とともに俺の体が青白い焔に包まれる
青白い焔はまるで鬼火のような妖しさを放ち散りゆく魂のような儚さを兼ね備えていた。
そして紋章のある手の中には太刀が握られていた…
「それは…!?」
顔に驚きの色が混じるティア
まぁ無理もないだろう…ティアには魔物を召喚する能力と言っていたのに手には見たこともない剣があるのだから…
「これでもまだ不満かな?」
これでまだその程度と言われればちょっとキツイ
これは特訓中の思いつきでやっただけだが存外うまくいった。
まぁあまり使いたくないんだけどお嬢様は全力が御所望のようすだ。
出し惜しみはしてられない
「いいえ、想像以上です。」
どうやらご希望には沿えたようだ。
ティアが戦意を研ぎ澄ましているのが分かる。
そしてティアの剣は魔力で少しづつ覆われていく。
完全な臨戦態勢…
狙いは俺だろう少しでも無駄な動きをすればすぐに切り刻まれそうな気さえする。
俺も全神経をティアに注ぎ研ぎ澄ましていく…
一挙一投足……目の微かな動きから手先の震えまで見逃すまいと集中する。
恐らく1分にも満たない睨み合い…
だがそれがまるで永遠に思えるほどに長かった…
「ふっ」
短く息を吐き、迫るティア
それに1拍子遅れてキングエイプが兵士たちに飛び掛かる。
ティアの一撃はあまりの早さに剣に纏わせている魔力が虚空に残光を残している。
普通ならば俺はこの一撃に反応することなく殺られていただろう。
だが今は普通じゃない…
俺はその一撃を呼び出した太刀で受ける。
その一撃はやはり重く心配になる
こんなの普通なら折れても不思議じゃない
だが当然、普通の太刀ではない。
「今のを受けますか…」
「凄いだろ?」
こうやって軽口を叩いているが全然余裕じゃない
俺はここからあまり動くことが出来ないのだ。
どうしても負荷のせいで体力の消費が激しいため温存しなければならない
だからティアの攻撃をできる限り最小限の動作で捌きつづけなければならない…
しかし消費している様を相手に悟られてはいけない
だから軽口を叩いて余裕ぶっているのだ。
ティアは一度、間合いから一跳びで抜ける。
そして今度は一瞬で間合いを潰し、息もつかせぬ連撃が始まる
その剣筋は常人には目にすることも出来ないだろう速度で繰り出され続ける。
なんとかその全てを受け続けるが
反撃しなければ…
俺はなんとかパターンを掴み一番隙の大きいタイミングで横に回避する。
しかしこのままでは追い打ちが来るだけ…
俺は渾身の力で横に太刀を払うように振るう
ティアは地面を蹴るようにしてまた間合いから抜けたが、しかしこれ以上守りに徹していればすぐに押し切ってくるだろう。
俺はすかさず追い打ちをかけに前に跳び振り切った太刀を返す刃で斬り込む
しかし、それをひらりとかわすティア
ダメ押しとばかりに上段からの袈裟がけに斬ろうとするが今度はしっかりと剣で受け止められる
「よくまだそれを持っていれますね…」
俺はダメージを受けていた。
決して一撃をこの身に受けたわけではないのだが
手には相当のダメージを蓄積させていた。
ティアの一撃はこちらの手にダメージを与える為に振られていたのだ。
「全く…その若さでこの力強さと技術は反則だろ…」
「それを受けて尚、それを持っていれる貴方も一緒では?」
「まぁ色々とあるんだよ」
そう途中からは調子を掴めて来たので力を受け流していたがそれでもずっと耐え続けるのはキツいものがある。
なんとか反撃に出たのだが…
「にしても先ほどは少し危なかったです。」
「俺にとってはこの太刀でもってしても斬れないその剣が不思議で仕方がないのだけど?」
「当然です。父の形見ですから。父は幾度もの戦いをこれ一本で戦い抜いたそうです。」
「それでか…確かにそうやすやすとその想いを絶ち斬るのは無理そうだ。」
この世界では死者の想いが宿るなどのことが実際にあるとされている
ティアの父はきっと戦場においてもずっとティアを想っていたのだろう。
その想いが乗り移ったのだとすれば元の世界よりずっと救いのある世界じゃないかと思えてしまう。
「この“プレッジティアーズ”は絶対に折れません」
生半可な武器なら斬ってしまえば勝てるかと思ったが、そううまくはいかないようだ
太刀に力を込めティアを押すようにして飛び退く
「それこそ私の剣を受け続けて尚、折れないその細い剣のようなものが私には気になるのですが?」
「あぁ…これは“太刀”と言って“断つ”ことに特化した剣のようなものだよ。折れないのはこれが魔剣のようなものだからだろうね。」
「魔剣ですか…まさか!?」
恐らくこの気配で分かったのだろう
俺の知る限り魔剣には2種類ある
ただ、特殊な力を持った剣と
何かの悪影響と同時に絶大な力を持った剣…
「多分、ティアが考えている通りだよ。俺はコイツに乗り移られここまで戦えるように強化されている。安心してコイツは俺の味方だよ」
