第2話 幼馴染と、初めての共同探索
「ごめん、ちょっと廃墟で転んだだけだよ。本当に大丈夫」
俺は花の心配そうな顔を見て、慌てて笑顔を作った。
花はまだ納得いかない様子で、俺の顔をじっと見つめてくる。
「最近ダンジョン増えて危ないんだよ…一緒に帰ろ?」
その言葉に、俺は素直に頷いた。
胸の奥で、まだ熱かった「努力の結晶」のメッセージがよみがえる。
家に帰ると、弟のゆうたが玄関で待ち構えていた。
「兄ちゃん! 遅かったね! ダンジョン動画見ようよ!」
「今日は疲れたから、明日な」
俺は笑って部屋に入り、ドアを閉めた。
ベッドに座って目を閉じる。
頭の中に、昨日のステータス画面が浮かんだ。
【努力の結晶】
・努力(トレーニング・反省・協力)をした時間に比例して、経験値とスキル成長が2倍になります。
「毎日トレーニングすれば……普通の人の2倍速で強くなれるってことか?」
俺は小さく拳を握った。
凡人でも、頑張れば変われる。
そう思うと、胸が熱くなった。
翌日の学校。
朝のホームルームが終わると、花が隣の席から身を乗り出してきた。
「ケンタくん、昨日のことまだ気になるんだけど……」
「本当に大丈夫だって」
俺が笑うと、花は少し頰を膨らませた。
「じゃあさ、今日放課後一緒に帰らない? 探索部に入ろうかなって思ってるんだ」
「探索部?」
俺は少し驚いた。
星ヶ丘高校には最近、ダンジョン探索を許可された部活動ができたらしい。
でも俺は帰宅部だ。特別なことはしたくない……はずだった。
放課後。
俺は花に引っ張られるようにして、いつもの廃墟の前に立っていた。
「ちょっと待って、花。危ないよ。一人で入るなんて」
「ケンタくんも昨日ここにいたんでしょ? だったら一緒に!」
説得は失敗した。
花の目はキラキラしていて、止まる気配がない。
仕方なく、俺は先に立ってゲートをくぐった。
薄暗い1階層。
昨日と同じ埃っぽい空気。
「わあ……本物だね」
花が小さく息を飲む。
彼女は学校の剣道部で素振りだけやったことがある程度。
本物のダンジョンは初めてだ。
前方に、プルプルと二つの青い塊が現れた。
スライムが二体。
「花、後ろにいて!」
俺は前話の経験を思い出し、花を背中に庇った。
スライムが同時に飛びかかってくる。
昨日より長く動き続けなければ。
俺は深く息を吸った。
「まだ……頑張る!」
石を拾って投げ、横に跳んで回避。
スライムの一体が花に向かおうとするのを、俺は体を張って止めた。
腕にべっとりとした感触。
痛い。でも、昨日より少しだけ体が軽い気がした。
「ケンタくん、なんか動きが違う……!」
花が驚いた声で言う。
俺は歯を食いしばって、もう一つの石を振り下ろした。
花も慌てて近くの棒を拾って一緒に叩く。
「もっと……集中して!」
汗が目に入る。
息が上がる。
でも、昨日より長い時間動き続けられた。
グシャッ、グシャッ。
二体のスライムが同時に潰れた。
【経験値獲得】
【レベルが3に上昇しました】
俺は膝に手をついて息を整えた。
花が目を丸くして俺を見る。
「すごい! ケンタくん、実は探索者だったの!?」
俺は苦笑いしながら首を振った。
「違うよ。ただ……昨日ちょっと頑張ってみたら、なんか変わった気がして」
廃墟の外に出て、近くの公園のベンチに座った。
夕陽がオレンジ色に染まる中、花が隣に並んで座る。
「俺、凡人だけど……頑張ってみようと思う。
花は危ないことしないでね」
花は少し照れたように笑って、俺の肩を軽く突いた。
「ケンタくんが頑張るなら、私もついていくよ!
だって、幼馴染でしょ?」
その言葉に、本当は期待していたのかもしれない。俺の胸が少しだけ温かくなった。
家に帰ると、ゆうたがまた飛びついてきた。
「兄ちゃん! ダンジョン行ったでしょ!? 動画撮って!」
母の恵子さんがキッチンから心配そうな顔で覗く。
「健太、今日は遅かったわね……大丈夫?」
俺は笑って「うん、大丈夫」と答えた。
でも心の中では、違う言葉が響いていた。
(明日、クラスメイトの大山剛が……何か絡んでくる気がする)
これが、俺と花の初めての共同探索だった。




