4話 ELF(エルフ)
看護師・林藤 椿
運ばれる感覚が太ももを伝い、燈彩は意識を少し取り戻す。
「意識戻られました!」
「永禮さん、大丈夫ですからねー! もうしばらく我慢してくださーい!」
救護車に運ばれる最中、奥の方でごたついているのが伺える。
「しまった!にげられちゃったじゃんか!」
「先輩が素直に奢られないからですよ!」
「畜生ッ..追うぞ!」
扉が閉まる寸前に見た光景はよく分からずそのまま俺は救護車にて運ばれた。
ーーー「あ、お目覚めかしら?」
病院にしてはやたら実験室の様な場所で目覚める。
「ここは..って俺になにがあったんだ!?」
何が起こっているのか理解の追いつかない自分へ、メガネがやたら似合うショートヘアの女性が喋り出す。
「貴方、逃走中の強盗犯に襲われたのよ? 大怪我負ってここまで運ばれた感じね」
「そうですか...で、でも、ここ病院には到底見えないのですが...」
自分の脳力目当てでしモルモットにされるのかと、身体を震わせヒヤヒヤしながら彼女へ問いかける。
「いゃ〜ね、ここは対能力犯罪者実戦組織・『ELF』の看護部屋よ?内装は...気にしないで、私の趣味だから」
綺麗なお姉さんから、とんでもない趣味と自分の居場所を伝えられ唖然とする。
『ELF』なんてテレビで聞いた事も、携帯で見た事も無い。
「まぁ無理もないわね、あまり表立って活動する組織でもないし、あ! 安心して?警察認可だから」
「なら安心か〜、とはなりませんよ...」
「そ..ツッコミを入れる元気があるなら、大丈夫そうね」
少し素っ気なくあしらった彼女は、ヒールをコツコツ音を立てて部屋を出ていってしまった。
「なんだよ一体...」
少し不貞腐れ寝返りを打つが、包帯でグルグルに巻かれた足を動かした所為だろう、激痛が走る。
「アガッ」
「大丈夫か?永禮くん」
苦い顔をする自分の元へ大柄の男性が顔を覗かせ、近ずいてきた。
「まずは挨拶しようか、俺はここ『ELF』所属で隊員の潰瀧 篤斗、一応部隊長を任せられてるおっさんだ」
気さくそうな人だが、どうやら立場は結構高い人の様だ。
「その、隊長さんが何故俺になんか会いに?」
「それは、君に謝罪するためだよ」
彼がそう言うと、柔らかな目付きが、ぐっと引き締まる。
「この度、私達の落ち度により、犯人を取り逃し、到着に遅れ、多大な迷惑と傷害を追わせてしまい、一切の弁明も言い訳もできません、守るべき市民を危険に晒し、私達の努力不足の他ありません、大変申し訳ございませんでした。」
さっきまでヘラヘラしていたこの男は、リーダーシップの塊のようなオーラを放ち、威厳も見せつつ大人な謝罪を俺へ見せた。
「い、いいんです!俺こうやって生きてますし」
堅苦しい空気が苦手な自分は少しでも和ませようと、軋む肩を回しながら大丈夫だと言って聞かせる。
「本当にすまない、代わりと言ってはなんだが俺の連絡先だ、何かあったら一瞬で駆けつけて見せる」
頼もしい限りだが、そんな警察組織の隊長さんが俺を守るなんて、過剰防衛じゃないのかと、少し小心してしまう。
「暗い話はここら辺にして、真面目な話をしようか」
潰瀧さんは軽く手を叩くと、近くにあった椅子に腰かけ話し始める。
「色々調べたんだけど、君脳力者だろ?」
「な! なんでそれを!」
「いやいや、何も取って食おうって話じゃなくてだなぁ、脳力者なら尚更知っていて欲しいんだ、今この国がどうなってるかを...」
俺は固唾を飲む。