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ギタイマシ  作者: ヒロキヨ
エピソード2 黒の逆襲
21/62

エピローグ

登場人物


忍舞天剛 (しのぶてんごう) 54歳 退魔組織『摩利支』頭領


※以下、順次追加

 退魔組織『摩利支』の頭領にして日本有数の退魔師である忍舞天剛 (しのぶてんごう)は、執務室にて千霧の報告を聞き、わずかに眉をひそめた。

 品のよい和服を自然に着こなす落ち着いたたたずまいに反して、初老に差し掛かったその顔には精悍さをさらに印象づけるように深いしわが刻まれ、鋭い目つきは見る者の魂までも掌握してしまうような強烈な眼光を帯びていた。


「顕現の時期はわからぬとはいえ、はからずもその存在は証明されてしまったか……」

「天剛様……、今の時代に、新たな魔王の誕生などあり得るのでしょうか」


 にわかには信じがたい事実に、千霧がいぶかしむ。


「時代が変われば、時代に則した魔が生まれる。それは……、ちょうどわれわれ人間社会の犯罪が、時代とともに様変わりしていくようなものだ」

「……」


 天剛は時代の変化の象徴である、机上のパソコンに目をやった。


「今、この世界には人間社会と同等かそれ以上の、もうひとつの世界が急速に構築されつつある……。『そこ』に新たな神や、魔王が生まれても、何も不思議はなかろう」

「はい」

「そして、その鍵を握るのが末堂礼、というわけか」

「監視を続けるなかで、八咫烏ヤタガラスの姿も幾度か確認しています」


 礼が一度としてそれに気づかなかったということまでは、千霧は言わずにおいた。

 数ヵ月前、摩利支の予知能力者のもとに現れた八咫烏は、『現代社会への魔王の出現』という、途方もない警告を彼らにもたらした。

 その後は摩利支関係者の前に一度も姿を見せずに、今度は礼という人間の前に現れたことが、彼と魔王との間に何らかの繋がりがあることを物語っていた。

 もっとも、美瑠に追い払われ、礼に何度も無視され続けた神の御使いの心情は、とてもうかがい知ることなどできないが……


「千霧よ、お前には末堂礼と行動をともにし、魔王に関するあらゆる情報収集をしてもらう。もちろん、最重要事項は魔王誕生の阻止だ。それは、わかっているな?」

「はっ、心得ております」


 あの兄妹と、行動をともに……

 その任務を心なしか歓迎している自分に気づいて、千霧は内心驚いていた。

 あの二人のことは、なぜかいつでもはっきりと思い出すことができる。今も頭の中に、よく笑いよく泣き、表情がころころ変わる美瑠と、うまくやるつもりがなぜか失敗ばかりの礼の顔が浮かんでいた。


「すまんな……。あまり他人ひとと接しないお前にとっては難しいかもしれんが……(って、笑っとる!?)」


 千霧の美しい顔にほのかに浮かぶ微笑みを見て、天剛は珍しく驚愕した。


「天剛様……?」

「ん? む……、いや、何でもない!」


 平静を装い、座っている椅子を回転させ横を向く。

 孤児だった千霧は、おそらくそこで十分すぎるほど人間の醜さにふれたのだろう、他人との一切の繋がりを拒み、ただひたすらに『摩利支』とその使命に殉じてきた。天剛より教えられた退魔の技術と知識をもって超常の者と戦い、生き残ることのみを人生の証としてきたのだ。

 その千霧が他人の事を思い浮かべ、笑うなどと……

 彼女がすでに末堂礼と何度か会っているのは天剛も承知している。

 その時、二人の間に果たして何があったのか。



(むう……、とても、気になる……!)



 額に脂汗を浮かべながら、必死の形相でチラッチラッとこちらを盗み見る天剛を見て、千霧は額をおさえ、ため息をついた。


(天剛様、怪しすぎます……)


 ◇


 事務所の自分の椅子にだらしなく腰掛けながら、礼は手にしたどぴゅっし~君のグッズを見つめていた。

 あの日、美瑠のスマホに連絡が入ったのは、千霧が去ったすぐ後のことだった。

 電話の向こうでは、紗菜が絵莉の記憶が戻ったことを涙ながらに伝えていた。

 相変わらずわけのわからない展開ばかりだった今回の依頼も、すべては無事解決したのだ。


「それが本物のどぴゅっし~君なんだ」


 異様な風体の巨人しか見ていなかった美瑠が、礼の手元を見ながら声をかけてくる。

 今日も洗濯物を届けに来た美瑠は、「今回だけだよ!」と言いながら、礼の代わりに事務所の掃除をしてくれていた。なんでも、絵莉が落ち着き次第、柏村姉妹が揃って礼を言いに来るつもりなのだそうだ。


「よく捨てずに残ってたね」

「ん……、そりゃあ、捨てるわけねーだろ」

「うん……」


 そっけなく答えながら、礼は頭の中でまったく別の事を考えていた。

 オカコミュの話によれば、影法師は相手の一番大事な記憶を奪うのだという。現に絵莉は大好きな妹の記憶を奪われたし、他の被害者たちも一様に近しいものの記憶を奪われていたようだった。


 なら、千霧は?


