第6話 槍を持つ少女、ネザ降臨
7月1日
今日も晴れ、ネザの葉っぱは家のパソコン机に置いてある。特になにも言わないので、これでいいらしい。それとも分身としての寿命は一回限りなのかな。
7月8日
会社で上司に怒られ、ふてくされて帰宅。
「まったく。なんでエンジニアのおれが営業の手伝いをしなきゃならないんだよ。ったく。ビール、ビール」
「ビールはおいしいですか?」
「ん、ネザか。飲んでおいしい時と、そんなことは関係なく飲まなきゃやってられない時があるんだよ」
「どうしてそんなに荒れてるの?」
「外ではいろいろあるんだよ。なんであんなのが上司なんだ。すぐにがみがみ怒るんだよ。」
その時だった!
おれが悪たれていると、突然、光のようなものが右斜め前方からぶつかってきた! それはいつか見たバラの精霊ネザだった。槍? のような鋭い武器を正面に突きだして突撃してくる。
刺される! そう思った。だが脳の中にはネザの声がバターのようにゆっくりと溶け出し、一つの思念となって流れ出した。
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ゆるしましょう、すべてのことにゆるしを与えましょう。
ゆるせる人になりましょう。
水が流れるように、ゆるしのプロセスにゆだねましょう。
・怒鳴られた→
・耳が聞こえることに感謝→
・その人が怒鳴っているんだということを正常に判断できる神経や脳を持ったことに感謝→
・怒鳴る人と縁があるということは自分もそうである、あるいは過去そういう人だった→
・何千年前、何百年前、自分もそういう人だったから、今、怒鳴る人と縁がある→
・自分は今、それが良くないことであることが認識できることに感謝→
・自分がかつて人にやっていたことを、今、人からやり返されたが、それが良くないことだと認知できる心のレベルであることに感謝→
・この怒鳴る人も「今はこういう状態だけれどもあと数百年もすれば、心のレベルが上がって、怒ったりしなくなるんだろうな。自分も昔はそうだったんだから応援してあげよう。自分は恨んだり怒ったりせずに、ゆるしてあげよう」という心境になる→
・ゆるすためには、理解が必要、理解するためには、なぜ縁が生じたのかがわかる知恵が必要。
・なぜこの悪縁と思われる縁と、自分が結ばれたのかが理解できれば、相手をゆるすことができる。
・悪縁と思われる縁も、それをゆるせることができれば、その縁や境界から脱する素晴らしい縁に変えられることができる。そして二度と自分からそのレベルの縁を作らない。すなわち、ゆるしと感謝。
・ゆるすには理解が必要です。すべてを理解する人、それはすなわちすべてを知る者。
・罪に根本原因などないのです。罪の原因は問題ではないのです。誰が悪い、どちらが悪いなどは問題ではないのです。問題はどちらがゆるしたか、誰がゆるしを与えたかです。
・すべてを知る者はすべてを了承し、すべてをゆるすことができます。
・ゆるしを与える存在、それはもう人を超えた存在です。それが未来のあなたでありますように。
・あなたの罪をゆるします。あなたの罪をゆるします。すべての存在があなたを見ています。
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一瞬のようでもあり、長い時間が過ぎたようでもあった。自分でわかりやすいように箇条書きにしてみたが、おおよそ今のような想いが脳に広がり、溶け込んでいった。
「ネザ、今のはネザなの?」
恐る恐る醬油皿のネザに聞いてみた。
「わたしはバラの精霊、万物の霊長たる人間には遠くおよばぬ存在です。ですが、今のあなたに必要な小さなトゲをさしてみました。いかがでしたか? トゲはまだ何本もありますよ。フフッ」
「あ、いや、ネザ様、とりあえずトゲはけっこうです。まだ心で処理できないんで。えーっと、あのー、お礼にとりあえずビールお注ぎしましょうか。その醬油皿に」
「えっ、ビール♪。うーんとね、どうしようかな。やっぱり、いらない」
「飲むつもりだったんかい! 酔っ払えばピンクの花が真っ赤になっていいかもな」
どうやらネザをぞんざいに扱うことはできないらしい。醬油皿では失礼なのかな?
そんなことを考えた。