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ギタイマシ  作者: ヒロキヨ
エピソード3 Party Shaker
34/62

13

「まあ、死んでても元気ならいいじゃねえか」

「ぶっ!? ちょっとお兄ちゃん、何無責任なこと言ってるのよ!」

「ああ? だって元気があれば何でもできるっていうだろ? 普通の死人はなあ、火葬場で焼かれて墓に入れられて、もう何もできねえんだ。それに比べれば嬢ちゃんはよっぽど元気じゃねえか」

「それはそうだけど……。でも、もう美味しいものとか食べられないんだよ!? そりゃあ、ダイエットの心配はいらないだろうけど……」

「食べることはできるし、味もわかる」

「えっ、そうなの!? そ、それはちょっと羨ましいかも……」

「……(こいつの判断基準も俺とあまり変わんねーな……)」


 窓の外から、今夜もまた賑やかな音楽が流れ出した。総合病院最寄りの特設会場で、新たなイベントが始まったのだ。

 てくてくと窓際に歩いてその様子を眺めていた理夢は、しばらくしてぽつりとつぶやいた。


「礼は変なやつ」

「理夢ちゃん、わかる!? そうなんだよ! お兄ちゃんてさ、おかしなことばかり言ってすぐまわりを困らせるんだよね!」

「でも、美瑠も似た者同士、だと思う」

「……え? いやいやいやないないない! そんな、……え?」


 困惑した表情で首をかしげている美瑠を尻目に、理夢は賑やかな特設会場のステージを見るとはなしに見ていた。

 そう、なのかもしれない。

 その存在がどうであれ、確かに自分にはなすべきことがあり、それをやり遂げねばならないのだ。

 ステージを彩るカラフルな照明が、理夢の漆黒の瞳の中で炎のように踊った。


 礼のスマホがメールの着信を知らせる。内容を確認した礼は顔を上げて理夢を見た。


「そういやあ、この祭りを止めるのが俺たちの目的だったな」

「そう。でも私の考えた方法は、失敗してしまった」


 振り向いて答えたものの、理夢の顔は暗かった。


「そう心配すんな。頼りになるお姉さんから、嬉しい知らせってやつだぜ」


 美瑠の顔がぱっと明るくなる。


「千霧さん、無事だったんだ!」


 千霧のメールが表示されたスマホを美瑠に放り、礼はニヤリと笑った。


「あの呪いの秘密、本部に帰って調べてくるってよ」


 ◇


 深夜の通りを男がふらふらと歩いていた。

 男は今夜も夜更け過ぎまで呑み続け、閉店時間の居酒屋に追い出されて自宅まで歩き帰る途中だった。

 通りに人影はほとんどない。が、はるか見渡す先まで続く祭り提灯と、家々を彩るにぎやかなイルミネーションのために、深夜とは思えないほどの華やかさである。

 遠く聞こえるオールナイトイベントの音楽に耳を傾けながら、明日はどこへ出かけ、何を見て、誰と酒を飲むか考える。

 男は友人も少なく、以前は外出もほとんどしなかった。なのに最近はなぜか夜な夜な街へ繰り出しては、見も知らぬ他人とただ大騒ぎをするためだけに酒を飲んでいる。

 だが、気にすることはない。

 閉店時間まで酔客であふれていた先ほどの居酒屋でも、誰もが自分と似たような感じだったではないか。

 上機嫌で通りを行くものの、先程から感じていた尿意がそろそろ限界に近い。

 男は立ち止まり周囲を見回した。幸い、人通りは途切れている。

 建物と建物のあいだの細い小路に入り込むと、膀胱に貯まった今夜の酒を壁に向かって思い切り放ち始める。

 心地よい解放感に鼻唄を漏らしながら、男は放水が終わるのをのんびりと待ち続けた。


「……させて」


「?」


 細い小路の暗がりから、何か聞こえた気がする。

 男が小路の奥に目を凝らしていると、金属でアスファルトをなでるさらさらという音がした。


「……ろさせて」


 今度は間違いなく聞こえた。

 それは少女のようにかん高い、というよりはボイスチェンジャーで無理に女性の声のキーを上げたような、妙に耳にさわる声だった。


「お、おどかすなよ……、誰か、そこにいるんだろ?」


 ほろ酔いの高揚感などとっくに消え失せていた。なかば恐怖を感じながら、男は返事のない暗がりを凝視し続ける。


 ギャリギャリッ!


 突如、アスファルトと金属が激しくれ合う摩擦音。続けざま同じ音が響くうち、飛び出た火花の明かりに、錆びの入ったぼろぼろの包丁が浮かび上がった。

 男の心拍数が瞬時に跳ね上がり、どっと冷汗が噴き出した次の瞬間……


「殺させてーーーッ!!!」


 耳に突き刺ささるような狂気じみた金切声とともに、猛烈な勢いで何かがこちらへ駆け出して来る。


「うわあああーーーっ!」


 止まらない放尿でズボンが汚れるのも構わず、男は一目散に駆け出した。

 逃げ出す瞬間彼が見たものは、身の丈の半分ほどのぼろぼろの包丁を構えた、幼女のような人影だった。


 この夜、月光市で起こった奇妙な出来事は、実はこれだけではなかった。

 市内数ヵ所で同時多発的にさまざまな怪異が発生し、あるものはこのように市民によって目撃され、またあるものは人の目にふれぬまま、やがてそれらは闇の中に消えていった。

 森嶋が作り上げた祭りは、人々が慣れ親しんだ街そのものまでも変えてしまおうとしていた。


こういう都合のいい聞こえ方って、マンガや小説特有ですよね^^;

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