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王女と異端の騎士  作者: 瀧野せせらぎ
第一章 黄金の英霊
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剣姫の戯れ

「それで、どういうことなのか説明してくれるんだろうな?」

「戻ってくるなり、唐突だな。少しは勝利の余韻に浸ったりしたらどうなんだ?」

 ドアを開けて部屋に入ってくるなり質問をぶつけてきた弟子に対し、ルディアは口元に笑みを浮かべて返す。

「…あのな、いきなり呼び戻した上に「代行で決闘に出ろ」って言うから、俺は仕方なく出たんだ。なのに、勝ったら王女付きの騎士になるなんて聞いてないぞ」

 半眼になって文句を言うグランに対し、ルディアは笑みを浮かべたまま肩をすくめた。

「間違ってはいない。私は、「代行してくれ」と頼んだだけだぞ?」

「………」

 言われてみれば、そんな気もする。

 苦虫を噛み潰したような顔をするのを見て、面白そうに声を押し殺した笑い声が聞こえてくる。笑っている相手を恨みがましそうに睨み、あきらめように深くため息を吐くグラン。

 剣を教わっていた時は決闘の代行をさせられていたため、今回も同じだろうと早合点した自分が悪いと言い聞かせるが――、

「本当、いい性格してるよな…」

 やはり嫌味を言わずにはいれなかった。

 先ほどの決闘で掴みどころのなかった彼が、自分に弄ばれていることを面白く思いながら笑うのをやめて説明することにする。

「先日、王から私にセフィア様の専属騎士になるよう打診があった」

「だったら、自分がなればいいだろう。大陸でアンタ以上の騎士はいない」

 かつて王族付きの騎士だったルディアの功績は、地方では御伽噺となって語り継がれるほどだ。

 引退したと本人は言っているが、今も辺境で剣を振り続けていることは貴族たちの間で語り草となることも多い。

「私も最強とは呼ばれているが、全盛期に比べれば力は落ちている」

「でも、俺は一度も勝ったことがないけどな」

「それは、お前が未熟だからだ」

「だったら、なおさら――」

 皮肉を返して断言されると、まるで子供のように反論しようとするグランを手で制す。

「未熟だからこそ底が計り知れない。掴みどころ無い構えと応用力には、私でさえ舌を巻かされることが多かった」

 思わぬ褒め殺しに彼が目を白黒させると、ルディアは懐かしむように目を細めた。

「それに、だ。自分の弟子が王族付きの騎士になることは名誉以外の何でもない」

「アンタの弟子になった覚えはないし、俺たちは赤の他人だろ」

 かつて剣を教えられたのは確かだが、半分以上がトラウマになりかけているため師匠と呼ぶ気になれないのだ。

「薄情なヤツだな。…誰のおかげで、普通の生活ができるようになったと思っている?」

「確かに拾ってくれたことについては感謝してるが、王族付き騎士なんてごめんだぞ」

 寂しそうな顔をする彼女に対し、呆れたように断固拒否を示す。

「言い忘れていたが、お前に拒否権はないぞ?」

「はっ?」

「お前が着けている腕輪があるだろ? それは、騎士の階級で下位に属することを示す物だ」

「……何が言いたい」

 いきなり変わった話題に、嫌な予感がして後ずさった。すると、ルディアは同性さえも魅入ってしまいそうな笑顔を浮かべて言う。

「王の勅命を拒否できるのは、お前と決闘した騎士団団長の階級。つまり、大騎士の階級以上の者だけだ」

「なっ…!?」

「というわけだから、お前がセフィア様付きの騎士というわけだ。もし逆らえば、さっき決闘したアルバートが率いる騎士団に指名手配されるぞ?」

 愕然とする弟子に対して、師は無情にも現実を突きつけた。

 指名手配されれば、どこに行こうと身を潜めなければいけない。まして、大陸中の騎士団に追い掛け回されるとなると、逃げ切れる可能性は極めて低い。

 言葉の意味を理解すると、とっくに逃げ道は塞がれていた。最初から彼女の掌中で踊らされていたのだ。

 睨みつけようが何をしようが、自分を嵌めた本人は涼しげに明後日の方を見て受け流してしまう。そのことを嫌というほど理解しているグランは――、

「……わかったよ。やればいいんだろ?」

 あきらめて承諾するしかなかった。

 せめての反抗にと深々とため息をつく様子に、ルディアは声を潜めて笑う。

「ようやく素直になったな。さて、久しぶりに熱い一夜を過ごすことにしよう」

 言いながら、そっとブラウスの胸元に手をかけてボタンを外し始めた。

「脱ぐな!」

「ここにはお前しかいない。何の問題も無いだろ?」

「大ありだっ!」

「そんなに私と寝るのが嫌なのか? お前が出て行く前夜に過ごした時間を思い出すと、体が――」

 手を止めて潤んだ瞳で見つめ、まるで夢を見ているかのような口調に熱い吐息が真実味を帯びさせる。

「捏造するなっ! アンタと一緒に寝たことなんて一度も無いだろ!!」

 惑わされずに一刀両断。全力で否定する。

 顔を赤くして声を荒げる弟子を微笑ましそうに見ながら、何事も無かったように乱れた服を整えていく。

 その様子を見て青筋を立てるグランを無視し、壁に立てかけておいた剣を手に取って立ち上がった。

「…冗談はここまでにしよう。隣の部屋に人を待たせているから、ついて来い」

「…もう、どうにでもなれ」

 決闘とは別の理由で疲れきった様子で、部屋を出て行った師の後を追いかけていく。

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