第三十九話、FM伏見、竹中顧問の経済番組
ーー竹中顧問、大いに語るーー
FM伏見が22時をお知らせいたします。
22時の時報。
そのあと、パーシー・フェイクオーケストラによる「夏の朝の愛」4小節後、少し音量が下がり、桑島アナのナレーションが入ります。
「――世界経済の大海原を目指し、クルージング船はタグボートに導かれて静かに旅を始めます。
あなたの経済のナビゲーター――『マーケティング千一夜(この部分エコー)』。
今夜も、すてきな航海士をお招きして、さまざまな経済の物語を伺ってまいりましょう。
お相手は、わたくし、桑島実朗です。」
さて今宵のゲストは、総裁Zとしてインターネット業界でご活躍の、元京都理工大学教授、えー、今は・・・株式会社田中オフィス最高顧問「Top Senior Adviser」でいらっしゃいます。竹中駿也様にお話をお伺いしたいとおもいます。どうぞ皆様、最後までお楽しみください。では、竹中最高顧問。よろしくお願いいたします。
竹中 駿也:
「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします。えー……夜分遅くにお耳を拝借いたします。私、こういうメディアの場は久々でして、すこし緊張しておりますが、桑島さんのお声を聞くと……なんだか、昔よく聞いていた短波放送を思い出しますな。」
桑島 実朗:
「おお、光栄ですねえ。実は私も若いころ、ポケットラジオで夜な夜な技術系の番組を聞いていたんですよ。……さて、まずは竹中先生、いや、総裁Zというべきでしょうか? ネット界隈ではそのお名前、いわゆる“レジェンド”として知られております。今日は、その変遷と裏話、ぜひ伺ってまいりたいと思っております。」
竹中 駿也:
「ええ、ありがとうございます。いやあ、“総裁Z”だなんて、少し照れくさい呼び名ですねぇ。ただ、あれはネットの中で、皆さんが私の発言を面白がってつけてくれた“あだ名”のようなものです。名刺に書いたことは一度もありませんが(笑)、でも、そう呼ばれることで、技術の話が少しでも届きやすくなるなら……ありがたいことです。あの頃は、まさかこんな肩書きでビジネス番組に出る日が来るとは思いもしませんでしけど。」
桑島 実朗:
「なるほど、なるほど……では、少し時計の針を戻して、先生がインターネットにのめり込まれたきっかけから伺ってもよろしいですか?」
竹中 駿也:
「そうですね……話せば長いですが、ちょうど1995年、ウィンドウズ95が出た頃でしょうか。あの年、京都理工の研究室で、学生たちが“インターネット掲示板”というものを立ち上げましてね。そこから一気に火がついたんです。」
桑島 実朗:
「おお、まさに“あの年”ですね。ウィンドウズ95……多くの人が、初めてパソコンを“自分のもの”に感じた頃かもしれません。」
竹中 駿也:
「ええ。インターネットは、それまで研究者だけの道具でしたからね。95年を境に“道具”が“場所”になった、と言えるかもしれませんな。」
桑島 実朗:
「“場所”……いい表現ですねえ。先生は、掲示板で何を書かれていたんですか?」
竹中 駿也:
「最初はね、研究室の学生との連絡やスケジュール調整だったんですよ。でもそのうち、学生のひとりが“先生、これ公開したら面白いですよ”と言い出して……。“教授のつぶやきコーナー”みたいなものを始めたんです。今でいう、ブログのご先祖みたいなもんでしょうか。」
桑島 実朗:
「ははあ! それがいつの間にか、“総裁Z”と呼ばれる存在に……」
竹中 駿也:
「まったく困ったもんですよ(笑)。匿名文化というのもあってね、誰がどんな肩書きを持っていようが、そこでのふるまいで名前がついていく。“Z”というのも、私が“最後まで読み切ることが大事”と言い続けたせいかもしれません。“Zまで読む人”みたいな意味だったとか、ないとか(笑)」
桑島 実朗:
「なるほど……一文字で語られる重み、ですね。では先生、今のお立場——田中オフィスの“Top Senior Adviser”としては、どういうお仕事を?」
竹中 駿也:
「まあ、簡単にいえば、“若い人たちが見ていない死角を、見ておく役”でしょうか。とくに中小企業のデジタル対応や情報セキュリティ……。最近は“便利さ”ばかりが前に出ますが、その裏で、守るべきことが抜け落ちるケースも多くてね。」
桑島 実朗:
「たしかに。そうした“守りの技術”に、光が当たることは少ないですよね。」
竹中 駿也:
