表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『バラの精霊、ネザ』 ~バラの精が教えてくれた美しい生き方~  作者: あばらぼう
第3章 砂漠のアルター
33/42

第5話 逮捕

 数日後、街中が沸騰する騒ぎが起きた。

「王子が逮捕されたぞ!」

「前王の王子、シッダー・アルター様が捕まった!」

 逮捕時の目撃談も街中に飛び交った。それによると、王子は占い屋の前で10人もの兵士に囲まれたがそれを突破した。占い屋の前に少女が居たが、その少女に兵が刀を向けたら、王子はおとなしく捕まったそうだ。シッダー・アルターという名前、占い屋の前での逮捕。もしかしたら、あのアルターが、アルターが前王の王子!? 妙な変装に品のある顔立ちと声。思えば思い当たることばかりだった。

 アルターは王子だったのか! 思考が停止しそうになったが、おれはすぐにウヤータのことが心配になった。ウヤータも一緒に逮捕されたんじゃないか。すぐにでもウヤータのところに駆けつけたかったが、おれの密告で王子が捕まったことを考えると、足がすくんでしまった。

 翌日、中央広場で王子の公開裁判が開かれることになった。まだアルターが王子と決まった訳ではない。おれは広場に向かった。

 広場の真ん中に柵が設けられ、その柵の中央に柱に縛られたアルターがいた。やっぱりそうだったのか、もう人違いの可能性は無くなった。おれは自分の心の狭さ、醜さを呪った。王子に合わす顔がないので、王子から見えない位置、王子の斜め後ろから裁判を見守ることにした。

 街の人たちも続々と広場にやってきて、周囲がざわつく。

「ヤヒト」

 おれの後ろから遠慮がちな声がした。おれは反射的にビクッと体を硬直させた。そう、ウヤータの声だった。無事だったのか。本当はすごく喜びたいところだが、おれは小さくうなずくだけで目を合わすことができなかった。ウヤータも下を向いたまま、おれと目を合わせなかった。

 裁判が始まった。通例だと裁判などはなく、兵隊に捕まったら刑場で片っ端から処刑されるか、どこかに連れて行かれて死ぬまで労働させられるのだが、これは新王が自分の力を誇示するための演出といったところだろう。

 壇上の席の中央に新王が座った。司祭様はその右隣りに、裁判を仕切る人が左に座り、そいつがアルターの罪状を読み上げた。

「国家に対する反逆。よって前王の王子シッダー・アルターを死刑に処す」

 周囲の見物者がいっせいにどよめいた。すると突然おれの隣りで風が起こった。隣りで判決を聞いていたウヤータが崩れ落ちたのだ。ウヤータは泣きながら震える声でおれに言った。

「わたしがアルターのことをしゃべったの。お店に兵隊と学者のような人が来て、お前が持っているという黒っぽい石を見せろと迫られたの。燃える石を見せろって何度も脅された。これはアルターが教えてくれたんだけれど、わたしの店の床には地下への階段があって、その階段を下るとそこに、黒い石と黒い水が湧いているの。わたしは自分の店の床に階段があるなんてまったく知らなかったけれど、アルターが絶対に人にしゃべらないようにと念を押した上で、わたしを地下に案内してくれたの」

 なんと、ウヤータの店に地下があるのか! アルターは知っていたんだ。ウヤータの店に地下があることを、そして地下には燃える石と水があることを。

「きっとアルターがわたしの店に来ていた理由はそれだったんだと思う。この街の秘密とも知らずにわたしは店を出した。この街から出て行った前王一族しか知らない秘密の場所だったと思う。だからアルター王子は変装して見張りにきていたんだと思うの。店をこのまま続けて、この階段が見えないようにしておいてくれって、アルターはそう言ったから」

 でも、君が無事で良かったよ。おれが言うとウヤータは、

「学者のような人が、黒っぽい石を見せろと言って、店中の宝石を調べたけれど黒い石は無かった。兵隊の一人が、その首からさげている袋はなんだと言って、わたしから奪おうとしたの。この中の石はわたしの唯一の宝物。わたしはこの袋の中にある石は見せるだけで没収しないでほしいと訴えた。学者風の人が急に優しくなって、没収しないから見せてほしいと言うので、わたしは石を袋から出して見せた。学者のような男はずいぶんと調べていたけれど、結局この石の正体は分からなかった。学者風の男は急に怒鳴りだして、この石はなんなんだ。これが燃える石というものなんだろう? と言った。

 わたしはこの石は燃える石なんかじゃない。この石のことはアルターが知っている。と言って、アルターが決まった日時に来ることを教えてしまったの。一緒にいた兵の偉そうな人が、アルターっていうのか、そいつはって言ったわ」

「よく没収されなかったね」

 おれが言うとウヤータは、

「兵の一人が、それは単なる矢尻ですよ。価値なんかないって言って、捨てるように置いていったわ」

 確かにウヤータの宝物は、鋭い三角形をしていて先が尖っていた。おれはウヤータを慰めるつもりで言った。

「でも、君は地下のことはしゃべらなかったんだろう。王子との約束は守ったじゃないか」

「あたし、本当は知ってたの、アルターが王子だってこと。でも知らないふりをしていた。アルターが本当に王子なら、兵隊なんかやっつけちゃうと思って、アルターに新王の兵隊をやっつけてもらおうと思って、アルターのことをしゃべったの」

 泣き続けるウヤータにおれは口からでまかせで言った。

「なんとか王子を助けなくちゃ」

 おれは自分で言ってから気がついた、そうだ王子を、アルターを助けよう。でもどうやって。そんなことを考えていると裁判は終わり、アルター王子は柱に縛られたまま歩かされ、王宮の中に消えていった。

 もとはあの王宮の住人であったはずのアルターが今は縛られてその中にいる。広場に集まった人たちは解散しだしたが、みな半分怒ったような顔をしていた。みんな王子の味方なんだ。だが、新王には逆らえない。これが大人ってやつなんだ。おれはウヤータを起こし、街の西に向かって歩きだした。

 日が暮れだした。おれとウヤータは、占い屋の中で言葉もなく、ただそこに居た。ウヤータを一人にはできない。ウヤータは自分を責めるあまりに、なにをするかわからない。でも、ウヤータに本当のこと、王子を売ったのは、本当はおれだということはついに言いだせなかった。ウヤータに嫌われるのが怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