【2】女ボス?
《ハァ!》
《ハァ!》
《ハァ!》
爽やかな朝、王都の城下にある貧民街の一角に雄々しい気合いの入った声が響きわたる。
貧民街に相応しい木と石で作られた簡易な建物の裏手にある空き地で、数十人の青年達が空手の型を訓練していた。
現在、空手を行っている人々は日本国内で約300万人、世界では165ヶ国約4000万人にもおよぶらしい。
だから、金髪碧眼、緑眼の青年達が空手を行っているのは不思議な事ではないが、青、赤、ピンク、紫、オレンジとカラフルな髪や瞳を持っているのは、珍しい事ではなかろうか?
しかも、振り下ろしているのは拳ではなく剣を使っていた。
つまり、空手の動き方すなわち重心移動の力、腰の回転力の力、胴体の力、肩のスナップ、腕の力を拳ではなく剣に乗せて斬撃を放つ訓練しているのだ。
日本では、銃刀法違反で捕まるのではないかと思われる不思議な光景がソコにはあった。
たが、大丈夫?だ。この世界は俺がかつて暮らしていた地球と呼ばれていた場所とは違う異世界なのだから…………剣と魔法のファンタジー世界に男から美女に転生した俺は、異世界で空手を取り入れた戦い方を教える道場を開きました。
何でやねん!!!
ことは転生した日に遡る。
馬車(荷車)から出てきた汚らしい格好の男達、美女になってしまった俺。
美女(俺)を取り囲み、無体を働こうとした男達を当然のごとく撃退した俺は、余りの男達の弱さに驚いた。
男達の格好は、レザーアーマーに片手剣、盾が基本で小型ナイフや弓を持っていたりする人もいた。
どう見ても冒険者か兵士の格好で、多少なりと戦えると思われたが…………弱かった。
まず美女に油断していた最初は、倒すのが簡単だったのはわかる。その後、美女(俺)を警戒して間合いを取る残された男達の間合いの取り方が雑だった。
間合いは、相手との距離を自在に詰めたり外したりして、自分に有利な間合いを調節できる者が勝つ。
『間合いを制する者が試合を制する』のである。
なのにこいつらは、俺(無手)の間合いどころか自分(片手剣)の間合いすら外れた所からただ俺を睨み付けるだけで攻めてこない。
俺に向けた剣先が震えているし、膝もガクガク笑っていた。
俺にはわかった……こいつら超→弱いって事が。
打ち倒して従順になった男達の荷馬車に乗り、街に向かう道すがら、男達の話を聞くと、驚きの真実が明かされた。
彼らは冒険者歴7年という、とても初心者とは言えない冒険者パーティーでこれでも実力のあるパーティーらしい。
嘘だろ!!
彼らの話を聞くとこの世界の冒険者は、教会の聖職者にお布施を払い、魔除けの水晶をもらって、魔除けの水晶の効果で魔物を追い払い、薬草などを手に入れたり、魔物用の罠を設置して捕獲するなど、魔物と直接戦闘したりしないんだそうだ。
直接魔物と戦闘するのは魔法を使える希少な上級者の冒険者か、軍隊を所有している上流階級の奴らだけらしい。
他の冒険者は皆、俺が打ち倒した彼らと同程度の強さらしい。
弱、この世界の異世界人弱い!
このハイスペックな美女に生まれ変わる前の俺でももう少し戦えるぞ?
荷馬車に乗って街に着くまでに、3回魔物に遭遇した。
俺が彼らを打ち倒した時に魔除けの水晶が割れてしまったのだ。
それで魔物が現れたのだが……兎だった。
確かに、角が生えているが兎の魔物だ、全然怖くない。
だが彼らは、1羽も倒せなかった。
確かに俊敏な動きに小さな的なので倒し難いかもしれないが苦戦し過ぎだろ?
結局、現れた魔物は全て俺が倒した。
そして、彼らの弱さを見かねた俺は、彼らに戦い方を教える事になった。
初めに俺が彼らに教えたのは、礼儀だ。
俺が習っていた空手には、
『礼に始まり礼に終わる』と言う教訓があった。
礼には、挨拶などだけでなく身だしなみも重要な要素の一つで、彼らの髭ボウボウで髪も伸び放題の茶色く黄ばんだ服を着た様相は、相手に失礼だからと彼らに風呂に入る習慣を身に付けさせた。
そのほかに俺が彼らに教えたのは、精神を鍛える事、体を鍛える事を教えた。
俺の指導の元、成長した彼らはイケメンの実力のある冒険者になった。
髭を剃り、髪の毛を整髪した彼らは金髪碧眼のイケメンに変身。
そして、俺の指導の元あの兎の魔物を単独で倒せるようになった彼らは、他の冒険者より頭一つぶんは強い冒険者になり、冒険者としての収入も安定した優良物件になり、可愛い恋人をゲットした。
そんなこんなで、俺の事が噂になり、強さや恋人が欲しい青年が俺の元に集まってきた。
絶世の美女が手取り足取り教えてくれる、そんないかがわしい妄想を持って俺に会いに来る連中を殴り倒している内に下僕が出来て、俺はなぜか貧民街の女ボスになっていた。
何でだろう~?♪♪♪♪♪♪