「だから、私は“技術を語るときには、静けさも一緒に語れ”と若い人には言ってます。——音がしないから、見過ごす。けれど、見過ごしたものこそ、あとで響くんですよ。」
桑島 実朗:
「……いやあ、深い。耳元で、じんわりと効いてくる言葉ですねえ。」
(ジングルが静かに入る)
桑島 実朗:
「今夜は、株式会社田中オフィス・Top Senior Adviser、竹中駿也さんをお迎えしてお送りしております。番組はまだまだ続きます。次のセクションでは、竹中先生が“地域”に注目されている理由について、じっくり伺ってまいります。」
ーーやってみようと思ったらーー
竹中駿也:
「“地方の時代”とか、“情報発信は地方から”なんて言われて久しいですが、実際のところ、過疎化は進む一方です。
一方で、田舎暮らしに心の豊かさを求めて移住された方の中には……最初の頃は自然や人の温かさに感動していたのに、だんだんと違和感を感じるようになって、“これでよかったのかな”と後悔される方も少なくない。
結局、都会の雑踏に戻っていかれる……そんな話もよく聞きます。
でもね、私は、それでいいと思ってるんです。“何が悪いの?”って、むしろ言いたいぐらいで。」
桑島 実朗:
「竹中さんのいまのお話……つまり、“都会に戻ったからといって、それを失敗ととらえる必要はない”、そういうことなんでしょうか?
むしろ、それも一つの経験として、自分の中に積み重ねていけばいい、と。」
竹中 駿也:
「ええ、まさに。人はいつだって、“一度選んだ道を引き返しちゃいけない”って思いがちなんですがね……そんなことないんですよ。選び直すのも、ひとつの知恵ですわな。
結局、踏み出さずに都市部に残っていたら、たしかに“失敗”はしないかもしれません。
でもね、失敗しない代わりに、“経験”もしないんですよ。
そのうち年を重ねて、もう飛び出す力もなくなってから
——“あのとき行っておけばよかったなぁ”と、後悔が静かに沁みてくる。
私は、それがいちばんつらいと思うんです。
……ただ、田舎暮らしに憧れた“あのときの自分”がいたこと、それ自体が大きなヒントなんですよ。
たとえうまくいかなかったとしても、それは形を変えて——気づかないうちに、あなたの中に何かしらプラスの変化を残していく。
人間って、そういうふうに出来てると思うんです。」
桑島 実朗:
「なるほど……それは、胸に残りますね。
もし、なにか具体的なエピソードなどあれば、ぜひお聞かせいただけますか?」
竹中 駿也:
「……私自身の話を少しだけしましょうか。
実はね、かつて5年ほど、世界中を歩き回っていたことがあります。べつに武勇伝を語るつもりはありませんが、その中で、ある国の……まぁ、ちょっとした組織の親分筋に、妙に気に入られたことがありましてね。
私は犯罪には一切加担しておりませんよ。でも、あるとき食事の場で、日本のアニメの話になったんです。彼が“昔見たアニメの主題歌、覚えてるか?”と聞くので、ちょっと歌ってみたんです。イントロも、間奏の“チャカチャン!”みたいな擬音もつけてね。
そしたら彼、いきなり怒鳴るんですよ。“おまえら、外へ出て行け!竹中はここにいろ!”って。
他の者を全部追い出して、私を自分の隣に座らせて……涙をぽろぽろ流しながら、“もっと聞かせてくれ”って。
その日以来、彼は必死に日本語を覚えようとし始めました。歌詞の意味を知りたい、アニメの内容を理解したいと、目を輝かせてね。『日本に行くのが小さい頃の夢だった』って。
私は別に、歌ってくれと言われたわけじゃありません。でもある日、ふと鼻歌でそのアニメのエンディングを口ずさんでいたら……彼は静かに目を閉じて、じっと聴き入っていたんです。」
桑島 実朗:
「……音楽には、国も言葉も越える力がある。そんな光景が、目に浮かぶようです。」
竹中 駿也:
「……彼にとって、あの歌は、ただの思い出の一部だったのかもしれません。
でも、あのとき彼の目に浮かんでいたものは、たぶん——
子どものころの情景、故郷の空、家族の声、友達と笑い合った日々……そういったものだったんじゃないかと思うんです。
きっと、歌を手がかりに、心が昔の“優しかった時間”へ戻っていたんでしょう。
それがたった数分でも、彼にとっては、穏やかで、温かい時間だったはずです。
……その後、彼は警察に捕まり、残りの人生を刑務所で過ごしたと聞きました。
でも私はね、彼の心はきっと、最後まで——あの頃の景色の中にあったんじゃないかと思うんです。」
