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異進伝心  作者: 夏野 麦柁氣
序章 脳力者
8/15

6話 掃除は計画的に

父 永禮 ウルシ

 あれから5ヶ月が過ぎた。

 粉砕骨折って最初に聞いた時は、もう歩けないのかと焦ったが、しっかり治ってくれて何よりだ。

 リハビリは辛い物だったが、何とか乗り越えられた、なんだか人として一皮むけた気分だ。


 母さんは、何度もお見舞いに来ては泣き、お見舞いに来ては泣きの繰り返し、リハビリする自分を見ては目尻を赤くして、少しうんざりもしていた。


 母にうんざりする自分に、(これが思春期か...)と思いつつもナースステーションに寄り用を済ませる。


「あなた、今日退院だったのね」

 初日以降、姿を見せなかった椿さんが顔を見せる。



「椿さん! 見ての通り、完治です!」

 椿さんは眉間に(しわ)を寄せ、冷たい口調で言う。



「なんで私の名前を知ってるのよ、キモイわね」


 酷く辛辣なコメントに、心が傷つく。

 命の恩人である人、しかも美人さんの名前を、個人的に調べる事はそんなに悪い事なのだろうか。


 身震いをした椿さんは、シッシッ...と言わんばかりの手つきで俺を追い払う。


「元気になったのなら、早く出ていって頂戴、あなたから身の危険を感じるわ....」

「はぃ...」


 気分を害したのならしょうが無い、俺は俯いて、椿さんに背を向けた。




 ーーーただいま〜

 久しぶりの我が家だ、何も変わってなくて安心だ。


「おかえりなさ〜い、道中大丈夫だった? やっぱり迎えに行った方が....」


 もう大丈夫だから、と母さんを(なだ)めつつ自室への階段を上がる。

 たった5ヶ月だと言うのに、懐かしく思っていた俺は、自室の扉を開けた。

 第一声は「ただいま!」や「おかえり!」または愛する布団に抱きつき、「愛してるぞ」が良かったのかもしれない、ただ俺の第一声はこうだ。

「き、綺麗にされてる...」


 いや、ありがたい事には変わりないのだが、本当に感謝しかないのだが、だが...

 俺は本棚の裏を確認する。

「無い...」



 次に机の引出しを確認する。

「ここも...」



 ベットの下や、中学の時の教科書の間、押し入れの奥。

「無い、無い、どこにも無い!」



 俺だって男子高校だ、同人誌やピンク本の一つや二つ、持っていて当然の権利だと、思っているのに。

 自分のコレクションがどこにも無いのだ。


「燈彩〜、あなたの部屋にあったよく分からない物は、色々捨てといたから」


  母からの会心の一言で俺は堪らず、膝から崩れ落ちる。



 ーーーー[絶望]とはなんなのか、大怪我を負って死にかけた時か、美女に冷たくされた時か、皆それぞれの価値観やそれまでの暮らしで決まるものだ。


 永禮 燈彩は掃除された部屋を前にして、絶望を知る。

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