28/42
第3章の始め、砂の町の記憶
ネザの声が遠ざかる。「いくなネザ!」。おれは心の中で叫ぶが、体がまったく動かない。肩から下、手足も縛られたような感覚だ。おれはネザの声を引き戻そうと強烈に思念を凝らした。
すると、ひたいの中央に痛いほどの感覚が起こり、豆粒のような光が輝きだした。その光は加速度的におれに迫ってきたが、その中心に誰かがいるようだ。
ネザか? ネザが戻って来たのか? おれはその迫る人影を凝視しつつも、その人影から放たれる光に飲み込まれてしまった。
鋭い閃光! 目の中が数秒、白銀色だけになり、それが徐々におさまると、強烈な記憶が湧き起こった。
これは砂漠の国での記憶。
古い古い時代の、石だけで造られた街中を、おれは懸命に走っていた。
誰かの手を引いて。