王妃の寝言と国王の焦り。
「んぁー……お腹…………ぷにぷに」
――――ぷにぷに!?
隣で眠っていた王妃が寝返りを打ち、私の腹に手を乗せてきた。夜の誘いかと思いきやしっかりと眠っている。
そして呟いたのが『ぷにぷに』という殺傷能力高めのワード。
いや、確かにここ最近、下っ腹がぷにってきてはいるがっ。
デスクワークが増えて、鍛錬場に通えていない。なんとなく下衣が少しきついなとは思っていたが、まだ誤魔化せる程度だと思っていた。
「陛下、顔色が悪いのですが?」
翌朝、王妃が心配そうに私の顔を覗き込んできたが、『王妃の寝言のせいだ!』 とは言えなかった。
寝つきが悪かっただけだと伝えたが、王妃は心配し続けてくれた。
「いつでも快眠派の陛下が、ですか?」
今日の執務を減らしてはどうか、など本気で言ってくれている。急ぎのもので王妃が対応できるものは全て引き継ぐと。
なんという優しい王妃なんだ。
きっと、たまたま夢と現実がリンクして口から漏れ出たのだろう。
そう、思うことにしたのに――――。
「んふふ……ふわふわ…………もにもに」
眠った王妃に腹を揉まれている。なんだこの生き地獄は。可愛らしい声を出しながらクスクスと笑っている。
実は起きているんじゃなかろうかと疑ったが、やはりしっかりと眠っていた。
最初の『ぷにぷに』攻撃から一ヵ月。三日に一度の頻度で、夜中に腹を揉まれている。
これはもう立ち上がるしかない!
「あら? 陛下が鍛錬なさるなんて珍しいですね」
「……デスクワークばかりで体が鈍っていてな」
――――下っ腹を凹ますためにだが。
毎日のように鍛錬場で素振りをしたり、走り込んだり、腹筋腕立てをしていたら、二ヵ月でどうにか二十代の体に戻った。三十後半になったが私もまだまだイケるはずだ。これで王妃も惚れ直してくれるだろう。
そう思っていたが、ここ最近の王妃はため息ばかり。
「何か悩み事か?」
「最近、どうにも寂しくて……」
もしや! 私が鍛錬ばかりであまり相手が出来――――。
「ふわふわぷにぷにしたペットでも飼おうかしらと」
――――ん?
王妃いわく、今まではそんなに気にもとめていなかったが、丸っこい犬や猫を見ると、妙に抱きしめたり撫でたくなるのだとか。
――――んん?
「いっ、一ヵ月ほどよく考えなさい」
「そうですね。愛でたいというだけで気軽に命を扱ってはいけませんものね」
「ん!」
猶予は一ヵ月。
とにかく脂身多めの肉や甘味を食べまくった。後悔はしていない。
―― fin ――