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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第一章 及川めぐみだった
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肝試しの思い出

 去年の夏。真司は、高校の友達二人を家に招いた。

 私は、縁側でスイカを食べている三人に予定を尋ねた。すると、夕飯はバーベキュー。その後は、肝試しと花火。それから、庭に張ったテントで寝るとのこと。

 山にある神社に肝試しに行くと聞いて、私は興奮した。

 

「私も肝試しに混ぜて! やりたい!」

「はっ! ビビり屋めぐみはお断りだ。ぬいぐるみと一緒にねんねしてろ」

「子供じゃないもん!」

「見た目は中学生でも、精神年齢は三歳のくせに」

「むかつくーー!!」


 母のところに飛んで行くと、「お兄ちゃんがいじめる! 肝試しに混ぜてくれない!」と訴えた。

 しかし逆に、「めぐみは怖がりだもの。行かなくていい」と反対されてしまった。


「みんなして私を弱虫扱いして! 幽霊なんて怖くないもん! ……そうだ、裕史を誘おう!」


 それで考えたのが、貢物作戦。

 夜七時ごろ。バーベキューの焼けた肉を皿に取ると、兄にバレないようにこっそりと裕史の家に行った。

 裕史が肉を食べ終えてから、話をする。


「お肉のお礼がしたい? もぉー、真面目なんだから。いいよっ! 肝試しに行こう!!」

「なにも言っていないんだけど……」

「いいからいいから。肝試しに行くよ! レッツチャレンジゴー!!」

「えぇー……」

「つべこべ言わない! 私について来なさーい!」


 裕史の手を引っ張って外に連れ出すと、神社のある山へと歩く。

 兄たちはもう出発していて、懐中電灯の明かりが三つ、田園風景の中にちらついている。

 仕方なく歩いているといった様子の裕史に、私は先輩風を吹かす。


「大丈夫だからね。幽霊なんていないんだから。なにかあったら、私が守ってあげる」


 しかし、歩いて十分後。山を少し登ったところで、私は腰を抜かしてしまった。

 木の枝の先に、白いものが揺れている。


「ゆゆゆゆゆゆゆゆっ!?」

「めぐみさん?」

「ゆゆゆ、幽霊っ!! 首を吊った女の幽霊!!」


 取り乱して号泣する私の肩を、裕史は揺さぶった。何度も「あれは幽霊じゃない!」と叫んだ。

 けれどパニックに陥った私は、聞き入れられなかった。


「なんで幽霊の味方をするの!!」

「違う! よく見て! あれはビニール袋。幽霊じゃない!」

「嘘だっ!」

「嘘じゃない! めぐみさんに嘘ついたりしない!」


 私は恐る恐る顔を上げると、目元を覆う指の間から裕史を見た。


「本当に?」

「うん」

「私に嘘ついたりしない? 神様に誓える?」

「うん」

「本当の本当に、ビニール袋?」

「うん。袋の持ち手部分の穴が、木の枝に引っかかっているんだ」

「信じてもいい?」

「うん」


 私は勇気をだして、木を見上げた。そして、お腹が痛くなるほどに爆笑した。


「あははっ!! 本当だーっ!!」


 木の枝に引っかかったビニール袋を幽霊と間違えるなんて、愚かすぎる。

 真司だったら、「めぐみは大馬鹿だな!」と大笑いしただろう。けれど、裕史は優しい。からかうことも、呆れる顔もしなかった。「紛らわしいよね。僕も一瞬、幽霊かと思った」と慰めてくれた。


 私たちは、肝試しをやめて帰ることにした。だが、足に力が入らない。


「立てない。どうしよう」


 半べそをかいた私に、裕史は背中を向けてしゃがみ込んだ。


「おんぶする」

「無理だよ。私、重いもん」

「やってみる」


 裕史は背は高いが、ひょろりとしている。

 無理だろうと思いつつ、私は裕史の背中に乗った。首に手を回す。

 裕史は立ちあがろうとして、唸り、よろけた。


「無理しなくていいよ」


 私は裕史の背中から降りると、足に力を入れて立ち上がった。


「あ、大丈夫みたい。歩けそう」

「……ごめん」


 裕史は恥じるように謝った。


 帰り道、私たちは約束した。私が幽霊を怖がって泣いたことは秘密。裕史が私をおんぶできなかったことも秘密。

 私と裕史は小指を絡ませて、内緒にすることを誓った。



 夏休みが終わり、二学期が始まった。

 学校の廊下で裕史に会った。顔を見るのは、肝試しの日以来。

 なぜか、心臓がドキンと跳ねた。黒縁眼鏡にかかっている前髪や、半袖から伸びている日焼けしている腕が眩しく見えて、私は逃げるようにしてその場から去った。

 いつもなら「よっ!」と気軽に挨拶できるのに、声をかけるのはおろか、まともに顔を見ることもできなかった。


「肝試しに誘ったくせに、ビビちゃったから。先輩なのに、恥ずかしい姿を見せてしまった」


 この羞恥心は、情けない姿を見せてしまったから。

 そう結論づけると、肝試しのことを忘れることにした。


 それから何度も裕史と顔を合わせるうちに、不思議なドキドキ感は薄れていった。

 そして、今に至る。


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