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ギタイマシ  作者: ヒロキヨ
エピソード3 Party Shaker
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30

 森嶋が知るこの(やから)たちの面子は、市民球場に向かった男と、目の前の女退魔士、奥にいる狐の面をかぶった少女に、姿は見えないが以前このデーモンデバイスを破壊した女学生、この4人だ。

 それが、バックアップが他にも存在することを知らされて、即座に次の行動を開始した。

 ……。

 いや、そうではない。彼らは即座に行動せざるを得なかったのだ。

 なぜなら自分たち以外に人員がいないから、と考えるのが妥当だろう。

 前回の襲撃(しか)り、理夢の狂言誘拐(しか)り、彼らのやり方はどれもゲリラ的だ。一連の行動が何者かの指示よるものとは思えないし、大きな組織が関与している可能性は限りなく低い。

 ならば、森嶋にとっての最大の脅威は、やはりあの女退魔士だ。


(しかし、あ奴はすでに無力化した。バックアップが1つ減ったことによるタイムラグを考えても、残り時間は15分を切っているはず。残りの面々がどれだけあがこうと、これ以上は何もできまい)


 いつもの、考え事をする際にふと視線を落とす癖が仇となった。

 もとより戦いに慣れていない森嶋だが、今は戦闘中であり、相手は”あの女退魔士”なのだ。


「……っ!!!」


 またもや森嶋の視界から千霧の姿が消えていた。

 主のもとに戻った青い腕は、森嶋よりはるかに早く死角に潜む千霧の気配をとらえ、白く透き通る肌を再び赤く染めようと、巨大な爪を振り下ろす。渾身の力を込めた錫杖で爪を跳ね返し、千霧は返す刀で森嶋の手にあるスマホを宙に跳ね飛ばした。


「ぐわっ!」


 青い剛腕の2撃目を羽のようにかわしながら、空中でスマホをキャッチして森嶋の間合いの外へと着地する。手にしたスマホの画面を一瞥すると、すぐさま後方の理夢にそれを放った。

 

「美瑠、残りの5カ所はやはりすべて特設会場だ。詳しい場所はユメに!」


 いきなり飛んできたスマホをお手玉のように危なっかしく受け取る理夢の姿も目に入らず、森嶋はただあっけにとられていた。


「貴様っ! あれだけの深手を負ってなぜ!?」


 目の前で戦闘態勢をとる千霧からは、負傷した様子はほとんど感じられない。深く切り裂いたはずの背中の傷も、出血が止まっている。


「こちらとて、自分の傷を癒す手段くらいはもっているさ。……もちろん即座に回復できるほど便利なものじゃない。ある程度の時間は必要だ」


 内気功を利用した自己再生は、人外のものとの戦いを目的とする退魔の技術体系にも、当然組み込まれている。それを高レベルで会得している千霧だが、その言葉通り、回復には十分に内気を練り、自己再生を待つ時間が必要だ。


「では、先ほどのあれはすべて……」


 傷の痛みにくずれ落ちる姿も、狼狽したそぶりも、すべては森嶋の慢心を引き出し、時間を稼ぐための演技だったのだ。

 

「あなたが……」

 

 抜かりのない女退魔士は冷笑をたたえ、続く言葉でさらに森嶋を挑発した。


「見た目よりも饒舌な人間で助かったよ」

「……なっ!?」


 悔恨の念も抱かせぬうちに、一瞬で距離を詰め、森嶋の脳天めがけて錫杖を振り下ろす。

 先ほどの反省から、自動障壁ではなく青い腕が一撃を防いだが、驚くことに巨大な腕は力負けしてぐぐと、押し込まれている。


「駆け引きが苦手なのは、お互い様のようだ」


 そう言い残し、千霧は森嶋の腹部にある魔物の顔を蹴って後方に飛びのいた。腹を蹴られ、森嶋がその場に尻もちをつく。

 

「ぐっ……!」


 慌てて顔を上げた森嶋に、挑発的なまなざしが注がれていた。鋭角なラインを描く細い顎をくいと上げ、微笑交じりに見下す千霧とそれを見上げる森嶋の様子は、先ほどと完全に立場が逆転していた。

 脈打つ静脈が浮き出るほど強く握られた青い拳が、力まかせに床を叩く。フロア全体に振動が伝い、ちょうど拳の下を這いずっていた肉片は、不幸にも粉々に砕け散った。


次回は明後日に投稿します。

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