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王女と異端の騎士  作者: 瀧野せせらぎ
第三章 異端の騎士[前編]
54/61

重撃の少女騎士

 中途半端な状態で投稿してしまいましたが、なんとか書ききりました。

「……………はい? それ、何ですか?」

 間を置き、耳に入ってきた言葉に聞き返した。突拍子のないことに言葉遣いを忘れ、普段の印象も忘れてしまっている。

「む? ああ、まだ正式に決まったわけではなかったのだな」

(だから、いったい何の話だよ? だいたい想像がつくけどな……)

 多くの功績を残した騎士には二つ名が与えられる。

 ルディアの〈剣姫〉やアルバートの〈獅子王〉然り、当然ながら第二席のアーサーや第三席のエドリックも国王から下賜されているのだ。

 多くの場合は貴族の間で語り草にすることを目的だが、名目上は騎士に与えられる栄誉ということになっている。

「剣技の冴えは、〈剣姫〉に師事したとあって一線を隔していた。それだけでなく独自の技や剣のみに頼らず、騎士らしからぬ戦い方を取り入れている」

 グランは順序が逆だと言いたかったが、話がややこしくなるので黙っていた。

 心情的に不敵な笑みで語られる言葉を聞き流しそうになるが、ここでそれをやると今以上に状況が悪化してしまうと判断して耐える。

「他にも〈覇道〉や〈日輪〉、〈剣帝〉、〈修羅〉、〈黒衣〉があるが、我は〈異端〉を推している。今回の手合わせで、より強く確信を持った」

 胸を張って自慢げに言う公王の背後にいる騎士たちが、待っていたと言わんばかりに騒ぎ始めた。

「おい、見たかよ!」「いつの間に短剣を取り出したんだ? 隠し持ってたのはわかるんだが」「あの蹴りも切れが良かったよな。おい、教えてもらおうぜ」「二つ名か、いつか俺も欲しいぜ」「ばーか、俺らじゃ無理だよ」「つーか、両手に武器なんて珍しくないか?」「ああ、もしかしたら〈剣〉が持つ特性に合わせてるのかもな」

 聞き取れた内容だけでも精神的に削られていくので、グランは途中から意識の外へと追いやる。

 施設にいたときは上位にいた存在として識別のために二つ名は与えられていたが、今のように酒の肴にでもされそうな雰囲気はなかった。

(……これが騎士としての普通なのか。ますます場違いだな)

 ふと気になって王国側に視線をやると、まるで通夜のような雰囲気になっている。その理由は察しがつくため、気がつかないふりをして公王に話しかけた。

「そうですね。おれも〈異端〉で良いと思います」

 羅列された中で、最も傷が浅く済む上に自分に相応の名前を推しておく。

 他は〈剣姫〉の弟子ということもあって、過大評価のようなものがあるように感じてならない。

 さらに言うなら、育った環境もかけ離れている。常に自身の存在価値を証明し、手を血で穢さなければならなかった。

 騎士たちが使う剣術のみの戦闘を正道とするのであれば、グランが使う体術混じりの戦闘は邪道となる。

 守るための剣ではなく生きるための剣。他を蹴り落としあるいは引きずりおろし、見捨てながら這い上がってきた。

 脳裏を過るのは、当時の自分が殺めた同年代の少年少女。その怨嗟が手足を麻痺させ、倦怠感が体を浸蝕していく。

 人間らしい感情を取り戻してからというものの、思い出すたびに幻想に囚われる心の病を発症するようになった。

「ふむ、当人の希望とあれば決定は揺るがんだろう。楽しみに待ているとよい」

「はっ、身に余る光栄です」

 意思により生み出した刃で幻想を切り裂き、聞こえてきた声に反射的に応じて膝をつく。身に沁みついた意識の切り替えは、咄嗟に発揮されて行動へ移されたのだ。

「……〈異端〉? それがアナタの二つ名?」

 先ほどまで存在しなかった声が響き、修錬場にいた全員の意識がそちらへ向く。

 そこには身丈を超える〈剣〉を手にし、首を傾げる小柄な少女が立っていた。背後には重厚な扉が切り崩されている。

「聖国の客人よ。なぜ、修錬場の扉を破壊した? 事と次第によっては――」

「……邪魔だったから斬った。それと、わたしはジーニャ」

 公王の問いかけを遮り、少女―ジーニャは〈剣〉を構えて淡々と言葉を紡ぐ。

「カリバ聖教天位第三圏、〈重撃〉のジーニャ=ティンクル。これよりグリオード王国第二王女……なんだっけ?」

 首を傾げるも構えを解くことない様子にグランは立ち上がった。警戒に留めて鞘に入れたままの軍刀に手をかける。

(まさか、ここまで堂々と行動を起こすとは思わなかったな……)

 高らかに宣言すると同時に、弾け飛ぶように呪力が迸った。瞬く間に距離を詰めてくると、公王の得物に負けず劣らずの得物を振り下ろしてくる。

「先手、必勝っ!」

 一方、グランは警戒のために呪力を纏わせていた両眼で動きを捉えていた。鞘に入れたままの軍刀と右腕に呪力を集中し、剣筋を横へ薙ぎ払いながら前へ踏み出す。

 剣身の側面を撫でるように鞘入りの軍刀を沿わせ、鍔の部分で腕を巻きこむように一周させて両腕の間に通した。もう一方の腕にも呪力で強化して鞘の部分を掴み、腕を動かせないように固定する。

(まあ、これで止まるわけないけどなっ)

 相手は〈剣〉を抜いている上に、その能力が身体強化だと前回の交戦で判明していた。つまり、赤子の手を捻るように吹き飛ばされてしまうわけだ。

 全身に呪力を纏った瞬間、予想通りの事象が起きた。まともに受けたため全身に衝撃が走り、受け身も取れず地面に体を打ち付ける。

「任務完了。……リカルドの所に連れていく」

 星球大賞に応募していますので、応援いただけると幸いです。

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