第九十一話、田中オフィスの未来
ーー念願のギルド受付嬢ーー
冬の気配がすぐそばに迫る十二月の午後。
京都本社の給湯室には、いつものように湯気と、人の気配と、賄い部特有の温かな匂いが満ちていた。
「もうすぐ冬休みになりますね!」
奥田珠実――通称たまちゃんが、鍋の蓋を開けながら言った。
「アバスくん、またアルバイトに来てくれるかな?」
隣でてきぱきと揚げ物を仕切っていたのは、庶務兼・賄い部長の島原真奈美。
かつて介護施設で働き、介護士資格も持つ彼女は、職場環境改善のヒントを過去の経験から次々と提案してきた頼もしい存在だ。
今はパート扱いとはいえ、契約社員としてフレックス勤務。将来的には正社員への昇格が期待されている。
そんな島原が、やわらかな笑みで答える。
「そうなのよ。賄い部ができてからメニューも増えたし、アバスくんの喜ぶ顔、また見たいわねぇ」
同じテーブルでは、メグ姐さん――まもなく楠木姓になる新婚ほやほや(予定)の料理番が、ミックスフライの皿を差し出す。
「島原さん、盛り付けこんな感じでどうやろ?
美味しそうに見えるかな」
島原はすっと皿を取り上げ、素材の配置を確かめ、少しの間考えてから言った。
「メインは海老だから、キャベツを枕にしてシッポは右上に。
コロッケを右下、左上がカキフライね。
にんじんの千切りはキャベツにまぶさないで、ワンポイントにすると映えるわ」
「なるほど、主婦歴の差ってやつやなぁ……」
メグ姐さんは感心したように笑う。
結婚後の食卓も、島原直伝の“料理の型”で彩られていくのだろう。
和気藹々とした空気が流れるその時、たまちゃんがスマホを見ながら言った。
「えっと……ちょっと気になる知らせがあって。
アバスくん、オフィスTokyoの美咲ちゃんからの話だと……芸能活動も始めちゃって、東京から離れられないんじゃないかなって」
言葉を聞いた瞬間、揚げ油のはぜる音がやけに大きく聞こえた。
島原は、トングを持った手をぴたりと止める。
「そんな……せっかく賄い部が充実して、喜んでもらえる準備もたくさんしたのに……」
落ちこんだように呟く声は、母が息子を心配するそれに近い。
彼女の自宅の娘たちも、アバスの来訪をずっと楽しみにしていたのだ。
「でも、大学受験もあるし」
たまちゃんは前向きに続けた。
「Sセミナーにはきっと来てくれると思うんです。だから……」
それでも、島原の胸には小さな影がさしたままだった。
「……きっと、来てくれるわよね?
娘たちも首を長くして待ってるんだから」
湯気の向こうで、たまちゃんとメグ姐さんが互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。
三人の間に流れるのは、温かい職場の日常。
しかし、そこに訪れた“成長”という名の変化が、ほんの少しだけ不安の色を落としていくのだった。
ミックスフライの湯気がふわりと立ちのぼるなか、たまちゃんが、ふと思い出したように声を上げた。
「それに……来年の三月には、水野さんも京都に戻って来られるんですよね!」
朗らかな声は、賄い室の空気をいっそう明るくする。
島原もメグ姐さんも、思わず振り返った。
「そしたら私……ミズノギルドの受付嬢に志願するつもりなんです!」
「え、受付嬢?」
メグ姐さんの目が丸くなる。
「はい!スタートアップの登記業務も勉強できますし、司法書士試験の実地訓練にもなるかなって。
私もちゃんと、難関試験に挑戦するつもりなんです」
その言葉は、確固とした芯を持っていて、からりとした頬笑みとのギャップが眩しいほどだった。
いつも明るく場を和ませるたまちゃんだが、裏ではコツコツと資格勉強を続け、
やがて水野の手がけるスタートアップ支援――“ミズノギルド”に専念したいという静かな野心を抱いていた。
「いずれは、ミズノギルド一本でやっていけるように。田中オフィスの業務は、そのうち後輩に引き継ぎたいんです」
たまちゃんの目はどこか遠く、未来を真っ直ぐに見ていた。
「だって――」
彼女はいたずらっぽく笑った。
「水野さんと稲田さんが結婚しちゃったら、田中オフィスが夫婦だらけになっちゃいますよ?
