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16 パーキングエリアにて➁


 頭が真っ白になった。思わずコーヒーを口にした。

 どういうこと? それじゃあ、どうして。



「俺、まだそのとき村上にLINEとか聞けてなくて、聞こうとしてた矢先だった。でも、芹沢先輩のことを出して連作先を交換したくなかった。せっかく仲良くなったのに先輩のことをダシにするのは嫌だったし、俺も自分の気持ちに気付いたから複雑だったし。だから先輩の件と俺の件を分けることにしたんだ。それで迷ったけど、部活の先輩絡みで頼まれたから村上の連絡先を教えてくれって――神崎玲奈に頼んだ」


 つながった、と思った。

 わたしが卒業アルバムで連絡先を確認したかったのは、玲奈だ。


「神崎は嫌な顔ひとつせずに教えてくれた。でも理由を教えてくれって言われた。『本当は速水君も彩香のこと好きなんじゃない? フったわたしには教えてくれてもいでしょ?』って。そう言われたら断れなくて、そうだよ、って答えた。村上のこと好きなんだ、って。そしたら、神崎は村上を花火大会に誘えってアドバイスくれてさ」



――あの日。

 速水が花火大会に行くだろうから、誘って一緒に行けばいいじゃん。告っちゃいなよ。わたしはもう速水なんか眼中ないから彩香がうまくいけばいいって祈ってるよ。

 わたしにそう言ったのは、玲奈だ。


 速水は、ふっと笑う。


「女子を何かに誘うなんてしたことないし、先輩に申しわけないし、うだうだしてたら村上が誘ってくれてさ。俺の人生でまちがいなくベスト5に入るラッキーな出来事だって思った。――けど」


 けど、何?

 それが知りたかった。

 あの花火大会で何があったの?


「いたんだ、芹沢先輩が。花火大会に来てたんだよ」

「え……」

「天国と地獄が同時にやってきたって感じで。村上が俺に、信じられないくらいうれしいことを言ってくれた時、こっちを見てる芹沢先輩に気付いたんだ」


『ごめん無理だわ、村上』


 そう言った速水の顔を思い出す。

 戸惑いと怒りに似た表情。そのまま人波に消えた速水がどこへ行ったのは、呆然自失のわたしには見えてなかった。


「芹沢先輩は心から尊敬している人だった。俺が最初から正直に先輩に話してれば、こんな究極の選択みたいなシチュエーションにならなかったかもって後悔した。とにかく、芹沢先輩に謝るのが先だって思った。だからあのとき、村上に何て言ってあの場を離れたのか正直覚えてないんだ。でもその後、村上が俺を避けるようになったから……ひどいこと言っちゃったんだろうって予想はついてて。どうにかしようとして、サッカー部の奴に相談して、クリスマスパーティーをやろうって話になったんだ」


 心臓がひやり、と冷える気がした。

 クリスマスパーティーに熱心に誘ってくれたのは同じクラスのサッカー部の男子と――玲奈だった。 



「わかった。もう、言わないで」


 整理させて。

 だいぶ予想外の要素が加わったけれど、わたしが週末予定していたことに代わりはない。

 卒業アルバムを見て、玲奈に連絡を取る。


「確かめたいことがあるの。そうしたら、また話をさせて」

「それって、こうして地元に向かってることと関係あるの?」


 わたしは紙カップの人魚を睨んだまま頷いた。


「この前、俺が遊園地で言ったこと、嘘じゃないってわかってくれた?」

 思わず顔を上げると、速水はわたしの手から紙カップを取ってホルダーに置いた。


「まだ震えてる」

「手、離してよ」

「村上が地面に倒されてるの見て、カッとなったよ。周囲が見えなくなった。他人に対して殺意を感じたの初めてだった。無事で……本当によかった」

「離して」


 嘘だ。

 離してほしくないってわたし思ってる。


 怖かったから? まだ恐怖の残滓が身体にあるから?

 速水が、こんなに近くにいるから?


 その答えが出る前に、わたしは速水に抱きすくめられていた。


「嫌だったら、言ってほしい」

 嫌なわけなかった。

 速水の手は、腕は、どこまでも優しくてわたしが欲しかった温もりをくれて。

 


「ずるいよ速水」

「うん」

「ずるい」


 運転席から乗り出した速水は、無理な体勢なのにわたしを離さない。抱きしめる腕には力が更にこめられる。


 その力は、どこまでも優しくて。

 身体にまとわりついていた嫌な穢れ。それらが浄化されるような感触に、わたしは酔っていた。 




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