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『バラの精霊、ネザ』 ~バラの精が教えてくれた美しい生き方~  作者: あばらぼう
第3章 砂漠のアルター
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第3話 燃える石

 その夜、アジトに帰ったおれは、ゴザに寝っ転がって眠りにつこうとするが、彼女の名前を心で思うだけで心臓が大きく動く。とてもじゃないが眠るなんて無理だ。ウヤータは今、何をしているのだろう。そればかりが脳を占領する。その間も星はチラチラと光りを振りまく。その輝きを見て、ふと、星ってなんだろう。という疑問が湧いた。そしてアルターならその答えを知っているかもしれないな、という思いが漠然と浮かんだ。

 アルターのことを思い起こしたことで完全に眠気は覚めてしまった。あの女装野郎のせいで眠ることもできない。今度あったら一発ぶん殴ってやろうか。なにケンカとなればおれのほうが強いに決まっている。頭の中がアルターのことでいっぱいになっていることに気が付いて、ますます腹が立って眠れなくなるのだった。

 次の日、おれは眠い目をこすりつつラクダ番の仕事をしたが、心は街の西外れにある占い屋に飛んでいた。思い起こすのはアルターのことだ。あの女装野郎は目障りだ。退治する良い方法はないものか、などと考えているとき、街にやってきた旅人に声を掛けられた。

「やあ、ラクダ番の少年、ちょっと聞きたいことがあるんだがな」

 おれは声の主の身なりを横目で上から下まで点検し、貧乏人ではないことを確かめて向き直って言った。

「なんだい。この街のことなら何だって知ってるぜ」

「うむ、少年よ、この街で燃える水のうわさは聞いたことはないかい」

 おれは首をひねりそうになったが、何でも知っていると答えた手前、自信ありげに答えた。

「ははは、おじさん。水が燃えるなんてあるわけないよ。水は火を消すんだよ」

 旅人はおれを真っすぐ見て、さらに続けた。

「では、燃える石の話を知っているかな」

「おじさん、石は燃えないよ」

 旅人は、おれをじっと見てから言った。

「ふむ、ウソはついていないようだな。なら無知なだけか」

 おれは無知と言われ悔しくて、拳を握ったが、同時にアルターなら知っているような気がした。だが、憎っくきアルターに手柄を立てさせるのもしゃくだった。アルターを思った連想で、ウヤータのことを思った。そして思ってもいないことが口をついて出てしまった。

「街の西外れに占い屋があってね。そこで占ってもらえばきっと捜し物は見つかるぜ」

 我ながら名答と思った。ウヤータの稼ぎにもなる。これはおれの手柄になる。

 旅人は、うんうんとうなずきながら、街に入っていった。

 午後、おれはウヤータの店に居た。

「ねえヤヒト、アルターを待ってるの?」

 店の中からウヤータが声を掛けてきた。なぜ店の中に入らないのかというと、胸の鼓動が早くなって、息もできないくらいに苦しくなるからだ。

「そうだよ、どうしてわかるんだい」

 おれはウヤータの声が聞けるだけで満足だったので、アルターが話題になっても気にならなかった。ウヤータは言う。

「もうすぐ来るころね。アルターはいつも決まった日、決まった時間に来るのよ、兵隊を避けてね。兵隊も決まった日、決まった時間に来るからね」

 おれは今日もまた少し情報が積み重なったことで気が晴れていった。だがそこに、もう見慣れてきた品のある女の子がやってきた。アルターだ。

 アルターがウヤータの店に入ったのでおれも続いた。おれはアルターとウヤータ、両方に尊敬されようとして、また母親の病気を占ってもらった。

 ウヤータは一枚の布を取り出した。表と裏を確認してからテーブルの上に布を敷いた。なにやら模様が描かれた布に、いつものように光る石を置いた。

 ここで頭にくることが起きた。今はおれが主役の時だ、これからウヤータがおれのことを、優しい人といって褒める時だ。それなのにアルターのやつが口を挟んできた。

「前から気になっていたんだけれど、中心に置く黒っぽい石はなんていう石なのかな」

 ウヤータは目を布に向けたまま答えた。

「これは私のお守り石」

 ウヤータはそう言って、首からさげている小さな袋から、なにやら文字が書かれた布の小布を出して答えた。

 アルターは注意深くその文字を読みだした。

「この石はヤタが生まれたときに手の中に握られていたって書いてあるよ」

 ウヤータはちょっと興奮気味になって、

「さすがアルターね、文字が読める人に会うのは初めてよ」

 アルターはちょっとテレながら言った。

「ごめん、読めるし、書けるんだ。それよりも君の本当の名前はヤタなんじゃないかな」

 ウヤータはちょっと困った表情を浮かべながら答えた。

「わからないの。わたしは両親の顔も名前も知らないの。わたしはものごころがついたときには山岳地帯を通る旅団や旅人を脅す一団にいたの。わたし、それがいやで逃げてきて、ここまで来たの」

 ああっ、ウヤータ、君はこれまでどんなにつらい思いをしてきたことだろう。怖い思いをしてきたことだろう。おれは本当にウヤータを愛おしく感じた。アルターはしばらく目をつむっていたが、事務的な声で、これはどうやら石じゃないようだと答えた。その石は鋭くとがり、とても小さくて、レンズ豆くらいの大きさだった。

 アルターは、

「石からくる独特の振動が感じられないよ。その焦げ茶色のものは、石よりも静かだね」

 アルターの知ったかぶりに対抗しようとしておれは言った。

「石に静かもうるさいもあるものか、石にあるのは燃えるか燃えないかだよ」

 おれはさっき知ったばかりの情報をここでひけらかした。アルターは驚いた表情で、早口でまくし立てるように言った。

「その話はどこで聞いたの? 人には話さないほうがいい」

 ウヤータは小切れを袋にしまいながら

「燃える石って、あの石のこと?」

 と、アルターに聞いた。もはやおれの占いの途中であることも忘れてしまっている。アルターは真剣な顔をしてちょっと強めの口調で言った。

「二人ともそれ以上は言わないほうがいい。迂闊に人に話さないことだ」

 どうやらアルターとウヤータは燃える石のことを知っているようだ。おれは二人だけの秘密があることに、いいようのない感情を覚え、アルターに敵意を感じた。アルターが邪魔だ。なんとかウヤータから引き離す方法はないだろうか。おれの頭の中には常にアルターがいて、頭の中で絶えずアルターのことを考えていた。

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