桑島 実朗(ゆっくり、やや低めのトーンで)
「竹中さんのお話……
きっと今、ラジオの前で耳を傾けてくださっている皆さまにも、
なにか——小さな気づきのようなものが、
そっと心に残ったのではないでしょうか。」
(静かに1秒……2秒……)
桑島 実朗(明るく)
「さあ、このあとはCMをはさんで、
“竹中駿也 総裁Zに聞いてみよう”のコーナー。
リスナーの皆さんからのお葉書、どんどんご紹介してまいります。
どうぞ、お楽しみに。」
(ジングル入り、CMへフェードアウト)
—
ナレーション外:
ガラス越しのディレクターブースでは、チーフDが目尻を下げてニコニコ。
「今の、完っ璧……!」とつぶやきながら、ADのミカちゃんが両手で大きく○マルを作って見せる。
桑島アナも気づいて、目線だけでふっと笑う——けれど、マイクの前では声のトーンひとつ乱さない。
ーーリスナーのお葉書コーナーーー
桑島実朗:
「はい、リスナーのお葉書、紹介してまいります。――岐阜県、郡上市の”マクルーローハン”様より。ゲストに”総裁Z”ご登場と聞いて、ペンを執らせていただきます。早朝ジョギング中、犬の散歩をしている。初老の男性が、犬のおしっこで縁石が汚れると、中年女性から注意を受けていました。たまに見かけますが、ペットの躾、マナーがなっていないとよく問題となっています。犬はおしっこを縄張りのマーキングとして、このような行動をとる”習性”があるのだと。でも、犬はもっと違った目で、”嗅覚で”世界を見ているのだと思っています。ペットボトルの水をかけて、おしっこを流している飼い主もいます。犬は人間の行動をあきらめ顔で眺めているとしたらどうでしょうか?そんな思いで犬の散歩を私も眺めています。―――いかがですか?竹中さんはどの様なご意見をお持ちでしょうか」
竹中駿也:
「ええ。これは私が最近よく思うことなんですが……”犬は芸術家”だって。散歩中に“世界を感じて、表現してる”んですよ。臭いを“見る”というか、空間を立体的に感じ取って、自分の痕跡で上書きしていく――」
桑島:
「はあぁ……なるほど。おしっこや匂いをつけるのが“自己表現”と?」
竹中:
「その通り。“ここに誰かがいたな”“これはメスの匂いだな”と感じながら、次に自分が『ここは、こうあるべきだ』と、自分なりの表現を足していくんです。もう、まるでアーティスト。彼らにとって、散歩道はキャンバスですよ。」
桑島:
「いやはや、犬の散歩にそんな深い意味が……!」
竹中:
「行動経済学でも、“人間の選択は環境に依存している”という原則がありますが、犬はそれを“臭い”という情報で生々しくやってる。しかも、自分の痕跡をもって環境を“再構築”してる。もう、私なんか、犬を見るたびに“ウォーホルに似てるな”とか思ってしまいますよ(笑)。」
桑島:
「聞いている皆さん、自分の飼い犬の散歩の見方、ちょっと変わってきたんじゃないでしょうか(笑)。マーケティングも、表現と環境の関係から考える――。これは目からウロコです!」
竹中:
「そう、“見て、感じて、創る”。これは、犬に学ぶ芸術哲学でもあるんです。人間のビジネスもまた、“環境を感じ取って、自分なりに意味づけて、行動すること”の繰り返しですから。」
桑島 実朗:
「さて、今夜の“マーケティング千一夜”、ゲストは“総裁Z”こと竹中駿也さん。話題はなんと、犬とアートから始まりまして……リスナーの方から、Xなどでも、ちょうどこんなメッセージが届いております。」
(ガサッという紙をめくる音)
桑島:
「“先生、犬の芸術活動に水をかけてしまう私は、マナーを守る現代人のフリをした抑圧者でしょうか?”……と、ラジオネーム“うしろのポチさん”から(笑)」
竹中 駿也:
「いやあ、これはね、非常に深い問いですな。まず第一に、私が強調したいのは――“水をかける”という行為そのものが、実は“第2のアート”なんですよ。」
桑島:
「おっと、これは意外な方向から来ましたね。どういう意味で?」
竹中:
「つまりですね、“自分の犬が描いた匂いの絵”に、飼い主が“透明の筆”でひと手間加えてるわけですよ。“ここに痕跡を残すけど、社会的に調和を保つ”というメッセージなんですね。」
桑島:
「ほう!つまりそれもまた“表現”であると?」
竹中:
「そう。“私はマナーを守る飼い主です”ということを、無言で道行く人々に伝える。これ、行動経済学で言うと“シグナリング”ですな。社会的協調の証を、誰にも強制されずに自発的に発信してる。」
桑島:
