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『バラの精霊、ネザ』 ~バラの精が教えてくれた美しい生き方~  作者: あばらぼう
第3章 砂漠のアルター
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第7話 ムチ打ち

 おれは新王の前に引きずり出された。夜中だというのに城の中は明かりで充満していた。

「打て、打て、打て、朝まで打て。王子の居場所を吐かせろ」

 新王の言葉と同時にムチが鳴った。おれの背中に激痛が走った。ムチってこんなに痛いのか。これではとても耐えることなんかできない。

「言う、言うよ」

 おれはなんて情けない男なんだ。自分で自分が心底いやになった。でもアルターの居場所は知らなかったので、なにもしゃべることが出来なかった。

「王よ、もう2、3回ムチを打ったら、こいつは死んでしまいますよ」

 側近というのだろうか、そばにいた男がそう言った。正直、この男が神様に思えた。

「牢屋に放り込んでおけ、燃える石が見つかるまでこいつを殺すなよ。こいつは何か知っていそうだ」

 側近の言葉で兵士が動き、おれはさっきまでアルターが居た牢屋につながれた。別の兵士が抜け穴をふさぐ作業をしている。この連中は、洞窟の途中にあるものが燃える石と水だってことがわからなかったらしい。あれが燃える石だってことがわかったらおれは用無しということになるのかな。でもそれも時間の問題だろう。いや、ウヤータを脅しに来た学者風のヤツだって燃える石がどんなものか知らなかったんだ。わかりっこないさ。当分生きられる。おれはそう思ったら眠気がさしてきて柱に縛られたまま眠ってしまった。

 目が覚めると、おれの前には新王の側近と思しき男が椅子に座っていた。

「お目覚めかな。いやー、昨日はすまなかったね。新王の手前、君には厳しくするしかなくてね」

 ああ、この人はおれをムチ打ちの刑から救ってくれたんだった。もしかすると、おれの味方なのか。

「お察しのとおり、私は前王時代から宮廷に仕えている。だから君や前王の味方ですよ。さて、あまり時間がないようです、新王はお怒りだ。燃える石がどこにあるか教えてくれますね。案内してくれればあなたを解放しましょう」

 本当か、またウヤータやアルターに会えるんだ。良かった、この人はおれの味方だ。でも、牢屋側の抜け穴はもうふさがれてしまった、占い屋側から行くしかない。最も気になるのは新王の兵士はあれが燃える石だということに気が付かなかったことだ。おれが案内しても本物だという証明ができるだろうか。

 それにもう一つ気がかりがあった。おれのアジトはどうなったんだろう。おれが逮捕されたことでアジトに迷惑は掛かっていないだろうか。そんなことを思ったので、おれは牢屋を出た後、とりあえず街の東側にあるアジトの方に向かった。

 一日牢屋にいただけなのに太陽がとても眩しく感じられた。太陽にさえも後ろめたい気持ちが起こった。後ろ手に縛られたおれの前には兵が4人ついた。後ろには何人いるか判らない。が、すぐ横におれの味方、新王の側近がいた。

 アジトの側まで来た。アジトの方を見たが人の気配がしなかった。みんな逃げたのか、捕まったのか、それは判らなかったが、荒らされたり、戦ったようすは無かった。ごめんなさい。みんな無事ならいいな。そう思って立ち止まっていたら、優しい側近さんがこう言った。

「この辺りなのかな。燃える石は」

 続いて先頭を任された兵士が大声で言う。

「こんなやつ、ぶっ叩いて吐かせちまいましょうよ。ムチ一発で音を上げたんだ。とんだ根性なしさ。あんたも小芝居打ってないで本性を見せちまいなよ」

「ふん、兵長は性急なお人だ。この子が怯えてしまうじゃないか」

 おれの味方のはずのこの男はそう言うと下卑た笑いを浮かべてこう言った。

「そろそろいいんじゃないか。場所を教えなさい。可愛いあの子がどうなってもいいのかな」

 ウヤータのことか。ウヤータも捕まってしまったのか。おれの頭の中は混乱した。兵長といわれた男が大声を出したことで見物人が集まりだしていた、二重の囲みの見物人の視線に晒されるはめになったが、おれがしゃべったらウヤータも用無しということで殺されるかもしれない。ウヤータのことで頭がいっぱいのおれは大喝した。

「だれが燃える石の在処を教えるもんか!」

 その時だった、囲みの中から声がした。

「よく言った」

 その声は、王子だ! 王子が囲みを抜け出して長い棒を手に兵長といわれた男に突進してきた。兵長は不意を突かれ、襲ってきた女の子に一撃で倒されてしまった。兵たちが王子扮する女の子にいっせいに槍を向けた時、おれの後ろで異変が起きた。後ろでも女の子が鎌のような形をした小型の刀を振るっている。ウヤータだった。無事だったのかウヤータ。

 女装の王子と、山賊の娘。この二人に兵士たちはキリキリ舞いさせられた。ウヤータは空中で一回転して蹴りを繰り出し、兵の頭を打った。見物人からは、ウオー! という声が上がっていた。

 王子は長い棒を振り回していたが、よく見ると棒の先端には綿帽子のようなものが被せてあり、敵が致命傷を負わない配慮がなされていた。

 兵たちが王子に集中する間に、ウヤータが兵一人を倒しておれを縛っている縄を、持っていた刀で切った。それを目で確認した王子は、いっそう馬力を上げて、棒を振り回して残りの兵をたちまち倒してしまった。一振りで三人の兵を棒に引っかけて遠くに投げ飛ばした。その様子を見て側近らしき男はおれの側で尻もちをついたまま、まったく動けずにいた。

「それっ!」

 王子の合図で、ウヤータはおれの手を握り走り出した。

「この裏切り者め!」

 側近の男は、尻もちをついたままおれたちに罵声を浴びせた。

 アルターは城の東門に向かって突進した。門を守備する二人の門番は慌てふためき、とりあえず槍を前に突き出したが、番兵の持つ槍は、アルターに簡単にはじき飛ばされ、おれたち三人は東門を抜けて砂漠の街道をひたすら走った。

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