来年には竹中顧問の教え子さんたちが、三人くらい入る予定なんでしょう?
だったら、私がしっかり次の世代に引き継いでもらえるように準備しておかないと」
メグ姐さんは思わず吹き出した。
「たまちゃん、あんた……ほんまにあの半田くんと結婚するつもりなんか?それは当人同士のことやからかまへんけどな。でも、ミズノギルドの受付嬢から司法書士って、だいぶ飛び級やで?」
「飛び級じゃないですよ〜、ちゃんと努力します!」
たまちゃんが胸を張ると、島原真奈美はふっと優しく頷いた。
「でも……いいと思うわ。
あなたが受付に座ったら、それだけでギルドのイメージアップに繋がるもの。
きっと水野所長も喜ばれるわよ」
「ほんとですか?」
たまちゃんの顔がぱあっと輝く。
島原は言葉を続けた。
「それに、後輩たちに仕事を引き継げるようにするっていう考え方……立派よ。
そういう人がいると、職場はうまくまわっていくから」
そこへメグ姐さんが、揚げたての海老フライをひょいと掲げる。
「ほな、たまちゃんの出世祈願に、このエビ一本、先に味見したらどうや?」
「え、い、いいんですか!?」
「ええよ、その代わり司法書士受かったら奢ってな」
賄い室は再び笑いに包まれ、揚げ物の香りと一緒に、
"未来へ広がる期待"がさくっとふわっと漂っていた。
京都事業部開設を前に、それぞれの胸に灯る小さな野望と、一抹の不安と、温かな仲間の気配。
そのどれもが、田中オフィスの冬の午後を柔らかく彩っていた。
ーー主人公登場ーー
田中社長が食堂に入ってくる。
「お、香ばしいええ香りや。今日はミックスフライか――島原さん、わし、玄米ご飯大盛りでたのむわ!」
テーブルの向こうでは、たまちゃんが半田主任に話している。
「来年の3月には水野さんもこっちに戻って来るから、ミズノギルドの受付嬢に志願するつもり!」
「受付!? たまちゃんが?」半田が驚く。
「うん。スタートアップの登記業務も勉強できるし、司法書士試験の実地勉強にもなるから。私ね、難関試験にチャレンジするつもり。いずれはミズノギルド専業になって、田中オフィスは後輩に任せようと思うの」
玄米ご飯大盛りを受け取った田中社長が、話の途中でニヤリとしながら口を挟む。
「おお、たまちゃん。夢があるやないか。ワシも嬉しいわ」
たまちゃんは続ける。
「社長、聞かれちゃったんですか?いずれ水野さんと稲田さんが結婚したら、田中オフィスが半田くんと私も合わせて夫婦ばっかりになっちゃいますよ。竹中顧問の教え子が3人くらい入る予定ですから、ちゃんと引き継げるように、私も準備しておきたいんです!」
田中社長が笑いながら玄米を掬い上げる。
「そらええ心がけや。しかし夫婦ばっかりの事務所って別に気にせんでもええで、……なんや家庭内行事みたいな雰囲気でええやないか」
島原さんも笑いながらうなずく。「たしかに、結婚祝いが来年はたくさんありそうね!」
食堂は揚げ物の匂いと笑い声で満たされた。
その中で田中社長は「この玄米、ほんまうまいわ」と満足げに頷き、
スタッフたちはそれぞれの未来を思い描きながら、温かい昼食を楽しんでいた。
食堂にはミックスフライの香りと、昼下がりのざわめきが満ちていた。
田中社長は玄米ご飯をひと口かき込み、湯呑みを置いてから、ぽつりと語りはじめた。
「つまりやな、体制いうのは、たまちゃんが思うほど気にせんでええのや。人が増えて手狭になったら、もっと広い事務所に引っ越せばええ。それだけのことや。大事なんは“人”やねん」
たまちゃんが首を傾げる。
「でも、新しい人が入ったり、部署が増えたりしたら、やっぱり体制を整えないといけないんじゃ……?」
田中社長は手を振って遮る。
「仕事に合わせて無理くり“体制”──つまりチームを形から作ったらな、絶対コケる。仕事が人を呼ぶんやなくて、人が仕事を連れてくるんや。水野所長も東京でそれがよぉ分かったと思うで」
感心したように半田主任が聞いた。
「じゃあ…社長が単身で水野さんを東京に送り出したとき、もうそれを承知の上だったんですか?」