「なるほど、それでいて“おしっこの上書き”という、ちょっとしたストリートアートのような側面もあると……!」
竹中:
「そうそう。まさに“マナーとアートの交差点”です。むしろ、その水のかけ方にも個性が出ますからね。スッと一回だけ注ぐ人、ジャバジャバ派、スプレーボトルでシュッとする人……もう、フォームが美しい人もいる(笑)」
桑島:
「そこを観察する“総裁Z”も、もはや社会派アーティストですね(笑)」
竹中:
「ですから私は言いたい。“マナーはルールじゃない。表現だ”と。
“自分と社会の関係性を、行動でどう描くか?”――これはマーケティングにも通じますよ。」
桑島:
「いやあ、今夜の放送、街の散歩が3倍楽しくなりそうです(笑)。皆さんも、明朝の犬の散歩、ちょっと“芸術眼”で見てみてはいかがでしょうか?」
桑島 実朗
「さて、今夜の『マーケティング千一夜』、話題は“犬とアート”という、まさかの角度から深掘りしておりますが……総裁Z、ちょっと決定的なお言葉をいただきましたよね。“犬の抑圧者になるか、アートの共同制作者になるか”――これはなかなか強烈です。」
竹中 駿也(総裁Z)
「そうですね。犬にとっての“排泄”というのは、単なる生理行為ではなく、表現なんですよ。“ここで、こういう作品を残しました!”っていう、誇らしげなアピールなんです。」
桑島:
「なるほど……“えへへ、この作品、どうすか?”ってやつですね(笑)」
竹中:
「そうそう(笑)。だから、それを植え込みの陰にポイッて捨てるのは――もう、“展示拒否”ですよ!作者が苦心して仕上げたインスタレーションを、勝手に裏庭に押し込めるようなものです。」
桑島:
「わかります……せめて、袋に入れて“持って帰る”というのが、作家へのリスペクトですね(笑)」
竹中:
「まさに。“うちの子の作品は、きちんと持ち帰ります”というのは、共同制作者としての矜持ですよ。これ、ちゃんとパッケージングして運ぶ行為ですから。」
桑島:
「お聞きの皆さま、明朝のワンちゃんとの散歩、ちょっとだけ“アートと共に歩く”気持ちで出かけてみてください。いつもと違う風景が、見えるかもしれませんよ。」
竹中:
「いやあ、でもほんとに、“日常の中にあるマーケティングの種”って、こういうところにあるんです。
選択のひとつひとつが、自分と社会との関係性をどう表現するか。それが、行動経済学の一番おもしろいところなんです。」
桑島:
「皆さん、そろそろ散歩に行きたくなってきたんじゃないですか?『この植え込み、ちょっと作品映えするかな…?』なんて考えながら(笑)」
竹中 駿也:
「はっはっは、いいですねぇ。“どこに作品を展示するか”は、作家のセンスが問われますからね!犬の皆さんも、“場所選び”は本気です。あれ、戦略的配置なんですよ。」
桑島:
「戦略的配置(笑)! じゃあ、あの、“さっきもそこやったやん!”ってとこにもう一回やるのも…?」
竹中:
「あれは“追いサイン”ですね。マーケティングで言うところのリターゲティング広告と同じ。“ここ、うちのエリアですから!”って、念押ししてるんですよ。」
桑島:
「すごいなあ……ということは、木の根元に3匹連続でやってたら、あそこは競争市場?」
竹中:
「そうそう。あれはもう熾烈なポジショニング争いですね。ブルーオーシャンは、公園の真ん中とかにぽつんとある、誰も寄り付かないオブジェの裏とかね。」
桑島:
「犬の行動、全部マーケティングで説明つくじゃないですか!(笑)」
竹中:
「ええ、“匂い”って、言語を持たない彼らのブランド構築なんですよ。どんなにいいフードを食べていても、最後に残るのはその場でどう表現したか。これ、実は人間も同じです。SNSで何をシェアするか、どんな言葉で残すか――すべて現代のマーキングですから。」
桑島:
「SNS=マーキング説! これは総裁Zしか言えない視点ですね(笑)」
竹中:
「ですから私は言いたい。飼い主の皆さんは、犬の“マーケターとしての感性”をもっとリスペクトしてほしい。
そして――“共犯者”になってほしいんです。」
桑島:
「共犯者って、ちょっといい響きですね。」
竹中:
「たとえば“う○こを拾う”っていう行為も、私は単なるマナーじゃなくて、共同制作の完了処理だと思ってます。
“お互いに責任を持って、この街に小さな物語を残しましたよ”っていう、連名サインみたいなもんです。」
桑島:
「いやあ……みなさん、明日から拾う手が、ちょっと誇らしくなりそうです(笑)」
