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王女と異端の騎士  作者: 瀧野せせらぎ
第二章 簒奪の咎神
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救世の輝きは天を衝く

 世界が黒く染まり、目前に白銀の輝きが現れた。それは輪郭を持ち、巨大な体躯の獅子が姿を現す。

 その身は鋼のごとき剛毛に覆われており、どこか神々しさを感じさせた。

「……〈獅子真王〉だよな?」

 グルルルッ

 問いに応えるよう獅子は唸る。グランには、それが肯定のように感じられる。

「持ち主から、無理やり剥して悪かった。図々しかもしれないが、お前の力を使わせてもらう」

 聖獣の魂ごと権能を奪ったため、〈獅子真王〉の意思一つで奪い返される可能性が高い。そのため、精神世界に干渉して対話をしたのだ。

 もっとも、返事を聞くつもりは無かった。

 ―顕現せしは、獅子真王―

 詠唱を終え、その手に構えていた〈簒奪偽王〉が姿を変える。体に纏わりつくよう輝きが走り、腰から上を覆う鎧となった。

 構えていた牙刃剣は、アルバートが顕現させたものと同じ広刃剣となる。

『とりあえずは、成功だな。…ちっ、もう次は奪うことができねぇ』

「充分だ。一撃で片付ける」

 精神世界から戻ると、頭の中に響く声に言葉を返しながら息を鋭く吐いた。殺意や悪意ではなく、再び凶意に意識を染め上げる。

 研ぎ澄まされる感覚。眼に呪力の輝きが宿し、視界に映る半球の壁を睨んだ。その内に潜む人牛の反魂獣の姿を捉える。

 グオォォォ―――ッ

 響く咆哮が、呪力と共に周囲を吹き飛ばして道を拓く。

 呪詛の毒に蝕まれている反魂獣は、その輪郭が曖昧となって瘴気に還元された。核となる〈剣〉と所持者である騎士たちが現れる。

 聖書の一説に、獅子の姿をした聖獣の一説

が存在する。

 かの聖獣は獅子の姿を持ち、その気高き咆哮は闇を払う。

 かの聖獣は、その鋭き爪牙によって主の敵を屠る。

 かの聖獣は、鎧のごとき毛にて弱者の盾となる。

 闇を払う聖獣の咆哮が瘴気を払ったのだ。しかし、そんなものは眼中にない。ただ、一振りの剣となって駆けた。

『これは――っ!? 何が何でも阻みなさいぃ!』

 耳に入ってくる道化の声は、焦りと動揺を含んでいた。呼応するように、グランを阻む壁が幾重にもせり上がる。

「吼えろ、〈獅子真王〉!」

 獅子の幻影が浮かび、咆哮を上げて幾重もの障害を粉砕する。障碍をものともせず、広刃剣が防壁を切り崩した。

 姿を現した人牛が戦斧を振るうが、それは剣身によって受け止められる。

 ギャオォォォッ

 牛の頭部に相応しく雄たけびを上げ、その身体から瘴気を溢れさせて膂力を増した。力負けし、徐々に押し込まれていく。

 脳裏に浮かび上がる少女の顔。凍えたように恐怖で身を震わせ、助けを求めて自分の名前を呼ぶセフィア。

(こんなところで、お前に構ってる暇はない。邪魔をするなら、斬り伏せていくだけだ!)

 刃に意思が乗り、全身から呪力が迸る。瞳が真紅に染まった。

「うおぁぁぁあっ――――!!」

 グオォォォッ――――

 二重の雄たけびが天を震わせ、地を揺らして白銀の輝きが周囲を照らした。獅子の幻影が生じ、斧を砕いて人牛に爪牙を突き立てる。

 振り払おうと暴れるが、獅子の幻影が消えることはない。

「覇帝剣技Ⅱ式改・舞刃」

 振り抜いた勢いのまま踏み込み、跳躍して回転をかけながら斬りつけた。

 浅く白銀の線が走るが、決定的な一撃にはならない。

「ふっ――」

 息を鋭く吐き、刻まれた傷へと〈剣〉を投擲して突き刺した。

「牙を剥き、闇を絶て」

 地面へ投げ出され、背中を打ち付けながら命じる。

「〈獅子真王〉」

 獅子の幻影が呪力の本流へ還元され、剣身に〈剣〉へ収束した。そして、爆散。

 世界が白銀に飲み込まれ、視界が焼かれる。まともに余波を受けたグランは、体を襲う倦怠感もあって意識を手放した。


 怪物たちに蹂躙され、荒れ果てた王城の庭園。その中心を見つめ、セフィアは祈りを捧げていた。

 自分が呼ぶ声に応えてくれたグランが、無事であってほしいと願う。

(……天界の神々よ。どうか、聞き届けてください)

 そして、応えるようにそれは起きた。

 庭園の中心で空間に亀裂が走り、白銀の輝きが天を貫く。瘴気と共に雲が薙ぎ払われ、

陽光が王城を照らした。

「……ああ、神よ。主よ。感謝いたします」

 王城から逃げ出した貴族たちのなかには、その光景を見て神への敬意を表す者もいた。

 この光景から〈煌帝〉という伝承が生まれるが、それはグランとは別の人物として描かれる。

 輝きが治まり、目を庇っていたセフィアは再び庭園の中心を見た。そして、そこに横たわる青年の姿に思わず駆け出す。

「グラン!」

 階段を下りて崩れた壁から出ると、瓦礫の山に阻まれながらも懸命に駆けた。そして、やっとの思いで辿り着く。

「グラン、大丈夫!? 怪我は無い!? グラン!?」

 自分よりも長身のグランを抱え起こし、必死になって呼びかける。

 騎士服は襤褸衣のようになり、体は冷え切っていた。閉じて開かない瞼にセフィアの不安は増していく。

「グラン、返事をしてっ! 目を開けてっ……!」

 ただ、生きて帰って来ててほしい。その願いだけで天界の神々に祈った。しかし、それは届かずに命は失われようとしている。

「グラン――っ」

 ただの少女となって涙を流して声を上げた。泣き叫んで枯れるまで続く。

「おいおい、すげー声だな。お姫様とはいえ、やっぱり女の子なんだよなぁ」

「馬鹿者、少しはグラン=スワードの方を気にかけろ」

 聞こえてきたやり取りに、泣き叫ぶのをやめて振り返った。そこに二人の騎士が立っている。

「空気読めよ。今のは場を和ませるための冗句だよ」

「ふん、お前は普段の言動を改めろ」

 寝起きのように髪が乱れ、支え合うように立つのはアルバートとエドワード。

 そして、その後方いる何人かの人影も同じ様子だ。

「姫様、そいつのことは俺たちが助けるから安心してくれ」

「ただの呪力切れだ。もっとも、死に際だがな」

 言いながら、その体に呪力を纏った。そして、それぞれの口から呪文が紡がれる。光の粒子が舞い踊り、グランの体に吸い込まれていった。

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