田中社長は少し照れたように、玄米を見つめながら笑った。
「後出しジャンケンみたいやし、あんま言いたくないんやけどな。当初はQ-pullとのつなぎだけやってくれればええと思ってたんや」
「Q-pullのつなぎだけ…って、そんな軽い感じだったんですか?」たまちゃんが思わず声を上げる。
「ところがや。水野くんはたちまち事務所を作って、人を揃えて、あれよあれよという間に東京で仕事取りまくった。予想以上の成果やで。こっちも尻に火ついてもうた、ほんま」
たまちゃんも半田も、思わず苦笑いした。
そのとき、入口のドアが開く音。
竹中顧問が白いスカーフを揺らしながら入ってきた。
「ボンジュ〜ル、皆の衆。今日は社長を中心に、なにやら難しいお話ですかな?」
田中社長は顧問の顔を見るなり、にやっとして言った。
「例えばや、この人もそうなんや。ワシと水野と2〜3人で小ぢんまり司法書士事務所やってた頃はよかったんやけどな──水野はんがあの調子で、どんどん仕事取ってくるからな」
竹中顧問は肩をすくめ「ま、彼は天性の"呼び寄せる人"ですからね」と笑う。
社長はさらに続ける。
「それで、司法書士の稲田さん、司法書士勉強中やった橋本部長、バックオフィスの佐々木さん…そこに藤島専務も合流して、経営の骨格作ってくれた。半田くんやたまちゃんも入ってきて、気づけば田中オフィスの原型はできあがっとった」
たまちゃんが「なんか『会社の歴史』ていう授業みたいですね」と呟くと、食堂に笑いが広がった。
しかし、社長の"本題"はその先だった。
「これでチーム田中は完成やろってワシも思うた。そしたらや──水野は、お客さんのビジネスソリューションまで取ってくる始末や。司法書士業務の外側まで広げてしもて」
竹中顧問が、どこか誇らしげに目を細める。
「その腕で東京に拠点作ってくれ、って言うたら、ほんまにやりよった。オフィスTokyo作って2年で黒字化、挙げ句にミズノギルドまで創設や。ワシかて、どうなっとんのやこれって思うで」
半田が大笑いし、メグ姐さんも「ほんま、漫画みたいやな」と肩を揺らす。
田中社長は腕を組んで、ゆっくりと周囲を見渡した。
「せやから言うたやろ。体制やなくて、人が仕事連れてくるんや。──ほんで、田中オフィスには“人”がようけおる。ほんま、ありがたいこっちゃ」
揚げ物の香ばしい匂い、湯気の立つ味噌汁、笑い声。
食堂は、まるでチームの歴史を祝福するかのように、あたたかな空気で満たされていた。
ーー水野さん、宇宙人説ーー
食堂のざわめきの中、田中社長は湯飲み茶碗を手に、にやっと笑った。
「たまちゃん、いつも仕事ぎょうさんやってくれて助かるわ。ほんでやな──『給料増やしたるから、こんどからこの営業も頼むで~』なんて言われたら、往生するやろ?」
たまちゃんは胸を張って笑った。
「そんなの、余裕のよっちゃんですよ!」
その自信満々な返しに、社長も思わず噴き出す。
「そりゃたまちゃんやからや。ほかの子やったら倒れてしまうで。だからまず“人”や。人がおらんと、事業計画なんてできへん」
半田主任は、真面目な顔で口を挟んだ。
「でも社長、IT化を推進すれば、少数精鋭でもいけるんじゃないですか?効率化して、もっとスマートに──」
社長は「お前も言うと思ったわ」という顔で笑った。
「半田くんを採用したのはな、最近のIT事情についていけるようにしたかったからや。でも、そのあとや」
一拍置いて、社長は嘆くように、しかしどこか誇らしげに続けた。
「水野はんが言いよったんや。『社長、システムサーバーを入れましょう』てな」
たまちゃんが驚いて振り返る。
「サーバーって、あの“Integrate Sphere”ですか?」
「そうや!あのバカ高いやつや!」
社長はテーブルを軽く叩いた。
「ワシは思ったで。こいつ宇宙人かなんかちゃうかって!」
食堂全体がどっと笑いに包まれた。
しかし、社長の目には確かな光があった。
