12 レッドカード発言は許さない
せっかくの遊園地だったのに、その後は最悪だった。
いや、けっこう堪能しましたよ。久しぶりの遊園地、大人気なくはしゃいで写真とかプリクラとか撮ったりして、売店でファーストフード食べたりして。
楽しい休日の一コマ。楽しい思い出。
「いやあ、もう一度青春って感じで、いいねえ、この集まり! また別企画立てるからよろしく!」
上機嫌の吉野さんの提案にも「いいですねえ」なんて上辺だけの相槌を打てるくらい、わたしだって大人女子なのだ。
気持ちの問題だ。
気持ちが最悪だった。
とにかく速水を避けていたのだけど、ヒトを避けるのって結構エネルギーがいるというか、疲れる。
でも、今日はもう、速水と話したくなくて。
二人きりになるのを、全力で避けた。
帰ってからもずっと、速水の言ったことが頭から離れなくて。
『俺は好きだったよ、村上のことが』
ってなんじゃそりゃーっ!!
あれじゃあまるで、わたしのことが好きだったみたいじゃない!
腹が立つのを通り越して、呪ってやろうかとすら思う。
芽の生えたジャガイモを大量に送りつけてやろうかな。
などとセコイことを考えているうち、小さな綻びがやがて大きな穴になっていくように、どんどん心の中で不安が広がる。
待って。
整理しよう。
速水はあんなこと言ったけど、そんなはずない。「ごめん」ってハッキリふれられたんだから。
『ごめん無理だわ、村上』。
夏祭りの喧噪のただなかにいたはずなのに、速水のその言葉だけが耳に届いた。今でもその低い声が耳の奥で聞こえる。大輪の花火の音、上がる歓声。雑踏の音と一緒に。
「ひどいっ、ひどすぎる……!」
思い出すと情けなくて涙が出てくる。よりによって、10年も経ったあとにあんなこと言うなんて反則通り越してレッドカードだ。
「そうよっ、速水なんかお呼びじゃないんだからっ」
今日は若松さんといい雰囲気だったし。
個人的に若松さんにコンタクトを取ろうかな、なんて勇気までちょっぴり出てきているくらいだ。
「そうだ、若松さんに連絡しちゃおう」
スマホを取り出してLINEを開くけれど――なぜか手が止まってしまった。
なぜか、もやもやと釈然としないものが残っているから。
遠い記憶の隅の隅っこに、引っかかっていることがあるから。
ずっと誰にも言えず、記憶にフタをし続けてきたこと。
あの頃は詳細を確認するのもイヤで辛くて、目を逸らしてそのままにしてきたこと。
「……よし」
わたしは思い切って連絡先を開く。実家に電話するのは久しぶりだった。
「もしもし、お母さん? うん、元気だよ。え? ちがうって、そういうんじゃあ……うん、でもちょっと用があって、来週末帰ってもいい?」
電話の向こうの母に小言を言われつつも、週末に帰る予定を取り付ける。
「え? うん、わかってるよ、でもこれでもけっこう忙しくてさ、週末ごとに家に帰るなんて……うん、それにもう、わたし27歳だよ?」
もう27歳のくせに、10年前の失恋の亡霊に悩まされているけどね。
けれど、わたしだって成長する。もうあの頃みたいに、見たくないものにフタをし続けない。
『俺は好きだったよ、村上のことが』
なんてレッドカードものの発言されて、黙っていられるもんですか。
このさい、白黒はっきりさせてやろうじゃない!
そのために、実家に帰って確かめなくては。
お目当ては、卒業アルバムだ。