 巨人の能力がもし影法師と同じだとしたら、千霧にとってもっとも大事な記憶とは?

 もし、戦うことだけが千霧のすべてだとしたら……


「まったく……、悲しすぎるよな」


 いつか聞いた少女の言葉を思いだし、我知らず相づちをうつ。

 手の中のどっぴゅっし~君はいつの間にかよじれるほど握りしめられていた。


「ん?」


 視界の隅で、デスクに置かれたスマホの画面にピコピコと新たな通知が出ている。

 礼はスマホを手に取り、何気なく通知を確認していく。


「アプリ『魔物ハンター』、情報が更新されました……、コンプリートまで63匹……? こんなアプリあったっけ? ……うおっ!」


 次の通知を見て礼の目がキラキラと輝きだした。

 それは、『例の方法思い出しまた』というメッセージ付きのオカコミュからの連絡だった。


「わっはっはっ! やっと思い出しやがったか!」


 以前、礼が黒歴史を忘れるためのいい方法はないかとオカコミュに相談したときに、「ド忘れした」とお預けを食ったのが、やっと続きを聞けるのだ。礼は大急ぎでグループチャットを立ち上げた。


 カチャ……


 その時、静かにドアを開けて中に入ってきた人物を見て、掃除途中の美瑠は目を丸くした。


「千霧さんっ!」


 相変わらず同性でさえも見とれるような整った顔立ちと、しなやかながら芯の通った美しい立ち姿の千霧を見て、美瑠は大喜びで駆け寄った。


(えっ! 千霧さん!?)


 突然の来訪に礼もまた驚いたが、千霧の相手はひとまず美瑠に任せて、自分は気になる例の方法を確認してしまうことにした。


「どうしたんですか? わざわざこんなところまで」


 キラキラと輝く美瑠の瞳に見つめられ、千霧はまぶしそうに目を細めながら、


「お兄さんに相談があってな」


 と答えて礼を見た。

 この世に新たに誕生せんとする魔王……、その鍵を握るのが目の前にいるこの男だという。

 それは当然、礼自身が魔王へと変化する可能性もあるということを意味していた。

 摩利支本部で、天剛は「最重要事項は魔王誕生の阻止」だと言った。

 もし、いつの日か礼こそが魔王の正体であると判明してしまったら。

 自分は、なすべき事をなさねばならない。

 なさねばならぬのだ……



オカルト好き「すいません、ようやく思い出しました^^; これは密教のまじないなんですが、よく効く自己暗示の方法として知られています」


礼「はい」


オカルト好き「では、書いていきますね」


トイレの花ちゃん「お~!ワクワク((o(^∇^)o))」


オカルト好き「まず、右手の甲に目の形の紋様を描きます」


長老「ふむふむ」


オカルト好き「その右手に精霊が宿るようイメージするんですが、よりイメージを強めるために自分だけの名前をつけたり、言葉をかけたりします」


ぬうべえ「ハハ、なんかペットかなんかみたい」


オカルト好き「密教では、右手に宿った精霊が術者の記憶を食べてくれるという考え方のようですね」


トイレの花ちゃん「なるほど~! なんだか頼りがいのある相棒みたいですネ!(*´∀`*)」


オカルト好き「礼さん、わかりました?」


トイレの花ちゃん「あれ( -_・)? Reiさん?」


ぬうべえ「落ちちゃったかな?」


お祭り男「なんだよ、つまんねーな! じゃあパーティーしようぜ、パーティー! ヒャッハー!」


ぬうべえ「またかい^^;」



 カタン……、と音を立て、礼の手からスマホがすべり落ちた。


「? どうしたの、お兄ちゃ……」

「イヤーーーッ!!」


 次の瞬間、礼は両手で頭を抱え、ブンブンと前後に振った。 


「ちょ、ちょっと!? いきなり、どうしたのよ~!!」


 情けなく叫ぶ礼とあきれ顔でそれを眺める美瑠を見て、いつか同じような光景を見て感じた自分の心配が、まったくの杞憂だったことを千霧は悟った。


(まったく……、真面目に考えれば考えるほど、こちらがバカのように思えてくる)


 先ほど自分の心に浮かんだ血なまぐさい考えを、千霧はひとまず忘れることにした。

 肩ひじを張って付き合っては、こちらが損をしてしまう。そういう男なのだ、末堂礼は。

 なかば強引に自らに言い聞かせ、そう決めた途端、心がふわっと軽くなる。


「……フ」


 ドタバタと騒ぐ兄妹の様子を眺めながら、千霧はまた自分でも気づかぬうちに微笑んでいた。



エピソード2 黒の逆襲


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