「ほいで水野はんは、東京でたったひとりやのに仕事取りまくって──ついには拠点つくって、スタッフ揃えて、たった2年で黒字化や。挙句に"ミズノギルド"やぞ?司法書士だけやのうて、ビジネスソリューションまで手ぇ出して。普通の事務所なら10年かかる規模のこと、息するみたいにやりよった」
半田は呆れたように笑う。
「たしかに……あの人のスピードは、ほんと異次元ですよね」
たまちゃんは、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。
(水野さんのところで受付嬢しながら、スタートアップ登記の勉強して…いずれ司法書士試験にも挑戦して…私も、この“快進撃”の一員になりたい)
社長は湯飲みの茶を飲み干し、ぽつりと締めくくった。
「激動の田中オフィスや。ワシ一人では、こんな波、絶対に越えられへんかった。水野はんの快進撃は確かにすごいけどな──お前らがおらんかったら、東京にも京都にも、事務所なんて残ってへん。ほんま、ようついてきてくれてるわ」
食堂の空気は、揚げ物の香ばしさと同じくらい温かかった。
田中オフィスの激動の日々は、まだ始まったばかりだ。
ーー竹中顧問の行動経済学分析ーー
田中社長は、湯飲みを弄びながら天井を見上げた。
「まあ、ワシやなかったら、こうはならんかったと思うで。まず最初に『田中司法書士事務所──田中オフィス』からいろんなことが始まっとんのや」
社長は、まるで自分の歩んだ道を遠くから眺めるように息を吐いた。
「竹中顧問、ワシら……これからどうなってしまうんですやろ?」
その言葉は、胸の奥に沈殿していた疑問をようやく掬い上げたような、素直な嘆きだった。
竹中顧問は、箸を静かに置き、メガネの奥の瞳を細めた。
その仕草だけで、食堂の空気がわずかに締まる。
「心配するのは、ごもっともです。ですが──」
と前置きして、竹中は楽しげに唇の端を上げた。
「だからこそ“おもしろい”と私は思うんです」
社長は「なんやそれ」という顔で眉をしかめる。
竹中は水の入ったグラスを回しながら、ゆっくり語り出した。
「行動経済学には“プロスペクト理論”というものがあります。人間は、利益よりも損失に対して強い恐怖を感じる。つまり、私たちは“変化のリスク”より“現状を守る安心”にしがみつきやすい生き物なんです」
たまちゃんも半田も、思わず姿勢を正した。
「では問います──田中社長。あなたが、一番“損失”と感じるのは何です?」
田中社長はしばし考え、ぽつりと答えた。
「……人が離れてしもたら終わりや。それが怖い」
竹中は満足げに頷いた。
「では次に聞きましょう。あなたが一番“手に入れたい利益”とは?」
社長の答えは迷いがなかった。
「みんなが長く安心して働ける場所。田中オフィスを“居場所”にしてくれるならワシは本望や」
竹中は、静かに、しかし熱のある声で言った。
「そこですよ、社長」
「プロスペクト理論では、人は“得たい未来”を明確に描くと、リスクを恐れず動けるようになる。損失の恐怖に飲まれるか、未来の利益に突き進むか──分岐点はそこにあります」
社長は思わず笑った。
「ほうか……ワシは今、岐路に立っとるわけか」
「ええ。そしてね、社長」
竹中は指で小さく円を描きながら続けた。
「田中オフィスがここまで急拡大した理由。
京都と東京に人が集まり、仕事が勝手に流れ込んでくる理由。
それは“行動デザイン”が成功しているからなんです」
半田が首を傾げる。
「行動デザイン……ですか?」
「人が“自然と動いてしまう仕組み”ですよ。
水野くんのスピードに合わせて、皆が走り出す。
あなた(社長)の包容力に影響されて、人が辞めずに育つ。
そして若い子たちは“ここにいると未来が開ける”と感じている」
竹中はグラスを机に置き、きっぱりと言った。
「だから、田中社長。
田中オフィスは、まだまだ大きくなります。
この流れは止まりません。
不安は当然。でも──最大の敵は“不安そのもの”です」
社長は鼻で笑った。
