公国の将軍と異端の騎士
タイトルは仮なのです。かなり呪力や魔術を使わないと短くて楽しめないですよね? すみません。
誰もが公王の放つ精神的な重圧に呑まれる中、グランは一歩踏み出して腰に吊るしている軍刀を抜き放った。
「ほう、グリオードにも気骨のある若者がいたか」
「御託はいいです。それで、誰が相手をしてくれるんですか?」
公王の言葉を跳ねつけ、挑発じみた言葉を放つことにより空気を塗りつぶしていく。
本来なら首うちになりかねない行為だが、王国側が顔色を変えるだけで公国側は何の反応も見せない。
「それとも、勝てないから刃を交えたくないということでしょうか? だとしたら、公国の騎士は腰抜けなんだな」
さらに挑発を重ねて一歩踏み出し、敬意を取り払って素の言葉で蔑んだ。
すべては強者を引きずり出すための演技だが、一国の王を前に物怖じしていないのも事実である。
しばらく対峙し続けると、楽しむように皺の刻まれた顔を歪めた。
「よかろう。挑んでくる気概に免じて、我自らが相手をしてやろう。誰か、我が剣を持ってこい!」
「はっ、ここに!」
公王の言葉に応じて後ろに控えていた騎士の一人が、鞘に納められた大剣を持って歩み寄り柄を差し出した。
人間が使うには若干の無理があるそれを鞘を吹き飛ばす勢いで引き抜き、正面へと構えて対峙する青年を睨みつける。
公国の騎士たちは壁際まで下がり、それに王国の騎士たちも倣う。
「あれだけの大口を叩いたのだ。がっかりさせてくれるなよ?」
言うが早いか、大剣を上段に構えたまま突進してきた。重量のある武器を持っているとは思えない瞬発力だ。
(……これは、真っ正面から受けたら腕が痺れるな)
グランは片手に持った軍刀を横に寝かし、受けると同時に斜め後方へ滑るように避けた。公王が放った斬撃の筋が肩先を掠めながら通り過ぎる。
大剣を振りきった後は無防備になるはずが、その勢いを利用して公王は肩から体当たりしてきた。
(なっ……!?)
反射的に半身になって回転扉のように受け流し、無防備な背中に向かって斬撃を放つ。
「ぬんっ!」
気合の入った掛け声と共に、公王が振り向きざまに斬撃を放ってくる。丁度、振り下ろした剣と交わった。
(なんつー力技だっ!?)
先ほどの上段斬りからの突進もそうだったが、無理やりに体を動かして攻撃を仕掛けてくる。いずれも予測不可能で対応に追われてしまう。
刃が交わった瞬間に跳ねるよう大きく避けることで衝撃をいなし、着地と同時に息を鋭く吐いた。
(相手は予想以上の実力者。なら……)
意識を鋭く研ぎ澄ませて加速させ、袖に隠し持っていた短剣を取り出す。
目前で振り下ろされる大剣を先ほどと同じように避けた。相手が突進の体勢に入るまでの一瞬に、舞うように回転を加えて短剣で相手の首を刈りに行く。
「ぬっ……!?」
軍刀のみに集中していた公王は、当たる寸前で首を捻って避ける。無理に回避行動を取ったため、体勢を崩してしまった。
右手に持った軍刀の柄頭で公王の手首を打ち、大剣を握る力を弱まらせて蹴り飛ばした。
呪力を纏った状態で無いため手放させることはできなかったが、刹那とはいえ大きな隙ができた瞬間である。それを逃すことなく一気呵成に攻めへと転じた。
軍刀で怒涛の如き鋭く重い一撃を叩き込み、短剣で牽制も兼ねた迅雷の如き鋭く速い連撃を放つ。その全てが公王の持つ大剣の刀身を狙ったものだ。
相手を傷つけることを恐れるのなら、狙いを武器に絞ればいい。わざと受けさせて相手の動きを制限する様子に、修錬場にいた誰もが見入った。
一度二度と重なる猛攻に受けることしか許されず、公王の手から大剣が滑り落ちる。
ドクンッ――
心臓の鼓動が衝動へと変わった。得物を失った相手が動くことすら許さないと言わんばかりに、短剣で喉元を突いて仕留め――
「っと、王手です」
ようとして寸前で制止する。本当にぎりぎりだったため、切っ先が刺さって血が流れた。
(……少し本気を出しただけで、制御が外れるなんてな)
研ぎ澄ませた意識の中で体の制御が外れかけ、本来なら流血させずに終わらせることができなかったのだ。
今までにない感覚に戸惑いを覚えながらも、平静を装って短剣を袖へ収納して軍刀を鞘へ戻す。
「……途中から本気を出した挙句、隠し持っていた武器を使用するとはな」
「短剣を使わされたのは、公王陛下で二人目です。さすがは公国の将軍ですね」
おどけたように肩をすくめ、グランは敗者となった公王を褒め称えた。口調こそ演じているものの美辞麗句はない。
ちなみにだが、短剣を抜いた一人目の相手はルディアである。試合形式の稽古をしている最中に短剣を抜いて不意打ちしたのだが、あっさりと打ち負かされて脳天に拳骨を落とされたのだ。
圧倒的な実力差があることを知っていながら反抗していたが、それ以来は放っていた敵愾心も鳴りを潜めて素直に師事するようになった。
(感謝はしているが、あの婆さんを師匠とは絶対に呼びたくないな)
素直になった途端に崖から落とされるなど、下手をしなくても命を落としかねない内容に変更されたのだ。
それらを乗り越える度に、当然ながらグランは真意を問いただそうと詰め寄った。そして、返ってくる答えは決まって一つ。
「素直な少年を虐めるのは楽しいからな。それに、乗り越えられたのだから良いだろう?」
本気とも冗談も取れない言葉に、何度も絶句させられたことは鮮明に思い出すことができる。そして、その後に続けられた言葉もだ。
「何だったら、この体を好きにさせてやろうか? こう見えても、誰かに許したことはない青い果実だ。その気があるなら、存分に貪るといい」
からっているのは明らかだったが、色香に慣れることなく思わず慌てふためき怒鳴った。
その反応にルディアは微笑み、必ずと言っていいほど楽しそうに言うのである。
「ふふふっ、そんな反応をしてくれるとは嬉しいじゃないか。まあ、本当に死ぬかもしれないことはやらせないさ」
これが信用と信頼、感謝の三つがあっても、グランが彼女を師と認めることのない理由である。
思い出しても表情に出ないよう努力しているところに、公王が口元に笑みを添えて賞賛の言葉を述べた。
「そちらこそ、噂に名高い〈剣姫〉に師事していただけのことはあるな。さすがは〈異端〉の騎士と言うべきか」
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