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句読点 2  作者: 川進
84/90

Open mimi !





 僕がまだ、小さい頃。

おじいさんが旅立って、すぐに。

おばあさんとピアノは。

音を、失くした。


今、おばあさんは。

記憶を、失くしかけているけれど。

つやつや光る美しいピアノのことを、

とてもよく覚えている。


そして、病院のせんせいは。

居心地の良い場所で。

残された時間を。

と、言った。




 僕は、どうしたら。

いいんだろう。



親友は。

缶コーヒーを投げてよこした。



鳴らなくても。

本気で。

弾いてみたら、

どうだろう。



うつむいたまま、ふたを開けると。

小さな湯気がのぼって、

まぶたを一瞬、温めた。


拭う僕を見ずに。

親友はポタージュの缶を、

静かに振った。



おばあさんの帰りを待つあいだ。

親友のピアノを借りて、

聴いてもらいながら。


おじいさんが弾いていた曲を、

間違えないようになるまで。

繰り返し、練習した。




 僕は耳栓をして。

ピアノの鍵盤に触れた。


おばあさんは拍手をして喜んだ。


お父さんは手を差し出して、

おばあさんの手を取ると。

ゆっくり。

ステップを踏み始めた。



おばあさんは。

とても、嬉しそうだから。


きっと。

おじいさんの旋律を。

うちがわで、聴いている。


おじいさんに似ている、お父さんも。

嬉しそうに、踊るから。 

きっと、おんなじ。



僕は。

閉じる花のように。

意識を丸めていく。


見えているものは。

ぜんぶ、混ざり合い。

みんな、平らになる。



その、向こうの。

白く、明るいところに。


小柄な影と。

手を差し出す、

背の高い影が見えた。


手を取り合い。

ふたつの影は、くるくると。

円を描いて、踊り始めた。


遠くで。

微かに鳴っている音は。


 

ああ。

これは。

おじいさんの、弾き方だ。



はっきり聴きたいけれど。

聴こうとするほど、

遠ざかってしまう。


僕の指は、

止まりそうになる。




ひらけ。

きみの。

みみ。


降ってきたのは。

ずっと前に聞いた、おばあさんの声。


そうだったね。


音当てをして。

よく遊んだね。




ひらけ。

ぼくの。

みみ。


僕は、つぶやいた。


遠い音が。

だんだん、近くなる。




ピアノに寄り添っていた親友が、

短く息をした。


親友は。

僕の耳栓を。

そっと、外した。



ピアノが。

ボリュームを上げていくように。

音を、響かせる。



おばあさんは。

とても驚いた顔をして、

お父さんを見上げると。


両手を、耳の後ろに当てて、開いた。

おばあさんの目は、きらきらとして。

水面のように、揺れている。



お父さんは何度も頷いて、

嬉しそうな声で、笑った。


2人は、また。

ステップを踏んで。

ゆるやかに、進んでいく。



僕は。

白く明るいところで、回り続ける、

ふたつの影を眺め。

おじいさんの旋律を、聴きながら。

僕の音で、弾き続ける。



ツリーに飾られている、

音符やベルが、

細かく震えて。

金色や銀色に、ちかちか。

輝いている。







せさみ。

みみ。


似てる。

よ、

ね?

           373 m(_ _)m 39

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