(BGM:♪ジャズピアノの軽やかなインストゥルメンタル)
桑島:
「さて、そろそろお時間が近づいてまいりました。今夜は、田中オフィス 最高顧問、“総裁Z”こと竹中駿也さんをお迎えして、犬の表現とマーケティング、そして“うんこ”に至るまで、深く、楽しく語り合ってまいりました。」
竹中:
「ほんとに、濃い時間でしたね(笑)。今夜このラジオを聞いてくださった皆さんの中に、少しでも“日常が作品になる”って気づいてもらえたなら、もうそれだけで最高です。」
桑島:
「ありがとうございます。それでは皆さん、また来週の『マーケティング千一夜』でお会いしましょう。
次回は、“商店街の張り紙に見る感情設計”の予定です。お楽しみに!」
竹中:
(ぼそりと)「“火気厳禁”のフォントにも、熱い想いがあるんです……」
桑島(爆笑):
「それ、もう予告編じゃないですか(笑)!」
桑島 実朗
「さて、今夜の『マーケティング千一夜』、名残惜しくもそろそろお別れのお時間です。
最後に、総裁Zこと竹中駿也さんから、ひとこといただいてもよろしいでしょうか?」
竹中 駿也(総裁Z)
「はい。実はね、さっきちょっと感動したんです。
“伏見”というこの地名――『人と犬が見る』と書くんですよね。」
桑島(小さく):
「おおっ……!」
竹中:
「人が見る世界と、犬が嗅いで感じてる世界――その両方が重なってる場所が、この“伏見”なんです。
つまりここは、“共感と観察が共存する町”。人間の理性と、動物の本能とが、やさしく隣り合ってる場所。
私ね、この伏見から、新しいマーケティングの形が生まれるんじゃないかって、ちょっと本気で思ってますよ。」
桑島:
「深い……!今夜の番組、全部この“伏見”の漢字に回収されていたとは……。さすが総裁Z……!」
竹中:
「ですから、皆さん。
明日、いつもの道を歩くときは、どうぞ“伏見する”気持ちで歩いてください。“自分の視点”だけじゃなく、“犬の視点”“通りすがりの子ども”“疲れたサラリーマン”の視点も――重ねて見る。
それだけで、世界はすこし優しく、すこし面白くなりますから。」
桑島(少し感動して):
「……“伏見する”という新しい動詞を、今夜、私たちはいただきました。
皆さん、どうぞ良い夢を。そしてまた来週、伏見の夜にお会いしましょう。」
ーーそれでは、FM伏見『マーケティング千一夜』――深夜番組の終わりにふさわしい、少し詩的で、心に残るモノローグとしてお届けしましょうーー
(BGM:♪夜明け前の静かなストリングス、遠く小鳥のさえずりが重なる)
桑島 実朗
「最後に、今夜お届けしたすべての話を、ひとつの“声”に代えて――
リスナーの皆さんに、ちょっと想像していただきたいのです。
これは、あなたの足元を歩くあの子――そう、あなたの愛犬が、心の中でつぶやいている言葉かもしれません。」
(BGMが少しだけ音量を上げる)
犬の声(竹中総裁Zのやさしい声で)
「ご主人様――
明日の朝から、散歩が変わります。
いつも通りの道も、僕にとっては、匂いと音と風のキャンバスなんです。
“ここ、どうかな?”って、ちょっと残してみたりして……。
短い命かもしれないけど、
ご主人様と一緒に、最高の世界をつくりたいんです。
僕のアート、感じてもらえますか?」
(静かに余韻を残してBGMフェードアウト)
桑島(やさしい声で)
「“見る”ではなく、“感じる”。それが、犬たちのメッセージかもしれませんね。
伏見の夜が明けてゆきます――さあ、明日の朝、散歩があなたの世界を変えるかもしれません。」
(ジングル:♪FM伏見、見えないものを感じるラジオ♪)
ーーFM伏見『マーケティング千一夜』 反響まとめーー
・ バズったフレーズ
「伏見って、“人と犬が見る”と書くんです。最高じゃないですか。」
ハッシュタグ「#伏見する」「#犬と見る世界」がX(旧Twitter)やThreadsで拡散
投稿例:
「朝の散歩が変わった。“伏見する”って、こういうことか」
「うちの犬の“作品”を褒めてやりたくなった」
「総裁Zの“見て、感じて、創れ!”、胸にしみる…」
犬の散歩風景の写真と一緒に「#伏見する」がトレンド入り
・スポンサー・局のリアクション
地元ペットショップ「パウズ伏見」協賛継続決定
ペット保険会社が特別協賛を検討中
番組スタッフ内で「千一夜グッズ」開発会議が立ち上がる
FM伏見広報が「犬と見る町・伏見」特設サイトを準備中
◇次回予告案(リスナー投稿特集)
「うちの子の作品、見てやってください」特集回!
