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王女と異端の騎士  作者: 瀧野せせらぎ
第三章 異端の騎士[前編]
50/61

道中に侍女の声は響く

ずっとシリアス続きだったので、少しまったり(?)させていただきます。

 窓から見える景色から木々と茂みが途切れ、国境を区切り防衛するための壁と関所の門が見えた。

「セフィア様、今日中に越境できそうですね」

「……そうね」

 未だに心あらずという様子で答えるセフィアは、馬車に乗ってからというものの自身に声をかけてきた青年から視線を一度たりとも離していない。

「そういえば、これから向かう公国にはセフィア様の姉君がいらっしゃるんですよね? どんな方なんですか?」

「ディアナ様は幼い頃から勉学に励み、幅広い知識を持つ聡明な方です。七つ歳の離れたセフィア様に自ら教鞭を取ったほど優秀でありながら、その人柄は気さくで嫁いだ後も恋している者がいるほどです」

 代わりに答える侍女リーゼの声も表情も冷静だが、瞳の色から鋭く冷たいものを見てとれた。その意味に心当たりがいくつもあるグランは、視線を合わせないようにしながら次の話題を振る。

 のらりくらりとやり過ごすのは難しいため、重要な質問で先延ばしする手段を取ったのだ。

「そういえば、あの聖教の二人組はどの時点で現れたんですか?」

「昨日です。無礼にも深夜に訪れながら、先日の件も含めて怪物がらみで言いがかりをつけてきたため、仕方なく護衛を要請して同行を許可したのです」

 やはり何か言いたげなリーゼが代わりに答える。思い出すだけでも腹立たしいのか、口調や言葉の端々から苛立ちが読み取れた。思い出すだけでも腹立たしいのか、口調や言葉の端々から苛立ちが読み取れた。

 もっともそれが聖教に向けたものなのか、それとも別に向けられたものなのかは横に置いてグランは考える。

(……どうやって場所を知った? 他国の使者とはいえ、秘密裏の動向を掴むのは難しいはずだ)

 考えつく可能性は三つかあり、いずれも当てはめることができそうなのだ。

 一つ目は正式な使者であるため、国王から直に聞いたというものである。行先だけでも知ることができれば、ある程度の仮定条件を付け加えることで追跡が可能だ。

 二つ目は騎士団の団員を脅し、拷問を加えて聞きだすというものである。行先だけでも聞きだすことができれば、先と同じ方法で追跡が可能になる。

 三つ目が最も確実な方法で、諜報員を場内に忍び込ませておくというものである。団員でも使用人でも、情報を筒抜けにすることができれば追跡は容易だ。

「主の瞳は我ら同朋に宿る。主の耳は我ら同朋に宿る。主の意志は我ら同朋に宿る。ゆえに、邪悪なる存在は逃れることはない。すべては主の御心のままに」

 グランの膝の上に乗ったアンリが、諳んじるように呟いた。それが何なのかを聞こうとする前に答えがある。

「カリバ聖教の啓典に書かれている一節。瞳と耳は間諜のことだと思う」

「……だとしたら、厄介だな」

 聖教自体は随分と前からあり、それも国家を形成するほどに権力を持っている。諜報を担当する人員がいたとしてもおかしくはない。

 時が長ければ長いほど間諜は周囲に馴染み、代を重ねれば国家の深部に入り込むことができる。聖教の持つ長い歴史であれば、各国の中枢に潜伏している可能性が高い。

 間諜の存在は潜伏期間が短ければ短いほど炙りだしやすいが、それは逆に長ければ長いほど困難になるということである。つまり、漏れ出る内政の情報を止める手段が無いのだ。

(とりあえず、近いうちに婆さんに伝えておくか。確か一応は爵位持ちで王の信頼もも篤かったはずだ)

 グランは事ある毎に自身をからかう顔を思い浮かべ、疲労を顔に浮かべてため息をつきながら視線をセフィアに視線をセフィアへと移す。

 話題を振っても一向に反応を見せない彼女は、なぜか目が合うと顔を横へ向けた。初めて見るその反応に、かける言葉が見つからず詰まってしまう。

「………ところで、いつまで惚けるつもりですか?」

 吹雪を纏ったがごとく、その声は瞬時に気温を下げてしまった。いや、正確には場を凍てつかせてしまったのだ。

 静かな怒りを称える侍女は、そう錯覚させるほどに冷たい声を放つ。

「先ほどから黙って聞いていれば、有耶無耶にしようと適当な話を振ってばかり」

 体を震わせるのは寒さではなく怒りのせいだと、誰の目で見ても明白で言い訳は通じない。普段は何があっても動揺を見せないアンリですらも雰囲気に呑まれてしまう。

「恥を知りなさい!」

「きゃっ!」「……っ!?」「うおっ!?」

 一喝する声に三者三様の反応を見せると、堰を切ったように捲くし立てる。

「だいたい、一言も謝罪が無いとは何事ですか!? セフィア様やアンリを心配させておいて、悪びれることなく暢気に話をしているのですか!? 先日はアンリが抜けだしてまで様子を見に行ったそうでうね!? ただでさえ人数の少ない朝の茶会も、一人いなくなっただけで寂しくなるのですよ!?」

「は、はい、すみません。反省してます」

 勢いに押され、弁解することもできずに謝罪の言葉が口をついて出た。しかし、その程度では怒りの臨界点に達したリーゼは止まらない。

「それに、その服装は何のつもりですか!? 確か騎士団には標準装備として支給されているはずです! そもそも、それを着ていれば先の騒ぎも起きなかったのではありませんか!? 常識人だと見直していましたが、評価を改める必要がありそうですね!?」

「「「………………」」」

 言葉の洪水に三人は沈黙させられ、ただ聞き役に徹するしかない。だが、それで許されるはずもなかった。

「何を黙っているのですか!? 真面目に話を聞きなさい!」

「「「はいっ!」」」

 関所に辿り着く直前まで問答無用の説教は続き、四人の中でのヒエラルキーが確定することとなった。

 熟練の域に達した剣技を操るグランでも、怒れるリーゼには勝てないと証明されてしまったのである。

(……リーゼさんを怒らせないようにしよう)

メイドは強し。というか、なんだか母親みたいですね、、、

ちなみに、現代パラレルにしたらリーゼは委員長キャラなのです。

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