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ギタイマシ  作者: ヒロキヨ
エピソード2 黒の逆襲
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トイレの花ちゃん「自分にそっくりの他人ていうと、ズバリ! ドッペルゲンガーですね?☆」


寺生まれのDT「う~ん……」


オカルト好き「ドッペルゲンガーは有名だけど、実際はシェイプシフターと混同されてることが多いですよね」


トイレの花ちゃん「しぇいぷしふたあ?(@_@ ;)?」


寺生まれのDT「ドッペルゲンガーは日本語で言えば複体、うつし。つまり本人の分身だね。勝手に動きまわって、しかもいろいろ悪さするのはいわゆる『成りすまし』、シェイプシフターってことになる」


ぬうべえ「じゃあ狸とか狐とか、化けるヤツも全部シェイプシフターになるの?」


オカルト好き「そうですそうです。他には、影のように実体を持たず、物や人の記憶を読み取って本人に成りすます妖怪なんかもいて、多岐にわたっていますね」


トイレの花ちゃん「なるほどぉー! 勉強になりますネ……メモメモφ(..)」


お祭り男「そんな奴がいたら楽しいじゃん! 一緒にパーティーして仲良くなれれば最高じゃん!」


寺生まれのDT「ところがそうはいかないんだよねえ……」




「ナ ゼ、バ ケ ル ン デ ス カ」


 スマホの画面上で進む会話を追いながら、礼が間違った音声入力による質問をしたところで、美瑠が戻ってきた。


「ただいま。お兄ちゃん、何かわかった?」

「ん? ああ、取りあえずニセモノの正体はわかったぞ」


 紗菜を送りに出た10分かそこらの間に、もう怪異の正体に行きついたネットの知識のすさまじさに、美瑠は驚き、半ばあきれもした。


「げっ……。オカコミュって、ほんと恐ろしいね……」


 続けて美瑠は、紗菜が正式に依頼をしてきたこと、新たな情報として、ここ数日はニセモノが絵莉の部屋を訪れるようになったことを礼に伝えた。


「紗菜ちゃんが気づくと、お姉さんの部屋から二人の話し声が聞こえてくるんだって。なのに、両親が帰ってくる頃になると、いつの間にかいなくなってて……」


 その度に部屋に鍵をかけ、一人自室で震えている紗菜を思い、美瑠の表情がくもる。


「そりゃあ、結構マズイかもしれねーな……」


 そう言って、礼は手にしたスマホをデスクに置いた。

 礼の質問には、早くも答えが寄せられていた。



礼「なぜ、化けるんですか?」


寺生まれのDT「シェイプシフターは、本人の記憶を奪い、環境を学習し、どんどん本人そのものに近づいていくんだ。その人と、入れ替わるためにね」



 礼の準備に一日をついやし、翌々日、紗菜から『友達』が来ているとの連絡を受けた礼と美瑠は早速柏村家を訪れた。


「お姉ちゃん……、入るよ?」


 ドアをノックして中の絵莉に声をかけると、紗菜は返事も待たずに部屋に入り、礼と美瑠も後に続いた。

 部屋の中ほどで床のクッションに座っていた絵莉が、紗菜たちを見て穏やかに微笑んだ。


「あら、紗菜さん……」「お友だち?」


 後ろから聞こえた声に、皆が驚いて振り向く。

 ドアの陰に立っていたもう一人の絵莉が、同じ顔で3人に微笑みかけていた。


「うそ……」


 美瑠が驚くのも無理はなかった。

 そっくりというレベルではない。二人の絵莉は服装も、髪型も、顔つきも、すべてがまるで鏡に写したように同じで、見分けることなど到底不可能だった。唯一の相違点だった眼鏡も、今はもう同じものに変わっていた。


「お姉ちゃん、目を覚まして! ニセモノなんかにだまされないで!」


 どちらが本物の絵莉かもわからずに、紗菜が必死に訴えかける。


「紗菜さん、何を怒っているの? 私たちは」「どっちも本物の絵莉よ?」

「!?」

「それとも……、紗菜さんには」「どちらがニセモノかわかるっていうの?」


 怪しげに笑う二人の絵莉に見つめられ、紗菜は体の力が抜けていくのを感じた。


「そんな……」

 

 どちらの絵莉も、もうすでに元の絵莉ではなかった。大好きだった姉は、いつのまにか近づいてきたニセモノにすっかり取り込まれてしまったのだ……

 よろよろと後ずさる紗菜を、美瑠が抱き止める。


「……ゆるさない」


 そうつぶやいて唇を噛む紗菜を見て、美瑠は思わず抱える手に力を込めた。


「や! はじめまして、絵莉さん! 僕は退魔師の末堂礼です! 写真の通り、いかにも文学少女って感じで可愛いですねえ!」


 場の重苦しい空気を、礼の能天気な声がぶち破る。

 礼はさわやかな笑顔で話しかけながら、うむを言わさぬ早さで横に立つ絵莉の手を取り、両手でしっかりと握りしめた。


「え……? 退魔師……さん?」

「礼と呼んでください」


 と、キリリとした顔で絵莉を見つめる礼。

 空気も読まずにいきなりナンパを始めた礼を、美瑠と紗菜はポカンとした顔で見ていた。

 いくら可愛い女子高生とはいえ、手を握っている相手は得体の知れない魔物かもしれないのだ。

 もっとも、どちらかは確かに本物だともいえるのだが……


(まあ50%の確率なら、行くよね……。お兄ちゃんなら……)