リスナーからの“犬の表現”写真・エピソードを紹介
総裁Zが“マーケティング的視点”で一匹ずつ分析
稲田さん(田中オフィス)も登場し、
「マーケティングはこういう“愛”から始まるんですね…」と感動
桑島アナの名ナレーションで〆:「犬が残したもの、それは“今ここにある物語”です」
◇ 企画スピンオフ案
犬と歩く“伏見するMAP”制作
総裁Z監修。「匂いスポット」「名作排泄ポイント」付き
マーケティング×動物行動学 特別講座(田中オフィス主催)
「感情を数値化しない勇気」みたいな内容で教育機関とコラボも
若手社員の新企画立ち上げ回
奥田珠実がTikTokで「アートとしてのう○こ」動画をバズらせかける
水野先輩が「これは……境界線を踏み越えていませんか?」と困惑
田中社長が「ええねん、表現や!」とちゃぶ台返し(予定)
ーー『マーケティング千一夜』田中オフィス版ーー
翌朝、田中オフィスの休憩室には、どこかソワソワした空気が流れていた。
コーヒーマシンのブゥゥンという音と、電子レンジの「チン」の音が重なる、いつもの“朝の喧騒”。
その中で、異様に高らかな声がひときわ響いた。
「ちょいちょいちょいちょい!! たまちゃん!!」
スマホを握りしめた佐々木“メグ姐さん”が、声を裏返らせながら立ち上がる。
周囲の社員たちが「また何や……」という顔でちらちら視線を送る中、姐さんが叫んだ。
「これ……う○こやんな!?」
静寂。
奥田珠実——通称たまちゃんは、机に置いたチョココロネを手に持ったまま、時が止まったように固まっていた。
「……。」
「いやいやいや! 黙らんといて!! 朝やで!?朝!
せめてモザイクとか、フィルターとか、“せせらぎBGM”くらい付けられへんかったん!?
これ人間は入ってへんやろな!?」
社員たちがコーヒーをこぼしそうになりながらザワつくなか、ひとり、水野先輩が控えめにむせた。
「ちょ、姐さん、そういう言い方……逆に食べづらいです……」
たまちゃんは無言のまま、机の端にちょこんと座るわんこのぬいぐるみを指さした。
「……カブくんの、です。」
「わかっとるわ!! でもな、“カブくんの”って言われてもや!
何がどう“の”なんか説明が要るのよ!!」
さらに無言のたまちゃん。そっと引き出しから何かを取り出す。
それは……う○こマークのステッカー。無表情で机に置かれた瞬間、場の空気が爆ぜた。
「なんか言えーッ!!!」
爆笑。社員たちは笑いすぎてソイラテを吹き、橋本は腹筋を押さえながら後ろにのけぞった。
そしてそのとき、まるでオーケストラのクライマックスに合わせて登場するかのように、田中社長がコーヒー片手に現れた。
「おお。ええやん、ええやん。
“見る勇気を問う投稿”や。これはもう立派なマーケティングやで。」
スタジオが凍るレベルの静寂。
半田くんがボソッと、小声でつぶやいた。
「……社長、今、内容は“内容物”ですからね……」
田中社長はニヤッと笑ってコーヒーをすすると、天井を見上げながら呟いた。
「いやあ、うちもついに“バズる臭い”がしてきたなあ。」
——その瞬間、メグ姐さんがチョココロネを握りしめて爆発した。
ーー続くーー