「!?本当に大丈夫なのですか?魔剣の割には代償が少なすぎる気がするのですが?」
少し取り乱しているがやっぱり冷静なようだ。
確かに他にも代償はあるが…
「そんなの言うと思う?」
「いいでしょう。ちょうど勝利した時の命令権の使い道に困っていたところです。」
「それはとらぬ狸の皮算用というんじゃないの?」
「いつも先を見据えて戦うのが貴族だと教わりました。」
「生憎、そんな器用な事が出来るほど俺は芸達者じゃないんでねっ!」
俺は間合いを一瞬にして縮め気合を込めた一閃を放つ
「ここまで来ると愚直に真っ直ぐ進むしか知らないんだよ!」
その一閃を華麗に受け流し苛烈な反撃でもって返す
「そこがあなたの魅力なのかもしれませんね。」
こんな事をサラっと言えるティアはきっと数多くの人たちを魅了しているのだろう
時々、勘違いしそうになってしまう。
「もっと違う場所で聞きたかったよ!」
そこからも剣戟の響きは激しさを増して行った。
手のダメージを回復し温存をやめたユウは持てる限りの力を振るい始め
衰えた様子を全く見せないティアもそれに応戦する。
刹那に繰り広げられる一進一退の攻防がさらに加速していく…
しかしそれもあまり長くは続かず天秤は傾き始める
「はぁっ…はぁっ…」
「息が乱れていますよ?」
ユウがこうなっているのは主に憑依の副作用のせいなのだ。
判明している副作用は三つ
まず一つ目、感情の昂り…これにより会話がいつもより感情的になったり冷静になれなくなる。
次に二つ目、魔力の消費速度上昇…これのせいで徐々に脱力していくような感覚さえ覚える。
そして三つ目、壊れる体…これはあまりにも強力な強化に体がついていかず壊れていくのだ。
これにより動きが鈍くなっていくのだ。
そして時折、捌ききれず攻撃が掠ることでさらに消費していく…
もうユウの体は満身創痍の状態だった
「そろそろ終わ…」
「周りを見てみろよ…」
「?……!?」
気づいたようだな…
周辺では兵士たちが気絶していた。
どうやらティアは戦闘に夢中で忘れていたようだ。
そしてキングエイプは所々傷を負っているがまだ戦闘可能だ。
これで2対1…
「第二ラウンドスタートかな?」
そういって精一杯の笑みでニヤリと笑う
しかし今日のユウはとことんついていなかった。
(……ユ……ま!ユウ…ま!ユウ様!ユウ様!)
やっと飛鳥の呼びかけに気付いたが…
「おいおい!俺も混ぜろよ?」
時既に遅し…
(ダグラス達がそちらに!)
(あぁ今来たよ…)
これで2対12だ…
「いい年したおっさんがカッコイイ登場なんて誰が喜ぶんだよ」
「悪いか?」
そういって子供っぽい笑みを浮かべるダグラス
「最高のタイミングすぎて吐き気がするよ」
もっと正確にいうならこなくても吐き気がする。
恐らく口から出るのは今日の夕食ではなく血だろうけど…
「えらくテンションが高いじゃねぇかユウ?だがそろそろ狼は人に戻らねぇとな?満月の夜の変身の魔法はもう解ける頃合いだろう」
あぁタイムリミットが迫る…
だがもうまともな対抗手段はない
俺は俯きキングエイプにはこれ以上無理をさせては可哀想だ…戻ってもらう。
それを見たティアが口を開く…
「もう大丈…」
恐らく慰めの言葉をかけようとしてくれているのだと分かる
しかし…
「ティアその言葉はまだとっておいてくれ…」
それを遮る
この場に及んで何をいうのか?とこの場にいるユウ以外の全員が思っただろう
そうだよく聞け
「12時の鐘の音と同時に魔法が解けるのは…シンデレラって相場がきまってるんだよ!」
その言葉と同時に地面を蹴る目標物は旗!
もはや後先考えず身体強化で無理やり体を動かせる
呼吸は気にしない…血が出ようが関係ない
転ばなければ…止まらなければいい!
爆発的な筋力の上昇で床を砕き飛び散る床の石材の破片から全員が目を庇い少し目くらましによりスタートが遅れたティアたち
恐らく狙いは旗……
しかしティアにはとある魔法があった。
「刹那求望」
その魔法は世界の摂理に触れんとすらする魔法
その始まり……
この魔法は自分の時間を他より早く進めると言うもの
しかし周りの時間よりほんの少し早く進むだけ…
だが一瞬、刹那でさえ伸ばすことが出来ればそれであらゆる事が事足りる。
切り札の一撃を避けることも少し離れたの友の危機にすぐ対処もできる。
そして逃げる対象を捉えるときもそれで事足りる…
心の中でユウの強さを賞賛した。
それと共に心の中でユウに自分の強さを詫びた。
あと一歩で捕らえることができる。
あと…50m
あと…40m
あと…25m
そこで背に悪寒が走る…
すぐそこまで来ている!
ヤバイ!あと一歩で追い付かれる!
その手が俺を倒そうとしたその刹那…
黒い何かが物凄いスピードで飛び込んできてそれを許さなかった。
そして俺が最後の力を吹き絞り飛び掛かる…
旗に手をかけたその瞬間、首に添えられる冷たい刃物の感覚に気づいた。