第7話 ぼくは盗人
おれはネザの話の途中から、半分まどろんだような状態で、自分の過去世を思い出していた。
おれは君を探しに地球に来たんだった。そうだ、宇宙人のころは個人の識別がないので、個人を特定する名前というものを持たなかった。地球ではそうはいかないからと、君は名前を持つと言っていた。その名前も思い出した。たしか「タ」。
おれが宇宙から地球に転生した時、選択できたのは砂漠の民だけだった。おれは地球で何度も生まれ変わるうちに、君のことも、なにもかも忘れてしまい、盗人になってしまったんだ。おれが最悪の輪廻から救われるきっかけを作ってくれたのは君だったのか。
あの歌、砂漠の丘の木の下で、少女と一緒に歌ったあの歌。今、その歌をネザが歌い出す。
孤独な戦いをすると決めてから
わかっていた、君恋しくなることが。
寂しくなんかない。
私は一人じゃない。
どうか心よ折れないで
誰かがわたしを探してる。
わたしは誰かを探してる。
夜空に輝く星を見上げるだけで
あの大きな月を見るだけで
あなたはどこ、と心は叫ぶ。
どうか心よ折れないで、どうか心よ折れないで
人のために生きると決めたんだ。
おれは、丘の上の木の下で出会った少女に感謝の心を捧げたことで、心が洗われ、最悪の境涯に落ちずにすんだんだ。おれを救ってくれたその少女が、今のネザなんだ。
頭が混乱し、疲れたおれは運転席で眠ってしまったようだ。浅い眠りの中でネザの声がかすかに聞こえる。
「聞こえてる? わたしのバラとしての生涯は終わりかな。次は人間に生まれ変わって、あなたのそばにいたい。その時、わたしをちゃんと見つけてくれるかな。もう、行くね」