10 遊園地効果は恋愛ブランクをぶっ飛ばす
「いやあ、なんかほんと、良いメンバーだなって思っちゃったんだよね。こんなこと滅多にないんだけど」
そんな吉野さんの言葉と共に、遊園地デーが始まった。
「この歳になると遊園地とかに女の子誘うのってどうかな、とかいろいろ悩むんだけどさ。このメンバーなら大丈夫、絶対楽しいにちがいない! てね」
確かに吉野さんの言う通りかもしれない。
なんていうか、一週間前に出会ったとは思えないくらい、みんな自然体だった。
若松さんはちょっと一歩引いているけれど、別に嫌がっているわけじゃなく、ジェットコースターに並ぶと言ってぎゃあぎゃあ騒ぐ吉野さんたちに「荷物持ってますよ」なんてニコニコと声をかけている。
わたしは速水の動きを見つつ、サッと若松さんの横に並んだ。
「わたしも荷物持ってますから、皆さんいってらっしゃい」
「ええーっ、彩香乗らないの?!」
「彩香ちゃん、乗ろうよ!」
「まさかの若松狙い……」
「村上さんっ、裏切るのかぁああ!!」
口々にそれぞれの思いを叫びながら六人は係員に誘導されていった。がちゃん、と檻みたいな入り口が閉まる。
「なんか監獄みたいですね」
「珍獣収容所だね。ああ、女の子たちは珍獣じゃないけど」
そんな冗談で笑い、若松さんと荷物を持ってベンチに移動する。
「若松さんはよかったんですか? 荷物持ちで」
「うん、まあね」
若松さんは困ったように笑った。
「実は……俺、ジェットコースター苦手なんだ」
「あっ、そうだったんですね」
「吉野さんには内緒ね。いじられるから。なんで今まで言わなかったんだって」
「そういえば、若松さんたちって大学の先輩後輩なんですよね。長い付き合いですよね」
「うん、まあ腐れ縁というか。でも居心地のいい奴らには違いないけど」
若松さんは照れたように笑った。
その横顔がかっこいいなあ、と思わず見惚れてしまう。
また恋愛するなら、こういうほのぼのとした穏やかな人がいいかもしれない。
「村上さんは? 荷物持ちでよかったの?」
「えっ、ええ! わたしもジェットコースターはあんまり得意じゃなくて」
嘘だった。本当はジェットコースターはけっこう好きだ。
列に並んでいたときに速水がさりげなく隣に来たので、一緒に乗るのを避けたかったのだ。
「だから、この後も一緒に荷物持ちしましょう!」
思いきって言ってみた。
我ながら積極的で自分を褒めたい。
長い恋愛ブランクをぶっ飛ばして、ぜったい幸せになってやる!
「そうだね。それもいいね」
穏やかに笑ってくれた若松さんと、けっこういい感じなことにわたしはちょっと浮かれた。
遊園地というシチュエーションが、いつもよりちょっぴり自分を解放的にさせてくれるのかもしれない。
これが遊園地効果かな。いろいろ葛藤はあったけど来てよかった――と思っていた矢先。
「村上さーん、コーヒーカップ乗ろうよ」
ジェットコースターから降りて速水が走ってきたと嫌な予感がしたのだけれど。
「い、いえ、わたしコーヒーカップはちょっと」
「高校のときは乗りたいって言ってたよね?」
「?」
若松さんが不思議そうな顔をする。
ばかばかばか速水!! 同級生だと言わないって約束だろうがっ!!
「い、いえ、高校生の時は遊園地好きだったって話をこの前したもので」
苦しい言い訳をするわたしに、速水は悪魔の笑みを向けてくる。
「ねっ、一緒に乗りましょうよ、村上さん」
「……」
怒鳴ってやろうと思ったとき、ジェットコースターからぞろぞろと吉野さんたちが降りてきた。
「あれに乗った直後によく走れるな、速水……」
吉野さんはげっそりしている。
「けっこうすごかったね」
コースター系大好きな愛美は満足だったようだ。
真希ちゃんと亜紀ちゃんと黒田さんはヤバかったとワイワイ騒いでいる。
「飲み物ジャンケンするかー」と言う吉野さんに「中学生かよっ」とみんながツッコんでいると、速水がしれっと言った。
「あっ、じゃあ、俺と村上さんコーヒーカップ乗ってくるんで、ついでに買ってきますよ」
「なっ……誰も乗るって言ってな――」
「高校生のときから乗りたかったらしいんですよ」
みんなの頭上に「?」というマークが浮かぶ。
「って話を前にしたら速水くんが気にしてくれたみたいで。あはははは」
とっさに苦しまぎれのフォローを入れる。
「そうだね、村上さん荷物持ちだったし、楽しんできたほうがいいよ。速水は元気だからエスコートしてやるのはいいかも。オジサンはちょっと休憩したいから」
「もう、吉野さんジェットコースターくらいで何言ってんですか! まだまだこれからですよ一日は!」
「ええーもうカンベンしてくれー」
「遊園地って言ったの吉野さんでしょう!」
みんなでドッと笑う。
吉野さんと愛美が場を和ませてくれたことで収拾がついたけれど。
「……速水、昔の話出せばわたしが黙りこむと思ってるでしょ」
「まあね」
確信犯か!!
コーヒーカップは空いていて、ちょっと並んだらすぐに乗れた。イチャイチャしている隣のバカップルを見ないようにしながら、速水の向かい側に座る。
「うっわ、なんか俺たち、カップルみたいじゃない?」
「そりゃコーヒーカップなんかに二人で乗ってたら誰でもカップルに見えるよ」
「このままつきあっちゃう?」
言葉が出なかった。
熱いものだけが腹の底から脳天に突き抜けて、身体が震えた。
「村上?」
「ばっかじゃないの?!」
言葉にならない言葉がもじょもじょと頭の中で毛糸のようにこんがらがって、やっと出てきた言葉がそれだった。