「なんや、またワシらを煽ってきよるな」
竹中は愉快そうに笑う。
「ええ。煽っていますよ。
“見て、感じて、創れ”──私の信条ですから」
社長は腕を組んで、ゆっくりとうなずいた。
「ほな、怖がっとる暇はないいうことやな。
変化は避けられへん。なら──ワシらの手で、創っていこか」
竹中は立ち上がり、軽く杯を掲げた。
「それでこそ田中オフィスです。
さあ、行きましょう社長。ここからですよ」
食堂の空気は、さっきより温かく、少しだけ未来の匂いがした。
田中オフィスの行く先は、誰にも読めない。
だが──
“不安だからこそ、おもしろい”。
その言葉が、事務所全体の空気を確かに変えていった。
食堂に満ちた和やかな空気が、田中社長の突然の叫びで一気に沸騰した。
ーー決意表明ーー
「よし、もうどうにでもなれや!!」
箸を落としそうになった半田が慌てて身を乗り出す。
「しゃ、社長!そんな投げやりなこと言わないでくださいよ!
僕ら、これからもっと忙しくなるんですから!」
しかし社長は、まるで若いころに戻ったような目でニヤリと笑った。
「ちゃうで、半田くん。
わしが生きているうちは──この田中オフィスの行く末、しっかり見届けるっちゅうこっちゃ!」
半田は胸をなで下ろしながらも、ほっとした笑みを浮かべる。
その横で、たまちゃんが椅子から立ち上がり、拳を握った。
「田中社長、珠実にお任せですよ!田中オフィスも、ミズノギルドも、半田くんも……
ぜーんぶまとめて、アタシが面倒みてあげます!!」
勢いに押されて、半田が飛び上がる。
「ええっ!ぼ、僕まで!?
いや、あの……たまちゃん、それはちょっと……!」
「なに文句言ってんの、半田くん?
あんた一人で迷子になりそうなんだから、誰かが見とかなきゃでしょ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……!」
食堂に笑い声が弾けた。
京都の小さな司法書士事務所“だった”田中オフィス。
数年前までは、登記と相続の仕事に追われるだけの街の事務所だった。
それが今──
東京に拠点をつくり、ミズノギルドが生まれ、若者が集まり、
さらには国内外の企業を巻き込んで、新しい仕事が次々と動き出している。
誰もが予想しなかった未来が、すぐそこまで来ていた。
老舗でも大企業でもない。
けれど、誰よりも自由で、誰よりも楽しそうに走っている。
その中心にいるのは──
笑って、怒って、しょっちゅう驚かされる田中社長。
「ほな、みんなでやってこか。
田中オフィスは、まだまだこれからやで!」
社長の声に、全員が力強く頷いた。
かつて小さな司法書士事務所だったこの場所は、
いまや──
とんでもないエネルギーを内に秘め、
日本のビジネス界に、ちょっとした“台風”を起こし始めていた。
まだ誰もその風の正体を知らない。
だが一つだけ確かだった。
このメンバーなら、きっと面白くしてくれる。
田中オフィスの物語は、まだ第一章が終わったばかりなのだから。
ーー完ーー
おしまいのご挨拶
小さな京都の司法書士事務所から始まった物語を、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
田中オフィスという、どこにでもありそうで、どこにもない事務所。
とぼけたようで鋭く、豪快なようで繊細な田中社長。
静かに熱い水野、暴れ馬のようで優しい珠実、ひたむきな半田くん――
彼らが積み重ねた日々の選択が、気がつけば大企業も巻き込むほどの“渦”となり、
やがて新しい未来へとつながっていきました。
これからもきっと、田中オフィスは揺れたり笑ったり転んだりしながら、
それでも前へ、前へと進んでいくのでしょう。
そこには不思議なほどの生命力と、くすっと笑える人間味があふれています。
・・・描けるストーリーはまだあると思います。
またいつか、彼らの物語のつづきを一緒に紡げる日を楽しみにしています。
本日はありがとうございました。




