表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギタイマシ  作者: ヒロキヨ
エピソード1 その男、偽(インチキ)。
2/62

登場人物


末堂礼 (すえどうれい) 20歳 退魔師

末堂美瑠 (すえどうみる) 16歳 高校1年生

末堂都 (すえどうみやこ) 72歳 礼と美瑠の祖母


※以下、順次追加

 雑居ビルの入り口から飛び出した美瑠は、わき目もふらず怒り心頭の足取りでその場を立ち去った。

 そんな美瑠の姿をみとめ、ふと足を止めた人影があった。

 美しい黒髪をなびかせながら、彼女は冷たく澄んだ瞳で雑居ビルを見上げる。


「……」


 しばらくの後、視線を戻しながら


「気のせいか……」


 とつぶやくと、彼女もまたいずこかへ立ち去った。

 しかし、道行く人々は誰一人気づいていなかった。

 彼女が物音ひとつ立てずに歩み去ったことに。


 ◇


 閑静な住宅街の中、手入れの行き届いた日本家屋の縁側で、美瑠は名店の和菓子を乱暴に口に放り込んだ。


「まったくあのバカ兄貴、んぐんぐ、またバカなこと始めて、んぐんぐ」


 ごくんと飲み込むと後ろを振り返り、品のよい、着物姿の初老の女性に話しかける。


「お祖母ちゃんも言ってやってよ! もっと真面目にやれって」


 室内で同じ和菓子と日本茶を楽しんでいた末堂都 (すえどうみやこ) が、やんわりと相槌をうった。


「礼ったら、本当に困った子ねえ。あなたたちの両親が亡くなって二人きりの肉親だっていうのに、美瑠に心配ばかりかけて」

「あのビルだって、死んだお祖父ちゃんのビルでしょ? お兄ちゃん、ちゃんと家賃払ってるの?」

「ん? ああ、一応はね」

「どうせ格安にまけてあげてるんでしょ? お祖母ちゃん、甘いんだから」

「ふふ、そりゃあ、あなたたち二人とも、可愛い孫なんだから当然でしょ?」


 都のうそ偽りのない言葉に、思わず美瑠が黙り込む。


「む~~」

「美瑠にあまり心配かけないでって言ってやりたいけど、礼はなかなかこの家に寄り付かなくて」

「う……、確かに」

「それに……たいまし、だっけ? 困ってる人を助けてあげる、すばらしい仕事じゃないの?」


 それを聞いて、美瑠が笑い出す。


「あははは、ないない! お兄ちゃんが考えてるのは、若いコと仲良くなることだけよ」

「あら、本当に?」

「この前のホット・ヨガも、その前の私立探偵も、BLマンガ教室も、みんな出会い目的なんだから」


 都には美瑠の言った職業があまり理解できなかったが、まくし立てる美瑠の話を聞きながら、思わずくすくすと笑い出した。


「何だか、似ているわね」

「誰に?」

「私の旦那さん」

「お祖父ちゃんに?」

「男の人って、若い時はそういうものなのよ」

「年頃の女の子はそういうのが大嫌いなんです!」


 と言って美瑠は頬をふくらませた。


「ったく、お祖母ちゃん、本当に甘いんだから……。お兄ちゃんなんて、悪霊にとり憑かれて、呪われちゃえばいいのよ!」


 むくれる美瑠の背中を、都がいつくしむように見つめる。


「そう言わないで。あの子はああ見えて、いつも美瑠のことを一番大事に考えているのよ。6年前に、あなたたちがふたりきりになったときからね」


 それを聞いて美瑠は苦笑した。


「そんなことないない。それに、ふたりきりじゃないよ……」


 美瑠が笑顔で都を振り返る。


「私にはお祖母ちゃんがいるしね! ねえ、この美味しい和菓子、どこで買ったの? 湯島先輩に教えてあげなきゃ」

「? その先輩っていうのは、何の先輩?」

「学校の部活! 私、茶道部なんだ」


 そう言って美瑠は、残りの和菓子を口に放り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