 驚いて固まっている絵莉に構わず、礼は絵莉の横に回り込んで体をピタリと寄せ、回した手を肩に置いた。


「いやあ、妹さんがね、最近絵莉さんの調子がちょ~~~っとだけおかしいみたいだから、調べてもらえませんか、なんてことを言われましてイデデデデ……」


 肩に置かれた礼の手を思いきりつねり上げ、絵莉は静かに礼をにらみつけた。


「初対面なのに、馴れ馴れしいと思います……。私たち、失礼させてもらいますね。……!?」


 が、つかんだドアノブがびくともしない。


「!」


 驚く絵莉は、いつの間にかドアに一枚の霊符が貼られているのに気づいた。


「楽しいおしゃべりの間に、この寺生まれのDTさん特製、結界の霊符を貼らせてもらいました。これでこの部屋からは誰も出られませんよ?」


 懐から数種類の霊符の束を取りだし、礼が得意げな顔で絵莉を見る。

 床に座っていたもう一人の絵莉が驚いて立ち上がり、窓に駆け寄って開けようとしたが、やはり無駄だった。


「お兄ちゃん……、これって、私たちも閉じ込められたってこと?」

「心配すんな、事前に検証したが、霊符の効果は30分ぐらいのもんだ。とはいえ……」


 そう言って礼は、互いに寄り添い、警戒するような目で礼を見ている二人の絵莉に目をやった。


「ニセモノを見つけるには十分だろう?」



 しかし、順調だったのはここまでだった。


 二人の絵莉を鏡に写す、スマホで写真を撮る、つむじの巻いている向きを調べる、手相と指紋を比較する……

 礼がネットで調べたシェイプシフターの見分け方は、ひとつとして結果が出なかった。


「次は髪の毛を」「抜いて見せましょうか?」


 二人の絵莉は、挑発するように礼を見た。


「私、陰陽師とか吸血鬼とか、オカルトもののミステリーも大好きなんです」「『シェイプシフターを見分ける10の方法』ってサイト、私も見てましたよ?」

「へ……? そうなの? いやあ、まいったなあ、ハハハ……」


 昨日、ネットで見ていたサイトをズバリ言い当てられ、礼は思わず笑ってごまかした。

 絵莉を救うためには、まずニセモノを見分けることが不可欠だ。それができない以上、先へは進めなかった。しかも時間をおくほど『成りすまし』は本人の情報を取り込んで入れ替わりを早めてしまう。いや、今の状況をみれば、すでにかなりの段階まで……

 クスクスといたずらっぽく笑う絵莉を見て、礼たち3人はそこで初めて理解した。先程から二人が妙におとなしかったのは、観念したからではない、絶対に見破られない自信があったからだ。


「お兄ちゃん……、どうするの……?」


 作戦会議とばかりに、礼と美瑠は絵莉に背中を向けてボソボソと相談を始めた。


「こりゃあ、何をやっても無理そうだな」

「そんな……。じゃあ、もう打つ手はないってこと?」

「う~ん、あることはあるんだが……」


 そう言うと、礼はスマホを取りだして中のアプリを起動させた。


「ん? 何これ? 妖怪……探知機? うわっ胡散臭さっ!」


 美瑠が受け取ったスマホの画面には、昔のホラー映画のタイトルのようなおどろおどろしい文字で「妖怪探知機」とだけ表示されている。


「昨日、google play で99円で買った」

「そんなものまで売ってるんだ……。どれどれ……? って、評価☆ひとつじゃん!」


 詳細を見ようと開いたストアの販売ページには「無反応」「金返せ」「ジョークアプリ」など、辛辣なレビューがあふれかえっていた。

 ため息とともに首を振り、美瑠は再び礼にたずねた。


「どうするの……? もうそろそろ30分たっちゃうよ……?」

「まー、やるだけやってみっか」



 二人の絵莉に向き直った礼が、やる気のない係員のような口調で声をかけた。


「はーい、じゃあ次はこれお願いしまーす」


 礼が『妖怪探知機』を起動したスマホを絵莉に向ける。

 そのまま10秒ほど向け続けたが、『探知機』はウンともスンともいわなかった。


「はーい、じゃあ、こっちの絵莉さんお願いしまーす」


 今度は隣の絵莉のほうへスマホを向ける。



 ビーッ! ビーッ! ビーッ!



 次の瞬間、探知機はけたたましいアラート音とともに、すさまじい勢いで赤く点滅し始めた。

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