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王女と異端の騎士  作者: 瀧野せせらぎ
第一章 黄金の英霊
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道化の生む悪夢

『ふふふ、そろそろ目を覚ましていただけますかねぇ?』

 おどけた気味の悪い声が耳に入り、背筋が震えてセフィアの意識は覚醒した。

 うつ伏せの状態から体を起こし、周囲を見回して言葉を失う。

 地面が無いのだ。

 いや、地面が遥か下方にあると言った方が正しいのだろう。彼女は足場の無い空中に寝かされていた。

『おやおや、どうしましたぁ? 顔が真っ青ですよぉ?』

 何がおかしいのか、声は笑いを含んでいる。

『ああ、人間にとっては異常な光景ですからねぇ?』

 指を鳴らす音と共に、セフィアを取り囲む檻籠が出現する。そして、その外に黒い道化が現れた。

 目元は仮面をつけ、口は横たえた三日月の形に歪んでいる。

『ご機嫌よう、人間の姫君よ。ふふふ』

 甲斐甲斐しく頭を下げる姿に、得体の知れない恐怖で震える唇がようやく動いた。

「…あ、あなたは、何者なの? 私を、どうするつもりなの?」

『平静を装うとしていますが、声が震えていますねぇ?』

 指摘を受けて呼吸が止まり、意識が遠のきかける。

『おっと、気を失ってもらっては困ります』

 道化の声と共に、無理やり意識が引き戻された。

 体に走る不快感に悲鳴を上げようとするも、唇が鍵をかけたように動かない。手足も指一本にいたるまで、自分の意思で動かすことができなかった。

「~~っ」

 騎士団団長アルバートに触れられるよりも、遥かに恐ろしい感覚が全身を這い回り続ける。

 声にならない声。自由に動かすことのできない体。気を失うことも許されず、恐怖に精神が侵されていく。

『ふふふ。少し気持ち悪いかもしれませんが、我慢してくださいねぇ? ああ、なんと心地よい気分なのでしょう!』

 彼女の儚く脆い心が壊れていく様に、道化は肩を抱いて天を仰いだ。

 その姿を瞳は映さず、焦点が狂い、虚ろとなって感情が消失した。

『おっとぉ、心が壊れてしまったようですねぇ。…ふふふ』

 道化は檻籠の上に跳び乗り、両手で空に大きな円を描いた。

 すると、黒い靄が生まれて円盤状に固まる。そして、その表面に地上の様子が映し出された。

 草一本も無い荒野に立つのは四人。黒い衣服を纏った青年と美しい淑女、戦闘用の装備をした二人の男。

『…ふむ。援軍を連れて来るかと思ったのですが、当てが外れてしまいましたねぇ』

 顎に手を当てて首を傾げるが、すぐに肩を震わせて嗤った。

『まあ、いいでしょう。特に支障はありませんし、始めましょうかねぇ』

 道化が一回転すると、ドロッと頭から溶けて檻籠と共に跡形も無く消えた。セフィアの姿も無い。

『ふふふ。ふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ』

 まるで狂乱したかと思わせる嗤い声が、天高くから地上まで響き渡った。

 どこからともなく瘴気が噴き上がり、地上を満たして四人を囲みこんだ。道化が生み出した悪夢が、現実となって彼らに襲いかかる。

 少し時間軸が跳びましたが、その辺りはご愛嬌ということで。

 さて、次は今作品で一番の見せ場となります。お付き合いください!

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