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7 グループLINE『おつかれさま会』


「ねえ、遊園地ってどゆこと?」 

 週明けの昼休み。わたしと愛美は第一会議室でお昼を食べていた。


 食べながら携帯を見ない。これはわたしのポリシーだけど、今はそれどころじゃない。

 わたしは味道楽をかけたご飯を箸で取りつつ、携帯を愛美に差し出す。



「なんでグループLINEができてるの?」

『おつかれさま会』というグループLINEは、先週の飲み会のメンバー八人で構成されている。わたしは愛美に招待されていた。


「なんで怒ってんのよ?」

「べ、べつに怒ってはいないけど! だって、だってさ、金曜日に飲み会やって、次の週に遊園地とか展開早すぎじゃない?!」

「そんなこと言ってたら、あたしたちおばあちゃんになっちゃうよ。早い展開大歓迎でしょ。むしろ提案者の吉野さんに感謝だよ!」


 やっぱりというか予想通りというか。


「吉野さんが言い出しっぺなんだ」


 きっとそれは、みんな断われない、というかあの人のペースに乗せられてしまうのだろう。そういうカリスマ性みたいなものを持ってる人だ、吉野さんて。


「うん。吉野さん、なんかこのメンバーすごくいいよねって」


 愛美がうれしそうに春雨スープをすする。


「彩香はつぶれちゃってたけど、あの飲み会サイコーだったんだよ。真希も亜紀ちゃんも同じ意見。なんかね、みんな意気投合っていうか。高校生みたいなノリってあるじゃん。もちろんお互いコイツかわいいな、とかあの人イケメン、とか思ってるんだけど、そういうの隠してでもこの『いつメン』がいい、みたいな。そういう感じだねって吉野さんが。あたしもわかるーっって」


 身悶えする愛美を思わずジト目で見てしまう。


「ぜんぜんわかんない。だったら愛美と吉野さんで行けばいいじゃん」

 たぶん、王道派の愛美は吉野さん狙いだと思うから。

「だーかーらー、そういうんじゃないって。このメンバーで〇〇したいだけなんだ! ってことだよ」



 勝手にメンバーに入れられても困る。

 わたしはもう会いたくない。


 もちろん、吉野さんや若林さんや黒田さんは素敵だった。もっとお話したかった。酔いつぶれた自分を呪いたいし、機会があるならまた飲み会をやり直したい。


 けど、速水とまた会うことがセットなら話は別だ。



「ごめん。わたしは遊園地、パスするね」

「えーっ、なんでよ」

「予定があるんだ」



 自販機で買ってきた温かいお茶をすするわたしを、愛美がじーっと見る。


「ねえ、もしかして速水くんと何かあったの?」


 お茶を吹きそうになったけど何とかこらえて、

「……何もないよ。送ってもらっただけ。本当に」

 しれっと言った。嘘はついてない。



「ふうん」

「本当のこと言うと、それで気まずいっていうのはある」

「やっぱり何かあったの?!」

「ニヤニヤしない! ちがうから。だって記憶失くすくらい酔って、家まで送ってもらうなんてオトナの女としてけっこうな醜態でしょう?」

「まあ、確かにねえ」

「しかも初対面の人だったんだよ? だからすぐにまた会うとか、恥ずかしいよ」



 うん、我ながらよく誤魔化せた。

 少し嘘はまぜたけど、許してね愛美。



「しょうがないなあ」

「吉野さんたちによろしくね」

「あ、でもLINEのグループには入れておくからね。みんなでって話なのに彩香だけ外すのも不自然じゃん」

「わかった」

「行かないのに通知きてうるさいかもだけど」

「いいよ。行けなくてごめん的なメッセージぐらい送るから」


 わたしは昨日作った卵焼きを口に入れる。冷凍してあったのが程よく解凍されて、じゅわっと甘めの味が口に広がる。気持ちが少し軽くなった。


「今度は酔いつぶれないから、また新しい飲み会行かない?」

「いいけど、彩香ツテあるの?」

「ツテかあ、すぐにはちょっとね。婚活パーティーとかどう? わたし一度行ってみたかったんだ」

「婚活パーティーね。確かに、興味ある!」

「じゃあネットで探しておくね」



 その日、わたしは帰りの電車で婚活パーティーのサイトを吟味しつつ、ブーブー通知のくるLINEを横目で流していた。

 すでにお昼休みに『すみません、今度の日曜日は予定があって。みなさんで楽しんできてください』とメッセージを入れていたので確認する必要はないだろう。



 婚活パーティーっていろいろあるんだなあ、と思いつつ、今日の夕飯は家で素麺でも茹でようかな、と考える。

 本当は、駅前のお気に入りの定食屋さんのコロッケ定食が食べたい。

 でも、定食屋で一人コロッケ定食を待ちながら婚活パーティ―を物色する女子っていうのもなんだかなぁと思って。



 グループLINEがかなり盛り上がっていたので、ちょっぴり寂しさを感じる。

 わたしだって遊園地は好きだし、みんな楽しそうだし、行ってみたい。

 でも。


 古傷をえぐられるくらいなら、おひとりさまの休日を過ごした方がずっといい。



 大きく溜息をついてカギをさぐる。もうアパートは目の前だ。


「えっ……」

 アパートの前でスマホから顔を上げた人を見て、わたしはぎょっと立ちすくんだ。


「あ、よかったやっと来た! ここ、蚊がけっこういてさ」

 なんとアパートの玄関前で、ジャージ姿の速水が爽やかに笑って手を振っている。

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