第一話
この小説はフィクションです。
登場する人物、物、建築物などは実在しません。
2004年 3月11日
−今日、美咲が死んだ。−
平岡美咲は私、望月香織の親友だった。
私は東京に住む高校3年生で、もうすぐ卒業を控えていた。
親友の美咲もそうだった。
美咲の母親から、今日電話があったのだ。
『香織ちゃん・・・?美咲の母です・・・。美咲といつも
な・・・仲良くしてくれて、あ・・ありがとう・・・。
今日・・・ね・・・、み・・美咲が・・・亡くなりました・・・。
本当に、今まで・・あり・・がとう・・・。今から大学病院に・・・来て・・・
最後の、美咲の・・・顔・・・見てあげて・・・くれないかしら・・・?
美咲・・・きっと喜ぶわ・・・。よかったら・・・来てあげてくださいね・・・。』
手の力が抜け、受話器を落としてしまった。
それを聞いたとき、悲しいというより驚いて、急いでタクシーで近くの大学病院へと向かった。
−美咲が・・・死んだ?そんな訳ない・・・。美咲が死ぬなんて・・・!−
美咲が死んでしまうなんて、信じられなかった。
みんなに人気があって、明るくて、優しくて、暖かい美咲・・・
美咲は私と違って、優しくて美人だ。
女子からも男子からも人気があって、すごくいい子だ。
−それに・・・この事、日向井が聞いたら・・・−
日向井雄二は、サッカー部のキャプテンだ。容姿も
なかなかで、日向井に憧れる者も少なくない。
日向井は美咲の恋人である。
お互いに愛し合っていて、美咲もすごく幸せそうだった。
あれは、昨年の8月、夏休みも終わりに近づいた頃・・・
『香織、ちょっと聞いてほしい事があるんだ』
『ん?何々?言ってみ?』
『実はね、これ・・・』
そういって、美咲は自らの左手のを差し出した。
『えっ・・・これ・・・もしかして・・・』
美咲の左手の薬指には、銀の指輪が光っていた。
『雄二にもらっちゃった』
照れくさそうに言う美咲は、本当に幸せそうで、
私もなんだか、すごくうれしくなって美咲にこう言った。
『美咲!よかったじゃん!これってもしかして・・・婚約指輪・・・!?』
『うん・・・あのね、雄二が私の誕生日に、「今まで付き合ってきた中で、
いろいろ大変なこともあったけど、全部美咲との大切な思い出だから・・・
なくしたくない。これからも、俺と・・・いろんな思い出を作っていって
くれないか?」って言って、この指輪をはめてくれたの・・・』
『日向井やるー!!美咲もすごく幸せそうだから、私まで幸せな気分になってきちゃう』
『えへへ・・・ありがとう。本当に今、幸せなんだ・・・』
『美咲が幸せなら満足!結婚するんでしょ?いつするの?』
『まだまだ先だよ。高校卒業してから、話し合うんだ』
『そうなんだぁ・・・親には?まだ言ってないの?』
『ううん。もう言ってあるよ。すごく驚いてたけど、喜んで賛成してくれたよ』
『おお!もう言ってんの?早いねぇ。じゃぁ、話も早く進みそうだね!』
『うん!早く、雄二と幸せになりたいな・・・』
そのときの美咲の顔は、とても幸せそうだった。
しかし、どこか、悲しそうな顔もしていた。
−あの時の悲しそうな顔はなんだったんだろう・・・?−
そんなことを思い出して考えているうちに、タクシーは病院についていた。
タクシーを降り、病院の受付へと走る。
『すみません、平岡美咲さんはどちらに・・・』
『平岡美咲さんですね・・・。こちらの奥にいったところです。』
『ありがとうございます。』
受付の看護婦に場所を聞き、急いで美咲のもとへ向かう。
『望月・・・?』
どこかで聞いたことのある声が私を呼び止めた。
−続く−