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王女と異端の騎士  作者: 瀧野せせらぎ
第二章 簒奪の咎神
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英霊は告げる

シリアス過ぎる展開に振り回してすみません。作風を変えたつもりは無いので、引き続きお付き合いお願いします。

 目前に迫るのは、黒い鎧を纏った軍勢。中には巨大な斧や槍を持つ者もいる。

 それら全てが自分を殺そうとするが、体捌きと僅かに剣を振るうだけで逸らした。そして、一人ずつ致命傷を負わせて削っていく。

 味方の屍を乗り越えてくる軍勢の中心から、上へ跳んで手に持っていたただの鉄剣を投げ捨てた。

「我は主の命に従い、この聖剣にて汝らを討ち取る! 民を脅かし者達よ我を畏れよ!」

 注目を浴びながら宣言し、右手に力を集中して一本の剣を召喚した。黄金一色の美しい造りでありながら、そこに宿すのは虐殺を行うための力。

 見下ろす限りの敵が自分を恐れ、怯えるのを見ながら戦場へと落ちていく。

(……これは、夢だな)

 どこまでも現実だと思わせる感覚に、それを否定する思考が生まれた。すると、それまで同一化していた体から意識が抜け出す。

 俯瞰するような位置取りから、少年が落下していくのを見ながら今いる夢の中を観察する。

 空を飛ぶ竜や天馬、遠方に聳える山や空高く伸びる巨大な樹。どこをどう見ても、人間の世界には見えなかった。

 再び視線を地上へ戻すと、そこでは黄金の恒星が兵士たちを次々と飲み込んでいく。

 包囲されているにも関わらず、軍勢に捕らえられることはない。まるで万の軍が一つの敵と思わせるような立ち回りに、目視できても撹乱されて斬りつけることすらできない。

 すると、一つの法則機構が浮かび上がってきた。

(……そうか、わずかに孤立した敵から殺しているのか)

 少年は万の軍に囲まれながらも、その中で最も薄い部分にいる敵から斬りつけている。それに加え、瞬時に薄い部分を見つけることで包囲網を抜け続けていた。

 尋常で無い観察力及び直観、それを瞬時に行う判断力と身体能力。特に剣技の冴えは際立っており、それが故に一閃で敵を殺めることができる。

『そこまで驚くことでは無かろう』

 不意に聞こえてきた声に振り返ると、そこには戦場にいたはずの少年が立っていた。薄汚れた旅装束を身に纏う姿は、戦場とは異なる雰囲気を醸し出している。

 いつの間にか時は黄昏に変わり、周囲に広がるのは一面の荒野。吹き渡る風に前髪が僅かに揺れる。

『どうした? そのように呆けた顔をして』

(……さっきのは、お前の記憶か?)

 質問には答えず、自分の質問を相手にぶつける。

 ここでは言葉は自由にできない代わりに、ただ思考するだけで意思疎通が可能になっている。どういう理屈で招かれたかがわからない以上、相手のペースに乗せられないようにするのは定石だ。

『力を貸してやったというのに、ずいぶんと疑り深いようだな?』

(答えろ)

 隙を見せて付け入られることのないよう睨みつけると、少年は面倒だと言うように深く息を吐いた。

『己の義を剣に託せるようにになったとはいえ、ぬしには欠けている要素が多い。故に、我が記憶から少しでも学べばよかろう』

(……どういうことだ?)

 相手の真意がわからず聞き返すと、黄金の瞳に鋭く射抜かれた。まるで語ることを拒絶するかのようだ。

『これ以上は語るつもりはないし、語ったところで身につけることはできなかろう。故に、己で探し出せ。さすれば――』

 少年の体が一本の剣に変わり、黄金の輝きを放って世界を照らす――と同時に、黄昏の世界が焼かれて消え始めた。

『汝の剣は、あの者を殺めることができよう。〈破滅の子〉よ』

 謎の言葉を耳にした瞬間、体と意識を焼かれて夢の世界と共に消え失せた。

「っ……!?」

 目を開くと同時に彼が最初に見たのは、見覚えのある天井。上体を起こして外を見ると、夜明けまでに随分と時間があった。

 荒くなった息を整え、再びベッドに横になる。

(……あの者……〈破滅の子〉……)

 少年の発した二つの言葉を何度も心の内で反芻し、それを意識へ刻み込んでいく。かつて薄暗い部屋の中で学んだ通りに、それを思い出せるよう鍵を作って閉じ込めた。

 夜明けまでの僅かな時間、目を閉じて無駄に消費した身体と意識を回復に充てる。新たな日が訪れ、自分が守ると決めた少女を守り続けるために。

 青年―グランの右手に刻まれた剣の紋章が淡い輝きを放っていた。

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